「あはは。こうちゃん変顔しないで」
「変顔するのはプリクラの醍醐味だぜ」
「もう!」
ショッピングモール内のゲームセンター。プリクラの筐体がたくさん並んでいる。その一つから田辺くんと女の声がする。盗聴器の意味がないぐらい外にまで聞こえる二人の声。というか主に女の声。
「なに書く?」
「美的センスがなさ過ぎて、何も出てこないのぜ」
「ん~。こうちゃん、かな、はーと!」
「おいおい、はずいって」
「いいの!シールは見えるところに貼るんだよ」
「えぇ、そんな」
いちゃつくんじゃねぇよ。
だめだ。想像以上にイライラしてしまう。何かいたずらしたい。
そう思った私は、近くにある雑貨店に入った。海外から輸入した珍しい商品とかパーティーグッズ、CD、DVDなんかも置いてある。見て回っているとかなりリアルなクモのおもちゃを見つけた。
「へっへっへっ」
これで今から脅かすんだ。って考えるとわくわくが止まらない。
早速購入して、二人のいた筐体へ戻る。これから二枚目を撮影しるみたいだ。プリクラの足元からクモのおもちゃを滑らせる。そしてすぐさま距離をとる。
「いやぁ!くも!」
「は?どこに」
「そこ!」
「…なんだおもちゃじゃん。にしてもリアルだぜ」
「は?おもちゃ?マジ誰!?」
「あははは!ほら画面見てみろよ。驚いた瞬間に撮影されてら。くっそブサイク」
「うっさ!マジ誰なん1?これ入れたやつ!」
盗聴器から聞こえてくる二人の会話が愉快。あんなのにビビってやんの。田辺くんも容赦ないね。くっそブサイクとか言われてる。
はぁ~。少しはすっきりした。
「このブサイクな写真のままにしようぜ」
「嫌なんですけど」
「そんなこと言わずに~。傑作だったぜ。誰か知らんがクモ入れたやつには感謝だな」
「まじぶち殺してやるわ」
相当ご立腹のようだ。とても気分がいい。
そのあとも、ゲームセンターの中でメダルゲームをしたり、リズムゲームをしたり、楽しんでいる。その間私は暇で仕方なかったが。
「さて、時間もかなり立ったことだし、帰るべ」
「そうだね。楽しかった~」
「くっそブサイク」
「もうそれやめて!?」
私も何か遊べばよかったな。なんて考えていると、そろそろ帰るみたいだ。では、ここから本題だな。
あの女を尾行して、自宅を割り出す。
「よし、じゃあまたな」
「うん。また明日ね。帰ったら連絡する」
二人はモール内で別れた。出口まで一緒に行かないんだ。
まぁいい。では尾行を…。
「お前、なにしてんの?」
「え?」
背後から声をかけられ振り向くと、田辺くんだった。
「お前、今日ずっと後ろつけてきてたよな」
「いや。気のせいだよ」
「てか、お前誰だよ」
あれ?どうして?
「私だよ?古賀美咲」
「あぁ、お前変わりすぎててぱっと見わかんねぇんだよ。それに、電車にひかれて死んだって聞いたけど」
「誰が、そんなこと?」
「学校中の噂になってるぜ。踏切に飛び込んだところを目撃したやつがいてな」
そうか、私は死んだ扱いなんだ。
「あ、あとこのクモ。お前のだろ。返すぜ」
そう言って、クモのおもちゃを私の顔めがけて投げてくる。おもちゃと分かっていながらも、背筋がゾッとした。
「もう、おれに付きまとってくんな、メンヘラ女が」
そう吐き捨てて、田辺くんは踵を返して歩き始めた。
「なんで…。そんなこと言うの。私は、あなたのことが好きなだけなのに」
思わず涙があふれだす。
だめだ。モール内で泣き始めるのはだめだ。堪えろ。
それに、すぐにあの女を追いかけないと見失ってしまう。
私は、そのまま女の向かった方向へ走り出す。
「…いた」
ちょうど、モールから出る瞬間の女を見つけた。しかし不自然だ。なぜ一緒に帰らないのか。なぜモール内で別れたのか?
