キーンコーンカーンコーン。と午後6時を知らせる学校チャイムが鳴り、今日の仕事が終わったことを知らせる。
いいことなんだけどさ、保険の先生は怪我人や体調不良者がいないと基本的に仕事がない。たまに事務の仕事を任されたりするが、めんどくさいので気分が乗らないときは断っている。
カウンセラーの仕事も相談者がいなければ暇。みんなそれぞれ悩みを持っているはずだが、こうやって大人に相談するということはかなり勇気がいる。みんな心の中に秘めてしまうのだ。
そうやって、心を病んでしまう生徒がいる。私はそんな生徒たちを救いたい。
…でも、一番大切に思っていた生徒一人を守ることができなかった。
私は、保険の先生兼常駐カウンセラーの高坂舞。実務時間が終了し荷物をまとめて帰る。
「今日は寄ってから帰ろうかな」
荷物をまとめて保健室を出る。部活帰りの生徒とすれ違い「舞先生、さようなら」とあいさつを交わしてくれる。
「はい。さようなら。気を付けて帰るのよ」
軽く手を振り、職員用の駐車場へ向かう。
「この時間だと、スーパーにおいてなさそうね」
車に乗り込み、エンジンをかけて安全運転に心がけて運転を始める。いつも帰る道とはま反対の方向へ進む。
目的地の近くにあるスーパーへ立ち寄り、花を買う。お供え用の。
「意外と残ってるのね。お盆の時期じゃないから、お供え用の花なんておいてないと思ってたわ」
購入した花をしおれないように助手席へ置き、車を走らせる。
数分後。目的地に到着した。
そこは墓地だった。迷いのない足取りで目的のお墓へ歩く。
「久しぶりね。といっても一か月ぐらいかしら」
お墓の目の前に立ち、私は切ないような懐かしいような。そんな表情をする。
「古賀ちゃん…」
お墓には「古賀家之墓」と刻まれている。
「あれから、もう半年なのね。時間の流れは速いわね」
あの後、警察が古賀ちゃんの家に家宅捜索したときに両親と古賀ちゃんと田辺くんが発見された。
両親は死後かなり時間がたっていることから少し腐敗していたという。死因は急性アルコール中毒。二人ともお酒を全く飲まないのに、いきなり大量のお酒を摂取して中毒を引き起こしたらしい。
古賀ちゃんは首切り自殺。田辺くんに寄り添うように倒れていたという。
田辺くんは、数か所の刺し傷があったが一命はとりとめ、入院していた。今は完治して地元へ帰っているらしい。
「お葬式で大号泣しちゃって、みっともない姿見せちゃったわね」
古賀ちゃんのお父さんにはお兄さんがいて、お兄さん家族がお葬式やお墓などの準備をしてくれた。とてもやさしい方だった。
お葬式の日、私は仕事を休み最後まで出席した。古賀ちゃんのご両親の同僚や友達、親戚など多くの方が参加されたが、古賀ちゃんのことはみんな気にしていない様子だった。私は、それだけでも辛かった。
両親は腐敗が進んでいたため発見され検査の後、すぐに火葬されたそうだ。しかし、古賀ちゃんは比較的きれいなままで発見されたため、棺桶に入り火葬前に顔合わせをすることができた。
親族や友人、同僚たちは「お母さんそっくり」と切なそうに声を漏らす。
順番に棺桶を見ており、ついに私の番が来た。
涙が止まらなかった。私の知っている古賀ちゃんとは程遠く、かなりやつれた表情をしていた。
「古賀ちゃん…!ごめんなさい。私がもっとそばで、近くで見てあげるべきだった。実の娘のように思っていたのに。私は…助けることができなかった…」
この葬式を準備してくれたお兄さんが、私の背中をさすり。
「ありがとう先生。美咲ちゃんが一人の時もずっと、そばで見守ってくれたんだよな。弟から話は聞いてた。美咲ちゃんを無下にしていたこと、弟に代わって謝らせてくれ。それに、現状を知っていた私たちも、なにも救ってやれなかったこと、並べて謝罪させてもらう。申し訳ない」
私は、膝から崩れ落ちて泣いた。大の大人が子供みたいに泣きわめいていた。
「ご両親の手紙。古賀ちゃんには届いたのかしら」
私はお墓お掃除して、お花を取り換えている。
ご両親は酔ったままに手紙を書いていた。古賀ちゃんへ向けた。
美咲へ
私たちは、あなたが小さいころ成績優秀で、周りよりも長けていた学習能力に期待して、もっといろんなことを学んでほしいと思った。その思いが強すぎたせいか、強く当たってしまったかもしれません。あなたのことを嫌いになったわけでも、見捨てたわけでもなくて、ただ期待して、もっと頑張れるだろうと無理をさせていました。それが、私たちの反省するべきところです。
本当にごめんなさい。あなたが家出をして初めて私たちがやっていたことが間違いだったことに気づきました。
私たちのせいで、美咲の人生を壊してしまったのかもしれません。
この罪悪感から逃れるために飲んだこともないお酒を飲んで、現実から目を背けようとしている。本当に弱い人間です。
もう一度、あなたを抱きしめてあげればよかった。頑張ったねってほめてあげればよかった。
後悔しかありません。
私たちのことを許してほしいとは言いません。ですが、もしこの手紙を読んで、私たちのことを親として認めてくれるなら。もう一度やり直したいと思っています。
どうか。無事で帰ってきてください。 父・母より
結局、古賀ちゃんはこの手紙を読むことはなかったのかな?
古賀ちゃんの火葬の時、その手紙も一緒に燃やしてもらうことにした。きっと、向こうで読んでいることでしょう。
そうであってほしい。そう私は願いたかった。
「ふぅ、こんなこのかな?」
掃除が終わり、花を変え、水も入れ替えた。
あとは線香を炊いて、手を合わす。
「あ、そうだ。この本好きだったわね」
そう言って、バックから一冊の小説を取り出す。これは古賀ちゃんがとても興味を示していた恋愛小説。独りぼっちだった女の子が白馬の王子様のように現れた男の子と結ばれるお話。
「何回も読んだかもしれないけど、ここに置いとくわね」
と、本をお墓の足元に立てかけた。
また、一か月後に来るね。古賀ちゃん。
私は立ち上がって、お墓を後にする。
すると突然強く風が吹いた。
立てかけていた本は倒れて、勝手に本が開く。
パラパラとページがめくれ、止まったページには白馬の王子様とヒロインの子が付き合う時の回想シーン。挿絵があり赤いドレスを身にまとったヒロインの笑顔が映し出されていた。
最後まで読んでくださった方、誠にありがとうございます。
これにてヤンヘラガールは完結となります。
かなり駆け足というか、説明不足なところが多々あるかもしれません。
この作品は、私のオリジナル曲「ヤンヘラガール」が元ネタになっておりますので、ぜひ気が向きましたら楽曲の方もお聞きいただけると幸いです。
Youtube → https://youtu.be/swOrZMl8wqk
これからも、小説を投稿していこうと思いますので、像ぞよろしくお願いいたします。
竹モチ