「では坊ちゃん!!行ってらっしゃいやせ!!!」
「………おう、ありがとな」
ああ…周囲の好奇の目が痛い…
急がないと遅刻しそうだったとはいえ、15m級のリムジンで登校する高校生なんて普通じゃない。
クソ、なんでオレだけこんなことに…後で明喜に文句言ってやろう(八つ当たり)。
そんなことを考えていると教室に着いたわけだが…なんか、やけに騒がしくないか?
「はあ!?噂の美人転校生にもう会っただと!?」
「アキくん、転校生の子ってやっぱり女の子!?凄い美人って話だけど!!」
「狡いぞ一条!!」
「きゃー!転校生を案内なんて漫画みたい!」
教室の真ん中で質問攻めにあっているのは、我が弟であった。
明喜は入って来たオレを見て、困ったような笑顔を浮かべる…リムジンの恨みだ、助けてやらねー。
しかし、昔からアイツは誰とでもすぐ仲良くなるし、友達も多いよな。
オレも人並みの交友関係はあるが、同じ境遇なのにこの差は一体…。
「大変そうだね、明喜くん」
「お、小野寺…この騒ぎは?」
囲まれている弟を見ていて気づかなかった。
朝から小野寺に話しかけられるなんて…明喜には後で飲みもんでも奢ってやろう。
ちなみに小野寺は弟を下の名前で呼ぶが、オレのことは『一条くん』呼びである。なぜ…
弟よ、やはり奢りは無しだ。
「おーす、楽」
「集、なんだよこの騒ぎは」
「何ってそりゃお前、転校生だよ転校生!それも噂によると美人…!」
「弟くんとその子が今朝一緒に歩いてたらしいのよ。で、この有様」
「…アイツも苦労してんな」
集と宮本が説明してくれて状況を把握した。
転校生なんて初耳だが、お人好しの明喜はもう仲良くなったのか。
「なんだよ楽、羨ましくねーの?」
「オレは別に」
オレには小野寺という心に決めた人がいるからな。
そう思って小野寺の方を見ると、彼女の視線とぶつかる。慌てて目を逸らす小野寺…あれ、オレ避けられてる?
「お前ら席に座れー、今日は転校生を紹介するぞ」
キョーコ先生の言葉で席に戻る生徒たち。
入って、という先生の声に続いて教室のドアが開く。
「初めまして!アメリカから転校してきた桐崎千棘です。
母が日本人で父がアメリカ人のハーフですが…
日本語はこの通りバッチリなので、みなさん気さくに話しかけて下さいね!」
ニコッと笑う転校生に沸く教室。かわいい、美人だ、スタイルがいい、etc…
「じゃーひとまずテキトーに後ろの空いてる席に座ってくれ」
「はい…あ、一条くん!」
ひらひらと手を振る桐崎に、笑顔で手を振りかえす明喜。
「…?」
クラスメイト達が2人の関係に再び沸き立つ中、オレは、明喜の笑顔にどこか違和感を持っていた。
「まさか、休み時間に加えて放課後まで質問攻めに合うなんて…」
恋愛に興味があるのはいいけれど、友人になったばかりで話しかけづらくなったら、どうしてくれるのか。
みんなに悪気は無いのだろうが、お互い好意を持っている訳でないのだから放っといて欲しいものである。
「ん、電話…もしもし父さん?」
『明喜。すまねぇがお前、明日から10日程学校休めるか』
「いいよ。でもどうして?」
『ビーハイブとの話し合いだ。腕っぷしだけじゃなく、こーいったことも学んで貰う必要があると思ってな。学校の方には伝えてある』
話し合い…ということは、平和的解決の為の交渉といった所だろうか。
寧ろ願ったり叶ったりの申し出である。
「分かったよ」
「こいつがアーデルト、ビーハイブのボスだ」
「お初にお目にかかります、一条明喜です」
「よろしく、明喜くん」
「…命令を、ボス。2匹まとめて消す絶好のチャンスです」
「クロード、君の役目は護衛だよ。今日はそういうのじゃない」
「しかし…」
数日後、僕はビーハイブのトップ2人と顔を合わせていた。
一見、優しげな雰囲気のアーデルトさん。
そして、クロードと呼ばれた敵意丸出しの男。
この男…見たたけで分かる、かなり強い。
話し合いは父とアーデルトさんの間で行われ、僕は同伴しているだけ…というより、口出しすることができなかった。
血生臭い単語が何度も飛び合い、中にも駆け引きや脅しも存在した。
「ここからの話は2人きりで話したい。悪いけどクロード、明喜くん。席を外してもらえるかい?」
「そうだな、明喜。ちょっと出てけ」
言われた通り僕は下がることにする。
クロードは渋々といった様子だが、言う通りにしたようだ。
「おい、貴様…一条明喜といったか。かなり出来るようだな」
「…いえ、貴方にそう言われるほどでは」
「審美眼も悪く無いようだな」
そういって興味深そうにこちらを見るクロードには悪いのだけれど、2人に会ってから何故か気分が悪い。
あまりこっちを見ないでほしい…
「彼、気分が悪そうだったね。嫌われちゃったかな」
「アイツには事情があってな。それに元々、血生臭ぇ世界には無縁の性格だ…まぁ、あそこまでのはお前ら相手にだけだろうが」
「それはどういう…?」
「んなことどうでもいいだろ。それよりも、一つ提案があるんだが」
「一条くん、元気無いね…」
「心ここに在らずって感じね」
「アキが休みの時は、決まってこうだよ楽は」
集や小野寺が何か話してるようだが、まるで頭に入ってこない。
明喜が学校を休んで1週間以上が経つ。
親父を問いただそうとしても、親父も最近は全然会わねえ。
ただでさえギャングと揉めてるって話だ、何かあったのかもしれない。
「お、帰ったか楽」
「お、親父!明喜は…」
「ああ、仕事だ。夜には帰るぞ」
「…なぁ親父、高校の間だけでも明喜を普通に生活させてやってくれよ。アイツの事情は知ってるけどさ」
そう言うと親父は一瞬目を丸くして、少し間をおいてクツクツと笑い出した。
「すまんすまん、あまりにもタイミングが良かったもんでよ」
「は?」
「ただいま、楽」
「明喜、無事だったんだな!」
帰宅を出迎えてくれたのは、楽だった。
心底安心した様子の楽に、少し申し訳なく思う。
「例のギャングの件だったんだろ、親父に聞いた」
「どんどん争いが過激してて、ウチの組員を止めるにも、いよいよ手が足りないよ。今すぐにでも手を打たないと…」
「それなんだけど、親父がさっき『抗争は終わった』って言ってたぞ」
聞いてないんだけど…一体どんな手を使ったのだろう
「それよりさ、お前の彼女が来てるぞ。早く迎えに行ってやれ」
「…え?」
今、僕の彼女って言ったのか?
僕が彼女なんて作れる立場にないことは、楽も知っていると思うんだけれど…
「だ、ダーリン〜!!会いたくて来ちゃった!!」
「き、桐崎さん!?」
「一条明喜。貴様、お嬢を裏切ったら承知せんぞ」
「だから言っただろ、コイツらは…」
「「オレら(僕ら)が認めた、ラブラブの恋人同士なんだからね」」
これは…幾らなんでも力技が過ぎると思う。
後書きはるりちゃんが食べちゃった