2023/10/16:縛りの内容を複数ある頭の減少→減少した頭をあえて戻さないに変更しました。
黒い閃光が稲妻の如く迸り、衝撃と共にヒュドラの首が弾けた。
頭部が落ちる程では無いものの、十尺*1近い太さの首が、拳を中心に六〜七割ほど消え、本来外に見えるはずのない肉や骨を外気に晒している。
そして、残った部分を刀と風の刃で切り落とした。
「これで二つ⋯⋯あと七つか」
落下する頭の上に立ち、血塗れになりながらも口角を上げる。
残った七つの首全てがこちらを睨んでおり、刺し違えてでも俺を殺そうという殺意を感じる。良い。それでこそ呪い。
「今更だけど、存分に呪い合おう。君が死ぬまで、君が戦うことを諦めるまで。その殺意が──尽きるまで」
返答は無い。──否、攻撃で答えが返ってきた。
今まで見せてこなかった奴の尾。それが真後ろから、質量という効かない毒よりも恐ろしい武器を携え、その身をムチのようしならせながら薙ぎ払ってきた。
終端速度は音を超えており、反応などできるはずもなく、結果からそれを自覚したに過ぎない。
「っ痛⋯⋯お前、頭減った方が強くなってんじゃねえか」
『左様。我らは多頭同体。急所たる頭は複数あり、その減少をあえて癒さぬことで、我らが身は強くなる縛りを結んでいる』
頭が減って脳筋になるほど強くなる⋯⋯ってコト!?
やっぱりゴリラ廻戦じゃないか!
「蛇なのにゴリラとはこれ如何に⋯⋯祓えば一緒か」
腹ば切れば人間も糞の詰まった肉袋。
姿形が違おうと、術式が違おうと呪霊は呪霊。形を持った呪いの塊。祓ってしまえば、蠅頭も特級も変わり無し。
負のエネルギーの塊なんだから、正のエネルギーをぶつけてやればその分消せる。
急所にそれをやれば、それだけで瞬殺できるんだけど⋯⋯頭いっぱいあるからなぁ。
堅いってのはそれだけで脅威足り得る。そこに質量を加えてやれば、動く要塞の出来上がりってわけ。
『溶けよ。崩れよ。侵され、腐り落ちよ。毒に溺れ、形なき屍と成れ』
その要塞が目の前に居るんですけどね!
「伊達じゃねえな、特級呪霊⋯⋯。術式も強くて、肉体も強いとか反則だろ」
宿儺はもっと酷かったけどね? 下手に当たったら即死だったし、クソ広い閉じない領域とか使ってくるし。それと比べたら断然マシ。
⋯⋯宿儺強すぎじゃない? あれが俺と同じ人間だったって、未だに信じられないんだけど。
──っぶない考え事してたら死ぬとこだった! おのれ宿儺!
