ヤンヘラガール   作:竹モチ

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8話 また褒めてほしかったから

 次の日の昼間、いまごろ学校に行っているだろう。そう願いながら私は再び部屋の前に来ている。昨日ゲットした鍵を使い開錠。中へ入る。

 立派な犯罪なんだよな。まぁ私たちが結ばれるために必要なこと。許される行為だ。

 そう自分に言い聞かせながら、リビングへ。

 約6帖ほどの部屋にデスク。ベッド。ウォーターサーバ。本棚が置いてある。デスクにはノートパソコンが置いてあり、電源が切れている。ベッドは普通のベッドって感じだ。本棚には漫画が数冊と小物やゲームか置かれている。

「す~。はぁ~」

 深呼吸。田辺くんのにおいを堪能する。決して私は変態ではない。そう信じている。

「さてと、のんびりしてる暇はないね」

 昨日購入した盗聴器を取り出す。さてどこに設置するべきか、とりあえずベッド裏に一つ。本棚の端に一つ。デスクの裏に一つ。

「あ。あ。よしちゃんと聞こえる」

 レシーバを耳に当て、ちゃんと聞こえているかどうかを確認する。問題はなさそうだ。しかし音を拾う範囲が少し狭い気がする。もっといいものを買うべきだったな。

「さてと、つぎは~」

 位置情報がわかる発信機だ。これはどうすればいいかな?一番なのは田辺くんに直接取り付けることなんだが、まぁ難しい。あたりを見渡していると一つのカバンが目に留まる。あれは、女と歩いているところを目撃した時に持っていたカバン。学校以外ではあのカバンで出かけるのかな?

 私は発信機をそのカバンの小さなポケットに入れる。

 よし。とりあえず目的は達成した。早々に帰るか。

 …いや、もう少しだけここに居させてほしい。私はベッドに寝ころび瞳を閉じる。あぁ、懐かしい。そんな気分になる。

 寝てしまいそう。

 ここ最近、ぐっすり寝た記憶がない。見知らぬ男と寝ることはあったがぐっすりと眠れているかと言われれば、そんなことはなく。やはり警戒したままだった。

 いま、ものすごい眠気に襲われている。ここで寝てしまったらいろいろと危ない。わかってはいるんだが体が動かない。ここは一旦あきらめて一時間だけ仮眠することにしよう。まだ下校までは時間がある。田辺くんが時間を守っていればの話だが

 私は、一時間後に目覚ましをセットして眠りについた。

 

 

    ♦♢♦♢

 

 

 目が覚める。自然と。目覚ましよりも早く起きちゃったのかな?スマホの画面を確認する。

「…え?」

 午後5時過ぎ。4時間ほど寝ていた。スマホのアラームは確かに切っている。無意識に切ったらしい。

「やば…早く外に!」

 慌てて玄関のほうへ向かう。

 ガチャ

 玄関の鍵が開く音が聞こえる。やばい帰ってきた!

 と、とりあえず隠れないと!えぇ~と…ベ、ベッドの下!

 私はベッドの下に身を隠す。ほこりがすごい。吸い込んで咳き込まないように気お付けないと。

「い~ま~だ~け~わ~たし~の~こ~と♪」

 歌ってる。めっちゃ歌ってる。田辺くんの生歌…!じゃなくて、この状況をどうにかしないといけない。お風呂中にこっそり抜け出すか?いや、風呂場のほぼ隣が玄関だ。音でバレる。

 寝るまでやり過ごすか。

「たとえ~いち~や~だ~けで~も~♪」

 すごい上機嫌なのね。せっかくだからレシーバで音も聞いておくか。うーんやっぱり拾う範囲が狭くて微妙だな。

 するとモータが回るような音が聞こえる。スマホのバイブレーションかな?

