下校時間、私は佐藤とかいう女が学校から出てくるのを待っていた。田辺くんと二人で一緒に下校してたら厄介だな。なんて思っていると、出てきた。しかも一人だ。
「ラッキー」
では、後をつけて人気がなくなった頃合いでやっちゃおうか。しかし、コートにマフラーまでしやがって、一筋縄にはいかないな。
と思いつつ後をつけていると、工事中の敷地の隣を通る。
「これは使えるのでは?」
重機の音で、多少の音は無視される。それに鉄パイプやらの道具が落ちてるかもしれない。こっそり中に入る。
工事現場に誰でもはいれるって普通に考えて危なすぎるよね。小さな子供とかが誤って入ったらどうするんだろう。
そんなことを思っていると硬そうな棒を手に入れた。これが何かわからないが、まぁ武器になるだろう。
なんてご都合主義。さっさとバレる前に出てしまおう。
少し先に行ったところで女を見つけ、後ろにつく。イヤホンなんかしてるから気づかないんだよ。
工事現場からもう少し離れた場所。人通りが全くない。今かな?
私は、硬い何かを振りかぶり、助走をつけて思いっきり振り下ろす。頭部に命中し、ドッと鈍い音が響く。女はなにも発さずにそのまま倒れこんだ。こんなにうまくいくと思ってなかったから驚きだ。
「楽勝すぎる」
しかし、ここで殺してしまうと後々面倒なので…そういえば、海が近かったな。
この女をおぶるのは少々抵抗あるが、まぁ致し方ない。背中にしょって海の方向へ歩く。
数分歩いて海に到着。
人工的に崖が作られており、その真下はすぐ海だ。策などが一切ない珍しいタイプだろう。
「意外と起きないね。今のうちに絞めとくか。」
ということで女おおろしてマフラーをはぎ取る。そして包丁を首元にあて、すぱっと。
「おぉ…。すごい」
勢いよく血が噴き出し、あたりに飛び散る。まぁ海近いから大量に魚鯖いたんだなって思ってくれ。明らかに不自然な血の跡だが。
「そういえば、そろそろ田辺くんは帰宅したかな?」
レシーバーの電源を入れて田辺くん家の盗聴器にアクセスする。さすがに距離があるためかなりノイズ交じりの音声になっている。
『おい、佐倉!おい!』
お、家に着いたみたいだね。さぁさぁ不倫相手との最後のひと時を邪魔しちゃおうかな?
私はこの女のスマホを奪う。指紋認証か、女の指を借りてロック解除。田辺くんとのツーショット写真が壁紙に設定されている。忌々しいな。後でたたき割ることにでもしようか。
通話アプリを開き、田辺くんに電話を掛ける。
「もしもし!佐藤!おまえ今どこにいる?」
「…さぁ~どこでしょ~」
「…古賀?」
「あ!ようやく私ってわかってくれた!うれしいなぁ」
「お前、今どこにいるんだよ。なんで佐藤のスマホ」
「ねぇ人間ってさ、魚たちにとってかなりいい栄養になるってどこかで聞いたことがあってね」
「…は?」
「その栄養たっぷりの魚を私たちが食べるの」
「…何が言いたい」
「一人の死が、みんなの役に立つって素晴らしいと思ってね。いまから社会貢献しようと思ってるの」
「は?おい待て」
私は、目の前で倒れている女の胸倉をつかんで海へ突き落す。ものすごい水しぶきとともに、ぷかぷかと女が浮かんでいる。
ものすごい快感。一度やってみたかった。
「おぉ、一度やってみたかったんだよね。人を海に突き落とすの」
「お前まさか」
「…ねぇ、田辺くん。いま、そっちに行くね」
ここで通話を切った。
田辺くんの驚いた声。とてもよかったな。私のことで驚いてくれる。なんて幸せなんだろ。
女の荷物。これらもついでに海にポイだ。不法投棄?そんなの知らん。死体遺棄してる時点でそんな小さいこと気にしてられない。
さて、どうやって探すかな?きっとバックなんて持ち歩かないだろうしから位置情報もあてにならない。田辺くんの心理を図って行動するしかないかな?