『何故だ⋯⋯何故死なぬ!? 何度毒で体が溶けた!? 何度脊椎が折れた!? 何故未だに生きている!?』
「⋯⋯え? なんで生きてるか⋯⋯? まだ呪力切れしてないし、気絶もしてないし⋯⋯この程度なら日常だよ? お前が俺の兄より弱くて、俺はあいつより呪力が多い。ただそれだけだよ」
人間は生物だ。当然、体を動かすエネルギーは正のエネルギーの一つである
なら、呪力よりも反転術式で生み出したエネルギーの方が肉体を強化する効率は良いはずである。
ならば⋯⋯反転術式を無制限に使えるなら、あらゆる呪霊を超高速で祓う存在を生み出せるはず。
特級未満の呪霊では喰蛇に食わせるだけで殺せ、こいつは普通に戦うにはあまりにも面倒くさい。
少し、戦い方を変えよう。
〈般若〉を解除し、喰蛇が体から分離する。
当然、相殺されていた領域効果によって体が毒に侵され、吐き気、倦怠感、全身の激痛などの様々な不調に襲われる。
それを常に反転術式で治癒し、さらに全身にエネルギーを巡らせる。
気分が高揚する。肉体と共に意識が活性化する。常に過集中状態になり、世界がスローモーションになっていく。
──さあ、始めよう。虐殺の時間だ。
『何故、何故笑える⋯⋯? 何故笑っている!? 貴様はもう詰んでいる! そのはずだ! 我らの首はまだ七つあり、その度に我らの体は強靭になるのだぞ!?』
「詰んでる⋯⋯? ハハッ、そんなのは君の感想だろう? もう君は俺を捉えられない。もう君は届かない。詰んでんのは
ゆっくりと動く世界の中、俺だけが等速で動く。
普段、人間の脳は自分の体や精神が壊れてしまわないよう、リミッターをかけていると言われている。諸説あるが、理論上最大のパフォーマンスと比較した時、普段使われている能力は三割程度だとされており、それを反射的に外すのが火事場の馬鹿力だというわけだ。そして、その力が発揮された時、当然その力に耐えきれない肉体は破壊される。
反転術式によって肉体を強化し、脳を強化し、リミッターを意図的に外す。反動で破壊される肉体と脳は反転術式で癒す。
反転術式で強化された肉体の能力が、リミッターの解除により更に三倍。今の俺の身体能力は、天与の暴君にすらも届く。
殴る蹴るといった単純かつ原始的な攻撃が必殺となり、一撃一撃が致命となる。
そのうちこの高速戦闘にも慣れるようにしたい。
「あー⋯⋯やりすぎちゃったか」
気づいたら領域が消滅し、ヒュドラは呪霊玉になっていた。
楽しくなっちゃったから仕方ないね。
「喰蛇、食べていいよ」
ヒュドラより一回りも、二回りも小さい多眼の蛇の呪霊が呪霊玉を丸呑みした。喰蛇が小さいと言うより、ヒュドラが大きすぎるのだけど。
帰ろーっと。
「いやー、死ぬかと思った。次はもうちょっと、戦いやすい呪霊であることを祈ろう!」
「お疲れ様です。無傷に見えるのですが⋯⋯?」
「反転術式使えるからね! 死ななきゃ無傷だよ」
「はあ⋯⋯」
釈然としないような表情の補助監督。
早く帰ろう。日本に比べて他国は治安が悪いし。
⋯⋯平安時代よりはマシか!
日本よ、俺は帰って──
「帰国早々申し訳ありませんが、加茂殲景特級術師に任務が発令されています」
「──は?」
「イランです」
「海外出張多すぎじゃない?」
「私に言われても⋯⋯」
登校日数0日なんだけど。
高校生活エンジョイさせろよ! うちの学年、他の生徒宿禰しか居ないけど!!!
「ご安心を。加茂宿禰特級術師も海外出張ですので」
「ウケる」
「⋯⋯はぁ。対象は呪霊で、階級は未確認ですが一級以上と予想されています」
海外に呪霊湧きすぎだろ。天元の結界仕事しろよ。
なんで海外にそんな大量の呪霊が湧いてんだよ! 結界はどうしたんだ結界は!
報酬金五千万!? 使う暇がねえんだよクソったれ!
「金ばっか溜まる⋯⋯。経済が停滞する⋯⋯」
「世間は就職氷河期ですよ。贅沢な悩みですね」
貧富の格差がデカイのは今に始まった話じゃないだろ。
仕方ねえから行くぞ。本場のケバブ食いに行こう。任務中の食費は経費で落とせるからな。
⋯⋯また特級呪霊じゃねえか!!
伏黒甚爾と真正面から殴り合える術師がいるらしい
生成り<<反転術式の暴君<般若<<第三段階<<【越えられない壁】<<<<<第四段階
これくらいの戦力差。人間や基本的な相手だと般若の方が強く、今回みたいな呪霊相手には反転術式の方が強い。まあ、相性の問題です。
第四段階は宿儺相手でもないと切らない(切れない)決戦術式です。