ヤンヘラガール   作:竹モチ

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息をするように誤字・脱字しますので、温かい目で読んでいただけたら~


3話 変わりたい

 田辺くんが来始めてから半年がたった。勉強を教えるということで昼休憩時間に保健室へ遊びに来る。

 意外なもので、私も教えるのが楽しくなっていた、今ではある程度普通に話せるようになっている。と思っている。

 先生は、この光景を見て時折嬉しそうにする。今まで誰かと話そうとすると黙り込んでしまうような私が会話できている。前に比べて変わり始めている。そんな姿を先生は嬉しいと思ってくれているのだろう。

 もしかしたら、田辺くんは本当に白馬の王子様なのではないか。と思ってしまう。

「なぁ、これわからん」

「これは、右の式と左の式が同じだから、こうやって同じ数値をかけたりできるの。それでxとかyとか消すんだよ」

「あ、そうなんだな!」

 田辺くんは結構、物分かりがいい。成績が悪いのも要領が悪いのか単にやる気が起きなかっただけなのか。この様子だと、今度のテストは問題なさそう。

「急に俺が賢くなったから、びっくりするぜ!みんな」

「そうだね」

「数学って南外面白いんだな!なんかパズルを解いている感覚になるぜ」

「パズル…そうだね。なんとなくわかる」

「だろ?」

 楽しい。素直にそう思った。

 こんなにも誰かと接して楽しいと感じたのは初めてかもしれない。

 それと同時に、保健室登校していることに対して、罪悪感のようなものを感じるようになった。教室に戻るのは怖い。でも、私だけが特別なのではない。頑張っている人もきっといるはず。そんな中で私だけが逃げ続けるのか。そう感じるようになっていった。

「そういえばさ、古賀は保健室にずっといて、暇じゃねぇの?授業受けて、間の時間はずっと一人なんだろ?俺は嫌だね」

「…私、教室に行くのが怖い」

 家族と先生以外には話したことがない話。過去の私を今、田辺くんに話そうとしていた。話してもいい。聞いてほしい。なぜかそう思ったのだ。

「怖い?なんで」

「…いじめられるんじゃないかって、噂話が聞こえたの。誰かを悪く言う女子たち、結局のところ私のことじゃなかったみたいだけど、それ以来、他人の声を聞くのが怖くて。いずれ私もって思うの」

「そんな奴ら気にしなくてもいい!所詮、三年間の付き合いだ。無視し続ければいい」

「…簡単には、いかない」

「まぁ、気持ちの問題だからな、俺がどうこう言うわけにはいかないぜ」

「ありがと」

「でもよ。一つだけ言わせてくれ。いじめてくるやつがいたら俺がぶっ飛ばしてやるよ。古賀は一人じゃねぇぜ」

 一人じゃ、ない?

 その言葉を聞いて、感心したように先生が近寄ってくる。

「あんた、いいこと言うじゃん」

「俺は、友達を大事にするんだ。仲間だと思ってな」

 友達。仲間。

「そんな情に厚い子だったのね。感心だわ」

 黙り込んでしまった私を横目に、先生と田辺くんが話をしている。

 はっきりと、私のことを友達と言ってくれた。

 そんな人は今までいなかった。

 家族さえも、ほとんど私を手放していたようなもの。

 そんな私を友達。仲間と言ってくれる。

「う…」

 思わず私は泣き出してしまった。

「は?おいおい泣くなって!俺が臭いこと言ったのがそんなに嫌だったのか!?」

「あ~あ、田辺くんが泣かした~」

「ちょだまれオバハン」

「誰がオバハンよ!」

「ごめ…違うの。なんかうれしくて、勝手に涙が」

「なんだ、うれし泣きかよ。存分に泣け!俺ハンカチもっとらんけど」

「肝心なところで締まらないわね」

 そう言い、先生はハンカチとティッシュを渡してくれた。

「てか、ハンカチ持ってないって…お手洗いとかどうしてるのよ」

「手を振り回して自然乾燥。もしくは洗わない」

「うわぁ。保険の先生として見過ごせないわね。ハンカチは持参すること!」

「へいへい」

 

 泣き止むころには昼休憩は終わっていた。

 田辺くんはまだ保健室に残っていた。この後、担任から小言を言われる。とめんどくさがっていたが、先生が事情を説明してくれるそうだ。

 泣きつかれたので、少し眠ることにしよう。オンライン授業の強み、録画を回して別の日に見よう。授業に参加しているわけではないので、録画でも問題ない。

 先生に一言言ってから、私は眠りについた。

昔の夢を見た。私がまだ教室で授業を受けていたころ。

 きっかけは確証もない噂話からだ。結局は私の勘違いだった。私がいじめられるという確証も確かにない。

 このままじゃだめだ。こんな私だから親からも見捨てられているんだ。先生にも負担をかけているんだ。

 変わりたい。

 絶好のチャンスだ。そう思った。

 

 

    ♦♢♦♢

 

 

