罪背負いし影   作:砂利道

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導入三話目、始まり始まり~


welcome to ALO!! 下

ケットシー領の首都から離れ一旦シノンと共に安宿に入った。別に疚しいことをしようとしているわけではない。俺はシノンに一通りのストレージやらの操作方法を教えたあと余り物の装備をあげた。余り物と言っても何故かゲーム内では非常に運の良い俺が集めたレアドロップで作った装備だ。性能は折り紙つきだ。シノンは最初渋っていたが俺がALOプレイ記念として押しきった。うん、図らずもシノンの雰囲気と合致しているな。…狙ってないからな?

 

それから俺とシノンは高低差のある渓谷地帯に向かっている。

 

「なんで渓谷?」

 

シノンが俺に質問をする。

 

「理由は二つ。一つは飛行練習だ。高いところから羽を使って減速しながら落ちるんだ。最初は俺が補助するけどそのうち勝手に羽が使えるようになるからな」

 

「お、落ちる…」

 

「大丈夫だって。GGOでも飛び降りる位はしただろ?特に問題ないって」

 

「…それもそうね。もう一つは?」

 

「その弓の練習。ここってもぐら叩きみたいに地中に潜るモンスターがいるんだ。高いところから射つなら結構経験値取れるんだよ」

 

シノンの背中には俺があげた‟フェザースター”という銘の弓が掛けてある。威力が低い代わりに要求STRが低く初速が速い。更に急所に当てれば補正がつくという中々の逸品だ。まだSTRが低いのでこの装備だがここで経験値を集めて上げておけば更に良い装備を使えるようになる。シノンとは早く一緒に高難度のダンジョンに挑みたいからな。あの一体感が俺には楽しくてしょうがない。

 

「確かに慣らしはしておきたいわね…」

 

「その為の練習だ。ほら、着いたぞ」

 

歩き終えた俺達の目の前には深い谷が覗くフィールドが広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は崖の端まで寄り、丁度良い着地点を探した。

 

「…あそこが良さそうだな。シノン!」

 

シノンが俺の元に寄ってくる。

 

「あそこが見えるか?」

 

俺は落差50メートル位の所にある丁度良い足場を指差す。

 

「あそこに降りれば良いの?」

 

「そうだ。まずは減速だけだから割りと早くできる筈だ。羽出してくれ」

 

シノンは背中から黄色の半透明の羽を出した。俺はその根本に当たる部分に触れた、のだが…

 

「ひゃう!」

 

「え?」

 

まさか…

 

「もしかして…この世界でも敏感?」

 

詩乃は背筋が感じやすく悪戯でよくなぞったりした。その度に怒られたがまさかALOでもそうだったとは…

 

「そ、そうみたいね…」

 

シノン顔真っ赤っすよ…

 

「えーと…羽の使い方を説明するに当たってイメージをしやすくするために触れる必要があるんだが…止めた方がいい?」

 

「へ、平気よ!続けて…」

 

あ、これ意地になってるな。いいぜ、やってやろうじゃねぇか。

 

「あ、そう。了解。じゃあ続けるぞ?」

 

俺はシノンの背筋に遠慮なく触れる。

 

「んぁ!」

 

「今触れてるのが羽の根本だ。ここを中心にして肩甲骨の内側辺りから仮想の骨が生えてると仮定してくれ」

 

俺が説明してる間にもシノンは非常に悩ましげな声をあげる。…俺、説明してるだけだよな?

 

「それを地面に向けて扇ぐように動かすんだ。割りと軽い力で減速は起こるから心配はないぞ。仮に強く動かしたとしても上に飛ぶだけだから問題なし」

 

「あ…く…わ、分かったわ…」

 

何もしていないのにシノンは肩で息をしていた。…やり過ぎたか?

