ヤンヘラガール   作:竹モチ

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10話 罪悪感はあった

 俺は田辺。退屈すぎる授業を受けている最中だ。もうすぐ卒業式があるからということで、学校ではその予行練習の日々。いやというほど毎日そればっかりなので、とても退屈だぜ。

 今日も今日とて、体育館に集まり先生の怒鳴り声が響く。俺は早く終わらせたいから真面目にやっているつもりなのだが、どうもあいつらからしたら不真面目に見えているらしい。マジで鬱陶しい。

「おい、田辺。何度言わせる」

「だまれ田中。真面目にやってんだろうが!はよ終わらせや」

「お前のその態度が気に食わないんだ」

「…教員やからって調子乗んなよ」

 聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で愚痴を吐く。俺よりもっと注意すべき生徒がいるだろ。俺が先生にやいのやいの言われている間に、端の方では、列を乱して遊び始めてる。

 統率力の無さは完全に教員どもの落ち度だろうが。

 イライラしていると、近くにいた佐藤が話しかけてきた。

「ホンマ、うざくね?うちら真面目にしてんじゃんね」

「まったくだぜ」

 佐藤。こいつもなかなかにうざいけどな。喋り方といい態度といい、一応付き合ってる判定らしいが、俺は別にこいつのことなんて好きじゃない。ただの暇つぶしというか、まぁやらせてくれるから仕方なく一緒にいるだけだな。俺らの歳でお店には行けねぇし、デリを呼ぶ金もねぇ。

 彼女にしてくれたらやらせてあげるってことだったから、表面上の彼女だ。

 今家に居る佐倉も似たような経緯だ。あっちは結婚とか言い出してもっと面倒だが。

「こうちゃん、今日の夜は空いてる?」

「あぁ、すまん。今日はパスだ」

「なんかあるの?」

「ちょっとな」

 ただめんどくさいだけだ。正直、佐藤より佐倉のほうが相性がいい。

「あ~あ、今日の夜暇だな」

「一人でやってればいいじゃん」

「それ、彼女に言うセリフ?」

 まったくうるさい女だ。

「そこ!私語をしない!田辺。またお前か」

「はいはい。すんません」

 お前のせいでまた厄介なことになったじゃんか。話してたの二人なのに、なんで俺だけが注意を受けないといけないのか意味が分からんな。

 

 ようやく授業が終わり、昼休憩。

 学食へ向かう最中、舞ちゃんと出くわす。

「田辺ぃん」

「なんすか?」

「古語ちゃん。家にも帰ってきてないって。どこにいるか本当に知らないの?」

「知るわけねぇだろ」

 これ以上、あのメンヘラとかかわりたくない。そのため知らないふりをする。そう言えば昨日のショッピングモールでストーカーしてきたっけな。

「見つけたら、学校おいでって伝えておいて」

「はいよ」

「…ねぇ田辺くん」

「なんすか?腹減ったんやけど?舞ちゃん俺のこと好き?」

「黙りなさい。古賀ちゃんのこと、どう思ってるの?」

「どうって、ただの友達だぜ」

「学校にも来ていなくて、家にも帰ってない。心配じゃないの?」

「別に」

「…そう。引き留めて悪かったわね。学食行ってらっしゃい」

 そう言って、舞ちゃんは歩き出した。

 あのメンヘラ女に手を出したのは間違いだったな。あんなにまとわりつかれると思ってなかったぜ。一回やれればいいやって思っていたのによ

 まぁ、気にしててもしょうがねぇや

 卒業と同時に、遠くへ引っ越すことは決まっている。そこで今いる女どもとはお別れだな。

 俺が、本気でお前らのこと好きになるわけねぇだろ。

 

 すべての授業が終わり、放課後。俺はおとなしく帰ることにした。

「佐藤と帰るか、夜の誘い断っちまったし、下校時間だけでもいてやろうか」

 そう思って佐藤の教室へ。

「おーい、佐藤ー」

「佐藤さんなら、もう先に帰ったよ」

 佐藤の友人らしき人物に声を掛けられる。先帰ったのかよあいつ。まぁ、こっちから連絡入れてなかったのが悪いんだが。

「あぁ、おっけ、ありがと」

 じゃあ、本当に帰るか。

 と、思い昇降口へ向かう廊下を歩いていると、舞ちゃんが前から空いてくるのが見える。

「さようなら。舞先生」

「うわ、ちゃんと言ったら言ったで気持ち悪いわね」

「え、ひどない?」

「冗談よ。また明日ね」

「あ、舞ちゃん、ちょっといいか?」

「なに?」

「古賀のやつ、卒業できんのか?」

「…正直難しいわね。成績に関しては申し分ないんだけど、出席日数がね。うちの学校って、三年間の出席日数が一定以上ないと卒業できないじゃない?一年の時に不登校になってたのと、今出席していないから、何とも」

