ステインの一件を終え、緑谷、飯田、轟はかなりの怪我を負っていた為、保須総合病院でひとまず入院することになった。緑谷、飯田、轟の3人は昨晩に起きたことについて話していた。
「寝られたか?緑谷」
「ううん、あんまり…」
「だろうな…」
「俺もだ…」
「冷静に考えると、凄いことしちゃったね…」
「…そうだな」
「ドライブとヒーロー殺しの戦いも凄かった…」
3人はドライブとステインの戦いを思い出していた。
◇
『ヒーローとは常に命懸け…。曖昧な考えでは務まらない!』
『否定はしない。だからこそこの職場体験などを通して学んでいくだろう。だが理想と違うという理由で雄英を辞めてヒーロー殺しとなったお前が言えたことか!』
『お前にはわからんだろう。そこの雄英の生徒は復讐に溺れている。すでにヒーローとしての資格はない!』
『殺人犯がそれを決めつけるな。色々なことにぶつかり、学び、時には改めることで人は成長する』
『今のヒーローは贋物ばかりだ!!俺がやらねば誰がやる!?』
『自分の価値観や理想を押し付けるな!!例えどんな理由があろうと、罪なき人の命を奪うことが許されることはない!!』
『ならばお前はどうなんだ信助!こんな贋物が蔓延る世界で!答え次第では貴様も贋物と断言する!』
『……贋物と言いたきゃ、好きに言ってろ』
『何……?』
『理想というものは誰しもが同じではない。皆それぞれ違う。だからお前の一声も数ある理想の1つに過ぎない。別にお前に贋物とか言われようが俺は絶対にブレない。俺の理想がなければ俺自身が理想になる。ただそれだけのこと、お前はただ自分の理想を他人に押し付けているだけに過ぎない』
『ただ強いだけがヒーローじゃない。スペースヒーロー13号は人を助けること重視しているように、戦いが苦手であろうと、自分の個性を最大限に活用している。ヒーロー達は自分のできることを精一杯やっている!!オールマイトも何でも1人でできたわけじゃない。俺達警察の捜査を頼りにしていると言っていた。俺達は支え合って世界を守っている!だからお前を倒す!自分勝手な思考を元に殺人を繰り返し、その支えを乱すお前を!』
『正さねば…誰かが…血に染まらねば…!!ヒーローを、取り戻さねば!!!』
『俺を殺していいのは、本物の
『本物がどうとか贋物がどうとか関係ない!!殺人犯がそれを口にするなああああああ!!!』
ヒッサーツ!フルスロットル!スピード!
ドォオオオオオオン!!
◇
「ドライブとヒーロー殺しの戦いも凄かった…」
「あぁ、ヒーロー殺しの剥き出しの殺意に怯まないドライブも凄かったが、それに立ち向かった飯田も凄えよ」
「いや、違うぞ。俺は…」
すると病室のドアが開き、勝、僚一、ドライブ、緑谷の職場体験のプロヒーロー、グラントリノと飯田の職場体験のプロヒーロー、マニュアルが病室に入ってきた。ドライブが3人の容態を聞いてくる。
「どうだい?怪我の方は」
「ドライブ…。夏色に神田まで…」
「おう、起きとるな怪我人ども」
「グラントリノ…」
「マニュアルさん…」
「小僧、お前にはすごいグチグチ言いたい」
「す、すいませ──」
「が、その前に来客だぜ」
グラントリノがそう言うと犬の顔をした大柄な人物が入ってくる。ドライブはその人物に敬礼をする。
「保須警察署署長、
その人物の正体は保須警察署署長、面構犬嗣だった。飯田と轟はベッドから起き上がり、緑谷も遅れて起き上がろうとすると面構署長が静止する。
「ああ、掛けたままでで結構だワン」
(ワン!?)
面構署長の話し方に緑谷は驚く。
「君達がヒーロー殺しを仕留めるのに貢献した雄英生徒だワンね?ドライブから事情は聞いている」
「はい…」
(署長がわざわざ…?なんだ?)
