永遠のスフィア   作:四分の三は農民の血筋

1 / 2
偽りの親善

 その日、尸魂界(ソウル・ソサエティ)の中央庭園は、死神たちが集結していた。この中央庭園は、瀞霊廷内にある迎賓館を取り囲む美しい庭園で、約7000坪もの広大な敷地面積を誇っていた。木々が青々と茂り、石、砂、築山、池、そして流水など、自然の景観が広がっている光景は、誰もが生前の故郷、日本を思い浮かべるような風景だった。この日の訪れには、まるで庭園自体が歓迎の華を添えているように感じられた。

 

庭園の中央には、平屋の建物が佇んでおり、その正面には装飾が施された礼服を身にまとった護廷十三隊の隊士たちが整列していた。彼らが戦闘服以外の服装で整然と並ぶ光景は、普段とは異なる趣があり、観る者たちに異様な興奮をもたらしていた。彼らはお互いの服装を興味津々に見比べ、時折ひそひそと話し込んでいた。その中でも、十三番隊の列で虎徹と小椿の二人が、何やら密談しているのが聞こえてきた。

 

小椿「俺たちをこんなところで置いてって、隊長と副隊長はみ〜んな、中に入っていっちまった。いつまでも何やってんだか」

虎徹「お前な〜、何度も説明があっただろ。話聞いてなかったのか?私達は式典の参列者として、ここで見届けなきゃならないんだよ」

小椿「聞いてたわい!俺だってそんなこと分かってるけどよ、長すぎじゃね?ってことが言いたいんだよ。あと、外からだと中で何やってるか分かんねぇし、見届けるもなにもねぇだろがっ」

虎徹「私達が迎賓館に入れるわきゃねぇだろ、あほか!」

 

二人の会話を盗み聞きしていたルキアが顔をひょっこりのぞかせた。

 

ルキア「貴族と副隊長格以上でしたよね、入れるのは」

小椿「お、新入り」

ルキア「どうも」

虎徹「そうだよ、格式高い場所だからね。我らが浮竹隊長も中にいる」

ルキア「はい。それで、あの……。少し気になることがあって」

虎徹「ほう、何が気になるの?」

ルキア「実は、今朝、報告があって隊長と面会したのですが、なんだか気分が優れないご様子だったんです。体調を崩されていたのかもしれません。今日の式典、欠席されても良かったんじゃないでしょうか……」

 

虎徹は、う〜んと考える素振りをしてから、ぱっと笑顔になる。

虎徹「大丈夫!それが通常運転みたいな方だから!」

ルキア「そう……なんですか?」

 

小椿が「適当なこと言いやがって」とぼそりとつぶやくと、虎徹が口に指を当てる。入隊したばかりの隊士を、あまり不安にさせたくない虎徹なりの優しさだった。ルキアは、空気を察して、それ以上は聞かないことにしたが、釈然としなかった。

 

虎徹「まあ、そんな顔しなさんな。今日は、世界の異なるお偉いさん同士で、これからもよろしくね〜って言い合うだけの式典だから。それに志波副隊長も側についているんだから、隊長に負担がかかるようなことさせないでしょ」

小椿「まぁ、そうだよな。副隊長がいるもんな」

虎徹「ってなわけよ」

ルキア「はぁ……」

 

入隊初日に、気さくに話しかけてくる副隊長を思い浮かべて、周囲から慕われる人ってこういうタイプの人間なんだろうなと、ぼんやりと考えた。新入りの自分に何かできるわけでもないのだから、と自分を納得させる。

 

虎徹「それよりも、今は式典に集中しないと。他人の心配は己の本分を全うしてから言いたまえ」

小椿「そうだぞ〜ルキア。俺たちはただ行儀良くお祝いしに来てるわけじゃねぇんだからな」

虎徹「この庭園内は霊圧が抑えられていて、斬魄刀がまともに機能しないから、警戒を強めないと」

小椿「前から思ってたけど、庭園内って奇襲かけられたら一番やばいところだよな。しかも全員、この中にいたら、襲ってくださいって言ってるようなもんじゃん」

虎徹「結界が張られているから外からは強いよ」

 

ルキアが十数メートル離れた場所で同様に参列している者たちに、こっそり視線をやる。彼等が今回の式典で友好を誓う相手だ。皆、黒装束に白の額当てをしている。額当ては死神の装束との区別をつけるためだろう。ルキアは霊術院の座学で学んだ知識を思い出す。彼等の正体は、虚(ホロウ)と共生する道を選んだ、かつての同胞の子孫だ。思想の違いによる差別や紛争を避けるため、移り住んだ場所が尸魂球(ソウル・スフィア)。尸魂界(ソウル・ソサエティ)と似て非なるものという意味がある。そんな異質な存在をルキアは素直に受け入れられずにいた。

 

