罪背負いし影   作:砂利道

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やあやあおひさです。毎度お馴染みの砂利道で~ございます。
当作品を閲覧頂き誠にありがとうございます!
えー、今回を持ってこの作品を一応の完結とさせていただきます。かなり昔の感想となりますがちらほらと続きを希望する声もありました。しかし、私自身の都合、モチベーションを鑑みた結果、一旦続きは見送らせていただきます。中途半端にするのは申し訳ありませんので(いや他作品はどうした)。

ですが!こちらの都合が落ち着き、希望する声があるのなら、皆さんが忘れた頃に書かせて頂こうと思っています!その時までしばしこの"罪背負いし影"とはおさらばです。今まで応援していただき、本当にありがとうございました!それでは最終話、どうぞご覧ください!







…長いよ?(一万字越え)


その涙は、 (終撃)

死銃事件解決からはや二日、俺は今詩乃の通う高校の前でバイクにまたがりながら詩乃が出てくるのを待っている。既に生徒はちらほらと校門から出てきて俺に無遠慮な視線を浴びせているが詩乃はまだ来ていない。

 

「…絡まれてたりして」

 

益体のない事を呟き俺は再び視線の集中放火に耐えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに呼び出されるのはもう何回になるだろう。私はあの三人組に呼ばれ学校の中でも特に人気の無いところに来ていた。

 

「よぉ、朝田ぁ」

 

待つこと十分、ようやく遠藤達が来た。本当なら帰っても良かった、だけども私はここでけじめをつけようと思っていた。

 

「このあとカラオケに行くんだけどさぁ、ちょおっと足りないんだわ。とりあえずこんだけくんない?」

 

そう言って遠藤は二本指を立てる。遠藤達が金をせがむときの基本単位は万だ。つまり二万円。ちょっとで済む額ではない。いつもならそんなお金は無いと言って現金全部を持ってかれるのが常だった。だけども今日は違う。私はせめてもの精神的防壁として着けていた弾丸にも耐えられる素材でできた伊達眼鏡を外し、遠藤達にありったけの思いを込めて言いはなった。

 

「あなた達に、渡すお金なんか、一円たりとも無い!」

 

きっぱりと言ってやった。すると遠藤は顔を歪め憎々しげに言う。

 

「調子乗ってんじゃねぇぞ朝田ぁ」

 

すると一転して嘲笑を浮かべた。

 

「そんな朝田にプレゼントでーす、今日は兄貴からアレを借りてきました~」

 

遠藤はジャラジャラとストラップの付いた自分の鞄を漁りひとつの"銃"を取り出した。

 

1911ガバメント、全長216㎜重量1077gのアメリカ産の拳銃だ。もちろんモデルガンである。でも私にとっては恐怖の象徴と言える。

 

「ほらほら、どうしたんだよ、朝田の大好きな大好きな銃だぜぇ?感動のあまりゲロるなよ!」

 

ギャハハハと遠藤達が品の無い笑いをする。そんな声も今の私にはゴウゴウと鳴る血流の音で遠く聞こえる。

 

「ゆっくり見ていけよ、今回は邪魔する奴はいないんだからよぉ」

 

そうだ、今ここに改はいない。私一人、一人、ひとり…

 

「そうだ!ついでに味わってけよ、お前が撃った銃をよぉ」

 

遠藤はゆっくりと銃口を私の方に向ける。動悸が早くなる。目を瞑り耳を塞ぎたくなる。逃げ出したい。でも、

 

―なに言ってんだ、今も十分戦ってんだろ

 

あの洞窟でシンに言われたことが頭をよぎる。

 

―そうだ、戦ってるんだ。だったら逃げるな!

 

自分を叱咤する。遠藤達のにやけた顔をにらみ続ける。指が引き金に掛かり、そして…

 

カチッ

 

「あ?」

 

カチッカチッ

 

「は!?何で出ないんだよ!」

 

私はそうっと息を吐く。分かっていたとは言え緊張するものは緊張する。遠藤はなお、苛立たしげに引き金を引こうとする。私は遠藤に歩み寄り手を抑え銃を奪い取る。

 

「1911ガバメントか、お兄さん渋い趣味ね」

 

遠藤達はあまりの事態に呆気に取られる。今までひどい拒絶反応を起こしていた私が平然と銃を握っているのだから当然か。

 

「さてと、これでいいかな?」

 

私は捨ててあった空き缶を私の胸の辺りまである壁の出っ張りに置いた。

 

「この銃はね、こことここのセーフティを解除しなきゃ撃てないのよ」

 

カチリ、カチリとセーフティを解除して照準を空き缶に合わせる。初弾は勘でいくしかない。この銃のクセが分からないから。しかし思いとは裏腹に私の体は銃の使い方が刷り込まれているようだった。

 

バスッ カンッ!

