永遠のスフィア   作:四分の三は農民の血筋

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存在すること

 美しい迎賓館は見る影もなく、崩れた天井から刺すような光が降り注いでいる。床には山積みになった建物の残骸。一時的に身を隠すには最適な場所だった。戦闘に巻き込まれる直前、隙をみて退避してきた十三番隊副隊長の志波海燕は、脇腹の出血を止めるために、布の切れ端を素早く巻き付けた。襲撃直後、建物ごと爆破するという想定外の攻撃に対応しきれなかった浮竹を庇ったのは彼だ。

 

浮竹「すまない。私の不注意で……」

 

志波「これくらいなんともないっす」

 

斬魄刀を拾い上げ、周囲を警戒する。微塵の同様も見せず、迷いなく行動する姿が、浮竹の目に頼もしく映る。

 

志波「俺が斥候を務めるんで、隊長はこの状況から抜け出すことを考えてください」

 

浮竹「あの場にいた者たちは、まだ近くにいるはずだ。連携を取って態勢を整えるんだ」

 

幸いにも、近くに味方の気配を感じる。

 

浮竹「この霊圧は日番谷隊長だ」

 

刀を弾く音が鳴り響き、激しい戦闘が繰り広げられているのが分かった。一瞬、霊圧が高まり、周囲に冷気が漂う。斬魄刀の始解を使ったのだ。この庭園内では霊圧が抑えられ、卍解を使用できないどころか、始解ですら難しい。彼が無理にでも始解を発動させたということは、戦況が芳しくないのかもしれない。

 

浮竹「急いで彼の後方支援に回るんだ」

志波「はい」

 

しかし、志波が物陰から身を乗り出したとき、鋭利な斬撃が背後を通り過ぎた。振り返ると、地面を抉るほどの威力で残骸が縦に切り裂かれていた。もし動いていなければ確実に身を真っ二つにしていただろう。志波と浮竹は、互いに息を飲む。

 

浮竹「日番谷隊長の霊圧が……消えた」

 

攻撃がたまたま届いたとは考えにくい。明らかに殺意が向けられている。

 

志波「くそっ!初めから気づいていたのかよ!」

 

隠れていたら一方的に攻撃を受けてしまう。志波は斬魄刀を振り上げながら敵前に飛び出した。上半身を捻ったことにより刀に威力が加わり、斬撃は雷鳴のように尾を引いて数メートル先まで伸びていく。

 

バチッ!

 

斬撃が消滅した位置に、志波と同じくらいの背丈の男が佇んでいる。顔の大半がマスクで覆われ、三白眼だけが覗いている。志波を射殺すように睨みつけながら待ち構えていた。白の額当てと黒装束は尸魂球(ソウル・スフィア)の一般隊士と同様だが、白の陣羽織を着ている点で、格上であることが分かる。そして、目を引く派手な入れ墨が、好戦的で反抗的な雰囲気を醸し出していた。

 

入れ墨の男「おかしいなぁ。お前らも消すつもりだったのに。あのガキのついでに」

 

手前に横たわる日番谷はうずくまって動かない。

 

浮竹(いや、かろうじて息がある。まだ助けられる。しかし、こちらの意図がバレたら人質にされる恐れがある。どうすれば……)

 

戸惑いの表情を浮かべる浮竹に代わって、志波が堂々と進み出る。

 

志波「トドメを刺さないなんて、随分と生ぬるいな。日番谷隊長はまだ生きている。命取りになるぞ。いいのか?」

 

浮竹(……!?敵を挑発して、日番谷隊長を狙うように仕向けている?海燕のことだから、何か考えがあってのことだろうが、それは危険過ぎる)

 

日番谷にトドメを刺そうとすれば、必ず次の動きが遅れる。敵の注意が日番谷に向いた瞬間を見逃さず攻撃すれば、隙を作れるかもしれない。しかし、敵の動きよりも早く、攻撃が届かなければ、日番谷は死んでしまう。

 

浮竹(この危険な賭けに勝つために、俺は何をすればいい?考えろ!)

 

入れ墨の男「あ?こんな死ぬ寸前の奴が、俺の脅威になると思うか?」

志波「よほど腕に自信があるんだな。だったら、なぜ一撃で殺せなかった?結局、俺たちにも当てられなかっただろ!口では強がっているが、所詮お前の実力は、その程度なんだろ!?」

入れ墨の男「んだと!?」

 

志波の挑発に、敵は明らかに苛立っている。が、視線を志波から外すことはしなかった。

 

入れ墨の男「はっ!分かるぜ。そうやって、隙を作らせたいんだろ」

 

敵は、志波に攻撃の隙を与えないように、すり足で、日番谷の傍らに移動し始めた。それが何を意味しているのか、分からない者はいなかった。

 

志波(かかった!)