 

「じゃ、じゃあ先に羽を動かしといてくれ。俺は下に降りて準備しとくから」

 

俺はちょっと逃げるように下に降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノンの内心

へ、変な意地張っちゃった…不味いわ、体が火照ってる。仮想の体なのにぃ…いや、仮想の体だからこそかしら?簡単に言えば脳神経にダイレクトに接続してるようなものだし…

…この世界でそ、そういうことしたら私、どうなっちゃうんだろう…確かアスナはいま私たちが使ってるアミュスフィアよりも遥かに高性能なナーブギアでキリトとしたのよね?うう、アスナが先に行き過ぎてて辛い…あれ?そう言えばここからカイの所に降りるってことはカイに飛びつくってことになるんじゃ…

 

 

 

 

 

 

 

 

「最高の思い出です、あと飛び込んじゃえば?」

 

「アスナ?どうかしたか?」

 

「ううん、なんでもないよキリト君。それよりも早くしましょ?」

 

「アスナさーん!こっち買えましたよー!」

 

「リーファちゃんナイス!あ、キリト君これもお願いね?」

 

「ストレージがあるはずなのに荷物持ちにされるとはこれ如何に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっと…シノン!準備できたか―?」

 

「え、ええ…大丈夫よ!」

 

「よっしゃ、なら来い!」

 

それでもシノンは中々降りてこなかった。この練習は俺が飛行の感覚を掴む為に始めたやり方なのだがシノンには向いてないのだろうか?その時たまたまシノンの口元を見た際にスキルの‟聴覚強化”が働いた。

 

『いやいやいや、これは飛行練習だから!決してカイに飛び込むって事じゃないから!そのシチュは大変嬉しいけど違うから!』

 

…練習法、変えるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだシノン?」

 

「う、うん…飛ぶって結構気持ちいいのね」

 

現在俺はシノンの両手を掴んで宙ぶらりんの状態にしている。まずはこうして飛ぶ感覚を覚えてもらおうとしているのだ。

 

「それじゃあ羽を動かしてみようか」

 

「こう?」

 

カサカサと羽が微妙に動く。だが自力で飛行するには足りない。

 

「もっと強くだな。空気を強く叩くイメージで…」

 

「く…こ、う、かしらっ!」

 

シノンが大きく羽を振りかぶったと思った瞬間空気が弾けるような音がして俺は万歳をしていた。

 

「…えーと」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

俺は声のした上方に顔を傾けると遠くに水色の髪の猫が飛んでいるのが見えた。

 

「ッシノン!」

 

俺は強く羽を叩き加速する。だが、

 

「シノンの奴、どんだけ力を込めたんだよ…」

 

システム上の限界ギリギリの速度を叩き出してしまったのだろう、差は中々縮まらない。上空に向かっているので放置していれば限界高度まで到達して自動で落下が始まる。だがそれではシノンには嫌な記憶しか残らないだろう。俺は少しでも早くシノンを捕まえるために右手をシノンに向けて突き出し詠唱をする。

 

「—当たれ!」

 

闇属性の最速拘束魔法をシノンに向けて放つ。俺自身の魔法のレベルはそこまで高いわけではないので当たるかどうかは賭けだったがゲーム内では運のいい俺だ、ドンピシャに当たった。

 

「きゃあ!」

 

シノンは纏わりつく闇に捕らわれ失速する。この魔法は拘束時間がほんの数秒のやつなので俺はその機会を逃さずにシノンの体を抱き留める。シノンは固く目を瞑っていたがやがて自分が浮いていることに気付いたのだろう、ゆっくりと目を開けた。

 

「…え?」

 

「ったく、いきなり強く叩ぎすぎだ。それじゃあ急加速もする…シノン?」

 

俺がちょっと非難めいた事を言っているとシノンは顔を真っ赤にして固まっていた。そこで俺も気付く。…俺とシノンの顔が数センチの所にあることを。人は唐突に気付くと咄嗟に動けないものだ。俺も一瞬硬直してしまいシノンの次の行動に対応が遅れた。

 

「ちょ…ち、近い!」

 

シノンは身を捩って俺から離れた。ついでに言うとここは雲の上だ。飛行の技術の無いシノンが俺から距離を取れば当然落下…

 

「あ、ばか…え?」

 

(あらた)、あのね?こういうことをしてくれるのはすごく嬉しいんだけどまだ日も高いしもっとこう…ね?」

 

—しなかった。落下どころか横にホバリングするという高等テクまでしている。

 

「えーと、シノン?」

 

「な、なに!?」

 

「飛べてんじゃん」

 

「え?」

 

そこでシノンは初めて自分が飛べているという事に気付いた。

 

「…飛んでるわね」

 

「あれかな?無我夢中で飛んでいた内に飛ぶ感覚を掴んでしまったとか…」

 

シノンはそこでふらふらと動いたり宙返りをするなどをしていた。

 

「そうみたい…」

 

「シノンはよく俺をチートとか言うけどシノンも大概だからな?」

 