警察署長が直々に出向いたことに轟は少し警戒する。
「逮捕したヒーロー殺しだが、火傷に骨折となかなか重傷で厳戒態勢の下、治療中だワン」
「雄英生徒なら分かっていると思うが超常黎明期、警察は統率と規格を重要視し、個性を武に用いない事とした。そしてヒーローはその穴を埋める形で台頭してきた職業だワン」
「個人の武力行使、容易に人を殺められる力。本来なら叫弾されて然るべきこれらが公に認められているのは、先人たちがモラルとルールをしっかり順守してきたからなんだワン。資格未取得者が保護管理者の指示なく個性で危害を加えた事、例え相手がヒーロー殺しであろうとも、これは立派な規律違反だワン」
緑谷達は面構署長の話を黙って聞いていた。
「夏色勝君と神田遼一君の2人はドライブから許可を得ていたからそこは問題ない。だが、君達3人及び、プロヒーロー エンデヴァー、マニュアル、グラントリノ。この6名には厳正な処罰を下さなければならない」
「待ってくださいよ…!」
面構署長の厳しい言葉に轟が割って入る。
「飯田が動いてなきゃネイティブさん*1は殺されてた…!緑谷が来なけりゃ2人は殺されてた…!誰もヒーロー殺しの出現には気づいてなかったんですよ!?規則守って見殺しにするべきだったって…!?」
「結果オーライであれば規則など有耶無耶で良いと?」
「…っ!人を助けるのがヒーローの仕事だろ!」
「だから君は卵だ。まったくいい教育をしてるワンね、雄英もエンデヴァーも」
「この犬…!!」
「まあ待て、話は最後まで聞け」
轟は面構署長に迫ろうとするとグラントリノがそれを止める。面構署長は話を続ける。
「…以上が警察としての公式見解。…で、処罰云々はあくまで公表すればの話しだワン。公表すれば世論は君たちを褒め称えるだろうが処罰は免れない。一方で汚い話、公表しない場合、ヒーロー殺しの火傷の跡や怪我の状態から、ドライブを功績者として擁立してしまえるワン。現にヒーロー殺しに手錠をかけたのはドライブだからね。幸い目撃者は極めて限られている。この違反は此処で握り潰せるんだワン。だが君達の英断と功績は誰にも知られる事はない。どっちが良い?」
面構署長は今回の件の功績をドライブだけにして事実を改竄し、緑谷達の処罰をなかったことにできるというのだ。
「1人の人間としては、前途ある若者の偉大な過ちにケチをつけたくないんだワン」
「まあ、どのみち監督不行き届きで俺らは責任取らないとだしな…」
面構署長は緑谷達に向けてサムズアップをしながらそう言い、マニュアル自分達は責任を取らなきゃいけないことを嘆いていた。飯田はマニュアルの前に立ち、深々と頭を下げる。
「申し訳ございませんでした」
「よし!他人に迷惑掛かる。分かったら二度とするなよ」
「はい」
マニュアルは飯田の謝罪を受け入れた。
「す…すみませんでした」
「宜しく…お願いします」
緑谷と轟も頭を下げる。すると面構署長が再び口を開く。
「大人のズルで君達が受けていたであろう称賛の声は無くなってしまってしまうが、せめて…」
すると、面構署長は頭を下げた。
「共に平和を守る人間として、ありがとう」
「……最初から言ってくださいよ」
「轟君……」
面構署長の礼に轟はぶっきらぼうに返した。
◇
緑谷は病室を出て病院の屋上に向かう。師匠であるオールマイトから連絡が入り、大事な話があると連絡があったのだ。屋上に着くと、そこにはドライブがいた。
「ド、ドライブ…!」
「緑谷出久君だね?オールマイトから聞いている」
「何故ドライブが…?」
「俺はオールマイトの秘密を知る数少ない1人だからだ。君がオールマイトから力を受け継いだことも知っている。ワン・フォー・オールという個性をね」
「……っ!?」
緑谷はドライブがオールマイトの秘密を知る人物の1人であることに驚愕する。
「何故、俺がそれを知っているのか、それは、俺はかつて個性を持っていた。だがその個性はオール・フォー・ワンに奪われたからだ」
「えぇ!?」
◇
35:ヒーロー科のパンクジャック
ふぁ!?
36:ヒーロー科B組ギルス
マジかよ…!?
