ヤンヘラガール   作:竹モチ

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息をするように誤字・脱字しますので、温かい目で読んできただけたら…。



2話 白馬の王子様

「あ゛」

 私は、体勢を崩し、前のめりに倒れこんでしまい、そのまま男性と目が合う。

 数秒の沈黙。静寂が訪れる。小鳥のさえずりが鮮明に聞こえるほどの静けさ。

 それを打ち破ったのは、仰向けに寝転ぶ女性の一言だった。

「いや!」

 そう言うと、勢いよく起き上がり、服を整えながら保健室から出て行ってしまった。

「あ、ちょ、おい!」

 引き止めようとする男性を無視して、女性は走り去る。

 またもや静寂。

 

 体感にして30秒。実時間にして5秒。男性が口を開く。

「あぁ、先客が居たんだな。すまんな。うるさくして」

「あ、い…いえ、そん…な」

 怒鳴られると思っていたのに、逆に謝られてしまった。その驚きと、知らない人と会話する緊張で、どもってしまう。

 私は起き上がり、距離を取る。無意識に。

「そんな怖がんなよ。とって食ったりしねぇっての」

「あ、はい…」

 これは無意識なんだ。許してほしい。

「ってかお前、古賀じゃね?」

「え?あ、はぃ…そう、です…」

「はぁやっぱり!いつの間にか姿見なくなって、気になってたんだぜ」

 私のこと、覚えているの?

「あれだろ?いわゆる保健室登校ってやつだろ?楽でいいよなぁ」

 こいつ、わかってはいたけどデリカシーがないな。少し腹が立つ。

 でも、私のわがままで楽させてもらっている。というのも間違いではない。否定ができない。

「どうして…?あ、いや…」

 どうして私のことを知っているの?が聞けなかった。

「ん?てか俺のこと覚えてないの?同じクラスの田辺だよ。田辺 光貴(たなべ こうき)。」

「たな…べ?」

 ごめん、マジ覚えてないわ。

 入学して半年もしないうちに保健室登校になったもんだから、クラスのメンバーとか覚えてないし。担任の先生の名前も覚えてない。会話することがないから。

 

 保健室登校を提案してくれたのは、担任ではなく高坂先生。保健室の先生だ。

 先生は、学校のカウンセラーもやっているので、そこからきているのだろう。しかし、この学校は私を腫れもの扱いのように、だれも寄り付こうとしない。

 唯一、高坂先生だけが私の見方だったのだ。

「その反応は覚えとらんな?はぁ~、悲しいぜ」

「ご、ごめ…なさい」

「いや、謝んなくていいって、絡みなかったら忘れるのは当然だ」

 正直、早く出て行ってほしいのだが、言えるわけもなく。ただひたすらに立ち尽くしていた。

 せめてもの抵抗で、帰ってくれオーラを醸し出してみることに

「あぁ~、寝てたんだったな。ほらベッドいきな。俺はそろそろ戻るぜ」

 意外と効くんだ。

 ようやく帰ってくれる。そう思い、私はベッドへ戻る。

 すると、田辺は私に近づいてくる。

「なん!なん…ですか?」

「お前さ、よく見るとかわいい顔してんじゃん」

「ピィ」

 驚きのあまり、変な声が出てしまった。

 田辺くんはさらに近づき、手であごをクイッと上げる。顔が近い。目線が合う。

 動機が止まらない。早くなっていく脈拍。

 もう、むりぃ

 そこで私は、意識を手放した。

 

    ♦♢♦♢

 