ルキア「彼等が裏切った場合、厄介です」

虎徹「内側から奇襲かけられたら怖いよね。ま、でも、それは相手も同じっしょ」

小椿「だよな〜」

 

事前に実施された訓練では、内側からの奇襲を想定していた。まるで相手が裏切ることを警戒しているかのように、ルキアには感じられた。ルキアの表情が晴れないのを見て、虎徹は困った顔をしてみせた。小椿が何か言いかけたのを制止して、「ここは私に任せない」と胸を張る。

 

虎徹「ルキア、何考えてるか当ててみよっか。ずばり、彼らを信用できない、と思っているね」

ルキア「はい……そんなに分かりやすいですか?」

虎徹「表情に出てる」

ルキア「えっ」

虎徹「あんまり言いたくないけど、実は私も。私たち死神とは虚(ホロウ)に対する考え方が違いすぎる。正直、理解できないよ」

小椿「あいつらは、死神とは呼ばないんだよな。たしか、虚(ホロウ)を使役するって意味で、召喚士だっけ」

 

召喚士は、戦いの場において、使役に成功した虚(ホロウ)を召喚して力を借りる。虚(ホロウ)と対話して意のままに操ることができる。一見、素晴らしい力に聞こえるが、指摘されていることがある。死神の本来の役割とは、迷いし霊・整(プラス)を、尸魂界(ソウル・ソサエティ)に送ったり、悪霊・虚(ホロウ)を滅却して地獄に送ったりして、尸魂界(ソウル・ソサエティ)と現世にある魂魄の量を均等に保つことだ。虚(ホロウ)を滅却しない場合、現世と尸魂界(ソウル・ソサエティ)と尸魂球(ソウル・スフィア)のバランスが均衡しなくなる。過去に、管理下にあった複数の虚(ホロウ)が突如暴走し、尸魂界(ソウル・ソサエティ)は援軍を出動させる事態となった。その原因は均衡が崩れたことだと言われている。この出来事を踏まえると、ルキアはどちらかと言えば否定的な意見を持っていた。

 

ルキア「世界の均衡を崩す召喚士のあり方は間違ってます」

 

虎徹は、ふと、遠くを見つめる。

 

虎徹「こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど、私は、世界の均衡とか、難しいことは上に任せればいいやって考えなの。戦いが始まれば関係ないから。敵からどう生き延びようかとか、仲間を殺した虚(ホロウ)を絶対に地獄に落としてやるって思いながら戦ってる。目の前のことで必死で、世界のことまで考えられないんだ」

 

霊術院の実習で数える程度しか虚(ホロウ)と対峙してこなかったルキアには、その気持ちを理解できるとは、とても言えなかった。「ルキアの言いたいことも勿論分かるよ!」と言われ、ルキアは俯く。

 

虎徹「私が理解できないな〜って思ったのは、虚(ホロウ)に対する憎しみの強さなんだ。私なら、殺したいほど許せない相手と、対話なんてできない。だから、それができちゃう彼らって何考えてんだろうなって。そこが信用できないポイントかな」

 

虎徹は、理解できないと言いつつ、相手を理解しようと努力している。それがルキアにも伝わった。

 

ルキア「この式典で、少しでも歩み寄れると良いですね」

 

虎徹は満面の笑みを浮かべた。

 

ルキア「そういえば、親睦会みたいなものはないんですか?」

 

虎徹は「それだ!」とルキアを指差す。

 

虎徹「偉い人たちはよく言うよ、友好な関係を築いているって。けどさ、私たちみたいな一般隊士からすると、どこが?って聞きたくなるの。私は尸魂球(ソウル・スフィア)のことを何一つ知らない。何を考えているのかも。でもそれって、単純に彼らと話したことがないからだよね。尸魂球(ソウル・スフィア)ってどんな場所なのか、普段どういう生活しているのか、仲間や家族とは何を話すのか、聞いてみたらいいんだよ。そしたら、少しは相手のこと、理解できると思うんだ。だから、式典が終わったらさ、他の隊にも声掛けて、親睦会を開こうよ」

小椿「おいおい、そこまでする必要ねぇよ、お人好しが」

 

虎徹はニカッと笑う。

 

虎徹「褒め言葉として受け取っておく。お前も手伝えよ」

小椿「へいへい」

 

「じゃ、それまでは気を引き締めてこ」と口調を強め、私語に終わりを告げた。

 

 

 

 その頃、迎賓館の中では、両代表が登壇して挨拶を述べている真っ最中だった。浮竹は登壇している源柳斎を見ながら、別のことを考えていた。それは尸魂球(ソウル・スフィア)が奇襲をかけてくる可能性が高いという話の出処である。

 

浮竹(なにか引っかるんだが、結局はっきりしないまま、この日を迎えてしまった)

 

