ヤンヘラガール   作:竹モチ

7 / 12
7話 ヘラる私の瞳

「ねぇねぇ、そこのお兄さん」

 夜の街、今日も道行く男性に声をかける。

 あれから、何日たっただろうか。私はお金を貰いながら知らない男性と夜を過ごす。いわゆるパパ活と言われるものをやっている。その場限りだが心の穴は埋まり、さみしさはを紛らわせることができる。それに、もともと物欲がないのでお金も溜まっていく。気づけばものすごい額の貯金が手元にあった。

 家には帰らず男の家に入り浸る。いまごろ家族は私のこと、どう思っているのだろう。スマホには連絡が来ている。返事するのが面倒でずっと無視し続けているが。どこかのタイミングで携帯番号も変えよう。

「お姉さんかわいいね~学生さん?」

「そうですね。まだギリギリ学生です」

 真面目に通っていたなら。そろそろ卒業シーズン。みんな就職するか進学するかで悩む時期だというのに、私はふらふらと。自分自身に嫌悪感が募る。今更だ。生まれた時点で私は負け組だったんだ。

 ただ、愛がほしかったんだ。

「へぇ~学生さんが、こんな時間になにしてるの?」

「まぁ、家に居たくなくて、人肌恋しくて、いろんな男性の方に声をかけています。数万いただけるなら、ベッドで一晩過ごすこともできますよ」

 そんな生活を続けていた。みんな案外お金を払ってくれる。デートという名目でいろんなところに連れて行ってくれる。ご飯もおごってくれる。そしてそのままベッドイン。心が満たされていく。

 このまま続けていれば、田辺くんを忘れることができるのかな?いつまで続ければいいのかな?

 この男性も私にお金を払ってくれるみたいだ。では、約束通り。一緒に過ごそう。

 こうして、私は初対面の男性に肩を組まれてホテルへ向かう。

 その道中だった。目の前を歩くカップルが目に留まる。

「っ…!」

 田辺くんだった。女性と歩いている。前に見た金髪女とは別の人。私は思わず立ち止まってしまった。

「ん?どうした?」

「いえ、なんでもありません」

 視界から田辺くんを外し、私は再び歩き始める。心がざわめいていた。いま隣にいる男性のことなんぞどうでもいい。田辺くんが目の前にいた。再会した。複雑な気持ちだったが姿を見れたことが何よりもうれしかった。

「なんか、顔色悪いけど?」

「気にしないでください。いつものことです」

 あぁ、私はやっぱりあきらめきれないんだね。

 その日を境に、私は満たされなくなってしまった。

 

 やっぱり、私は田辺くんしかいない。

 どうすれば、また二人で楽しく会話できるかな?遊んでくれるかな?今は田辺くんのことで頭がいっぱいだ。

 昼時、私は久々に家へ帰ることにした。親と鉢合わせたくないから夜になる前には出ていこう。ネカフェ生活かな?お金はたんまりある。

 何事もなく家に着いた。鍵を開け中へ入る。何やら酒臭い。タバコの匂いもする。両親とも酒もタバコも嫌いなはず。別の人でも来た?いや、両親のことだから家でタバコも酒もさせないだろう。じゃあ、この匂いは?

 玄関を抜け、リビングの扉を開く。

「くっさ…なにこれ」

 両親だ。母親は机に突っ伏して寝ている。父親も床に寝転んでいる。

 そして、そこら中に酒の空き缶が転がっている。一晩で飲めるような量じゃない。何日も飲んでいたことが、なんとなくわかる。タバコの空箱がパッと見た限り10以上。あんなに酒もタバコも嫌がっていた両親なのに、この状況は何?