 

見事にど真ん中に命中、内心驚いてしまう。でも、それをおくびに出さずに私は飄々と言い放つ。

 

「…あら、運が良いわね」

 

「な、な…」

 

遠藤達は口をバカみたいに開けて呆然とする。私は振り返り遠藤の元へ歩き出す。

 

「ひっ…」

 

…少し傷付くけど良い様ね。遠藤の前でセーフティを戻しグリップ側の方を渡す。

 

「堪能させてもらったわ、いい銃ね。でも、人に向けるには危ないわ」

 

鞄を拾い上げ私は遠藤達の間をすり抜ける。立ち去る直前、私は振り返り言った。

 

「…じゃあね、さよなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッハァ!」

 

詰まっていた息が呼吸を思い出す。まだ耳元には血流の激しく流れる音が聞こえている。でも、

 

「乗り越えられた…」

 

ようやく…ようやく進めた。それは小さな一歩かも知れない。でもその分改に近づけた。私は軽くなった気持ちを押さえ付けぬまままた一歩踏み出した。

 

 

 

 

踏み出したけど、

 

「なにしてるのよ…!」

 

迎えに来るとは聞いてたけどなんで、

 

「なんで校門の前にバイクで来てるのよ…」

 

出たいけど出れない、人前に出るのに躊躇ってしまう。どうにかして移動させて別の所で待ち合わせするしかない、だが天は私を見放した。

 

「…あれ?詩乃、そんなとこでなにしてんの?」

 

「ちょっ!」

 

バッ!と周りの生徒達が私を見る。すると人混みの中から比較的話す方のクラスメイトが走り寄ってきて、

 

「ちょちょちょ朝田さん!あの背高のイケメンさん誰!?朝田さんの知り合い!?」

 

「えーと、その…」

 

「おーい、詩乃ー?」

 

「ちょっと改静かにしてて!」

 

「「「名前呼び!?」」」

 

しまった!火に油を注いでしまった。

 

「ま、また今度!」

 

「あっ!逃げた!」

 

明日教えてよー!という声を後ろに聞きながら私はダッシュで改の元に向かう。

 

「なんでこんなとこに停めてるのよ!」

 

「え?分かりやすい方が良いかなと」

 

「変な目立ち方されるわ!後少し遅かったら教師を呼ばれてたわよ」

 

「うわマジか、危な…」

 

「はぁ…次は気を付けてよね」

 

「善処しますよ、はい」

 

そう言って改は私にヘルメットを渡した。バイクは今時珍しいガソリンの旧型らしいけど私は今の電動式よりもこっちの方が好きだ。ヘルメットを被り改の後ろに乗る。

 

「しっかり掴まっとけよ」

 

私はぎゅっとしがみつき改に体を密着させる。緊張もするがとても安らぐ。

 

「んじゃ行きますか」

 

大きな音が私の鼓動の音を隠すように鳴り走り出す。…多分聞こえちゃってるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と詩乃は以前和人と一緒に呼び出された喫茶店に来ていた。あまり会いたいとは思わないが事件の経過を知る必要もあるので渋々といった具合だ。

 

「よくやった俺の理性、途中ホテルの誘惑もあったが良く耐え抜いた!」

 

小声で俺の理性を褒め称える。

 

「なにバカ言ってるのよ、行くわよ」

 

…聞こえてた

 

「それにそういうのはもっと雰囲気がある時に…」

 

…聞こえちゃった

 

「あー、うん。頑張ります」

 

「うぇ!?あ、いや、その、決してそういうことをしたいという訳じゃなくて…」

 

「うん、分かってるよ、ムードがある方が良いんだよね?詩乃ってクールに見えて結構ロマンチストだよね」

 