「…ねぇ先生」

「どしたの?」

「私、教室で授業を受けたい」

「…本気なの?」

「本気と書いてマジです」

「そっか。うれしいわ」

 先生は、自分のことのように喜んでくれた。

「田辺くんのおかげかしらね」

「きっとそうです。田辺くんがいなかったら、私は教室に行きたいなんて考えもしなかったと思います」

「噂話って、ほんと信じられないわね。あの子の表面的な評価でしかなかったわ。根はいい子だった」

「確かにそうですね」

「先生として失格ね。表面上のことしか生徒を見ていなかった」

 少し落ち込み気味の先生。しかし、生徒のために落ち込むことができる先生がとても素敵に見えた。周りの先生たちとは違う。

「明日の朝、そのまま教室に登校しようと思います」

「いきなりね…もっと時間をかけてゆっくりと」

「いえ、決心が揺らぐ前に」

「強くなったわね…」

 とてもやさしい笑顔で私を見つめる先生。その表情は、どこかさみしさを感じる。そんな顔で見られたら、私もさみしくなっちゃうじゃん。多分、お昼休憩とかは保健室に帰ってくるよ。

「よし!じゃあ、担任に連絡しとくわ!」

「ありがと先生」

「ご両親には、どうする?」

「言わなくても大丈夫です。きっと私のこと興味ない」

「わかったわ」

 両親には、いつか自分で話すことにする。確実に教室復帰できるとも限らないから。

 

 そして、次の日。

 今日から、今日だけになっちゃうかもしれないけど、教室復帰する。覚悟は決めた、頑張る。

 握りこぶしを胸の前で作り、よし!独り言を言いながら学校までの道のりを歩いている。いつもより早い時間での登校。普段とは少し違う光景のように思えた。気持ちが視界にフィルターをかけているのかもしれないが。

 そして、校門前に到着する。すると高坂先生が待っていた。

「古賀ちゃん。おはよう」

「はようございます先生。どうして?」

「教室までの案内と、席を教えないとねって思って。クラス替えして初めてでしょ?」

「あ、なるほど」

 ちなみに、私の学校では、一年に一回クラス替えというものがある。しかし、私たちの学年は人数が少なく。クラスメイトは変わらず教室だけ移動するのだ。謎文化である。

「こういうのって担任がするはずなんだけど…あのクソハゲ、私に全部任せたって。もとより私が案内するっていうつもりだったけど、向こうがあの態度じゃ納得いかないわ」

「まぁ、仕方ないですよ。保健室登校といえど、不登校には変わりないのですから、先生の評価にかかわる」

「でも担任になった以上、責任は果たすべきよ!まったく」

 と愚痴をこぼしながら、校舎の中へと歩いていく。

 

 校舎内。いつも歩く道とは違う道を歩く。

 学校は全部で4階あり、私の教室は3階のようだ。階段がしんどい。まったく運動をしなくなったため体力の衰えを感じる。エレベーターかエスカレーターを新設してほしいものだ。

 階段の踊り場で息を切らしていると、先生は立ち止まってくれた。

「大丈夫?」

「大丈夫です。たぶん」

「大丈夫そうじゃないんだけど、少し休憩しましょう。焦ってもいいことないわ」

「ありがとう先生」

 そう言い、壁に寄りかかって休憩をする。窓から外を見るとチラホラ生徒が登校しているのが見えた。

 その中に田辺くんを見つける。意外と早いんだな。ぎりぎりに来て先生ともめてるイメージがあった。

「あ、田辺くんじゃん。珍しいわね。いつも遅刻ギリギリのくせいに」

 たまたまだったらしい。

 

 そして、教室に到着した。

「ハゲから、一番後ろの窓際に席を用意してあるらしいわ」

 そして教室に入る。

「…何考えてんのかしら」

 確かに窓際に一つ机と席が用意されている。教室の端のほうに追いやったといわんばかりに距離があいている。

 しかし、これはこれでありがたいかもしれない。誰かと距離が近いと、まともに授業を受けられないかもしれないから。

「これはこれで、助かります」

「あなたがそう言うなら、でも、黒板の文字は見えるの?」

「まだ何とも」

「そうよね。見えなかったら遠慮なく言うのよ。言いづらかったら私経由でもいいから」

「ありがとう」

 そうこう話しているうちに、ちらほらと生徒が教室に入ってくる。みんな、私を一目見て、誰?と声を漏らす。当たり前だ。入学してすぐ保健室登校になり、一年以上教室にいなかったのだから、覚えているほうが珍しい。