 

志波は刀を鞘に収めた。抜刀術――鞘から抜き放つ動作で、刀を振り上げる予備動作を短縮することができる。その上、初速を倍以上にすることができる。

 

浮竹「できるんだろうな……?」

志波「やるしかないっすよ」

 

敵が日番谷を確実に殺すなら、狙う場所は頭部か心臓。日番谷は左を下にして倒れているので、心臓よりも頭部の方が狙いやすい。攻撃が敵に届くまでの時間、軽症で済むギリギリのラインは――

 

浮竹(たったのそれだけか……!)

 

入れ墨の男「お望み通りにしてやらぁ!来い!」

 

敵の意識が日番谷に向いた――と同時に、志波が一息で敵の間合いに入る。既に敵の刀は振り下ろす動作に転じており、残された時間はごく僅か。ここで、一歩踏み込めば、バランスを維持しつつ、加速することができる――が、たった一歩でも、時間のロスが大きい!ならば、足を切る覚悟で、踏み込みと同時に抜刀すればいい!豊富な実戦経験の中で培われてきた反射神経が、志波を突き動かす。

 

志波「おらぁぁあああああ!!!」

 

ガキンッ!!!

 

血飛沫が敵の肩に飛び散る。

 

当たった――ように見えた。しかし、志波に伝わってきたのは、人を切った感触ではない。

 

志波(俺の攻撃なんざ、端から避けるつもりなかったのかよ!)

 

刀のめり込んだ部分から、霊力を帯びた鎖帷子が顕になった。刃は届いていない。

 

志波(……っ!!)

 

足から血が滴る。血飛沫は志波が自傷したときのものだった。

 

志波(まずい!このままだと日番谷隊長が!!)

 

敵はバランスを崩しながらも、刀を下ろし切った。もう間に合わない――

 

ガッ!

 

入れ墨の男「は……?」

 

志波の視線は予期せぬ出来事に引き込まれた。敵の刀が予想外の軌道を描き、地面に突き刺さっていたのだ。

 

入れ墨の男「お前か!」

 

志波が振り返ると、浮竹が鞘だけを手に持って立っていた。

 

志波(斬魄刀は!?)

 

不安に満ちた視線の先、浮竹のいる方向とは逆、敵の後方を見た。すると、そこにはもう一本の刀が地面に突き刺さっているのが見えた。浮竹の斬魄刀だ。

 

志波(俺が切り込むと同時に、刀を放っていた!)

 

刀を投げれば、確かに一瞬で敵に届く。浮竹の斬魄刀が敵の刀に当たったから、軌道がずれていたのだ。しかし、簡単なことではない。もし味方がいなければ、唯一の得物を手放すことになるので、捨て身の攻撃になる上、敵の注意が外れていないと、攻撃をかわされてしまう可能性がある。志波の攻撃が、敵の注意を必ず引き付けてくれると、浮竹が信じていないと不可能だった。

 

入れ墨の男「俺を出し抜いたつもりか!?」

 

また次の攻撃がくる。二人が身構えた時――

 

パキパキ……

 

敵の足元に氷が張り付いていく。

 

入れ墨の男「くそっ!!」

 

この場で氷結系の能力を持つのは日番谷しかいない。彼は未だに横たわっているが、無意識に防衛本能が働いているのかもしれない。とにかく、これは絶好のチャンスだ。志波は、渾身の力を込めて、最も攻撃力の高い「突き技」を急所に向けて放った。

 

入れ墨の男「ぐっ……!!」

 

わずかに心臓をかわされたが、刀は貫通した。これを抜けば、敵は出血多量で瀕死に至る。

 

入れ墨の男「これで終わりと思うなよ……!!」

 

敵は、躊躇なく志波の刀身を鷲掴みにして、抜けないように固定した。

 

志波「な……!」

 

力づくで氷を引き剥がすと、怯んだ志波を蹴飛ばす。

 

志波「くそっ!」

 

この期に及んでも、敵の闘志は消えることを知らない。

 

入れ墨の男「俺には、まだ、やるべきことが、あるんだ……。それまで、死ねるかよ……!」

 