 二人とも寝息が聞こえるため生きてはいる。まず、仕事はどうした。平日の昼間なのに。あんな真面目に働いていた二人が、有給でも取って豪遊といったところなのか。

 娘がいなくなったとたん、羽目を外しすぎな気がするが。まぁいいや。とにかく起きたら面倒だ。さっさと私の部屋へ行こう。

 こうしてリビングを後にする。物音を立てないように。起こさないように。泥酔してる様子なので簡単には起きないと思うが。しかしタバコの匂いがきつい。服についていないだろうか心配になる。

 廊下を歩く。そこら中にほこりがたまっている。掃除は私が担当だった。二人に家事で負担をかけないようにって。

 

 私の部屋へ入る。出てった時と変わらずきれいなままだ。何一つ変わっていない。誰も部屋に入っていないのかな?

「このちゃぶ台で、勉強したよね」

 二人で、勉強をしていたちゃぶ台。一人用なので小さく、すごく距離が近かったの覚えてる。

「この参考書。そう、この本を見せたくて家に来てもらったんだっけ。田辺くんのほうから遊びに行きたいって言ってくれて、すごいうれしかったな」

 広辞苑サイズの参考書。物理学について書いてある。

 カーペットが敷いてある床にペタンと座る

「ここでくすぐりあいって言って遊んでたよね。昨日のように鮮明に思い出せるよ」

 あの時を思い出す。じーんと切なくなる感覚。田辺くんを求めたい。そんな思いが脳を支配する。でも叶わない。

 私は、何を間違えたのだろう。私がすべて悪いのかな?

 気持ちが沈んでいく。瞳に光が入らない。闇。病み。田辺くんにとって私が一番であってほしかった。好きって言ってほしかった。

 独り占めにしたい。そんな思いが強くなっていく。

「他の女なんか、みんな死ねばいいじゃん」

 ぽつりとつぶやいたその一言が、私にとって大きな指針になってしまった。

 そうだよ。田辺くんの周りから女が消えれば、私だけが隣にいれば、独り占めできるじゃない。あの隣で歩いていた女。あれを消すためにはどうすればいいのか。

 まず、あの女の情報が知りたい。

 思いついたら即行動。両親が起きる前に出ていくことにしよう。そう思い部屋から出る、その時ふと勉強机の上にあった紙切れが気になった。こんなの出ていく前にあっただろうか。多分なかった。私が出て行ってからの物だな。その紙切れを手に取る。

「”ごめんなさい”?なにが?」

 紙切れには、一言「ごめんなさい」と震えた字で書かれている。こんなの書いた記憶がない。いったい誰のだろうか。

「…まぁいいや」

 私は、その紙切れをもとの位置に戻し、部屋を後にする。そのまま玄関を抜け外へ。

 

 

    ♦♢♦♢

 

 

 現在は午後5時手前、学生なら放課後とあらわす時間帯だ。学校付近で私は待機する。田辺くんを見つけるためだ。

 先生に見つかっては厄介なので、姿を隠すため帽子とマスクをしている。これじゃあまるでストーカーじゃん。まぁこれからストーカーするんだけど。

「ん、いた」

 田辺くんを発見。気づかれないように背後から後をつける。これで自宅を割り出す。そういえば今まで家がどこにあるか知らなかったな。

 尾行を続ける。田辺くんは両耳にイヤホンを刺しているため簡単には気づかないだろう。不用心だなぁ全く。私みたいなストーカーに後をつけられても文句言えないよ?

 約15分ほど歩いたところで、一軒のアパートへ入っていく。三階建ての少し古びたアパートだ。入口に扉はなくそのまま玄関扉が並んでいる。気づかれないように入っていき、部屋番を割り出したいところだが、少し難易度が高いな。そう考えていたら、入り口付近にあるポストを開けて中身を確認していた。確認したポストには「203」と数字が書かれている。

 部屋番だ。全く、不用心すぎて助かるよ。

 インターネットで物件情報を検索する。部屋の大きさ的に一人暮らしである可能性が高い。そして、水道や電気、ガス会社は固定のようだ。ネットってなんでも出てくるから怖いよね。とても助かるわ。