 物珍しそうにこちらを眺める生徒たち。視線が痛い。もう帰りたいと思い始めてきた。

「大丈夫?いつでも帰っていいのよ」

 それを察してか、先生は優しい言葉をかける。

「大丈夫です。今日だけは頑張りたい」

 だが、負けない。私は変わるんだ。

 そうこうしていると、田辺くんが教室に入ってきた

「あれ?古賀じゃん!どしたん急に」

「教室復帰、頑張ろうと思った」

「そっか!えらいぜ!ほめて遣わす」

 と言い、田辺くんは私の頭を乱暴になでる。髪がぐしゃぐしゃになったが、とてもうれしかった。

 時間を見れば、そろそろ授業が始まる時間。

「さて、先生は保健室で待機してよっかな」

「舞ちゃん、こっちでおらんの?」

「さすがに邪魔になっちゃうし、この子の独り立ちのためにもね。あと舞先生な?」

「先生、ありがとう。ほんとに」

「いいのよ。じゃ、頑張ってね」

 そう言い残し、先生は教室を出ていった。と同時に担任が教室に入ってきて点呼をとる。

 生徒たちはそれぞれ席へ着く。田辺くんは対角線上の席。一番前の橋の席に座った。

「おはようございます。出席をとります」

 出席順に名前を呼び返事をしなくてはいけない。出席簿を開き、一人ひとりチェックしていく。

 私の出席番号は7番。その時を待つ。が。

 私の名前が呼ばれない。

 明らかに私の順番は過ぎている。最後に呼ばれるのかな?なんて思いながら待つ。

「え~、全員出席ですね」

 結局、最後まで呼ばれなかった。あぁ、居ないもの扱いか、ちょっとしんどいな。なんて思っていると、田辺くんが声を出す。

「おい高木、古賀の名前まだ呼んでねぇぞ」

 高木とは、担任の名前だ。田辺くんは基本、先生と呼ばないんだな。

「あぁ、古賀さん」

「…はい」

 聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で返事をしてしまった。せっかく呼ばれたのに。

「気ぃつけろよ」

「普段、居ないもんなんで」

「あ?なんだその言い方」

 田辺くんはイライラしながら席を立つ。

「席に戻りなさい。授業中です」

 チッ!と舌打ちをしてから席に戻る。

 そして、授業が始まる。

 

 最初は数学の授業だ。担任が担当する。さっきの一件から少し居心地の悪さを感じる。しかし、気持ちを切り替えて授業に挑むことにした。

 ん…。

 まったく内容がわからない。普段のオンライン授業と変わらないのに全く内容が頭に入ってこない。

 それに、疑問に思ったことは、その場で高坂先生に質問していた。今回は居ない。後で高坂先生に聞くか…いや、せっかく授業に出席しているんだ。目の前の先生に質問をしよう。疑問のまま置いておくほうがもやもやする。

 そう思い、私は手を挙げた。小さくだが

 しかし、気づいてくれない。

「せん!…せい…」

 頑張って声を出してみた。しかし、最初の二文字で力が抜けて、消え入るような声で先生を呼ぶ。

 一瞬、ちらっと先生がこちらを見た。

 しかし、無視して授業を進める。

「あはは…」

 私はすっと手を下した。

「おい高木、古賀が呼んでるぞ」

 それを見かねてか、田辺くんが代わりに先生を呼んでくれた。

「はぁ~。なんですか?」

 クソデカため息とともに、私へ視線を送る。そのリアクションに少し話す気力を失ってしまった。

「あ…あの、質問、なん…ですけどぉ」

「後にしてください」

「…はい」

「は?おい高木、質問ぐらい聞いてやりゃいいじゃねぇか。そんな3分も時間が割けねぇのかお前の授業は」

「黙りなさい。授業の邪魔です」

「黙るのはお前だ。さっきから古賀に対してなんだその態度は」

 苛立ちながら席を立つ田辺くん。私のために争わないで!!なんて言う日が来るなんて思ってもみなかったな~。暢気すぎるか、さすがに。

「席へ戻りなさい」

「なんでかって聞いてんだよ!」

 田辺くんは自分の机を蹴り飛ばす。ものすごいおとが響き渡る。そのせいで動悸が。

「"触らぬ神に祟りなし"だからです」

「は?祟り?」

「はい」

「お前、調子のんなよ。あいつがどれだけの思いでここにいるかわかってるのか!?」

 田辺くんは、今にも先生の胸倉をつかむ勢いで歩みを進める。

「座りなさい。授業中です」

「…くそが」

 教壇を蹴り飛ばし、私のほうへ向かってくる。

「古賀、ついてこい」

 そう言って、私の手をつかむ。しかし

「ごめ…足に力、はいんない」

「しょうがねぇな」

 そう言い。田辺くんは私の背中と足に手を回す。そのまま持ち上げられてしまった。いわゆるお姫様抱っこだ。

 そのまま教室を出る田辺くん。後ろのほうから女子生徒の黄色い悲鳴が聞こえてくるが、今はそれどころではない。

 え?どういう状況?これ…動悸が収まらない。

 このドキドキは、なに?いつものじゃない。

「え、おい舞ちゃん、なんでいんの?」

 教室の扉付近で高坂先生が腕くみしながら立っている。

「田辺くん。グッジョブ。今は舞ちゃん呼びも許してあげるわ」

「聞いてたのかよ」

 そのまま、階段を下りる。この方向は保健室かな?

 気づけば私は、意識を手放していた。

 

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