「あ、もしもし?佐藤か?」

 田辺くんは電話を始めた、佐藤?あの金髪の女だった気がする。

「おう、明日?いいぜ。ん~せやな~。授業終わってそのまま行くか。てか、もう学校行かなくてよくね?卒業式の練習ばっかでつまらん。まじそれな!あのハゲ」

 聞いた感じ明日の放課後に佐藤とかいう女と会ってどこかに行くようだ。非常に妬ましい。尾行して最終的に女の自宅を把握するか。

「じゃあ、明日放課後な。忘れんなよ~。おう、おれも好きだぜ」

「う…」

 思わず声が漏れてしまった。田辺くんの好きという言葉。私には一切言ってくれなかった言葉。なのにあんなあっさりと。許せない。

 あの女に対する嫌悪でいっぱいだ。

「さて、風呂入るかぁ」

 そう言って、リビングから出ていった。

 さすがにお風呂タイム中に動くのは危険だろう。どれぐらいの時間入っているのかわかっていない。これは夜寝るまで待機になるのかな?ベッド下はフローリングなので体が痛い。

 しかし、それほど苦に感じないのが不思議だ。田辺くんの部屋だからなのか。

 

 お風呂場から戻ってきた田辺くん。足元しか見えないから湯上り田辺くんを見ることができない。残念。今度は隠しカメラも用意しておこう。

「ふ~ん♪」

 田辺くんは鼻歌を歌っている。今日に限って上機嫌なのか、いつもこんな感じなのか。

 足の向きを見て田辺くんがこっちを向いていないことを確認する。少しだけ頭を出して田辺くんのほうを見ると、耳にはイヤホンが刺さっている。常にイヤホンをしているタイプの人なのかな?

 そのあとは、晩御飯を食べて、午後9時頃には部屋の明かりを消し就寝。とても健康的過ぎてびっくり。いびきが聞こえるのできっと寝ている。

 物音を立てずにゆっくりとベッド下から出る。

「いっ!」

 ベッドの足に頭をぶつけてしまったが、特に起きる様子もない。助かった。

 ふぅ。と一息。

 こんなリスキーなことして、なぜやり過ごせているのか不思議でたまらないが、主人公補正というものだろう。やっぱり私が主人公。最後に結ばれるのも私なんだ。確定された未来を感じてウキウキする。

 せっかくだから、学校のカバンにも発信機と盗聴器を取り付けておこう。

 これで、本日の任務は無事に終了。ちょっとヒヤッとしたけど何とかなったね。では、帰るまでが任務ということで気を引き締めて脱出するとしましょう。

 …私は、なんとなくベッドの方向へ目をやる。

 そこには気持ちよさそうに寝ている田辺くんの姿があった。

 スマホを取り出し、無音でシャッターを切ることができるアプリを立ち上げる。フラッシュもたかないように気を付けて、写真を一枚撮る。

 そういえば、田辺くんの写真、一枚も持っていなかったんだな。

 物音を立てないように、そっと扉を開けて玄関へ向かう。鍵を開けゆっくりと玄関扉を開ける。

 ゆっくりと閉めて、鍵をかけ、任務完了だ。

 私は、このまま近くのネカフェに泊まることにした。

 

 翌日。時刻は放課後と言われる時間帯。

 昨日仕掛けた位置情報と盗聴器を頼りに、田辺くんを探す。位置的にショッピングモールへ向かうみたいだ。

 あの女が食べてみたいスイーツがショッピングモールにあるから、いわゆるデートだ。私は田辺くんと出かけたことないのに。

 二人に突撃して邪魔してやりたいところだが、ぐっと我慢。

 とりあえず二人を見つけよう。私も位置情報を頼りにショッピングモールへ向かう。

 簡単に見つけることができた。あとはバレないように尾行する。女と別れたタイミングで女の自宅まで尾行するか。

「これか?佐藤が言ってたやつ」

「そう!これこれ~!まじかわいくない?」

「食べ物に対して可愛いという感情が湧かないぜ」

 二人はフードコートの一角にあるクレープ屋に向かった。これがネットで話題なんだとか。普通のクレープじゃん。

 いや、流行るということは何か別とは違う点が。イマドキ女子としていろんな見解を持っておかなければ…。見た目はマジで普通のクレープ。

「ほら!こうちゃんも写真撮ろ?」

「俺はいいって、写真苦手なんだ」

「え?そうだっけ?」

「そうだぜ」

 写真が苦手。そうだったんだ。

 半年以上、一緒にいたのに。私は田辺くんのことあんまり分かっていない。

「SNSにアップしちゃお~」

「女ってみんなSNS好きだよな。なんでなん?」

「承認欲求」

「お、おう」

「やっぱり、流行りには敏感にならないと!このクレープだって何がいいのかわかってないもん」

 じゃあ食うなよ。

「俺にはわかんねぇな~」

 私もわからない。そもそもSNSをやらないから。

「男子はそうだよね~。SNSにべったり張り付いてる男子って何かやだもん」

「俺は、俺の道を歩む!他人に左右されないのぜ」

「きゃ!かっこいい!」

 は?いちゃつくなよ。

 だめだ。思いのほかイライラする。位置情報はつかめるから、田辺くんが移動し始めるまで離れてよう。しかし久しぶりにショッピングモールに来た気がするな。昔は母親とよく来ていた。

