「主様、ご準備が整いました」
「あ、ありがとう。アン。じゃ、そろそろ始めようかな!」
落ち込んで机に突っ伏していたユウさんだったが、部屋に入ってきたアンの声を合図に、マナはソファに腰掛ける。俺たちもそれに続いて空いている所に座る。
「始めるって、何を始めるんですか?」
「おいおい、瞬。まさか忘れたと言うのか?私達は今から姉さんの本の話をするんだぞ」
そうだ、当初の目的を忘れそうになっていた。アンチエンター、フォルディに燃やされた本の回収の話をしていたんだった。
「そ! そしてこれが本のリストだね。前に燃やされちゃった本をさっきの時間でアンがまとめてくれてたの!」
「これくらい、容易いことだわ」
ドサっと音を立てテーブルに置かれた紙束を見て俺は目を丸くする。十、いや百冊は優に超えているだろう。マナは確認する様に一枚一枚手に取りながら、頷いている。
「これに載ってる本達を探してくれば良いんだな、姉さん」
「うん、その通り! さっすが私のマナちゃん! 私はちょっとやる事があるから、マっちゃんと月代君とラミィとマナちゃんでお願いできないかな?」
「やる事ミィ?」
「うん、この前の書庫ごと燃やされちゃったからね。その周辺の結界とか修理とか」
「結界……ですか」
「うん、結界」
やっぱ慣れない。こう言った時の反応の仕方は変人のマターさんの対応をしている俺でさえ未履修だ。そんな考えが顔に出てたのだろう、マターさんが俺に話しかけてきた。
「ここに初めてきた時ビリッと来ただろう? あれがその結界だ」
「へぇ……。あ、でも、何でマターさんはあの時素通り出来たんですか? 何かその、バグ?とか?」
「目覚まし君、ゲームの話でもしてるのかい?」
「いや、耐火とか言ってたあんたに言われたくないですよ」
至極当然の、冷静な突っ込みを入れる。こう言う事を平然と言ってのけるマターさんの相手をするのは本当に、疲れる。
「ん~。そうだね。ハム子の結界は、そうだね。人感センサーみたいなものなんだよね」
「人が近づくと反応するやつですよね」
「そうだね。それで、特定の人がその結界から出入りするとね。それが消えたり現れたりするんだよね」
「は、はぁ。その、特定の人ってのは?」
「ハム子が許可した人」
「……」
なんじゃそりゃ。結界もよく分からないのに、そのシステムが割とフワッとしてて更に分からない。やっぱバグみたいなものだったんじゃないのか?かく言う、人も確率で壁抜けが出来るみたいな話をどこかで聞いた事があるし。
「それで、どうかな? 行ってくれる?」
「あぁ、もちろん僕は構わないよ」
「僕もミィ!」
「マターが言うなら私も問題ない」
2人と1匹は即決だった。俺は先程までの、よく考えたところで全く分からない、考えなくても分からない事で頭がいっぱいになりそうだったが頼まれて、それにこの流れで断るのは、出来るはずもない。そこまで俺は鬼ではないのだ。
「俺も大丈夫です」
「うん、じゃあ行こうか。皆」
「レッツゴーミィ!」
「気をつけてね~!」
ユウさんとアンに見送られるような形で、俺たちは屋敷を後にする。これ、いつまで続くんだろう。
渡された本のリストを見ながら俺はそんな事を考えていた。
屋敷を後にした俺たちは、山道を降り付近のバス停でバスを待つことにする。
「そう言えば何ですけど」
「ん?どうしたんだい?目覚まし君」
「月代です。えっと、何だったか……」
いけない。突っ込みに集中しすぎて聞くことを忘れてしまった。が、思い出す。今の俺の脳はこれによって活性化された、はずだ。
「あ、そうです。デマンドバス。デマンドバス使わないんですか?」
「あぁ、そうだね。今日は使わないよ」
「なんでですか?」
「ハム子からお駄賃を貰ったからだ」
「……何ですか、それ」
「他にもあるぞ。え~っと……」
そう言ってマターさんは背負ってるリュックを下ろして中を探る。
「財布と、バナナと、300円分のお菓子と」
「いや、遠足ですか! 財布だけで良いでしょ! なんでそんなもん持たせてんだ!!」
「もごもごもごごもごご」
「食べながら言葉を発さないでください! マナさん! 全く何言ってるか分からないです!」
「小腹が空いた時に」
「いらないでしょうがっ!!」
