「お、来た来た」
集合時間1時間前。俺が見てくる範囲の箇所を一通り見終えた為、まだ早いと思ったが集合場所に向かうと聞き慣れた声がした。
「早い到着だね、目覚まし君。まだ集合場所ではないよ?」
「それ言うならあんたもでしょうが。俺は辺り一帯見て来たから帰って来たんすよ」
収穫の方はスマホのグループで確認しているから言うまでもない。が、何故かこの人はグループではなく個人で送ってきやがったから纏めるのも一苦労だ。正直まとめる作業をしたかったから早めに来たんだが。
「ん?もう2人とも来てたのか。じゃあ私が最後か」
「マナも一通り見て来た感じかな?」
「あぁ、残りはまた後日になりそうだ」
「そっか、じゃあ今日はこの辺りにして、っておや、あの子は」
1時間前に全員揃い、今から帰ろうと言うところでマターさんは何かを見つけ、俺の静止を無視しその方向に走って行き声をかける。
「おーい、君。そんな顔してどうしたんだ~い?」
「ちょ、何声かけてるんですか!」
「あ、あなたは」
マターさんが話しかけた人は緑髪の、赤い眼鏡をかけた中学生くらいの子だった。
「やぁ、昼間に会ったよね? そんなに暗い顔してどうしたんだい?」
「え、えと、それは……」
ナンパの様な話の始め方をするこの人と一緒に居たくないが、正直一緒にいないと何をしでかすか分からないので軽く耳打ちをする。
「ちょっと、迷惑でしょうが! ほら、帰りますよ。」
「落ちちゃったんです、私」
「落ちた?」
「それさ。昼間に少し見ちゃったけど、漫画の原稿だよね?」
「はい。何回も応募して、何回も落ちてるんです私。才能ないのかなぁ~。なんて、すみません。初対面なのにこんなこと」
「そっか」
漫画の応募。と言う事は漫画家を目指しているのか。それで落ちてしまい、ここで1人落ち込んでいると。
「よし、ご飯食べに行こう」
「「え?」」
突拍子もないマターさんの発言に目の前の少女と同じ反応をしてしまう。
「僕の奢りだ。善は急げとも言うし早速行くぞ~! マナもその子と一緒に来てくれたまえ!」
そう言うと少女をマナに任せ、半ば強引に俺の手を引き、バスの駅まで向かうマターさん。
「ちょっと! あの子が心配なのは分かりますけど、親御さんが心配するでしょうが!」
「僕から説明するから大丈夫。ほら、バスが来たぞ。乗った乗った~」
何でこう言う時のバスに限ってタイミングが良いんだろうか。いつもは遅れてくるのに。暫くバスに揺られ、マターさんが4人分の支払いをした後バスを降りると目の前には、マターさんとラミィと来たファストフード店があった。
「へぇ~。ここ、こんなとこに繋がってたんすね」
「ふふふ、そうだよ。さ、皆入った入った」
店に入ると店員さんの元気な声が聞こえる。
「いらっしゃいませ~。あっ、マターさんじゃないですか!本日もありがとうございます」
「うん、こちらこそ。今日はこの子のためにとびきりのを頼むよ」
「おぉ、はい。かしこまりました。では、注文が決まり次第お呼びくださいませ!」
そう言うと店員は、厨房の方へと向かっていった。俺たちは座席に着き、メニュー表を開く。緑髪の少女は立ったまま、俺たちに話しかけてくる。
「あ、あの」
「ん? あ~、もしかして迷惑だったかな?」
「い、いえ! そんなことは」
「まぁ、とりあえず座ってよ。ここ、僕の行きつけなんだ。悪いようにしないしさ。ほら」
マターさんは自分の隣を指さし、座るように促す。失礼しますと一礼した後、少女はマターさんの隣にちょこんと座る。メニュー表を見ていると、これまた元気な声が辺りに響く。
「おぅ、まっちゃんに瞬! らっしゃい! お? なんだ、今日も連れがいるじゃねぇか。有難いねぇ」
「あぁ、店長さん。ご無沙汰してます。こちらはマナ。そして、こちらが……」
マターさんが明らかにヤバっ、という顔でこちらを見てくる。恐らく名前を聞いてなかったからだろう。そんな空気を察したのか、少女は店長さんに向かって自己紹介をする。