「それ以上喋るなぁぁぁぁ!」

 

詩乃が真っ赤になって早足で喫茶店に向かっていった。可愛いなぁと思いながら俺は詩乃の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店内に入った後、俺と詩乃は既に来ていた菊岡と合流し適当に注文を取った。

 

「では今回の顛末をお伝えする前に、朝田詩乃さん」

 

「は、はい」

 

「この度はこちらの不手際であなたを危険にさらしてしまったことを深くお詫びします」

 

「俺からもだ、すまなかった」

 

俺と菊岡は詩乃に対して深く頭を下げる。

 

「い、いえ。そちらには既に色々と配慮してもらったので…」

 

「そう言って頂けると助かります」

 

「…とりあえず、事の顛末を聞かせてもらえるか?」

 

「ああ、勿論だよ。でもその前に」

 

すると丁度俺達が頼んだ品が運ばれてきた。詩乃は運ばれてきたチーズケーキに恐る恐る口を付けたが美味しかったのか夢中で半分ほど平らげていた。途中で俺と菊岡の視線に気付いたのか顔を赤くしながら一言、

 

「…美味しいです」

 

「それは良かった。美味しいものはもっと楽しい話をしながら食べたいけどね」

 

「おいこら詩乃にゲテモノの話を聞かせようとしてんじゃねぇよ」

 

「し、心外だなぁ。東南アジアの食べ歩きの話は自信があるんだが…」

 

菊岡はぶつくさと呟きながら鞄の中から極薄のタブレットPCを取り出した。

 

「まず死銃本人である新川昌一の事だね。彼は幼少から体が弱かったそうだ。中学を卒業する頃までは入退院を繰り返していたらしい。そのせいで父親は実家の総合病院の後継ぎにすることを早々に諦めて三つ年下の弟の新川恭二にその役目を与えようとしたそうだ。小学校の時から家庭教師を付け、自らも勉強を教えたりしてた一方で昌一の事はほとんど顧みなかった。兄は期待されないことで追い詰められ、弟は期待されることで追い詰められたのかもしれない…とは聴取における父親の弁だが」

 

一度菊岡は言葉を切りコーヒーで唇を湿らせた。

 

「それでも兄弟仲は悪くなかったそうだ。昌一は高校を中退してから精神の慰撫をMMORPGに求め、それは弟の恭二にもすぐに伝播した。やがて兄は"SAO"の虜囚となり、その間父親の病院で昏睡していたのだが…生還してからは彼は恭二にとってある種の英雄になったそうだ」

 

「…おおかた、ザザの奴がどれだけ自分があの世界で多くの人を手に掛けた、恐れられたかを語った、てとこか?」

 

「まさしくね」

 

「…ヘドが出る」

 

「だがそれは虐められていた恭二にとって嫌悪ではなく解放感や爽快感になっていたそうだ」

 

「あの…」

 

ここで詩乃が口を挟んだ。

 

「そういうことは、新川君…いえ、恭二君が話したんですか?」

 

「いや、これらは全て兄の供述に基づく話です。昌一は取り調べに聴かれたことは全て素直に話しているらしい。対照に弟の恭二の方は完全黙秘を貫いている」

 

「…そうですか」

 

あの時、詩乃に完全に否定されてあいつの魂は完全に行き場を失ったのだろう。もしかしたらGGOに残したままなのかもしれない。

 

 

 

その後、死銃がどうやって個人情報を手に入れたか、どんな風に家宅に侵入出来たかを聞いた。

 

「…結局、ザザにとってはこれもゲームだったんだな。ただひとつ、人の死と言うものだけが現実で。つってもそこまで誘導したのは間違いなくPhoの野郎だけどな。アイツはあの世界の弊害をいち早く理解してやがった」

 

「それは?」

 

「仮想と現実の境目が薄くなっていくことだよ。区別がつかなくなっていく」

 

「…改君はどうなんだい?」

 

「あの世界には確かに色々と置いてきた。だがそれだけだ」

 

「戻りたいとは?」

 

「悪趣味だな。和人だってそう言うだろうよ」

 

俺はちらりと詩乃を見る。

 

「…詩乃はどうだ?」

 

「え?」

 

詩乃はしばらく戸惑い、机の下の俺の手を握った。

 