 家の中に入り、そうだな。鍵が欲しいな。どうしようか。

 悩んでいると一つのビジョンが浮かぶ。かなりリスキーだが、まぁ試してみる価値はありそうだ。私は作業着のような服と工具一式を購入した。

 まるで配管工員だ。

 

 203号室に行き、インターホンを押す。

「はい」

 インターホン越しに田辺くんの声が聞こえる。この部屋で間違いない。私は少し作り声でこう答える

「突然すいません。私、株式会社エネルギーガスの者ですけど、緊急の点検作業依頼がありまして、少しお時間よろしいでしょうか?」

「ん?はーい、今行きます」

 ふぅ、とりあえず呼び出しは成功。心臓バクバク。

 数分後に扉から田辺くんが出てくる。

「はい」

 目がしっかりと合う。なのに気づく様子はない。今は助かるが悲しいな。

「突然すいません。ガスメータの異常値を検知いたしまして、緊急で現地点検を行っております。少しキッチン回りなどを拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、なるほど?ガスとかあんまり使わないですけど…。まぁ、お願いいたします」

 きた。不用心すぎて助かるよ全く。私がしっかり守ってあげないといけないね。

「ご協力感謝いたします。少しかかりますので、リビングのほうでおくつろぎください。貴重品などは持参のほど、よろしくお願いいたします」

「はい」

 そう言って、リビングへ向かっていった。間取りは1Kのようで、リビングとキッチンが扉で仕切られている。一般的な賃貸って感じだ。田辺くん以外に物音がしない。ということは、一人暮らしなのか、たまたま出かけているのか。後で聞いてみるか。

 では、工具類を広げて作業してる風を装う。そしてお目当てのモノを見つける。

「あった」

 カギだ。玄関のすぐとなり。ちょっとしたスペースがあり、そこに観葉植物は芳香剤、小物入れなどがありカギが入っていた。では拝借しようか。私は、ストラップ類ごと鍵をゲット。思ったよりあっさりしててびっくりだ。

 とりあえず、要は済んだ。あと少し適当に時間をつぶして、完了報告をして退散しましょうか。

「田辺様、作業が終わりましたので点検結果のご報告をさせてください」

「あいよ~」

 リビングから田辺くんが出てくる。

「今回、異常値につきガス漏れの可能性を点検しておりましたが、特に異常は見られませんでした」

「おぉ、それはよかった」

「ここには、おひとりで住まわれているのですか?」

「はい。そうっすね」

「最近、ガスを大量に使われたなどありますか?」

「いえ、まったく…。自炊しないし風呂もシャワーで済ませるし」

「では…そうですね。メータからのクエリーが異常値をポストしてる可能性がありますね。ファーム更新をしないといけないかもしれません」

「くえ…なに?」

「クエリーは、SQLサービスが所有しているお客様テーブルへメータ状況をプッシュして、会社側でそのデータベースへセレクトを出せば、田辺様の利用状況などがわかるんですが、そのゲットしたレコードがスレッショルド値を大幅にリダクションしているとアラートが出ておりまして、その確認点検でお伺いしました」

「は?へぇ~なるほど。よくわからんけど」

 なんか専門用語っぽいの並べれば、それっぽく聞こえるでしょ作戦。実際、ガス会社がどのように管理してるかなんて知らないので、割と適当な文章になっていると思うが大丈夫でしょう。それに田辺くんは呑み込みが早いけど、難しい単語が出てくれば理解しようとしない性格だ。私が細かく教えてあげていたので覚えている。

 こんなにも会話をして、私って気づいてくれないんだね。

 でも…他人行儀でも、またお話できたことが幸せだ。

「とりあえず、点検結果としては問題ないので、こちらの監視ミスということになります。大変ご迷惑をおかけしました」

「あ、いえいえ」

「それでは失礼いたします」

 何事もなく、その場から去ることができた。目的であった鍵もゲット。念のため監視カメラに顔が映らないように通り過ぎる。

 では明日。行動に移しますかね。

 私は、位置情報がわかる発信機と盗聴器を購入した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。