「はっ!」

 私は、勢いよくベッドから起き上がる。ここは?保健室だ。

 隣には椅子に腰かけた先生がいる。スマホを眺めているようだ。

「あ、起きた。体調はどうだい?」

 こちらに気づいた先生がおでこに手を当て、熱を測っている。

「特に熱はなさそうね。どこか具合悪いところはない?」

「いえ、特には」

「そう、田辺くんに何かされなかった?」

「…いえ、特には」

「ほんとに?あの田辺くんが職員室まで来て、古賀が倒れたぞ!って言いに来るから、何事かと思ったわ」

 私のこと、心配して先生を呼びに行ったんだ。

「まさか、知り合いなの?」

「いや、私は顔も名前も憶えてなかったんですけど、向こうは私のこと、覚えていたみたいです。いつの間にか見なくなって気になってたって」

「あぁ、うん。そうなのね」

 何か言い淀んでいる様子だ。

 時刻を見れば、午後5時、授業が終わり、部活動をしている生徒の声が外から聞こえる。

 私はいつも、部活動が終わった時間。大体午後7時頃に学校を出る。みんなが帰った後に下校するのだ。なのでまだ時間がある。

「もうひと眠りしたら帰ります」

「わかったわ。先生はここにいるから、何かあったら声かけてね」

「はい。いつもありがとうございます。先生」

 そう言って、私はもう一度、横になって目をつむる。なんだか疲れた一日だったな。

 

 ここで、昨日読んでいた恋愛小説を思い出す。

 本の世界では、白馬の王子様が現れて人と話す楽しさを教えてもらう。そして最後には恋仲になり、結婚する。

 もしかしたら、田辺くんが白馬の王子様?

 なんてね。白馬というよりチャリで来たって感じだな。

 そんなことを考えながら、もう少しで眠りにつきそうなところで

 ガラガラと扉を開ける音。保健室利用者かな?

「おっす舞ちゃん」

「舞先生でしょ?何しに来たの?」

 この声は、田辺くんかな?そんな気がする。

「古賀の様子、見に来た」

「あっそ、彼女は今寝てるから、また今度ね」

「具合悪いのか?」

「なに、心配してんの?珍しいこともあるのね」

「どうなんだよ」

「大丈夫よ。特に異常はないわ」

「そうか」

 私のこと心配してる?どうして?

「ちょっと寝顔見に行こ」

「あ、こら!」

 田辺くんはカーテンを開けて、私のベッドまで近づいてくる。私はとりあえず寝たふりを続ける。

「こいつ、よく見るとかわいいよな」

「なに?狙ってんの?」

「いやいや、そんなんじゃねぇけどよ」

「あなた、悪い噂が広まってるの知ってる?」

 悪い噂…?

「いろんな女子生徒に手を出してるって、それが原因で不登校になった子もいるって」

「は?なに?おれは友達になってるだけで、手を出してるつもりはねぇよ」

「不登校になった子は何も言わなかったけど、みんな田辺くんとかかわりがある子たちばっかりなのよ」

「ふん、しらねぇよ」

 どういうことなのだろうか。昼間に見たあの光景のことを言っているのか。

「とにかく、古賀ちゃんには手を出さないで、この子はとても繊細な子なの」

「はいはい」

 適当に受け流すような返事をする田辺くん。

「じゃあ、俺帰るわ。古賀の無事を知りたかっただけだしな。じゃあな舞ちゃん」

「舞先生でしょうが!まったく」

 ガラガラ、と田辺くんが出ていく音が聞こえる。

 カーテンを引く音が聞こえる。きっと田辺くんが開けっ放しにしていったカーテンを先生が直してくれているのだろう

 私は目をつむったまま、先生を呼ぶ。

「…ねぇ先生」

「わ!びっくりした!起きてたのね」

 驚かれた。

「田辺くん、どんな人なの?」

「やめときな。生徒のことをこんな風に言うのはあれだけど。仲良くしても損するだけよ。女遊びが趣味。なんて噂されるぐらいだし、クラスでは問題行動しか起こさない。田辺くんをめぐって女子たちが喧嘩したこともあったわね」

「ふ~ん」

「変に仲良くして付け込まれたり、女子生徒の標的にされたり、ほかの先生たちから同類だって思われるかもしれない。ここの教員どもは生徒の表面的なところしか見ていないの。って私も人のこと言えないのかしら」