見送られる時にユウさんが急いでマターさんに渡してたリュックの中身が、まさか遠足じみたものだったとは。あの人もあの人で何考えてるんだ。
「何を言ってるんだ、瞬。腹が空いては魔力が持たないだろうが」
「魔力なんて知らないですよ!」
「お前の持ってるそれも魔力が出てるだろう。知らない訳があるものか」
マナにバックを指さして言われ、木偶の棒を取り出す。少し反応しているのか、触れた時、微かに熱が篭っていたように感じる。
(魔力……か)
ラミィから道具として渡されたこの木偶の棒。強く念じて、形を変化させるなんて言われてみれば技術でどうこうできる代物ではない魔法の様な力、それが魔力なのだろうか。
「この世界の魔力は薄い、というかほぼ無いからな。食べ物か何かで補給しないと魔力が持たん」
「そうなんですか」
「まぁ幸い、道具から出す分は数時間ほど休ませれば充分なくらいには回復するからないよりはマシだな。よくこれであの人、姉さんも生きてこれたもんだ」
(魔力って普段俺たちが食してる物から補給できるのか)
そんな話をしているとバスがやって来た。俺の知らない場所で、知らない存在も苦労してるんだな。バスの扉がゆっくりと開き、俺たちはそのバスに乗り込む。
バスの中ではこれと言った話はなく、揺られながら数十分で目的の場所へと到着する。
「ありがとうございました。3人分です」
「ハァイ、アリガトウゴザイマァス」
バスの運転手の特徴的な挨拶を後に、降車する。俺たちが降りると、大きなエンジン音を立てバスが発進していく。それを見送り、暫くするとマターさんの持つバックの中からラミィが顔を出す。
「ふぃ~、着いたミィ」
「ごめんね、ラミィ。熱かっただろう?」
「大丈夫ミィ! マター君の影響か、僕も熱さに強くなった気がするミィ!」
「ふふふ、そうかい? でも無理は禁物だよ。熱かったら遠慮なく言ってくれ。それと、水分補給もね」
「分かったミィ!」
マターさんとラミィのやり取りを尻目に、俺はリストを手に取り確認する。
「ん~と。この付近に本屋があるって地図では書いてあるんですけど」
「とにかく歩いて探してみよう、目覚まし君。探し物をする時はまず、自分から動かなくてはね」
マターさんが歩き始め曲がり角に差し掛かった時、そこから小さな影がスッと出て来た。
「キャッ」
「おっと。」
マターさんの肩辺りに何かがぶつかり、辺りに紙の束が散らばる。
「すまない。少し余所見をしていた。大丈夫かい?」
「あ、はい。だいじょぶです。私もしてたので……」
「ん? これは」
「!?」
散らばった紙の一枚を手に取り、それをまじまじと見つめていると
「す、すみません! 失礼しますっ!!」
マターさんから紙を引っ手繰るようにして取り、残りの紙をまとめ、小さな影は足早に去っていく。
「今のは」
「大丈夫ですか? マターさん」
「あぁ、僕は大丈夫だよ。それよりも」
マターさんは遠くを見つめている。
「先程の彼女の方が心配だ。僕とぶつかって尻餅をついてしまったからな」
「まぁでも、もう言ってしまったし気にしても仕方ないだろう。私達は本屋を探さねば」
「そうだね。何冊もあるし、出来るだけ多く集められるよう手分けをして探そうか」
「確かに、その方が良いかもな。瞬もそれで良いか?」
俺に意見を振ってくるマナさん。意見を振ってくるのはマターさんだけかと思っていた。なんだか不意打ちを喰らった様な気分だ。
「え?あ、はい。良いですよ。手分けして探しましょう」
「よし、決まりだな。集合場所は現在地、時間は今が正午だから、18時にしようか」
「分かりました」
「あぁ、じゃあ私は向こうの方で探してくる。何かあったら連絡してくれ。これが私の連絡先だ」
「連絡先があるならこれでグループを作ってここでこの本を買ったってのを写真で取って載せようたらどうです?その方が分かりやすいし」
「うん、そうだね。そうしよう。」
魔法使いがスマホを持つ時代かぁ。そうしみじみと思いながら貰った連絡先を登録し、グループを作成し、グループ内で軽く挨拶を交わす。
「よし、これでOKかな。じゃ、18時にまたここで」
それぞれ向かう場所に歩みを進める。俺も2人を見た後に出発する。
(良い本があったら俺も買って帰ろうかな)
そう考えながらリストを手に歩き始めた。