罪背負いし影   作:砂利道

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ほぼ一年ぶりの投稿となったことを深くお詫び申し上げます。大変お待たせ致しました。些かこの作品を投稿するのは久しいので稚拙な部分があるかと思いますが最後まで読んで頂けると幸いです。


第十八撃

「ぐっ…ようやく、止まったか」

 

ザザがうつ伏せに倒れた俺を足でひっくり返す。転がされた勢いで右手が心臓を庇うような位置に来る。体を動かすことは出来ない。極端な脳の負荷で動かすことが出来ないのだ。

 

「お前には、言い残す、事すら、許さん。何も、守れない、自分を、憎みながら、逝け」

 

体の制御権がまだ完全に帰ってきていない。

 

ー耐えろ…シノンを信じろ!

 

必死に自分に言い聞かせる。ザザがエストックを引き絞り、俺の右手ごと貫こうとする。

 

「死ね」

 

瞬間、エストックが降り下ろされ…

 

 

 

 

 

 

ガチン!!

 

 

 

 

 

「なっ…!?」

 

このゲーム最高クラスの金属が目立たない手甲を貫通出来なかった。この手甲はラースオブキングをシノンと討伐した際、俺のドロップしたモノクル型スコープとトレードした物だ。あのバカみたいに硬かった金属が使われていてなおかつ軽いという超レア物だ。

 

ーシノン…ありがとう

 

そして俺はこの事を一生忘れることが無いだろう。

俺の手甲に阻まれ、一瞬、ほんの一瞬の停滞の瞬間、目の前に金色の物体がエストックのど真ん中を撃ち抜いた。それは弾丸。

 

「バカな‼」

 

シノンが超絶技巧による狙撃でエストックを撃ち抜いたのだ。ザザの行動の予測、エストックの最も弱い場所の判定、仲間を撃ちかねない恐怖を押さえ付ける度胸、全てを総動員してこの一瞬を作ってくれた。

 

だがまだ足りない

 

あともう一瞬、そうすれば俺はこいつを倒せる、だが動けない。ザザの奴は動揺しながらも既に俺を殺す為の行動を起こしている。腰から黒星(ヘイシン)を抜き去ろうとしている。このままでは一瞬間に合わない。極限の焦燥に駆られていたその時、

 

ビィ…

 

ザザの頭に弾道予測線が突き刺さった。それはシノンがくれた最高の一弾、幻影の弾丸(ファントム・バレット)。さっきの狙撃を目の前で見たザザはもはや脊髄反射で俺から距離を取った。整った。

 

「お、オオオォォォォォォォォ!!!」

 

身体が跳ね上がる、世界から一切の音と色が消える、一秒が永遠へと引き伸ばされる。ザザの赤く光る目と視線が合う、マスク越しで何を考えているかは分からない。もしかしたら逆転の手を考えているのかもしれない。だから俺はそんなことを考えさせる間も与えずに行動した。

 

左手がザザの喉を抉った、声はもう出せない。

本来なら小太刀を持っている右手がザザの左脇腹を深く手刀で抉った、身体のバランスはもう取れない。

本来なら持ち変えた小太刀がある左手で背骨ごと肺を手刀で身体を回転させながら切り裂いた、呼吸と立ち続けることはもう出来ない。

右手が背後から再び正面に回転しながら移動した力を余さず伝えザザの心臓を貫き背中へ貫通するまで突き刺した、この世界で動くことはもう出来ない。

 

アインクラッド十のユニークスキルの一つ暗殺術の最高位スキル、彼岸葬送(ひがんそうそう)。最初の一撃で断末魔をあげることを封じられ、二撃で立ち続ける誇りを砕かれ、三撃で生きていた世界の空気を吸うことを禁じられ、四撃でこの世に留まることを否定する。対人、もしくは人型モンスターに置いて必殺を誇る最強の技だ。

 

 

 

 

 

 

「っはあ!」

 

引き伸ばされた時間が戻り視界に色が着く。目の前には死亡タグの付いた欠損だらけのザザだ。

 

「はぁ、どうせ聞こえてんだろ?お前が言いそうなことの答えを言ってやるよ。アイツは俺が引っ捕らえる。流暢な英語話してたからもしかしたら外国にいるかも知れねぇが俺が止める。何年掛かろうがだ。ジョニーの奴もな。お前はおとなしく豚箱で臭い飯でも食ってろタコ野郎」

 

俺は言いたいことだけ言ってザザに背を向けた。ボロボロの体はゆっくりと、だが一歩ずつ愛する人の、シノンの元へと進む。

 

