妖精の語り部
幼き日の記憶。それ即ち、成長と共に失われてゆくものであり
ます。
それは私達、妖精にとっても同じ事。ですが、つい昨日の出来
事の様に、鮮明に思える事が1つだけございます。
それは、そう。
あの日、あの時、あの場所で。我らが国王の愛する子が行った
1つの「過ち」。
「……な、何という事だ」
「年端も行かぬ幼子ごときが、我らが国宝に手を伸ばすなど……。しかも、それに飽き足らず所有者となるだと!?」
妖精国の禁忌。それをなんとも無邪気な笑顔でやって見せたのです。その顔は罪の意識などないことなど見てとれるほどに。
「我らは、また支配されるのか?」
「そんなの、嫌だ!あいつを、あれを今すぐ追放しろ!あれは妖精ではないのだろう!?」
「そもそも、なぜ私達の世界に妖精ではない物がいるのです!?」
「……ここまで我らを滅ぼす為に追ってきていたと言うのか?
こんなちびっ子が」
それが引き金となり妖精国は混沌と化し、同種同士で衝突が発生しました。衝突と言っても口だけのもの。血に染まる争いまでには至りません。しかし、それは唐突に訪れました。いつまでも決着の付かない口論のような、終わりの見えない黒い「影」が、妖精達の国を襲いました。全てを影で包まんとするそれは、妖精国に住まう妖精達では足元にも及びませんでした。
彼らは眼前に広がる闇に呑まれるしか、選択肢が残されていなかったのです。それは、何故か。彼らは長い時の中で、戦の記憶を忘れてしまっていたのです。
それほどまでに今までの世界は幸福に満ち溢れていたのです。
その平和が崩れ去ったのは、全てあの子が原因であったのでしょう。今までの当たり前が、常識が覆される事を厭うのは人でも妖精でも変わらないのです。
ですがこの危機を救った、逆転の一手を打ったのもまた、国王の愛するあの子でした。例え、その子自身が犯した罪を理解せぬまま、忘れていたとしても。その行いは、贖罪か。それとも、許されざる罪と呼ぶべきか。
「まさか、そんなことが信じられるか!その力は国王様しか使
えないはず!!」
「いや、確かにこの目でしかと見た。あれは創ったのだ。我々ではなく、魔力も持たない下等種が。紛い物などではない、正真正銘のーー生命を」
「……ミィ」
はたまた、永遠なる夢の始まりと呼ぶべきでしょうか。この夢
は長いようで短く、ちっぽけですが大きな意志を持った者達の
物語。
さぁ、今宵私があなたを誘いましょう。夢と現実の狭間の世界
へと。