何回にも間を開けて書いたので違和感あったら感想にてご報告お願いします。
都市廃墟の一角に二人組の男がいた。どちらも同じフード付きのマントを被っている。
「ビーター…てめぇは何時も何時も邪魔してくれるなぁ…」
片方の男は途方もない怨嗟を込めた声で怨敵の走り去った方角を睨みつける。
「…準備は、出来た、のか?」
「え?あ、はい!もちろん!言われた通りに仕掛けてきました!にしてもあんなのどうやって用意したんすか?」
「言う、必要は、無い」
「そ、そうですか…」
長身痩躯の男はこめかみをひくつかせる。
ーこの餓鬼…まぁいい、最後に笑うのは俺だ。ラフコフの幹部とか関係ねぇ、あの二人を始末してこいつを利用するだけ利用して最後にあの女で遊べりゃそれで良いさ
男は内心でほくそ笑む。ザザにその行動原理すら利用されているのに気付かぬままに。
暗い洞窟の最奥部、そこは申し訳程度に水溜りの様な場所があり少しばかりひんやりとしている。その水溜りの手前の岩壁に一人の少女が長大な銃と共にもたれ掛っている。だがそこにはかつての山猫のような獰猛さは無く唯々怯えている女の子だった。
「…シノン」
俺の言葉にシノンは緩慢に首を動かしこちらを見る。
「大丈夫…では無いよな」
「…えぇ、情けないことにね」
シノンは力無い笑みを浮かべる。その笑みは俺にとってとても痛々しく映った。
「シンは?入り口の方で何か言い合ってたようだけど…」
「やっぱし聞こえてきてたか…キリトにちょいと当たっちまってな、情けない限りだ。俺の方が年上だってのに」
「…良いんじゃないの?親友なんでしょ?」
「まぁな、恩人って意味合いが強いけど」
そこで一度会話は途切れた。緩く、寄る辺の無い沈黙だ。
「…ねぇ、シン」
「なんだ?」
「聞いてもらっていい?私の…朝田詩乃の罪を」
そこには話して楽になりたい、そんな思いが見え隠れていた。
「…そうか」
俺は肯定も否定もしない。シノンの自由意思に任せた。
「…私ね、人を殺したの」
シノンの目を見た時薄々感じていた事だ。会ったばかりのシノンはただひたすらに抗うだけの力を求めていた。
「小さい時に交通事故でお父さんを失くしてね、お母さんが精神障害になったの。それから私はお母さんを守らなきゃ!って思ってて強引な訪問販売とか追っ払ってたの。それである日に郵便局に行ったんだ。精神障害って言っても重度ってわけじゃないからそれ位は出来てたんだ。そしたらその郵便局にね変な男が入ってきたんだ、黒目が左右で違ったし一瞬でおかしいと思ったの」
最後の言葉でその男が何かしらの薬をやっているのが分かった。おそらく俺のクソ両親と同じ覚せい剤だろう。
「その男は受付のカウンターまで行った後お母さんを突き飛ばしたんだ、そしたら懐から銃を…ボロマントが使ってた黒星を、取り出して…」
シノンの震えが大きくなる。おそらく当時の記憶とさっきまでの恐怖がフラッシュバックしてるのだろう。俺はシノンの右手を優しく握りこむ。“大丈夫”と言い聞かせるように。シノンは一瞬体を強張らせる。利き手は右だ、おそらく引き金を引いたのもこの手なのだろう。シノンは一つ大きく深呼吸をする。
「局員の一人を撃ったんだ。その後金を詰めろって言ってお母さんに銃を向けたんだ、早くしないと撃つって…」
シノンのその時の心情を感じる、この少女は幼い時にその恐怖を覚えてしまったのだ。
「もう無我夢中で男の手に噛みついたんだ、そして取りこぼした銃で撃ったんだ、二回。衝撃で肩は脱臼して歯は折れて痛かったけどそれ以上に足元に広がった血とお母さんの目が怖くてね…気絶しちゃったんだ。それから私は銃の絵や写真を見る度に吐いたり気絶しちゃうようになっちゃった」
シノンは自分の過去を話し終えて力が抜けたようだ。脱力して俺によりかかった。
「そうか」
俺は最初と同じ言葉を言う。
「…うん」
言葉少なくシノンは返す。
「…俺も気が向いたから少し話す」
シノンが驚いた顔をして俺を見上げた。
「意外か?」
「う、うん…」
「まぁ確かにそうかもな、でもシノンも話したし俺も話すのがフェアだろ…それにシノンにはもう隠し事したくないし」
「え?それってどういう…」
「聞いてりゃ分かるよ」
シノンは分からないというような顔をしていたがそれは後々分かる事だ。
「むかーしむかし、ある県ある街に一人の少年とその両親がいました」