「…私にとっての現実は私が今いる場所だわ。こうして改と触れ合える今が。例えここがアミュスフィアの中だとしてもね」

 

俺はその言葉に詩乃を無性に抱き締めたくなった。…意地で耐えたけど。

 

「菊岡、今の詩乃の言葉は忘れろよ?この言葉は俺のもんだ」

 

「ずっと気になっていたけどもしかして…」

 

「お先に失礼、こ・う・か・ん・さ・ま!」

 

「…現実はなんて非常なんだ」

 

菊岡が遠い目をする。

 

「お前のところの警備がザルだった報いだ。素直に受けとけ」

 

「それを言われると何も言えないね…」

 

「所でだ、勿論他の協力者は全員捕まえたんだよな?」

 

「え、いや…」

 

「おい、まさか…」

 

「…昌一含めてこの計画に参加したのは四人。新川兄弟にジョニー・ブラック…本名、金本敦、そしてアヴェンジャー、倉田出流、この四名だ。この内、倉田氏は自宅にて死亡しているのが確認された。そして金本は…」

 

「逃げられたと…」

 

「いやー申し訳ない!」

 

「笑って済むとでも?」

 

「本当にごめんなさい」

 

菊岡が深く頭を下げる。

 

「てか、倉田?もしかして…」

 

「ああ、倉田出流(いずる)はあの倉田次郎氏の息子だよ。公にはされてないけど近いうちに失脚が約束されている」

 

「ざまぁとも言いずれぇな…」

 

いくら相手が憎くても死が絡むと何とも言えない。

 

「仮想課としてはやり易くなるんだけどね」

 

菊岡も苦笑を漏らす。

 

「とにかく現在逃走中の金本は全国指名手配している。捕まるのも時間の問題だよ」

 

「…だといいがな」

 

「あの…」

 

詩乃が片手を上げ質問をする。

 

「新川君…恭二君は、これから、どうなるんですか?」

 

「うーん…」

 

菊岡は短く唸る。

 

「彼は十六歳なので少年法による審判を受けることになるんだが…亡くなった人数が人数だからね、家裁から検察へ逆送されることになると思う。恐らく精神鑑定も行われるだろう。その結果次第だが…医療少年院へ収容となる可能性が高いとおもうね。なんせ二人とも現実と言うものを持っていないわけだし…」

 

「いえ、そうじゃないと思います」

 

俺は詩乃の言葉を静かに聞いている。菊岡は視線で先を促した。

 

「お兄さんはわかりませんけど…恭二君は…ガンゲイル・オンラインだけが現実だったんだと思います。この世界を捨てて、あの世界が真の現実だと、そう決めたんだと思います」

 

「厳しいようだがそれはただの逃避では?」

 

「世間一般からすればそうだと思います。でもネットゲームというのはエネルギーをつぎ込み過ぎれば娯楽から、その、最強を目指して、凄いストレスの温床に変わると思っています」

 

「ゲームで…ストレス?それは本末転倒というものじゃ…」

 

「はい、恭二君は文字通り転倒させたんです。二つの世界を…」

 

「しかし…何故?どうしてそこまで最強を望んだのか…」

 

「それは…」

 

「強くなりたいからだろ」

 

詩乃は俺の言葉にゆっくりと頷く。

 

「そうね…プレイヤーは皆、そうなのかもしれない……ただ強くなりたい」

 

詩乃は顔を上げ菊岡を正面から見る。

 

「あの、恭二君には、いつから面会が出来るようになるんでしょうか?」

 

「ええと…送検後もしばらく拘置されるだろうから、鑑別所に移されてからになりますね」

 

「そうですか──私、彼に会いに行きます。会って、私が今まで何を考えてきたか……今、何を考えているか、話したい」

 

菊岡は、ひどく珍しく、本心からの微笑を浮かべた。

 

「あなたは強い人だ。ええ、ぜひそうしてください。詳細は後程メールで送ります」

 

そう言うとちらりと時計を覗き、

 

「申し訳ないが、そろそろ行かなくては。閑職とは言え雑務に追われていてね」

 

「そうかい、手間かけて悪かったな」

 

「あの、ありがとうございました」

 

「いえいえ、君達を危険な目に遇わせたのはこちらの落ち度だ。これくらいの事はしないと」

 