◇
勝と僚一も掲示板越しでそれを聞いていた。ドライブはかつて個性持ちだったということ。オール・フォー・ワンにその個性を奪われたことに驚く。
「俺のかつての個性は“光線"。光エネルギーを吸収し、蓄積すればする程、強力な光のビームを撃てたりできる個性だ。だがオール・フォー・ワンに奪われ、オールマイトに重傷を負わせた。俺は、オールマイトを弱らせた原因の1つでもあるんだ」
「そんな!あなたが悪いわけじゃ……!」
「オールマイトもそう言っていたよ。でも俺は少しでも責任を取りたかった。だからこのベルトさんと出会ってドライブとなったのさ」
すると今度はベルトさんが話し出す。
『私はかつて人間だった。ヴィラン連合に殺されたが、私の持つ個性データ化によって魂は生き残った。だが連合に捕まり、いいように利用されていたのをオールマイトに助け出されたんだ。そして彼と出会い、今に至るというわけだ』
「そんなことが……」
ドライブとベルトさんの話を聞いた緑谷はヴィラン連合の悪行に表情が強張る。
「ヴィラン連合については俺達警察が調査している。何かあったらオールマイトを通して知らせる。じゃあ俺はこれで、オールマイトにもよろしく伝えておいてくれ。君達がヴィラン連合と戦わずに済むよう、此方も最大限の努力をする」
「あっ、待ってください!1つ聞きたいことがあるんです!」
「……何かな?」
緑谷の言葉にドライブは足を止めて振り向く。緑谷は意を決して話す。
「実は…、あなたの悪い噂を聞くことがあります。過去にある幼稚園で交通安全の指導した時に握手会で園児1人だけ握手を拒否して泣かせたという……」
「あぁ、あれか…」
ドライブは緑谷の話に腕を組みながらうんうんと頷く。すると、ベルトさんが話し出す。
『なるほど、あの件か。私が話そう。あれは未だに賛否両論とされている。大人げないという人もいれば、いい教育をしたという意見もある』
「……?」
『彼が唯一握手を拒否した園児は、他の子にいじめや迷惑ばかりかける問題児だったんだ。彼はその園児に向かって「人を困らせてばかりの君はヴィランと同じだ」と言い放った。その園児は自分がヒーローから悪者扱いされたことでショックを受けて泣いたのがきっかけだな』
緑谷はベルトさんの話を黙って聞いていた。勝と遼一も掲示板越しで静かに聞いている。
『その園児は親を味方につけて文句を言いに来たが、彼がいじめや迷惑行為をしている映像を流して黙らせた。彼はその園児の親に「今やっていることが悪いことだとちゃんと言い聞かせないと、お子さんは将来、刑務所に入ることになる」と言い聞かせた』
「その子は、どうなったんですか?」
『その後園児は親からみっちり説教され、自分のやったことがどういうことかようやく理解した。そこからあの子はいじめや迷惑行為を辞め、今までのことを謝罪し、不器用ながらも他人の為に行動するようになったんだ』
『そんなある日、あの子が通う幼稚園にヴィランが立て込んだ。ヴィランは誰かを人質に取ろうとした時、あの子がヴィランに立ち向かった。何度突き飛ばされそうが、殴られようが、何度も立ち上がった。それが結果的に時間稼ぎとなって、ヒーローが駆けつけ、ヴィランは逮捕された。それを知った彼はあの子の元に赴き、君はよく改心した。今の君はここにいる皆のヒーローだと称え、改めてあの子と握手を交わしたのだ。因みにあの子は今、ヒーローになる為に頑張っているそうだ』
「そんなことが……」
「一部はやり過ぎと言う人もいるだろう。だが俺は自分のやっていることがどれほど悪いことなのか自覚してほしかった。それが、犯罪の抑止力になるだろうから」
ドライブはそう言うとその場を去っていった。掲示板越しで聞いていた勝と僚一は感慨にふけっていた。
「……ドライブなりの教育だったんだな」
「あぁ、……っともう日が暮れちまう。いこうぜ」
勝と僚一は日が暮れる前にドライブが用意してくれた宿泊施設に戻ろうとその場を立った。すると、僚一は自分の体に違和感を感じた。
「……?」
僚一は一瞬、自分の体がギルスとは違う何かに変化したような気がした。
「ん?どうした?」
「いや、なんでもない」
僚一は気のせいだろうと思って、勝と共に宿泊施設に戻っていった。
補足
ドライブは元々個性持ちだったが、雄英入学前にオール・フォー・ワンに個性を取られて今は無個性なってしまった。ヒーローになる夢を諦めかけていたとき、ベルトさんと出会い、ドライブとなった。
ベルトさんは元々普通の人間。個性はデータ化で機械やコンピュータに干渉できる。ヴィラン連合によって身体は死亡したが魂はデータとなって生きている。連合によって頭脳や技術力をいいように使われていたがオールマイトに救出された。その後、ドライブシステムを開発し、自らをドライブドライバーに転送して今の姿になった。そして個性を失った信助と出会った。
ギルスは一般市民からの評価はあまり芳しくない。見た目がヴィランっぽいのがどうも致命的なのだ。過去にギルスの姿のせいで親が失職したこともあったため、離れて暮らすことを決意した。両親とはたまに連絡を取り合っているようだ。