殊更明るく、重くならぬように話し始める。
「両親は共働きで中々一緒にいる事が出来ませんでしたが共に仲が良く、少年を愛してくれていました」
俺のもっとも古い記憶、その中ではまだ両親は優しく笑っていた。
「ある日両親は珍しく朝から夜まで家に居て一緒に遊んでくれました」
それが最後に一緒に笑って遊んだ記憶。
「そして次の日から両親は一変しました、少年に暴力を振りながら無理やり家事をさせたのです」
アバターには無いはずの古傷が疼く感覚がする。シノンが息を呑んだ。
「少年が泣こうが喚こうがお構いなし、両親はどこまでも悪辣に、悪逆に、卑劣に、陰湿に、卑屈に、最低に、虐待を始めました」
体が震える。呼吸が苦しい。
「そんな生活が二年、続きました」
本当に辛い日々だった。生きているのが苦痛でもあった。
「ある日、帰りたくない家に帰った時、いつも真っ先に飛んでくる怒号がいつまでも聞こえませんでした。少年は不思議に思い、部屋を覗いてみると両親は静かに佇んでいました、不気味なまでに静かでした」
同時にもっとも死の危険を感じた時でもある。
「すると今まで静かだった父親がゆっくりとこちらを向きました、そして少年は悟ります。“ああ、死ぬんだな”と」
あの時の両親の顔は未だに頭から離れる事は無い。死んでもなお俺を苦しめる。
「父親は奇声を上げながら少年の首を締め上げました。母親は何もせず唯々薄く嗤いながら横目でこちらを見ていました」
あれはどんな虐待よりも辛かった。
「少年はこのままでは死ぬ、そう思いました。でもそこで少年を支配した感情は恐怖や諦めでは無くどこまでも深く昏く濃い怒りでした」
たった一瞬だがよく覚えている。自分を縛りつけていた鎖が全て弾け飛ぶような感じを。
「そこから先の記憶は少年にはありません。次に目を覚ました時に目に入ったのは自身の体にへばりつく血と肉、そして親だった肉塊でした」
シノンはガタガタと震えている。ショッキングすぎたようだ。
「これでようやく半分だ」
「え?」
「俺はこの時感情と呼ばれるものを失くしたんだよ、じゃなきゃあの状況で平静を保つことは出来なかった」
「え、でも今は…」
「これが本物かどうかは俺にも分からないんだ、まあこの話は後半にな」
俺はそう言ってまた話し始めた。
シンの話は私なんかよりもはるかに重かった。子供には耐えがたい苦痛を二年も受けていたのだ。私には耐えられない。
「それからと言うもの少年には一つのハンデを負うようになりました、自分の力を制御できなくなったのです」
「少年は常に過剰にアドレナリンが分泌されてしまい物を掴む度に壊してしまうのです」
「周りは当然のように少年をはじき出しました。異端異物怪物化け物人殺し、言い出せばキリがありません」
最後の話は経験がある、というより現在進行形だ。
「里親は何度も変わり、転校するたびに少年のしたことは明かされ弾かれてきました」
「しかし少年も人間でした、安らぐ場所が欲しい。そう思っていました」
「中学卒業後、少年は一人暮らしを始めました。誰とも関わらずいられる場所を求めて」
「そして見つけました、自分が安らげる場所を」
「その場所の名は“ソードアート・オンライン”」
その名を聞き驚きながらも納得をする。シンとキリトのあまりにも卓越した…いや、仮想世界に慣れている動きに。
「少年はその世界にのめりこみました。あのクソったれた世界から離れる事が出来たのです」
「閉じ込められようがHPがゼロになったら死ぬとか関係なしに歓喜しました」
「しかしそれも裏切られました」
「少年はまた同じ罪を重ねたのです」
「え…」
同じ罪、つまり人殺し。
「少年はあるギルドに所属していました。ギルドの名は“
「うそ…」
殺人ギルド…本物のデスゲームの中でそれは間違いなく最大級の罪だ。
「少年はそのギルドの中でも異端でした。手に掛けた人数は三人、同じギルドメンバーを葬ったのです」
「少年は限界でした、眠ることが出来ず休むことも許されない」
「でもある日大規模な討伐戦が組まれました、プレイヤーVSモンスターでは無くVSプレイヤー…本物の戦争でした」
「疲れ果てた少年は開戦直前自らの敵に当たる討伐組に情報を流しました、“無闇に突っ込むな、奇襲がある”と」
「少年は壊滅を望みそれは叶いました、壊れた心に多大な傷を代償に」
「そして出会いました、手を差し伸べ救い支えてくれた人達に」