まだ決着はついていない。今、使える得物は、浮竹の斬魄刀だけ。志波は急いで取りに走る。

 

ゴオオオン!!!という轟音とともに、大地は突如として割れ目を生み出した。

 

入れ墨の男は、「象(セイン)のお目覚めだ!」と叫びながら、顔には神に救いの手を差し伸べられたかのような表情が広がっていた。

 

浮竹「セイン……?なんだそれは」

 

男は走ろうとしていた足を止め、浮竹に向き直った。

 

入れ墨の男「俺がここに存在する理由。生きる理由だ」

 

今度こそ走り去った直後、咆哮とともに地面は裂け、深い割れ目が大地を縦断するように広がっていった。まるで地獄の口が開かれたかのようだった。大地は激しく揺れ動き、土砂が崩れ落ち、周囲に恐怖の気配が漂った。浮竹は慌てて叫んだ。

 

浮竹「退避だ!急げ海燕!」

 

二人は平らな場所に移動した。浮竹の斬魄刀と日番谷を回収するのがやっとだった。建物があった場所は、すでに崩落しており、浮竹の指示がなければ、志波は巻き込まれていたことだろう。やがて、大きな影が二人を覆っていく。

 

浮竹「なんだ……あれは……!」

 

深淵から浮かび上がってきたのは、山とも見紛うほどの巨大な龍のような体躯。不気味な鳥の頭蓋を模した仮面が恐ろしい表情を描いている。大きな口からは尖った歯が覗き、複数の目は辺りを冷酷に見つめている。光を吸収するかのような黒い鱗が体を覆い、長いたてがみはじっとりと濡れていて、まるで生き物の触覚のようにしなやかに動いている。

 

割れ目から現れた化け物は、まるで地獄から放たれたような存在だった。自然界の怒りと闇が具現化されたようで、浮竹と志波は無言で、ただその姿に圧倒されていた。彼らだけでなく、庭園の結界内で戦闘を繰り広げていた護廷十三隊の隊士たちも同じ運命を辿っていた。戦闘の舞台は瞬く間に静まり返り、隊士たちの視線は一つの存在に引き寄せられ、その存在は彼らの戦意に影を投げかけていた。周囲の空気が緊張と恐怖に満ちていく中、入れ墨の男は化け物の頭蓋の上に躍り出て、傲然とした笑みを浮かべた。まるで戦いの舞台裏で操る者としての快楽を味わっているかのようだった。

 

入れ墨の男「やっと会えたなぁ。随分と時間が掛かったじゃねぇか。皆、お前を助けに来たんだぞ。下の連中はどうなった?」

 

まるで化け物の声が聞こえるかのように話している。

 

入れ墨の男「くそっ!!その男に殺られたんだな!そいつは一番隊隊長、元柳斎の爺々(じじぃ)だ!」

 

拳を固く握りしめ怒りを顕にする。

 

入れ墨の男「皆、地獄で見ていてくれ。俺がお前らの分も成し遂げてやる」

 

男の目に深い憎しみの色が宿る。それは仇敵に対する憎悪が滲み出ているかのようだ。

 

入れ墨の男「俺たちから奪った象(セイン)。全て返してもらうぞ!!!」

 

彼が言葉を囁き、手を振るうと、化け物は従順に応じた。鋭い爪は空気を引き裂き、地面をえぐり、容赦なく周囲のものを粉砕し、破壊していった。

 

瀞霊廷内に化け物がいるなんて、護廷十三隊の誰もが思いもしなかったはずだ。対照的に、式典に参列していた召喚士部隊は始めから計画を知っていたかのように、驚くことはなかった。彼らは冷静にその状況を受け入れ、まるでこの瞬間を待ち望んでいたかのように、一斉に反撃に転じた。化け物からの攻撃と召喚士たちからの反撃が交錯し、次々と仲間が葬られていく光景に、浮竹は思わず目を背けたくなった。

 

浮竹(あれが、召喚士の手によって操られた虚(ホロウ)、あの男が象(セイン)と呼ぶもの。なぜこんな場所に……なぜ瀞霊廷にいるんだ……!!)

 

護廷十三隊の隊長として、瀞霊廷を守る使命を負っていながら、このような異変について何も知らされていなかったことに対する強い不満と焦りが浮竹の心を占めていた。




千年血戦篇、最高でした!第3クールも楽しみです!
見終わったテンションと勢いで書き始めましたが、説明下手な部分が多くて、お恥ずかしい限りです。
また暇になったら続けます!
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