多分この場に居たら命が危ないと感じるだろう。となると安全そうな場所に駆け込む。たいていの人間は目の前に死体があっても自分の命優先だからね。
まぁ一か八かであたりを探すか。
待っててね。田辺くん。
♦♢♦♢
あいつはもう、俺の知ってる古賀じゃない。
早くここから逃げないと、俺も殺されるかもしれない。とりあえず警察署へ向かおう。しかし警察署がどこにあるのかわからない。マップを調べながら行くしかない。
スマホと財布。最低限のものだけ持って家を出た。
「えっと、ここから徒歩で20分。割と遠いな」
とにかく走るしかない。
マップを見ながら走る。
歩行者にぶつかるがお構いなしだ。信号も無視。急いで安全な場所へ向かうのが先決だ。
「あれ?」
マップの様子がおかしい。一度立ち止まって、周りを見渡す。
「スーパーがこの方角にあって、個々の道をまっすぐ?道なんかねぇぞ?」
マップに記された道が現実に存在しない。そんなことがあり得るのか。
「とにかく走ろう」
無我夢中でその方角に向かって走る。走る。走る。
裏路地を走っていると、行き止まり。
「くっそ」
引き返そうとした次の瞬間。
「…み~つけた!」
「うっ!」
頭に強い衝撃が走った。理解が追いつく前に俺は気絶してしまった。
次に目が覚めた時は、知らない天井、周りを見渡すと女の子らしいベッドに勉強机、本棚にちゃぶ台と、どこかで見たことあるような内装の部屋に寝かされている。手と足には手錠がかけられており、ベッドに固定されている。身動きが取れない。
「あぁ、くっそ」
古賀の家だ。だいぶ前に一度だけ入ったことがあるが、確かこんな感じの内装だった記憶がある。
その数分後に扉がガチャリと開き、古賀が現れる。まるでお姫様のような真っ白いドレスを着て、右手には包丁が握られている。
「あ、おはよう。田辺くん」
「…。」
「なんで無視するの?」
「…。」
すたすたと俺の方へ歩いてきてパシッとビンタされる。古賀の瞳には、もう光を感じなかった。
「おはよう」
「…おはよう」
しぶしぶ挨拶を返す。すると古賀は嬉しそうにほほ笑んだ。
「見て、田辺くんのために新しい服買っちゃった!おとぎ話のお姫様みたいでしょ?」
「そうだな」
「感想は?」
「かわいいよ」
「…そのかわいいは私が?それとも服が?」
「めんどくせぇ」
そういうと、古賀は持っていた包丁でおれの腕を軽く切る。
「いった!」
「もう一度。感想は?」
「似合ってるよ」
「あはは!ありがとう!田辺くん!」
何もかも変わってしまったな。古賀。
最初会ったときは、びくびくして怯えながら、会話もままならないような態度だったのに、こんなに変わり果ててしまって。
恋は盲目とよく言うが、ここまで人を変えてしまうのかと思うと、とても恐ろしく感じる。
「とりあえずさ、この手錠外してくれよ」
手を動かし、カチャカチャと手錠を鳴らす。まったくどこで手に入れたんだよこれ。おもちゃではなく。かなりしっかりしたつくりをしているため簡単には外れない。
「だ~め。外しちゃったらどこか行っちゃうでしょ?」
「学校は?」
「行く必要ないじゃん。私がずっと一緒にいてあげる!勉強も教えてあげる!」
「…お前、舞ちゃんが心配してたぞ。卒業でき…」
しゃべってる途中で殴られた。平手ではなくこぶしで。
「次はこぶしかよ…」
「ほかの女の名前出さないで?」
「…卒業できなくてもいいのか?お前、成績優秀だったんだろ。こんなことで路頭に迷うのか?」
「こんなこと?」
「俺なんかにかまってねぇでよ、学校行けよ。再履修したらまだ可能性あるって言われてんだからさ」
「黙れよ」
「は?」
「うるさい!うるさい!私に説教するな!私は田辺くんの最後まで一緒にいられればそれで充分なの。後先なんて考えていない。どうせ私がまじめに学校行ったところで犯罪者に変わりない。今更意味なんてない」
「…。」
「私は、いままで勉強頑張ってきた!お母さんやお父さんがほめてくれたから!でもいつの間にか、二人の期待にこたえられなくなって、見向きもされなくなった」
「…。」
「そんなときにね。田辺くん。君は私に希望をくれたの。白馬の王子様みたいに」
「メルヘンの見すぎだ」
「だから、白馬の王子様と結ばれることができて、とてもうれしかったんだよ?えっちなことして、恋人になれたって思ったの」
「…あれは、ただのお遊びだ」
古賀はベッドの上にあがり、俺のうえで馬乗りになる。