「そして紆余曲折の末デスゲームの解放の喪失感と唯一無二の親友を手に入れましたとさ!」
「え?最後あっさりし過ぎてない?気のせい?」
「だって重い話のままで終わらせたくねぇんだもんよ、これから俺はけじめを付けに行くんだからよ」
最後の言葉に息を呑む。
「…戦うの?」
「当然」
「…強いね、シンは本当に強いよ」
私よりもひどい過去を持っていて何度も折れそうになっていて、それでも何度も立ち上がって今こうして前を向いている。
「私には無理だよ…」
あの時あの銃を向けられただけで何も出来なくなった私とは大違いだ。
「なに言ってんだ、今も十分戦ってるだろ」
シンの言葉に目を瞬かせる、私が戦っている?そんな筈がない。もし戦えているならあの時意地でも反撃していた。
「本当に逃げてる人間ならな、こんなに悩まねぇよ。その苦しみはな、抗って抗って抗い続けてる証だ。俺はもう一回折れてんだよ。両親を殺したあの時にな。今の俺はまだ組み立ててる途中だ、だからお前はまだ折れてない分俺よりも強い。自信を持っていいぞ」
シンはそう言ってくれる、でも自信が持てない。
「…まだ自信が持てないのか?」
「…うん」
「…前にさ、強さについて聞いてきた時なんて答えたか覚えてるか?」
「話す気になって聞いてきたら話すってやつ?」
「そう。出血大サービスだ、話してやるよ」
「…いいの?」
「おう。…俺はな、支えたいんだ」
「支えたい?」
「話の中で言った通り俺は一回折れたんだ、だけどそれをキリトやあいつの恋人のアスナ、俺のこと知っても態度を変えないでくれたクライン、他にもいる。その人たちに立ち上がらせてもらって、支えてもらった。おかげで今こうして俺はいられる。だから今度は俺の番なんだよ。俺は誰かを支えたい、そして…」
シンはそこで一度言葉を切り、私を真っ直ぐ見た。
「シノンを支え続けたいんだ」
私はその言葉に固まった。え?私?しかも支えたいじゃなくて支え続けたい?継続なの?今だけじゃなくて?それって家庭…じゃなくて過程すっ飛ばしてぷ、プロポーズ!?た、確かにもう結婚できる年齢だけどさすがに順序ってものが…
「えーと、シノン?」
「は、はい!ふ、ふちゅちゅか者ですがお願いします!」
「よし、いったん落ち着こう。はい、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」
「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー…てこれお産の時の呼吸法じゃないの!」
もうそこまで考えてるの!?じゃなくて…
「あ、あなた今の意味分かって言ってるの?」
「?支え続けたいってとこか?」
「そ、そうよ!それってほとんどぷ、プロポーズよ!!」
「あ?あー…まぁうん、そうだな。結婚を前提に付き合って欲しい意味で言ったし」
「な!?」
急速に顔が、どころではなく全身が赤く染まる。私ももしかしたら惚れているのかもしれないとおもっていた。何時かは私から告白するのだとも思っていた。だけどこれは予想をはるか上を行っていた。思考がさっきまでとは違う意味で働かない。私は黙りこくってしまった。
「…やっぱだめか、この状況で言うのは卑怯だもんな」
あ、あれ?
「ははは…やっぱ最低だよな、弱ってる所に付け込むとか…」
一転してなんか悲観的に…
「でもいいじゃないか少しくらい夢持っても、初めて異性を好きになれたんだし似た境遇だから理解し合えあるかなーって思ったけどやっぱり俺の思い違いかよ…」
私が初恋ってこと!?それは…すごい嬉しい…!!っじゃなくて!なんでシンはいきなりそんなに凹んだのかしら?
「断るならはっきりお願いします…無言なまま仏頂面は恋愛初心者には拷問です…」
そこまで言われて私は顔が力んでいることに気付いた。どうやら無意識のうちに悟られまいとしていたらしい。
「ち、違うわよ!これはそういう事じゃなくて顔がにやけるのを抑えるためであってホントはすごく嬉しくて…~~~!第一不束者ですが言ったでしょ!」
「…………え?よかったの?」
「最初からそう言ってたでしょ!!」
私達って締まらないわね…
あー、多分今後もこんな事が続くかもしれません。これからは更に忙しくなりますし何より作者目移り激しいです。それでも時間はかかりますが必ず完結はさせますのでなにとぞよろしくお願いします。