菊岡は立ちあがり伝票をとろうとして、動きを止めた。

 

「ああ、そうだ。改君、実は君に新川昌一から伝言があるんだ。彼は君への伝言を交換条件に聴取に応じていてね」

 

「…聞くよ」

 

「ありがとう…"これが終わりじゃない。終わらせる力は、お前にはない。すぐにお前も、それに気付かされる。イッツ・ショウ・タイム"…以上だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

菊岡はにこにこと手を降りながら俺達の所から去っていった。それから十分。

 

「ったく、あんにゃろ…」

 

「…あの人は何者なの?総務省の役人って言ってたけどなんか…」

 

「詩乃の直感は当たってると思うぞ。ただの役人じゃない」

 

「どういうこと?」

 

「事件からまだ二日、なのに詳しすぎるだろ。この縦社会の日本でだぞ?」

 

「んー…」

 

「要は総務省ってのは仮宿なんじゃないかって事。本来の所属は警察庁、あるいは…」

 

「あるいは?」

 

「…自衛隊」

 

「な…!」

 

「前にな、和人の奴とアイツを尾行したことがあんだよ」

 

「何してるのよ…」

 

「まあまあ。そしたら地下の駐車場にでかい黒の車があってな、そこからダークスーツの人が降りてきてご丁寧に車を開けるわけだ。そのあと道路に出て二人でバイクで追いかけたんだが撒かれてな。菊岡が市ヶ谷駅前で降りたのは分かったんだが見失った」

 

「市ヶ谷?霞ヶ関じゃなくて?」

 

「そ、んでもって市ヶ谷にあるのは」

 

「防衛省…」

 

「まぁもしかしたらだけど」

 

「でも何で…」

 

「アメリカじゃフルダイブ技術が軍事訓練で使われてるって話があるんだ」

 

「え!?軍で?」

 

「そう。例えば…あ、悪いけど銃の話になるぞ」

 

「そのくらいなら大丈夫よ」

 

「OK。例えば銃の使い方だ。どうやって弾を込めて、撃つときにこうすればいい。これだけでも相当な節約になる」

 

「そんなこと言われても…」

 

「あくまで噂だけどな。フルダイブ技術の進歩は目覚ましい。これからも色んな所で使われるだろうさ…とりあえず…あいつにゃ注意しとけよ」

 

「う、うん」

 

「うし!そんじゃ…あー、そうだった」

 

「なに?どうしたの?」

 

「詩乃、これから時間ある?」

 

「あるけど…」

 

「んじゃ悪いけどちょっと付き合ってくんね?和人のお仲間に事情説明する必要が出てな…」

 

「…それ絶対?」

 

「出来れば来てくれると…」

 

「…はぁ、いいわよ」

 

「すまん、助かる」

 

「今度何か奢ってね」

 

「手料理振る舞っちゃる」

 

「それは楽しみね」

 

俺と詩乃は停めてあるバイクの所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

改と詩乃は黒光りする木造の建物の前にいた。そこが改が案内した喫茶店と気付くには二つのサイコロの意匠金属板を見付けなければならない。因みに金属板の下部には"DICEY CAFE"と打ち抜かれている。

 

「…ここ?」

 

「そう」

 

改は躊躇いなく"CLOSED"と書かれたプレートが掛かっているドアを開けた。

 

「いらっしゃい」

 

見事なバリトンボイスが二人を出迎えた。声の発生源は濃い褐色肌の巨漢。

 

「よぉ、エギル。遅れて悪かったな」

 

「他の奴等ならもう来てるぜ」

 

そういってエギルと呼ばれた巨漢は顎で店内の一角を示した。

 

「遅いですよー!」

 

「文句は菊岡…クリスハイトに言え」

 

改に声を掛けたのは肩までの髪を僅かに内ハネさせている少女だった。

 

「大変だったんだぞ、里香がアップルパイ二切れも食べたりして…しかも俺の奢り…」

 

憔悴した声で黒髪の少年、和人が呟く。

 

「キリト君、賭け事弱いもんね。私もごちそうさまです」

 

そう言ったのは栗色の綺麗な長い髪の少女、明日奈。

 

「畜生…」

 

「ご愁傷さま。詩乃、紹介するな」

 