「ねぇ、私のこと痛くしといて、どこ行こうっていうの?ほかの女はみんな消したよ?だからさ!また!遊ぼうよ!私のこと壊れるぐらい愛してよ!」
そういって、俺の胸倉をつかんて揺さぶってくる。
「お前みたいな殺人鬼、愛せるわけないだろ」
「どうして…。どうして!?」
「うがっ!」
包丁を逆手で握りこみ、俺の腕を突き刺した。あまりの痛さに気を失いそうになる。
「愛してくれって言う割には…、攻撃してくるんだな」
「そうでもしないと分かってもらえない。わからせる必要があると思った」
ここは言うことを聞いて穏便に済ませるしかない。じゃないと殺される。
「わかった。今までひどいこと言ってごめんだぜ。俺はお前一筋になる。とことん愛してやる」
「本当に!?嘘じゃない?」
「嘘じゃないぜ」
真っ赤な嘘だがな。タイミングを見計らって逃げるしかない。
「今、嘘ついたね」
「え?」
古賀はまた包丁を握りこみ、今度は反対の腕を突き刺した。
「あがっ!…くっ…なんで、だよ…」
「田辺くんが嘘をついた時の癖なんて、わかりきってるんだよ」
「くそ…メンヘラが」
「メンヘラなのかしら?これ」
「しらねぇよ」
「メンタルはヘラってるし、病み過ぎてデレてるから、ヤンヘラってところ?」
「それは、本当に意味が分かんねぇ」
「私も言ってて、よくわかんない」
「…とりあえずさ、愛するっていっても、手錠を外してくれないと抱きしめることmできないだろ?」
「…それもそうだね」
古賀は両手の手錠を外す。腕を動かせるようになったが刺された箇所がものすごく痛む。
「いってぇ」
「うふふ。苦しんでる田辺くん。美しい」
気持ち悪い女だ。早いところここから抜け出して警察に突き出したい。
「もう、痛みで動ける気がせん。足も外してくれないか?逃げる気なんてねぇよ。お前のこと壊れるまで愛してやる」
「また、嘘ついてる。でも、私が壊れるほど愛してあげていないのに、私ばかり要求するのはおかしいよね」
「は?」
そう言って、包丁で俺の頬を切る。流れ出る地を古賀は舐めた。
「田辺くんの味…」
とことん気持ち悪いな。こいつに関わるんじゃなかった。すべてを後悔している。
「そんないやそうな顔しないでよ」
古賀は俺と唇を合わせる。古賀の舌が口の中に入りほんのり血の味がした。この血は自分の血の味だとわかると、途端に吐き気に襲われる。
「うえ…」
古賀は顔を離し、ビンタをする。そしてまたキスをする。
「苦しそうにしてる田辺くん…好き…」
「狂ってんな…まったく」
腕を刺された痛みと出血で、もうすでに意識はかなり遠のいていた。視界がぼやける。このままだとまずい。
「もっと、もっと苦しい顔を見せてよ。壊してあげる。壊れるまで愛してあげるから!」
次はとうとう首を絞め始めた。
「うっ!」
「あははは!ねぇ、苦しい?苦しいでしょ?もっと!その表情見せてよ!」
息ができない。苦しい。本当にまずい。
しかし、刺された腕はもう言うことを聞かない。
「あ…がっ!」
「あはははは!あはははは!」
「…。」
「もっと苦しんで?もっと壊れて!?」
「…。」
全身から力が抜けていく感覚。目を閉じる。俺は意識を手放していた。
♦♢♦♢
「あはははは!」
「…。」
「…田辺くん?」
「…。」
首を絞め始めた最初は、ある程度抵抗を示していたのに、いまでは全く力を感じない。ぐったりとしている。
「…ねぇ、田辺くん?」
「…。」
返事がない。
「ねぇ!起きてよ!」
肩を揺らすが起きる気配はない。
「死んじゃった…の?」
私が、殺したの?嘘だ。そんなはずない!そんなはずないんだ!嘘だったけど愛してくれるって言ったじゃない!
「いや、いやぁぁぁぁぁ!」
頭を抱えてうずくまり叫ぶ。信じたくない。一番大好きな人をこの手で殺したなんて理解したくない。
「…。」
何がいけなかったの?私は、田辺くんに振り向いてほしかっただけなのに、愛してほしかっただけなのに。
「…。」
いくら後悔しても、もう帰ってこない。
「…。」
もう一度、揺さぶってみるが、反応を示さない。
「…。」
本当に、死んじゃったんだ。
「…。」
そうだ。私もそっちに行けばいいじゃん。
待っててね。田辺くん。
向こうで愛し合って、幸せになろうね。
首元にあてた鋭い金属は、いとも簡単に私の時間を止めてくれた。
身にまとった白いドレスは、真っ赤に染まっていた。
それはまるで、私と境遇の似た小説のヒロインのように。
赤いドレスを着たヒロインと一緒に白馬に乗った王子様。そんな挿絵を今になって思い出す。
私も、ああなりたかった。