千棘はかわいい
「〜♪」
「おや千棘、いいことでもあったのかい」
「それがね!!聞いてパパ!」
今日は凡矢理高校への入学初日だった
登校前は、新しい友達を作れるかほんのちょっとだけ不安に思っていたのだけれど…
「もう友人ができたのかい?それは嬉しいね」
「でしょでしょ!……前の学校じゃクロードのせいで友達1人作るのにどれだけ苦労したか」
「そういわないであげなさい、彼も千棘が心配なだけなんだよ」
「ちゃんと感謝してるわ。でも、アイツのはやりすぎっていうか…」
「ハハハ…で、新しいお友達はどんな子なんだい?」
「まだ出会って1日だけど、凄くいい人そうだったの!」
思い出すのは登校中のこと…
「あれ、クロードは?』」
「クロード様は任務の為不在ですので、お嬢様は私たちが護衛致します」
「…ふ〜ん」
「……迷った」
これはチャンスだと思った私は、数分後には護衛を撒いて1人になれたのだけれど、まさかの迷子。
初日から遅刻なんて冗談じゃない。
そう思っていると、似た制服の男子が歩くのが見えた。彼に聞いてみよう。
…呼びかけを無視されたのに少しイラッとしたが、どうやら考え事をしていただけらしい。
コホン、と咳払いをして彼の容姿を確認すると、やはり同じ学校の制服。
日本人らしい真っ黒な髪に整った顔立ちをしている。
よく分からない位置についたヘアピンは、なんだか似合ってないなと思う
道案内がてら話していて感じたのは、『家の奴らとは正反対だな』ということ。
なんというか、言葉の節々から『気遣ってくれてるんだろうな』と分かる…そんな感じ。
アイツらの場合、紳士的なのは基本私にだけなのよね。その点、彼は初対面の私にも優しく接してくれる。
こういう人は、ギャングとかとは無縁なんだろうな
…それでも、私の夢見る輝かしい高校生活のために、まずは彼とお友達になる!!
彼は私と同じクラスらしいし、彼と仲良くなれば、そこから交友関係も広がっていくわよね。これは勝った同然だわ!
ホームルームの前に先生の所に行くことになっていると伝えると、彼も職員室に用があるというので、同行させてもらうことになった。今日の私は天に好かれているらしい。
「もう友達を作ったのか?前に会った時は不安そうにしてた割にやるじゃないか、桐崎」
「ちょ…せ、先生!?」
人前でそういう恥ずかしいことをバラさないで!?
それにまだ一条くんとは…
「友人一号として教えておくと、この人はこういう人だよ。桐崎さん」
そう言って困った様に笑う彼…
この学校で、初めての友達ができた瞬間だった。
自己紹介も終わって、後ろの空いてる席に座る様に促される。
奥を見ると、一条くんが座っているのが見えたので、思わず手を振ってしまう。
それから、休み時間の度に女の子たちに『一条くんとどういう関係なのか』と聞かれて大変な目に合ったものだ。
「愛する娘がこちらで上手くやって行けそうで、安心したよ」
「彼、お友達も多そうだったのよ?パパが心配するまでも無いわ!」
「ハッハッハ。千棘がそんなに言うんだ、その子の名前はなんて言うんだい?」
最高のスタートダッシュ、これから私の輝かしい高校生活が始まるわ!
「今日から暫く、一条は家庭の事情で休みだ」
………え?もしかして振り出し?
「お嬢!…随分と元気が無いようですが」
組員の1人に呼び止められるが、私は話をする気分じゃない。
というのも、あれから1週間も経つが私はまだ友人を作れていない。
いきなり数十人の名前なんて覚えられないし、転校生ということに加えてハーフだという皆んなとの違いから、まだまだ壁を感じる。
「大体なんで、一条くんは学校休んでるのよ〜…」
「ッ!ボスの言っていることは事実だったか…
ボスがお呼びですよ、お嬢」
「パパが?」
「偽物の恋人ぉ!?」
「勝手に決めてしまって悪いね。しかし、多くの人の命が掛かっているんだ。分かってくれ」
「いやいや、でも…そうだ、相手はなんて言ってるの!?」
「まだ伝えていないらしい」
「いや、なんで!?」
「恋人関係について疑う者が多く、クロードが彼に直接試すと言い出したんだ。
さらに、『示し合わせの無い様に集英組を見張る』と出ていく始末…
そして彼はこの後、任務から帰るらしい。
着いてきなさい、千棘」
相手は君の知っている人だよ」
「一条明喜、どうかしたか」
「……【千棘】、びっくりしたよ。来てくれてありがとう」
「え!?」
状況は把握したけれど、『ダーリン』呼びはやり過ぎじゃない?桐崎さん…
桐崎さんは、恥ずかしい呼び方をしていたことに気づいたのか顔を赤くしつつも、驚いた様にこちらを見ている。
「クロードさん、その様子じゃ既に伝わっている様ですがアーデルトさんも…この間は黙っていてすみませんでした」
「僕の娘だと知らなかったんだね?」
話を合わせるアーデルトさんと僕を、クロードは真剣な表情で見ていた。
「はい。
千棘も、気づいてあげられなくてごめんね」
「いち…あ、明喜くん」
恥ずかしそうに名前を呼ぶ桐崎さんには後で謝ることにして、今はクロードだ。
「一条明喜…貴様にボスの一人娘である、お嬢が守れるか」
「必ず」
「お嬢に何かあれば容赦はしない」
そう言い残し、その場から去るクロード。
桐崎さんは緊張の糸が切れたようで、その場に座り込んだ。
「…楽、もしかしてだけど」
「はい」
「押し付けた?」
「…」
顔を逸らす楽を見て、僕は深いため息を吐いた。
千棘はかわいい