私の名前は、
私は生まれつき精神が不安定なところもあって、だれかと接することが苦手だった。教室ではいつも一人。典型的なぼっちちゃんだった。特にやりたいこともなかったので、ぼーっと外を眺めていることが多い。
そんなある日に、たまたまクラスの女子がしている噂話を耳にしてしまった。
内容としては、ひどいものだった。いわゆる陰口と言われるもので、確証もない噂話に花咲かせている女子グループ。それがたまらなく怖かった。そして自分の話をされているのだと感じた。
一度、そう感じてしまうと不思議なもので、周り全員が敵に見えてくるのだ。男子グループの笑い声、先生の怒鳴り声、不機嫌そうにため息をつく音、何もかもが自分へ向けられたものではないかと考えるようになった。
それをきっかけに、学校に行くのが怖くなった。
後日談。あの噂話は私のことではなかったらしい。
しかし、いつ私が話題に上がるかわからない。言葉だけならまだしも、実際にいじめられたら。そう思うと教室にいるのが怖くてたまらなかった。授業が終わればお手洗いで過ごし、授業にはかろうじて出席した。だが、やっぱり恐怖のほうが勝ってしまう。
私は不登校になった。
私の両親は共働きで、普段から家に居ない。朝は早く、夜は遅い。なので親にバレることはないだろう。と思っていたが、先生から連絡があったらしい。それはそう。
しかし、そんな現実を知ったうえで、私の対応を学校に任せるというのだ。想像はできていた話だ。私の居場所はどこにもない。
学校の提案はこうだ。保健室に登校しオンライン授業を受ける。というもの。
勉強は嫌いではなかったし、あの空間が怖かっただけ。私をその提案を承諾し、今では保健室登校となった。
しかし、保健室というのは暇なもので、保健室の先生はなぜか常駐していない。基本一人の空間が広がっている。友達なんて存在は空想。
そこで私は本を読むことにした。保健室の先生が図書室から借りてきてくれた。
そして、本の世界にのめりこんでしまった。私の知らない世界がそこにはある。現実世界で出来ない体験を本の世界で体験したい。
私は授業の合間に本を読むようにした。
以上が私の自己紹介、あらすじ、経緯となる。
あまり面白いものではなかっただろう。別に面白味なんて求めてはいないけど。
…と、だれに向けての紹介なのか。
時刻は午後10時。自室のベッドが優しく包み込む。明日も学校だ。保健室登校だが。
相変わらず両親はいない。もしかすると一年近く顔を合わせてないのかもしれない。
さて、そろそろ眠くなったところで、私は眠るとしよう。
おやすみ。誰に向けた言葉なのかわからないが、一言つぶやき、私は意識を手放した。
♦♢♦♢ ヤンヘラガール ♦♢♦♢
冬が終わり、温かくなり始めた春の入り。私はいつも通り保健室で授業を受けている。
先生たちが使うようなアルミ製のデスクに、モニターが設置してあり、教室の風景が映し出されている。実際に今行っている授業をオンライン配信で見ているという状況。
これなら、自宅でもいいのでは?と思うのだが、先生曰く、登校することが大事!だそうだ。
モニターから先生の授業が聞こえてくる。今は科学の授業のようだ。
科学は好きだ。なんといっても科学の力は未知数。その力は人間にとって吉にもなり凶ともなりうる。
「面白いな~。だってただの液体同士を混ぜるだけで、大量の毒ガスが生まれたり、固形物が生成されたりする」
「毒ガスって、物騒ね…」
話かけてきたのは、保健室の
「いま、余計な情報言わなかった?」
「気のせいですよ」
私が、この学校で唯一まともに会話ができる先生といっても過言ではない。心を許し切っている。もしかすると両親よりも信頼しているのかもしれない。
「結婚できないんじゃなくて!結婚しないの私は!別に独身だからって…」
一人でぶつぶつ言い始めたので無視することにした。
あっという間に授業が終わり、私はデスクから離れてベッドへ向かう。保健室のベッドを占領できるのはつよい。窓際の一番目立たない場所を使わせえもらっている。しかし少し固めなのが難点。
「じゃあ、先生は職員室戻るから」
「はーい」
ガラガラとスライドドアを開けて、先生が出ていく。それと同時にベッドを覆うようにレーンがひかれたカーテンを閉める。これで外の世界から遮断された空間の出来上がり。
今日は、どの本を読もうかな?