 

 

 

 

いつもならなんてことのない距離を随分と時間を掛けて歩いた。脳を過剰に使った弊害か身体中に幻肢痛が走る。痛みに顔を顰めながら進んでいると前から足音がした。音の方に顔を上げると一人の少女が走ってきていた。

 

「シン!」

 

その声を聞いただけで俺は頑張ったなと自分を誉めたくなる。愛おしさが身体中を駆け巡り俺も堪らずに痛みをはね除け声を上げる。

 

「シノン!」

 

シノンは勢いを緩めず俺に抱きつく。倒れなかったのは男の意地だ。

 

「良かった…無事で良かった…」

 

埋めた顔から掠れた声が聞こえる。その声は濡れているようにも聞こえた。感情表現がオーバーなこの世界じゃ涙も隠すことは出来ない。

 

「…カッコ悪いとこ見せちまったな」

 

「そんなことない、確かに少し怖いと思ったけどシンはシンだった。…私を、守ってくれた」

 

「…そっか、守れたんだな、俺。でも俺も守られたよ。エストックを撃ち抜いたあの一撃、それと弾道予測線を使ったフェイント、見事だったよ」

 

「あのエストック?を撃ち抜いたあと、まだ足りないと思って無我夢中だったのよ。役にたったなら良かったわ」

 

まだ涙に濡れた顔を上げシノンは柔らかく微笑んだ。その顔を見て急に恥ずかしくなり俺は慌ててしまう。

 

「お、おう。本当に助かったぜ。それよりもどうする?このままじゃBob終わんないけど」

 

「大丈夫よ、ちゃんと考えてあるわ、はいこれ」

 

「ん?」

 

そうしてシノンから渡されたのは随分と見覚えのある艶消しの黒色の球体だった。しっかりと十秒タイマーも起動してある。

 

「…おみやげgrenade?」

 

「流暢ね。答えはyesよ」

 

そう言ってシノンは再び俺に抱きつく。俺の手からグレネードが離れないように。とても良い笑顔で。

 

「…次はちゃんとした決着をつけような」

 

「上等よ」

 

そして俺達は仲良く視界を白く染め上げた。

 

 

 

 

 

第三回バレットオブバレッツ優勝者、sin&sinon

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピッと被っている機械から音がなり、自分の感覚が数時間ぶりに現実と感覚が再接続される。俺はゆっくりと瞼を上げ目だけで周囲を見渡す。菊岡がボディーガードを雇っているからそこまで心配する必要はないと思ってはいるが慎重になることに悪いことはない。周囲の安全を確認してから俺はナーブギアを頭から外す。その際やはり幻肢痛が体を走るが少し前までは日常茶飯事だったので無視する。立ちあがりカラカラの喉を潤すために蛇口を捻ったとき、

 

 

ガシャン!

 

 

そんな音が外から響き鼓膜を叩いた。

 

「シノン!」

 

俺は狭い部屋を駆け足で走りドアを蹴破る勢いで開ける。すると"朝田"と書かれた標識の前に二人の黒服が帽子を被った余り特徴のない少年を拘束していた。

 

「あんたらは…」

 

「安心してください、仮想課から派遣された者です」

 

声の方向に顔を向けると丁度階段を上がってきた新たな黒服にそう言われた。

 

「こいつは…」

 

「五時間ほど前からこのアパートの前を徘徊していたのです、そしてつい先程この部屋に押し入ろうとしていましたので取り抑えました」

 

「この寒空の中五時間も…」

 

でも間違いない。こいつは死銃の片割れだ。

 

「シン…?そこにいるの?」

 

「あ、ああ。無事か、シノン?」

 

その瞬間、

 

「お前がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「な!?」

 

いきなり取り抑えられていた少年が叫びだした。

 

「消えろ!朝田さんの前から消えろぉ!」

 

「え…?その声、新川君?」

 

シノンがドアを開ける。

 

「ああ!朝田さん!もう大丈夫だからね!すぐにこんな奴ら消してあげるから!」

 

「し、新川君?なに…言ってるの?」

 

「こんな奴に付きまとわれて大変だったよね!あの洞窟の時や最後の瞬間も脅されて仕方なかったんだよね!じゃないとシノンがあんな形で終わるはずないもの!大丈夫、大丈夫だよ!」

 

「お前…頭イッテんのか?」

 

「黙れ朝田さんにまとわりつく害虫が!お前は朝田さんに相応しく無いんだよ!さっさとこの世界から消えろぉ!朝田さんはボクと結ばれる運命なんだ!お前は邪魔なんだよ!」

 