普通はそこまで動けるのにもっとかかると思うんだが…

 

「嬉しいような虚しいような感想ね…」

 

シノンはさっきまでの真っ赤の顔を曖昧な笑顔にして答えた。

 

「まぁとにかく無事飛ぶことに成功してかつどうやら期待しても良さそうなことが聞けたからオーライとして…」

 

「待って、なんか聞き逃せないことを言われた気がするんだけど」

 

「はいはい次行くよー」

 

「ちょっとぉ!」

 

つい口走った言葉を思い出したのか再び赤面したシノンをからかいつつ俺とシノンは地上に降り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやまあ分かってたけどさ、これはいくらなんでもなくね?」

 

地に足をつけて既に一時間経ったのだが俺とシノンの周りにはドロップアイテムが散乱していた。全部シノンが長距離から弓で狙撃してほぼ一発で倒している。元々川が流れていた設定なのか長い蛇行した一本道で直線の所は長くても80メートル位なのだがそれでも異常な命中精度だ。ちなみにシノンに渡した弓の最大射程は70メートルだ。この時点ですでにおかしい。どうやって残りの10メートルを補っているのだろうか…

 

「この弓、使いやすいわね」

 

「そ、そっすか…」

 

「でもやっぱり射程が短いわね…」

 

「無いとは思うけど頼むからGGOの射程は望んでくれるなよ?ゲームバランス崩壊するから」

 

シノンの命中精度で1キロ先から狙撃されたらあっという間に対モンスターでも対人戦でも終わっちまう…

 

「うーん、残念ね」

 

「ま、そこは割り切ってくれ。射程が欲しいならスキルの補正もあるしリズ…カフェの顔合わせにいた茶髪女子に頼めば作ってくれるはずだから」

 

「里香なら知ってるわ、たまに会うもの」

 

「あ、そなの?こっちじゃリズベットって名前だから。あいつはすごいぞ、マスタースミスだから大抵のものは作ってくれる」

 

「カイも?」

 

「おう、このピックなんかがそうだ」

 

俺は足に巻き付けてあるベルトからピックを抜く。黒い、光を写さない最高級の逸品だ。

 

「へぇ、じゃあその腰の短刀も?」

 

「あ、これは違う」

 

「ふーん、なんかそれだけレア度が桁違いな気がするのよね」

 

う、お目が高い…

 

「よくお分かりで…」

 

「ゲーマーの勘ね」

 

シノンがどや顔をする。うん、かわいい(迫真)

 

「で、どういう武器なの?」

 

「まだ話す気は無かったんだけどな…」

 

だって知ったら確実に取りに行くはずだし…

 

「どのゲームでもそうだけど武器にはレア度があるだろ?シノンが使ってるGGOのヘカートなんかはサーバーに十丁しかない奴だったりするし」

 

「そうね」

 

「で、ALOではさらにサーバーにそれぞれ一つしかない単一の特殊アビリティが付与されてる伝説級武器(レジェンダリーウェポン)てのがある。それぞれが超が付くほどの高難易度のダンジョンに隠されている正に伝説の逸品だ」

 

「…まさか」

 

「そのまさか。俺が持ってるのはその一つ、‟闇器・クラミツハ”ってやつだ。これ取るのに苦労したよ…」

 

俺はつい遠い目をしてしまう。あの視覚が一切を封じられたダンジョン、入るたびに地形が変わる上に敵はこっちの姿を認識してくるという鬼畜設定。俺ですら30回以上挑戦したからな…

 

「そ、そう…ねぇ、それって弓もあるわよね?」

 

あぁ、やっぱりか…

 

「あ、あるぞ。‟光弓・シェキナー”っていうのが」

 

「それ欲しい」

 

「今度な?流石に1,2時間じゃ取れないから…」

 

「そう…」

 

ALO始めてたったの数時間で伝説級武器(レジェンダリーウェポン)を望むのは流石っすね…

 

「それにまだ要求STR満たして無いだろうから装備はまだ無理だぞ?」

 

「ならしばらくこっちに潜るわ。ふふ、楽しみね…」

 

シノンの目が確実に山猫になってるよ…俺は戦々恐々としながらも目を右下に落とした。そこには時刻が表示されている。

 

—そろそろか…

 

「よし、慣らしは済んだよな?」

 

「え?まぁそうね…」

 

「ちょっと付き合ってくれ、案内したい所があるんだ」

 