改はその場にいる全員を紹介し詩乃も自己紹介したところで、三人が座っている席に詩乃とともに座った。

 

「そんで、どんくらい話した?」

 

「俺の知ってることは全部」

 

「じゃあついさっき菊岡に聞いたことを話すぞ」

 

そうして改は詩乃と共に説明をした。個人情報もあるのでダイジェストではあるが十分を要した。

 

「…はぁ、キリトもそうだけどシンさんもまぁ巻き込まれますね」

 

里香がため息をつくように呟く。

 

「好きで巻き込まれてんじゃないが…いや、今回ばかりは自分から、かな」

 

「…あの、シンさんその…」

 

「…予想はつくよ。話したんだな?」

 

「…はい」

 

「別にいいさ。隠し切れるとは思ってなかったから」

 

「…ごめんなさい」

 

「謝罪は受けた。これでチャラな」

 

改と明日奈のやり取りを詩乃は訝しげに見ていた。

 

「改、それって」

 

「あの洞窟で詩乃に話したやつだよ。和人と明日奈、それにエギルは討伐戦の当事者だからな」

 

詩乃は咄嗟に三人を見た。見られた三人は静かに頷く。

 

「和人がくれた居場所が居心地が良すぎてな、ずっと言えなかったんだよ。まぁ良かったとは思うよ」

 

「シリカもリーファも変わらなかったですよ。勿論私も」

 

「ありがたいね」

 

改は微笑を浮かべた。

 

「さて、俺の話は終わりだ。本題に入るぞ」

 

「え?さっきのが本題じゃ…」

 

「あ、ごめん。わざと言ってなかった」

 

「はぁ!?」

 

「あとついでにごめん。詩乃のあの話、この三人に話した」

 

改の言葉に詩乃はバッと和人達を見る。詩乃の顔には怯えが浮かんでいる。

 

「そんな、改、何で…」

 

「詩乃にとって必要な事だからだ」

 

「何が…!」

 

「シノン」

 

和人が口を開く。

 

「改から話を聞いたあと、俺達はあるところに向かったんだ」

 

明日奈が続ける。

 

「ごめんなさい、朝田さん。私達は昨日、──市に行ってきたんです」

 

詩乃は息を飲んだ。明日奈が告げた場所はあの事件のあった場所だからだ。

 

「何で…そんなこと…」

 

「詩乃、俺はさ、もう両親には会えないんだ」

 

詩乃は歯の根が合わないように震えながら改をゆっくりと見た。そこには真剣な眼差しをした自分の恋人が自分を逃がさないようにしていた。

 

「だけど詩乃、お前はまだ会える。会わなきゃいけない人がいるんだ。そしてしっかりと聞け」

 

「会わなきゃ…いけない、人?」

 

すると里香が立ちあがり奥の扉へと歩いていった。その扉から一人の女性が姿を表した。歳は三十代位、どこにでもいる主婦のような人だった。詩乃のその印象を裏付けるように女性の後ろから小さな足跡が聞こえた。小学校前に見える女の子だ。顔立ちがよく似ているので親子だろう。しかし詩乃は困惑したままだった。何故ならその親子にはなんの見覚えも無いからだ。

 

女性は泣き笑い思わせる表情で未だに混乱している詩乃に深々と頭を下げた。女の子もならってペコリと頭を下げる。里香が先を促し、和人と明日奈が席を二人に譲った。丁度改と詩乃と対面になる形だ。

 

詩乃はそこまで来ても女性が誰か理解出来ずにいた。でも、記憶の奥底で何かが自分に訴えかけていることも感じていた。

 

「はじめまして。朝田…詩乃さん、ですね?私は大澤祥恵と申します。この子は娘の瑞恵、四歳になります」

 

名前を聞いてもやはり詩乃は分からなかった。詩乃は挨拶も返せず黙ったまま。

 

祥恵と名乗った女性は大きく息を吸い、ハッキリとした声で話し始めた。

 

「私が東京に越してきたのはこの子が産まれてからです。それまでは、──市の……町三丁目郵便局で働いていました」

 

「あ……」

 

詩乃の唇からかすかな声が漏れた。祥恵と名乗った女性が言った郵便局はまさしくあの事件のあった郵便局だからだ。詩乃はその郵便局で起きた強盗事件で犯人から母親を守るために拳銃を奪い─引き金を引いた。確かにそのとき、母親以外にも女性の職員が居たことを詩乃は思い出した。