相手の行動を事前に掴めることは、こちらの理になるから、悪いことではないが、それは情報が正しいときに限る。偽の情報を掴まされて、相手の思惑通りに踊らされていた、なんてことが起こりうるから、情報の真偽を見極めることは重要だ。だから浮竹は報告の挙がった二番隊の砕蜂隊長に、調査を依頼した。しかし、不思議なことに、どの機動隊員に事情聴取をしても、他の班から聞いたと言われるのだ。仕方なく、次の候補から事情聴取するのを繰り返していくと、最初の隊員に戻ってきた。浮竹と砕蜂は、これ以上の調査を断念せざる負えなかった。そして、一つの仮説が浮上してきた。それは尸魂球(ソウル・スフィア)と通じている人物がいるということ。特定されないように、情報を撹乱させているのではないか。であれば、必ず真相を突き止めなくてはならない。まだ可能性の段階ではあるが、それを想定した動きをすべきだろう。隠密機動には、新たに内通者の捜索が命じられた。これを共有しているのは、浮竹と砕蜂、源柳斎だけ。隊長といえども、確実な白でない限り、疑いの目を向ける他ない。

 

浮竹(この仮説は外れていてほしいんだが……)

 

内通者が居たと仮定して、もう1つの疑問が残る。尸魂界(ソウル・ソサエティ)にわざわざ奇襲の計画を伝える目的である。普通に考えて、奇襲の対策をされたら困るはずだ。なのに、伝えてきたということは……

 

浮竹(対策されることを望んでいるということ?)

 

浮竹はしばらく考えを巡らせていたが、これ以上は突き詰められないと、肩の力を抜く。

 

浮竹(まぁ、やれることはやったさ)

 

ちょうど、尸魂界(ソウル・ソサエティ)側の表明が終わったところだった。一番隊隊長の源柳斎が壇上を降りた先で控えているのは、尸魂球(ソウル・スフィア)側の代表。二人がすれ違う際に一瞬の緊張が走る。浮竹は、ただ祈るしかなかった。この式典が何事もなく終えることを。

 

紹介された人物は、召喚士部隊総指揮官で、黒川響という名だった。しっかりとした足取りで登壇した黒川は、折り目正しくお辞儀をする。オールバックで固められた髪をよく見れば、所々に白髪が混じっているので、源柳斎ほどではないが、年齢を重ねていることが分かる。護廷十三隊の隊長と副隊長を見渡してから、彼は口を開いた。

 

黒川「心より感謝を込めて、我々は尸魂界(ソウル・ソサエティ)と友好関係の築かれた歴史に敬意を表します。今日、我々は再び共に集い、未来に向けた新たな一歩を踏み出す場にいます。我々には、より深い友好関係、真の信頼、そして共に歩む誠実な連帯が必要です」

 

黒川は、表情を曇らせる。

 

黒川「長らく、友好と誠実な関係を築くことを望み、そのために努力してまいりました。しかし、我々の期待に反し、信頼は裏切られ、言葉は虚しいものとなりました」

 

浮竹は急に空気が変わったことを瞬時に察する。霊圧を抑えられた迎賓館内でもはっきりと感じる。他の隊長も気づいたようで、席を立ち上がる。その瞬間、部屋の両側に待機していた尸魂球(ソウル・スフィア)の隊士と尸魂界(ソウル・ソサエティ)の副隊長らが、ほぼ同時に武器を突き合わせた。黒川は焦る素振りも見せない。

 

浮竹(頼む……!言わないでくれ……!)

 

願いも虚しく、黒川の表明は続く。

 

黒川「人は時に、目を覚まさせる必要があります。名ばかりの友好関係が我々の理想とは程遠く、お互いに真実の意図を見つめる時が来たのです」

 

奇襲に巻き込まれる十三番隊の隊士の顔を浮竹は思い浮かべていた。特に入隊したてのルキアは気がかりだった。

 

浮竹(虎徹、小椿、ルキアと他の隊士を頼んだぞ)

 

浮竹含む護廷十三隊は、大義名分が与えられる瞬間を逃すまいと刀の柄に手を添えた。

 

浮竹(奇襲の情報が正しかったということは……)

 

内通者が明確ではないこと、相手の目的が見えないことなど、不確定な要素が多い中で、最悪の事態を想定して戦わなくてはならない。それはつまり、護廷十三隊の動きを制限されるということ。

 

浮竹は歯ぎしりをして、黒川を睨みつける。しかし、彼は全く臆しない。

 

黒川「私は今、お伝えしたいことがあります。これからの関係に、もはや友好の余地はありません。誇り高き未来のために戦う覚悟を、ここに示します」

 

戦いの火蓋が切って落とされた瞬間、浮竹は、この後の斬り合いを想定して、まさに抜刀による足の踏み込みに移行していた。だから、足場が唐突に崩れたことに気づいても、初速を殺すことができなかった。倒れ込んだ先で、何が起こったのか理解する間も与えられず、崩れ落ちる天井によって、視界を奪われた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定