まぁいいや。特に理由もないだろう。
さて、あの女を尾行する。最近の若者は夜道を歩く時でもイヤホンをしている。後ろからの襲撃に気づけない。まったく、不用心すぎて助かるわ。
そのまま尾行を続ける。するとアパートの中に入っていく。こいつも一人暮らしなのか。ポストは確認せず素通り。これは中までついていくしか部屋番号がわからないな。
ここの住人ですよ感を出しながら、女のあとを追う。そして扉の前で立ち止まりカギを開けている。その後ろを素通り、番号は…205号室だ。
私に気づくことなく中へ入っていく。腹いせに玄関前にクモのおもちゃを置いておこう。プレゼント。
さてと…家を把握したものの、どうやって消そうか。家にはいる瞬間に足で扉をこじ開けて、そのまま家の中へ突入。ナイフで刺す。なんて考えたが…アパートだと簡単に音漏れするからなぁ。タイミングをきちんと見極めないと。
部屋番がわかったことだし、上下左右の住人がいるかどうか確認しておこう。
よし、今日は遅いから明日だな。田辺くんを盗聴しながら帰るとしよう。位置情報は…自宅だね。
レシーバーを取り付け、田辺くんの部屋を盗聴する。鼻歌を歌っているようだ。相変わらず上機嫌だね。
『ん~♪』
『こうく~ん』
ん?誰だ?女の声がする。
『お風呂あがったよ~』
『おっけ』
『ねぇ結婚の話、考えてくれた?』
『俺、まだ高校生なんだけど、就職して安定したら結構しような』
は?結婚?
『え~無理。先に籍入れちゃってもいいじゃん。それに私は社会人だから養ってあげるよ』
『女に養ってもらうのは、俺のプライドが許さないのぜ。だから待ってろって』
社会人。二股かけてるってこと?あの時、私が男とホテルに行こうとしたときにたまたま見たあの女?姿を見ていないから何とも言えない。
『じゃあ、俺も入ってくるわ。電気消して待ってな』
そういうと、リビングの扉を開ける音。この先何が起こるかは容易に想像がつく。続きを聞く勇気は、今の私にはない。
レシーバーの電源を切り、ふらふらと帰る。
はぁ、病む。
どうして、こうもうまくいかないのだろう。私ばっかりが不幸になって、周りのみんなは幸せそうなの?
許せない。
♦♢♦♢
ネトカフェで一晩泊り、翌日の朝。
インカムの電源を入れて盗聴する。あの女はまだいるみたいだ。
『じゃあ俺、学校行ってくるから』
『うん、気をつけて行ってきてね』
ガチャリと玄関を開けて出ていく。家の中に女一人。なるほど。
私はネトカフェを後にして、そのまま古着屋へ向かった。安くて汚れても問題ない服を買うために。
「ある程度動きやすい服装がいいよね。スカートだと邪魔になる」
適当に何着か買う。
次に向かったのは、百円ショップ。大きめのごみ袋と包丁を購入するために。
「安い包丁でいいよ。切れ味悪いほうが痛そうだし」
「あ、あと手袋とマスクかな?」
諸々購入し終えて、レシーバーをチェック。あの女は?動画を見ているみたいだ。まだいるね。
さて、行きますか。
田辺くんの住むアパートへ到着。突撃する前に、上下左右の部屋に誰かいるかを確認したい。居留守使われる可能性もあるが、まぁやってて損はないだろう。
どうしようかな?とりあえず下の階の部屋へ。
ピンポーン。とインターホンを鳴らす、
『はい』
女性の声だ、インターホン越しで通話が繋がている。奥のほうから子供のはしゃぐ声が聞こえる。主婦の方かな?