「?ええ、分かったわ」

 

俺はシノンの手を引っ張って空に上がる。さーて、流石に準備は終わってるよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ALOの内部の一日は短い、ログインしたときは日は天頂にあったが現在は既に日は落ちて満月がのぞいている。俺とシノンは雲の上をゆったりとしたスピードで飛行していた。一面の雲海が幻想的な雰囲気を醸し出している。

 

「ん、良さそうだな」

 

俺はメッセージ欄を覗き今しがた届いたばかりのメッセージを読んでいた。

 

「何か通知?」

 

「そんなとこだ。ほら、あそこ見えるか?」

 

俺はウィンドウを閉じて前方に見えるこのALOの象徴を指差した。

 

「世界樹だ。あそこの上にはイグドラシル・シティっていう街があってな、ちょっとそこに用事があるんだ」

 

「大きいわね…」

 

「他の全てのゲームでも群を抜いてるだろうよ、ほれ、いくぞ!」

 

「あ、ちょっとぉ!」

 

途中でレースになってしまったが俺とシノンは無事目的地に着いた。そこはイグドラシル・シティの一画にある一軒の住宅だった。

 

「ここ?」

 

「そ、開けてみ」

 

シノンは訝しげにするがドアノブに手を掛けてゆっくりと開けた。

 

パン!パパン!

 

「え!?何!?」

 

「「「「「「「ALOへようこそ!!」」」」」」」

 

扉を開けた先にいたのは俺のフレンド達…キリト、アスナ、リズベット、シリカ、リーファ、エギル、クラインがクラッカーを手に待ち構えていた。

 

「あ…もしかして、明日奈?」

 

シノンは青の長髪をしている女性プレイヤーを指差した。

 

「うん、そうだよしののん」

 

「私もいるわよ~」

 

「えーと、里香よね?」

 

「そうよ、こっちじゃリズベットだけどね」

 

「えっと、カイ、これって…」

 

「今日、ソフトを買いに行った時にキリトの奴に連絡しといたんだよ。『シノンがALOを始めるぞ』って」

 

「それで俺がアスナ達に連絡したんだ」

 

「私達がいくら誘っても頷かないんだもん、やきもきしたよー」

 

「ほんとよねー、まっ!カイが誘ったら一発だったみたいだけど」

 

リズがニヤニヤしながらシノンに言う。

 

「あぅ…」

 

「あーもー!かわいいなぁ!」

 

「おいおいリズ、あんまからかってくれんなよ?」

 

「ほーう、いっちょまえに彼氏面?」

 

「いや、彼氏だし」

 

「カ~イ~!」

 

そこで地獄からの亡者のような声を発する男がいた。

 

「お前は…お前だけは味方だと思っていたのにチクショー!」

 

「悪いなクライン、お・さ・き・に!」

 

「ドチクショー!!」

 

クラインは腕で目を隠した。分かりやすいな。

 

「今夜も開店してるから後で来な、一杯は付き合ってやるさ」

 

「エギルゥ…心の友よ!」

 

「だが既婚者だ」

 

「一番の勝ち組じゃねぇか!」

 

クラインの嘆きに場が笑いに包まれる。

 

「あ、自己紹介が遅れましたね。初めまして、シノンさん。シリカです。同じ猫妖精(ケットシー)どうし、何かあったらなんでも聞いてください!」

 

「ええ、よろしくね」

 

「あ!私も!初めましてシノンさん!私はリーファって言います!お兄ちゃん…キリト君の妹です!本当は従妹なんですけどね」

 

「よろしく、リーファ」

 

「っと、俺もしなきゃな。初めまして!俺の名前はクライン独身にじゅ「火妖精(サラマンダー)のモテない男だ」俺の扱い酷くねぇか!?」

 

「ほら、シノンも自己紹介」

 

「あれスルー!?」

 

「そうね」

 

「え?会ってそうそうこの扱い?」

 

流石シノン、分かってる。

 

「私はシノン、種族は見ての通り猫妖精(ケットシー)よ。武器は弓を使うわ、もし一緒にクエストを受けることがあったら後衛は任して」

 

皆がよろしくと言っている中、若干1名が肩を落としているが気にしない。

 

「それじゃあ改めて、シノン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「welcome to ALO!!(ALOへようこそ!!)」」」」」」」」




これにて導入は終了です、次回をお楽しみに!

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