 …いつからだろう。両親と疎遠になったのは。

 

 数年前。私がまだ小学生のころ。

「すごいじゃない!また百点よ!」

 毎日学校に行って、まじめに授業を受けて、気になった学問は勝手に勉強して、とても学習意欲が高かった。

 当時から友達がいたわけではないけど、十分充実していた。私がいい点を取れば両親がほめてくれる。

「おお!よく頑張ってるな!これはお受験して、いい中学校に行ってほしいものだな」

 私の父親も頭をなでてほめてくれた。試験を受けていい中学校や高校、大学に行ってほしいと思ってくれていた。

「お父さん。お母さん、ありがとう!」

「美咲は、私たちの自慢の娘よ!」

「そうだ!今度の休みにさ。ショッピングモールへ行こう。美咲が頑張ってるご褒美においしいもの食べに行こうな」

「いいわね!」

「やった!ありがとう!」

 私が頑張ると、決まってショッピングモールのレストランに向かう。私の大好きなお子様ランチを注文する。大き目のプレートは汽車のようなデザインをしており、煙突からは白い煙が出ている。きっとドライアイスだ。

 中央にはオムライスやハンバーグなど、私の大好きな食べ物たちが並んでいて。小さな国旗がオムライスに刺さっている。毎度違う国旗が刺さっているためコレクションしていた。いまでも、勉強机の引き出しに入っている。

 両親と一緒に出掛けて、大好きなお子様ランチを食べる。とても幸せだった。

 しかし。

 

「美咲、ちょっと来なさい」

 母親に呼ばれて、リビングで正座をする。

「どうして?なんでこんなこともできないの?」

 私は、お受験をしていい中学校に通うことになった。しかし、周りのレベルに追いつくことが難しくなっていき、成績は下がる一方だった。

「ごめんなさい。でも、私も頑張って」

「頑張ってるだけじゃダメなの。結果を出さないと」

「…はい」

 あんなにほめてくれた両親は、もういなかった。

「これは、もっと環境を用意しないといけないわね」

 そう言って、高い授業料を払いつつ塾や家庭教師などを雇い始めた。私の家は裕福な家庭ではなかったためお金の問題がある。そのため、母親も働きに出るようになった。父親の収入だけでは足りなかったらしい。

 そのかいあってか、私は無事卒業し、この辺りでは偏差値が一番高い高校へ進学することができた。しかし、やっぱり勉強に追いつくことができなかった。

 気が付くと、学力足らずで退学することになっていった。

 そして、別の高校に入学したのだ。周りに比べて一年遅れて。そのころから両親は私に干渉しないようになった気がする。

 私は、勉強スピードが遅いだけで苦手なわけではなかった。いろんな勉強をしてきた。ただ高校の雰囲気やスピードに追い付けなかっただけ。それに耐えられなくなったんだ。

 まぁ、入学して早々不登校になって、保健室の眠り姫になったわけだが。

 両親にまたほめてほしかった。けど、私の技量が足らなかった。

 頭では、両親が働きっぱなしになったのは私にいい大学に行ってほしい。いい環境で勉強してほしい。って思いがあるってわかっている。

 けど、心では私を見捨てたんだ。そう感じてしまう。

 今、両親は何してるだろう。また、家で酒とたばこやってるのだろうか。私の家出をきっかけに両親は変わってしまった。

 私がいなくなったおかげで自由に羽目を外せるようになった両親。やっぱりいらない子だったのかな。

 

 なんて考えていたら、かなり時間が経過していた。位置情報を確認すると、ショッピングモールから消えている。でもまだモール内にいるみたいだ。

 よかった。見失うところだった。

 では、尾行を再開しよう。位置情報を頼りに探索開始。位置的にゲームセンターかな?

 今度はイライラしないように。心を安静に。

 よし!行こう。

 

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