 

詩乃はそこまで思い出したがそれでも疑問が晴れなかった。何故、改や和人達がこの女性と自分を引き合わせたのか。

 

「…ごめんなさい。ごめんなさいね、詩乃さん」

 

祥恵は目尻に涙を滲ませながら詩乃に謝る。何故謝っているのか詩乃は理解できず呆然としてしまっている。

 

「本当に、ごめんなさい。私…もっと早く、あなたにお会いしなきゃならなかったのに…あの日のことを、忘れたくて…夫が転勤することをいいことに、そのまま東京に出てきてしまって…あなたが、ずっと苦しんでることを考えもせずに、謝罪も……お礼すら言わずに…」

 

祥恵から涙が零れる。娘の瑞恵が母を心配してその顔を見上げる。その女の子の頭を祥恵は優しく撫でた。

 

「あの時、私のお腹の中には、この子がいたんです。だから、詩乃さん…あなたは、私だけじゃなくて……この子の命も救ってくれたの…本当に……本当に、ありがとう…」

 

「………命を…………救った…?」

 

詩乃が呆然と呟く。

 

「…詩乃」

 

改が詩乃に言う。

 

「俺は誰かを助けるために、お前と同じようなことをしたんじゃない。だけどお前は、こうして、この二人と、他の職員の人と、そして母親を守り、救ったんだ。自分の罪ばかりに目を向けるな。確かに、一人の命を奪った事は、重い。だけど同時に、お前はその重さにばかりかまけて自分が助けた人を考えることを忘れてる。もう、お前は赦されてもいいんだ。その権利が、お前には、あるんだ」

 

自分と同じように、この現実世界で人の命を奪い、あまつさえ仮想の世界でも人を殺めてしまった改の言葉は詩乃の心にすっと入り込んだ。

 

改から視線を外し、親子の方へと向けたが返す言葉を詩乃は出せなかった。それどころか何かを考えることすら出来ずにいた。

 

すると、とん、と小さな足音が詩乃の耳朶を叩いた。瑞恵という女の子が向かいの席から飛び降り、とことこと詩乃の元へと歩いていった。瑞恵は詩乃の前に行くと幼稚園の制服らしいブラウスの上から掛かったポシェットの中から四つ折りにされた一枚の画用紙を取り出した。不器用な手つきで紙を広げ、詩乃に差し出す。

 

詩乃の目に飛び込んできたのはクレヨンで描いたであろう三人の親子の絵。真ん中に髪の長い女性、にこにこと笑うそれは、恐らく母親の祥恵。その右には三つ編みの女の子、自分自身を描いたのだろう。左側には眼鏡を掛けた男性、流れからして父親だと思われた。一番上には覚えたばかりであろう平仮名で"しのおねえさんへ"と書かれている。

 

詩乃は差し出された絵を両手で受け取った。すると、瑞恵はにこりと笑い、子どもらしい舌っ足らずな声で、ハッキリと言った。

 

 

 

 

「しのおねえさん、ママとみずえを、たすけてくれて、ありがとう」

 

 

 

 

 

詩乃の視界がぼやける。世界が虹色に輝き輪郭を無くす。詩乃は自分が泣いていることにすぐに気付かなかった。いつも自分の流す涙は苦しく、辛いものばかりだったからだ。だからこそ詩乃は、自分の流す温かく、清く、優しく、全てを洗い流してくれる涙を知らなかった。しゃくりを上げることなく静かに流れ続ける涙を止める術を詩乃は知らなかった。すると、不意に自分の左手を覆うものを感じた。自分の愛する彼の手だ。そして反対側も彼の手より遥かに小さい手が恐る恐るという感じに、しかしすぐにしっかりと握られた。そこはまさしく、銃の火薬の微粒子によって出来たほくろのある場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分が、罪の全てを受け入れられるようになるのは、きっとまだまだ先の事だと思う。それでも詩乃は一歩ずつでも歩き出そうと誓った。だって…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界は、こんなにも温かいのだから




それではいつか、またこの作品で皆様と会えることを願いつつ、締めさせていただきます。


本っっっっっ当にありがとうございました!!!

2016 7/31(日) 完
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