「諷香、『古筆諷香』です」
「へぇ、マナちゃんに諷香ちゃんねぇ。おぅ、瞬。両手に花どころじゃねぇなぁこりゃ、持ち切れねぇんじゃねぇか、ん?」
「ちょっと! 揶揄わないでくださいよ!」
「ハハハ! わりぃわりぃ。年甲斐もなく色恋話は好きでよぉ」
「だから、そんなんじゃないですって!!」
注文が決まり、店長さんに伝える。厨房に伝えるために店長さんも店の奥へと消えていく。
「古筆さん」
「!? ひゃい!!」
「あ、驚かせたならごめんね。珍しい苗字だなぁって思ってさ」
「は、はい。そうですね。私も他に見た事は無いですねぇ~」
そんな会話をしていると店員さんが頼んだメニューを持ち運んでくる。俺が頼んだのは釜玉牛丼。他は全員牛丼の並盛だ。
「お待たせしました~」
「ん、来た来た。いただきま~す」
届いたメニューを皆黙々と食べ、食べ終える頃にマターさんが口を開く。
「そう言えばなんだけどさ、古筆さん」
「はい」
「絵柄見て思ったんだけど、この人って君だよね?」
そう言ってスマホの画面を見せる。そこに映し出されていたのは、とあるSNSのアカウントだ。
「……はい、そうです」
「やっぱりそうか。似てるなぁって思ってたんだよね。僕、フォローもしてたしすぐに気付いたよ」
「見てくれてたんですね。ありがとうございます」
「これ、最近になって結構有名になったアカウントですよね?面白い漫画描いてるなぁって思ってたより俺も見たことあったんですよね」
「ここに僕の友人、ハム子がいたら大興奮だっただろうな。ハム子、君の大ファンなんだよね」
「え、えぇ! そうなんですね。何だか照れちゃいます」
「漫画、だと!? 私にも見せてくれ」
何と、目の前にいる彼女はSNSでAP_incenseの名前で漫画を描いているちょっとした有名人だったようだ。
漫画という単語に反応したのか、マナが目を輝かせながら諷香さんに頼み込んでいる。
「え? あ、はい、どうぞ」
「ありがとう」
「……」
「……」
マナは食い入る様にスマホの画面を見ては、タップやスライドをしを繰り返している。暫くして、マナは口を開く。
「面白いな、この話」
「ほ、本当ですか? 良かったです」
「特にキャラクターの魅せ方が良いな。出てくるキャラ皆に見せ場があるような構成がとても、良い」
「感想までいただけるなんて。ありがとうございます」
「これで君を落とす漫画編集部の奴達は分かっていないな」
「……」
あ、これ確実に地雷踏んだな。場が凍り付くのを感じる。マナさんはそれを感じ取ったのか慌てた様に謝罪をする。
「あ、す、すまない。そんなつもりでは」
「いえ、良いんです。私、本当は才能なんて無いんです」
「そんなことは無いでしょう。現にここまで有名になったんじゃないですか」
「それは、今だけですよ。これが終われば私は……」
そこまで言った彼女は何かを言いかけたのかここで一息吐いた後
「いえ、何でも無いです。ここのご飯、美味しかったです。ご馳走様でした」
と言い、自分の分のお金を置いて帰っていった。
「? 急にどうしたんですかね?」
「う~ん」
マターさんは顎に指を当て、考える素振りを見せた後にこう言った。
「分かんない」
「分からないんかい!!」
「まぁ、でも彼女、ここのご飯美味しかったって言ってたし。また会えるかもしれないよ? 会えたら聞いてみようよ」
「その確率ってどのくらいなんですか」
「そうだね。君に分かりやすく伝えるなら、アニメでよくある、曲がり角で主人公君と食パンを咥えた美少女さんがぶつかるくらいの確率かな?」
「当てにならないし少なすぎますよ、それ!」
でも、正直その可能性に賭けるしか方法がないのは確かだ。会えたらラッキー程度に思う事にしておこう。俺たちはお金を払ってお店を後にし、ユウさんの屋敷へ戻る事にした