「私、クラスでは空気だったの。誰とも会話しないし、授業で名前を呼ばれることもなかった。担任の先生さえ私の名前、うる覚えだった」

「まじ、あのハゲときたら」

「でも、田辺くんは私の名前と顔を覚えていた。顔を見てはっきりと古賀と呼んだ」

 とても、うれしかった。大げさかもしれないけど、存在が認知されただけで生きてるって実感する。

「それで、気になるのね。まぁ、止めはしないわ。カウンセラーの先生としたは、他人に興味を持つことはかなり重要なことだもの。でも、高坂舞としては、仲良くするのはおすすめできないわね」

 そこまで言われると逆に気になるよ。

「まぁいいわ。私が近くで見守ってればいいことだし」

「ありがとうございます。先生」

「いいのよ。実は、娘のように思ってるのよ?」

「えぇ、それは」

「…思ってた反応と違うんだけど」

 時刻は、まだ午後6時手前。眠気はなくなってしまったので、先生と気が済むまで話してから帰ることにしよう。

 

 あの日以来、田辺くんは昼休憩のタイミングで必ず遊びに来るようになった。

 しかし、私はまともに会話できず、田辺くんが一方的に会話を振ってくるような状態。

 これが、約一か月続いた。

 

「で俺さ、歌うの好きでカラオケとかめちゃ行くんだけど」

「うん…」

「採点したら、なんと100点取れたんだぜ?すごない?」

「す、すごい、ね」

「古賀はカラオケとか行かねぇの?」

「行ったこと…ない…です」

「今度、俺と行かね?」

「んんん!」

 思いっきり首を左右に振ってしまった

「そんな拒否らんくても」

「ねぇ田辺くん、そろそろ帰ったら?」

 先生が助け舟を出してくれた。私としても正直帰ってほしい。

「オバハンは黙って」

「誰がオバハンよ!誰が!」

「まぁいっか、じゃな。また来るわ」

「…うん」

 緊張で疲れた。ぐったりとベッドに横たわる

「実年齢は…だけど!まだ!見た目は20代よ!あんな青臭いガキにオバハンなんて言われる筋合いないわよ!だいたいおばさんの定義ってなに?年齢で人を判断すするなんておかし…」

 先生は独り言を言っている。よほどオバハン呼びが嫌だったのだろう。

 田辺くんはどうして私にかまうのだろう?それが不思議でしょうがなかった。もしかすると、あの時の光景。女子生徒に手を出していた?瞬間をばらされたくないから?

 私は言いふらしたりしない。厄介ごとに巻き込まれたくないし、言葉を発するには、それなりの責任が問われる。

 私は、そんな荷の重いことはしたくないのだ。

 

 

    ♦♢♦♢

 

 

 あれから何か月たっただろう。

 実際は2か月だが、とても長く感じた。なぜかというと、田辺くんが必ず昼休憩に遊びに来て、一方的に会話をするから。

 でも少しずつ、警戒心も解けてきて、少しは返答ができるようになっている。と私は思っている。

 今日も昼休憩に田辺くんが遊びにやってきた。

「おっす」

「お、おはよ」

 先生は少し離れた位置から、私たちを見ている。昼休憩中は必ず保健室に戻っていたのに、田辺くんが来るようになってからは保健室にいるようにしている。

 よほど心配なのだろうか。

「授業の内容むずくない?俺まったくわからんのやが」

「勉強は…好き、で…ちょっと、得意」

「うえ!?まじで!!ちょテスト前になったら教えてくれよ」

「ん…」

 しぶしぶうなずく。先生が奥のほうで少し驚いた顔をしているのが見えた。

「よっしゃ!さんきゅー」

 お礼を言われた。私なんかが誰かの役に立てるんだ。

「特に数学!あれは苦手だな。やって何の意味があるの?って感じだぜ」

「分かると…楽しいよ。うん」

「分かるまでが長いんだぜ」

 勉強、いろいろ教えてあげようかな。いままで何となく勉強していたけど、だれかのためになるなら、頑張れる気がする。何より自分が救われる。

「あ…あの!…今度、勉強…教える、よ?」

「おぉ~助かる~。留年だけは絶対したくないからな。よろしく頼むぜ」

「うん…」

 私は初めて、ほんの少し笑ってみせた。

 

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