「はぁ!?」

 

あまりの発言に俺はすっとんきょな声を上げてしまう。少年は拘束から逃れようと身を捩らせ暴れる。その最中帽子が落ちた。

 

「お前あの時の…」

 

帽子が落ち露になった顔は少し前にシノンがギャル三人に囲まれてた時に見た少年だった。

 

「お前みたいに人を脅す事でしか勝てない奴は朝田さんに相応しくないんだ!朝田さんは強いんだ!だって!」

 

少年…新川とやらは俺に向けていた怒りと憎悪の表情を一転させ恍惚の表情を浮かべた。

 

「朝田さんは日本で唯一銃で人を殺した人なんだから!」

 

「え…」

 

シノンの顔色がサァと白くなる。

 

「小学生の時に銃で人を殺すなんて朝田さんにしか出来ない事なんだ!朝田さんは本当にすごいんだよ!だからボクはそんな朝田さんに憧れてあの世界で黒星(ヘイシン)を選んだんだ!」

 

黒星(ヘイシン)を、選んだ…?じゃあ、新川君が、死銃の仲間なの…?」

 

その言葉に新川は軽く目を見開き更に恍惚とした表情を浮かべる。

 

「流石朝田さんだね、そこまで分かったんだ。そうだよ!ボクはね!朝田さんに憧れてあの死銃を作ったんだ!朝田さんの強さの象徴を自分で使うために!」

 

「あ…」

 

「シノン!」

 

シノンは体をふらつかせへたり込んでしまいそうになる。俺は間一髪でそれを抱き止める。

 

「薄汚い手で朝田さんに触れるなぁ!!」

 

一転して新川は怒りの表情を浮かべる。

 

「お前みたいな人殺しが朝田さんに触れてんじゃねぇ!消えろ!さっさとこの世から消えろ!」

 

俺はその言葉をまともに受け取らず無視しようとしていたが。ある部分に引っ掛かった。

 

「まて、何で俺が人を殺したって知ってる…?」

 

「そんなもの、兄さんに聞いたに決まってるだろ臆病者!」

 

その言葉にかちりとピースがハマる。

 

「お前、ザザの弟か!」

 

その言葉に新川は嘲笑を浮かべる。

 

「ああそうだよ!だからボクは知ってるぞお前があの世界で三人も人を殺した事を!最低なクズ野郎だな!」

 

「テメェの兄貴は俺よりもはるかに多い奴を手に掛けてるぞ」

 

「それがどうした!問題なのはな、お前がそんな薄汚い手で朝田さんに触れている事なんだよ!」

 

「…ならテメェなら触れて良いってか?」

 

「当然だろ!朝田さんに触れて良いのはボクだけなんだ!朝田さんはボクの物なんだ!」

 

その言葉に一瞬で頭が沸騰する。

 

「ふざ「ふざけないで‼」け…んな?」

 

突然腕の中から大声が聞こえた。さっきまで顔面蒼白だったシノンが顔を怒りの表情に染め新川を睨んでいた。

 

「シンの事を何も知らないで語るな!」

 

「朝田…さん?」

 

「私は知ってる!シンがどれだけ苦しんでたのかも!それを乗り越えようとしてることも!」

 

「朝田さん…なに、言ってるの?」

 

「私はシンに教えられた!罪悪感が拭えない事を、強さの意味も!」

 

「シノン…」

 

「それに私は新川君の物じゃない!」

 

「は?え?」

 

「私は私のもの、そして、」

 

そこでシノンは一度区切りありったけの思いを込めた。

 

「私はシン、閑田改のものよ!」

 

…うん、すごく嬉しい、嬉しいけど

 

「えーと…ご馳走さまです」

 

「うん、あんた菊岡さんの部下だわ」

 

黒服Aの言葉にシノン、朝田詩乃は顔を赤面させる。

 

「朝田…さん?」

 

「~~~!とにかく!私は新川君の物じゃない!というより人を物扱いしないで!」

 

新川はなにが起こったか分かっていないような呆けた顔をしていた。

 

「え?あ?は、あ、あはは、」

 

そして、

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……嘘だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

それだけ叫んで新川は気を失った。こうして死銃の…新川恭二、ザザの両名が発端となった事件は終わりを迎えたのだった。




次回のエピローグをもって一応の完結とさせていただきます。続編を書くかは反響とリアルの都合を鑑みて考えさせてもらいます。
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