「初めまして、あなたは神を信じますか?私たちのすぐ…」
『あ、結構です』
ここで通話は途絶えた。まぁ、私でもすぐに切るわ。
とりあえず下の階には住人がいる。足音はあまり立てないほうがいいね。
では、次は両サイドのお部屋。
しかし、両方とも反応がない。出かけているのか、だれも住んでいないのか。はたまた居留守か。
誰もいないという可能性にかけよう。
では、最後に上の階。インターホンを押すと低い男性の声が聞こえてくる。思ったがこの時間帯に家に居るのって主婦かニートがぐらいじゃない?テレワークの可能性もあるのか。
「初めまして。あなたは神を信じますか?私たちのすぐそばに…」
『もしかして、メリカリカ教団の方ですか?』
「え?」
『おぉ、まさかこの現代に同志がいるとは…。ささ、今玄関を開けます。一緒に語りあかしましょう』
「あ、いえ。別宗派です。すいません失礼します」
逃げろ、捕まったら終わる。急いで階段を駆け下りて見えない場所へ移動する。
ふぅ、危なかった。
とりあえず、上にも住人はいるということで。やっぱり物音をあまり立てないほうがいいね。
…確認も済んだことだし、あの女を消しに行くか。
扉の前、鍵を開ける。玄関をくぐりカギを閉めドアロックかける。
「こうくん?忘れ物~?」
とリビングから女が出てくる。お互いの目線が合う。
間違いない。以前夜に一緒にいた女だ。
「はじめまして~。田辺くんの彼女で~す」
私は少しふざけた言い方をした。不気味に感じるような明るく元気なふるまい。
「は?あの、どちらさまですか?」
「だ~か~ら!田辺くんの彼女だってば」
「こうくんの彼女は私ですけど」
「あらあら、かわいそうに。遊び相手なのに本気にしちゃったタイプなのね!」
「あ?」
眉間にしわが寄る。こんな神経を逆なでするようなことを言われて怒らない人の方がおかしい。
遊びを本気にした。ブーメランかな?
「とにかく、邪魔だから消えてほしいの」
「嫌です」
「別れましょうって言って、二度と会わないだけでいいのに」
「あなたが本当に彼女だというなrら、こうくんも交えてちゃんと話を」
「うるさいな!」
そこで私は持参してきた包丁を首元へ突き付ける。
「ひっ!」
「おとなしくしてよ。ご近所様に迷惑でしょ?」
突き付けたまま、女に迫る。後ずさりをしながらリビングの奥まで移動し、壁に押し付ける形になる。
「穏便に済ませましょ?殺したくないの」
「わかった。いうこと聞く。だからお願い」
さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、涙で顔がぐしゃぐしゃになっている。汚いなぁ。
「約束して?このことは誰にも話さない。田辺くんと別れる。二度と私たちに近づかない。できる?」
「うん。うん」
女は必死に首を縦に振る。相当死にたくないんだろうな。そりゃそうだ。
「ならよし」
そっと包丁を首元から離す。そして
「うっ…!」
腹部へ一刺し。
「まぁ、嘘なんだけどね」
「そん…な。殺さないって」
自力で立つことが難しいのか、ずるずると壁にもたれかかりながら座り込んでいく。そして、横に倒れこんだ。
「ねぇ痛い?痛いでしょうね。たくさん血が出てる。あはは」
「う…げほっ!」
口から血を吐き出している。内臓を貫通したかな?
包丁を勢いよく引き抜く。
「あああああ!」
悲痛の叫び声。おとなしくしてって言ったのに、ご近所さんにばれたらどうするの?
「あ~苦しんでほしいから、このままにしちゃおうかな?よかったね。残り短い余生を過ごしていいよ」
女は肩で息をして、意識がもうろうとしている。目の焦点が合っていない。
「じゃね~。田辺くんによろしくね~。まぁ帰ってくる頃には死んでるか」
ということで、血の付いた包丁は台所で洗わせてもらおう。あと服も着替えて、持参したごみ袋の中へ。
ちょうど今日は燃えるゴミの日。タイミングが神過ぎる。まさ回収車も来ていないから今のうちに出しちゃおう。
包丁を洗って、血の付いた服や手袋を捨てて。
よし、任務完了だね。
今日のうちに消しておきたいから、もう一人の女のことも消すか。
待っててね。田辺くん。