「出席して、再履修すれば問題ないのか?」

「どうしたの?古賀ちゃんの卒業気にするなんて」

「まぁ、あんなに勉強できる奴が俺のせいで卒業できずに路頭に迷うのは、見てて来るものがあるのぜ」

 関わりたくない。とは思っているのだが、勉強を教えてもらった恩は感じている。多少なりとも罪悪感は感じているんだ。

 だが、メンヘラはごめんだ。鬱陶しい。

「古賀を見つけたら、卒業できねぇぞって言っといてやるよ」

「そう。助かるわ。よろしくね」

 そう言葉を交わして、俺は昇降口へ向かった。

 

 帰り道、佐倉に連絡しておこう

『がこおわ。いまかえってる』

 とチャットを送る。

 いつもの道のりを歩きながら、将来設計について考える。

 まだ働きたくないため、大学へ進学することにした。珍しく指定校推薦で入ることができた大学。めちゃくちゃ偏差値が高いわけでもなく、大卒資格が欲しいだけの人が集まる学校だ。治安悪そう。

 ここから、かなり離れた場所にある大学なため引っ越しを検討しなければいけない。めんどくさいので全部親に任せることにしよう。

 俺の親は、言うことは大体聞いてくれる。なに不自由なく生活できているのは親のおかげだ。アルバイトもせずに悠々と生活している。

 大学に行きたいといった時も嬉しそうにお金を出してくれた。ただ働きたくないだけなのにな。まぁニートするよりかはいいだろう。

「人生、楽すぎるのぜ」

 いつか痛い目を見る。なんて言われそうだが。

 さて、アパートへ到着。ポストの中を確認して、階段を昇る。

 ガチャりと鍵を開ける。そういえば佐倉から返信ないことに今気づいた。寝ているかもしれないからゆっくり入るか。

 玄関を開けたとき。

「う…」

 血生臭い匂いが鼻を突きさす。半開きのリビング扉から匂いがしていることに気づく。

「なんだ、この匂い」

 恐る恐るリビングの扉を開ける。

「…は?」

 床のいたるところに血が飛び散っており、それらは乾ききってしみになっている。しかし、ひときわ大きな血だまりはまだ乾ききっておらず。横たわった人物を中心に広がっているのがわかる。

 横たわった人物は、涙を流した跡に血を吐き出した跡。腹部には大きな血のシミ。衣類の隙間からかすかに見える刺し傷。

「さ、くら?」

 昨日まで一緒にいた佐倉が、見るも無残な姿で横たわっている。

「おい、佐倉?おい!」

 肩をゆする。起きる気配は全くなく、その体は少し冷たくなっていた。

「と、とりあえず救急車!」

 とスマホを手に取ると

「…え?」

 佐藤から着信だ。このタイミングの着信は少し怖い。佐藤の身にも何かあったのではないか。

「もしもし!佐藤!おまえ今どこにいる?」

「…さぁ~どこでしょ~」

 受話器から聞こえる声は、佐藤ではなかった。

「…古賀?」

「あ!ようやく私ってわかってくれた!うれしいなぁ」

「お前、今どこにいるんだよ。なんで佐藤のスマホ」

 受話器の向こうから、強い風の音に波のように一定間隔の水音。

「ねぇ人間ってさ、魚たちにとってかなりいい栄養になるってどこかで聞いたことがあってね」

「…は?」

「その栄養たっぷりの魚を私たちが食べるの」

「…何が言いたい」

「一人の死が、みんなの役に立つって素晴らしいと思ってね。いまから社会貢献しようと思ってるの」

「は?おいまて」

 その次の瞬間。さぶーんと水の中に何か大きなものが落ちる音がする。

「おぉ、一度やってみたかったんだよね。人を海に突き落とすの」

「お前まさか」

「…ねぇ、田辺くん」

 

 

「いま、そっちに行くね」

 

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