いつもはファンタジー系の物語を読んでいるのだが、今回は現代の恋愛ものを読んでみることにした。普段は読まないようなジャンルなため、いつも以上にわくわくしている。
早速、本を開いて本編を読み始めるのではなく。表紙カバーや帯を外して、カバーの裏側や裸の本を堪能する。たまにちょっとした挿絵やセリフを書いていたりするので、隅々まで楽しむためにカバーは外してみる。
今回は、表紙イラストが少し変わる程度だった。
あらすじを読む。
主人公は、生まれつき精神疾患を患っている少女。人とかかわるのが苦手で友達がいなかった。
私と境遇が似ている。これは没入感がすごいだろうな。と期待が高まる。
そんな主人公の目の前に、白馬に乗った王子様のような人物が現れ、その人のおかげで人とかかわることの楽しさを知った。
私も、そんな素敵な出会いがあればいいな。
そして、主人公と王子様は恋仲となり、素敵な学園生活を送る。と思いきや、幸せは長続きしなかった。王子様をめぐって争いがおこるようになった。周りの女子たちは、主人公をいじめるようになる。
うわぁ、ひどいことをするもんだ。この子は今までつらい思いをしてきたんだから、もう幸せにしてあげようよ。そう強く感じた。
そんな主人公を現状を知り、王子様は颯爽と助けに入る。
そして、より一層、仲は深まっり、いじめも徐々に薄れていった。
時が流れ、学校を卒業する時が近づいてくる。
卒業して、別々の学校に行っちゃったら…この子はどうなっちゃうの?
主人公は、王子様との一緒に過ごしてきた中で、強いメンタルを手に入れていた。一人でも大丈夫になった。
よかった。新しいところではうまくやっていけてるみたい。強くなったね。
離れていた間も付き合い続けていた二人は、なんと結婚することになった。
きゃー!なんか見てるこっちまでうれしくなるね!
そして二人は末永く幸せに暮らしたとさ。
という内容だった。授業の合間を使って約二日間で読み終わり、脳内では恋愛をしてみたいという気持ちでいっぱいだった。
今日も今日とて、保健室で授業を受ける。何も変わらない日々。
私も、白馬の王子様みたいな人、現れないかな…?
「ねぇ先生。白馬の王子様って存在するんですか?」
「夢見た結果がこれよ」
と先生は自分を指さす。ごめんやん。
「でも先生って、ものすごくスタイルいいじゃないですか。女優レベルですよ。簡単にお付き合いできそうですけど」
「いやね、あいつら全員下半身で考えてるのよ。確かに付き合うのも簡単だわ。でもそれって幸せなの?って感じじゃない。ちゃんと私のこと好きになってくれる人じゃないとね」
「ふーん」
「でもまぁ、そんな人なんてなかなか現れない。夢の見すぎなのかしら」
そういうものなのか。私は本の中でしか恋愛を知らない。いずれ私もこんな風に悩める日が来るのかな?
「ということで、職員室戻るね」
「わかりました」
といって、私はベッドへ。先生は扉を開けて外へ向かった。
カーテンを閉め、自分だけの世界を作り上げる。
昨日読んだ恋愛小説をもう一度読み直そうか悩んでいる。もう一度あの世界を体験したい。
いや、または別の恋愛小説を読むべきか。
どうしようか。
…と悩んでいた次の瞬間。ガラガラ!と強く扉を開ける音。
この感じは先生ではない。一気に緊張感が走る。幸いカーテンは閉めていたため、お互いに姿は見えていない。幸いと言っていいのかどうかはわからないが。
数秒後、女性の声が聞こえる。
「本当に、大丈夫なの?」
それに答えるように、男性の声が聞こえてくる。
「大丈夫だ。あいつは今、職員室でのんきにコーヒーでもすすってるよ。確認済みだ」
不安そうな声色の女性に強気で態度のでかい男性の声。二人が入ってきたみたいだ。
何の話をしているのかわからないが、ただの保健室利用者だろう。見つかって声をかけられたりしたら困るので、ベッドへ潜り、息を殺すことにする。
足音的に、隣のベッドへ向かったみたいだ。
ベッドがきしむ音。不思議なことに一つのベッドしか使っていないようだ。
「ほら、早く」
「う、うん」
何か話している。寝るなら早く寝てほしいんだけど、気が散る。
「あ!ちょっとまって、まだ…い!…ったぃ…」
女性の声は、やけに苦しそうだった。痛い?何をしているんだろう。
「うるせぇ、だれか来たらどうするんだ!」
怒りをあらわにする男性の声。少し怖い。
ベッドが激しく軋む音。それに合わせて女性は吐息を漏らす。
いじめられている!?先生に連絡を…でも、違った場合どうしよ。
とりあえず、カーテンの隙間から隣をのぞいてみることにしよう。一度見てから判断することに。
そう思い、私はベッドから体を乗り出して、カーテンの隙間から隣を除いた。
すると。
「なに…してるの?」
仰向けに寝ている女性の上から、男性が覆いかぶさるようにして腰を動かしている。
二人とも制服を着ているため、ここの学生であることがわかる。
女性の苦痛とも快感とも読み取れる表情が、私にはすごく怖かった。
「…わからない」
私の知識には、このような行動をとる理由が存在しない。本の世界でも見たことがない。
「先生に連絡…」
どうしてか、手が動かない。目の前の光景が怖いから。ではなかった。
逆に興味が湧いてきたのだ。
私は、ちゃんと見ようと、もっとベッドから体を乗り出す。その瞬間。
「あ゛」
バランスを崩し、前のめりに倒れこんでしまう。その勢いでカーテンを思いっきり開ける。
男性と目が合う。
「あ…コンニチワァ」
静寂が、この空間を支配していた。
え、私おわった…?