エンターテイルズ   作:セカラボ

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第5章 シンデレラストーリー

「えぇっ!? AP_incenseさんに会った!? しかも、中学生だったの!?」

「あぁ、そうみたいだな」

 

日も暮れ、辺りは暗くなりしんと静まり返っていた。この、目の前の吸血鬼が叫ぶ前までは。

 

「嘘、良いなぁ~! なんで私行かなかったの~!?」

「行かなかったんじゃなくて、自分から行けないって言ったんじゃないですか」

「それはそうだけどー! あーあ、こんな事なら全部アンに任せちゃえば良かった~!」

「全く、ご主人はこんな時にも。もう子供じゃないんだから」

「私も会いたかったー!」

 

年甲斐も無く俺達の目の前で駄々を捏ね始めるユウさん。ここだけ見ると本当に吸血鬼、真祖なのかどうかさえ疑ってしまう。が、

 

(アンチエンターの幹部を名乗った機械をほぼ1人でぶっ壊したんだよなぁ……)

 

人は見かけによらないとは言うが、超常存在達もそんな感じなのだろうか。

 

「まぁでも、頼まれていた本達はそれなりに見つけてきたよ。後は半分もないくらいかな。だからそんな気を悪くしないでくれよ、ハム子。彼女、漫画が好きだって言ってたし、もしかしたらバイト先の本屋で会うかもしれないよ?」

「うぅ、確かに。マッちゃんが言うなら……」

 

マターさんがポンポンとユウさんの肩を優しく叩く。そして、諭す様にそう言うと彼女は落ち着きを取り戻し、俺達の方に向き直る。

 

「ありがとう。マナちゃんにラミィ、そして瞬君。後は私のバイト先にもあるかもしれない本も探してみるから」

「どういたしましてミィ!」

「姉さんの助けになったなら良かったよ」

「……」

 

そんな様子を見ながら俺は色々と見て回ったが、俺が気になる本は特にはなかったなと考えていた。ユウさんのバイト先で見つけた本の方が面白そうだと思う物がたくさんあった。

 

「どうしたの? 瞬君」

「あ、あぁ。いえ、特には」

「急に難しい顔になったから何事かなって思ったんだけど……」

「今日ってユウさんバイトはないんですか?」

「え?うん、そうだけど。明日はそうかな」

「そうなんですね。じゃあ、明日行きます」

「何だ、目覚まし君。ハム子にデートのお誘いかい?見かけによらず大胆だねぇ」

「違いますよ馬鹿。今日は気になる本がなかったからユウさんのとこの本屋に行こうかなって思っただけです」

「あ、今、ストレートに馬鹿って言ったな?馬鹿って言う方が馬鹿なんだぞぅ」

 

両手の甲を腰に当て、怒っている様な感じを見せるマターさん。だが、その声に相変わらず怒気を感じなかった俺はいつも通り無視を決め込み、ユウさんと話を続ける。

 

「そうなんだね! 私はいつでも歓迎だよ!」

「それは良かったです」

「そう言えば、姉さんがバイトしてる本屋には行ってなかったな。瞬、私も着いてって良いか?」

「あぁ、はい。俺は構いませんよ」

「決まりだな。では、また明日姉さんと一緒に行こう」

 

こうして俺はマナさんと二人で明日、ユウさんの勤める本屋に行く約束を取り付けた。明日は俺の隣にいる訳の分からない先輩と行動しないし、常識人寄りのマナと行動することになった。少しだけ、明日が楽しみになった。

 

ブロロロロロロ……

 

バスに揺られること数分。俺は約束通り、マナと一緒に本屋へと赴いている。特段、俺は話すことはなかったので、最近気になっていたライトノベルを読んでいた。

 

「なあ、瞬」

「……」

「お~い、瞬~?」

 

マナに話しかけられていたことに気付かず、肩をトントンと叩かれてやっと気付いた。肩をビクッと振るわせ、後ろに振り返る。

 

「うぉっつ、な、なんですか?」

「そんな驚かなくても良いだろ。あ、もしかして何か読んでたのか。邪魔して悪かった」

「あ、いや。全然良いっすよ」

「前からちょっと気になっていたんだが」

 

一呼吸置いて、マナは言った。

 

「マターについてどう思う?」

「どう思うってそりゃあ。先輩、ですかね」

「そうか、そうか」

 

俺の中では満点に近い回答を出したつもりだ。だが、マナは何だか腑に落ちてないような、そんな表情を見せた。なら、何て答えれば良かったんだろうか。なんでそんな事を尋ねたのか聞こうとしたが、目を閉じ、顎に手を当てて考え込んでいる。

 

どう思う。

 

どう言う意図でこの質問をしたんだろうか?

この魔法使いはマターさんを、アンチエンターを探してここまで来たんだよな。読んでいたラノベを直し、マナと同じく顎に手を当て考える。そんな事を考えている内に降りるバス停に着いた。

 

「アリガトウゴザイマァス」

 

相変わらず特徴的なバスの運転手の挨拶を聞き、降車する。

軽く伸びをして、本屋の入口へと目を向ける。すると、どこか見覚えのある緑色の髪の毛をした子が入っていくのが見えた。

マナは気付いていないようで、

 

「どうした、瞬」

 

と聞いてきた。

 

「いや、多分見間違いかもしれないです。行きましょう」

「?あ、あぁ。分かった」

 

何を気にするまでもなく、俺達は本屋に入る。

 

 

そこにはやはり、あの子がいた。それと同時に

 

「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」

 

と、男性の大声が聞こえた。

 

「マターから聞いた特徴全てに合致する! あんたがEP_incenseさんか!初めて見たが、いやぁ本当に!」

「え?ど、どうも……」

 

鼻息荒く、少女に話しかけるその姿は正しく変質者という言葉がぴったりだ。知り合いでなければ間違いなく通報していたに違いない。だが、その存在は俺たちが来ている事にまだ気付いていないようだ。それとは対照的に、その少女、古筆さんは俺たちに気付き救いを求めるような眼差しをこちらへと向ける。俺はここで彼女を助けようと正義の味方じみた思いが芽生え、目の前の悪の帝王を倒さんと声をかける。

 

「ユウさん。落ち着いてください」

「あぁ、これは落ち着いていられない。握手、サイン! それから写真も一枚お願いします!」

「あ、あわわあわわ……」

「あぁ、それからSNS!フォローしてます! 面白い作品ありがとうございます!」

 

先程の俺の思いも虚しく、声すらも聞き届けてもらえず、若干涙目になっている少女は、ビクビクしながら目の前ですごい勢いで土下座をするユウさんを見ていた。

そんなユウさんの大声に驚いたのか、控え室の方から店長が出て来た。この場を見ればそんな反応になるだろう。

 

「ユウ、業務中大声出してどうしt……って、どうした!? 土下座なんかして」

「あっ、店長! お疲れ様です。いや~、今自分が気になってる人が来たもんでつい……」

「あ、お、おぅ。そうか。一応言っておくけど、あんまりデカすぎる声は出すなよ。それに、土下座も控えてくれ。今はそうそうお客様がいないから良いけど、な」

「はい、すいません」

「じゃ、俺はまた裏に戻るから何があれば呼んでくれ」

「了解です」

 

店長はそう言って足早に裏へと戻っていった。彼に諭されすっかり落ち着きを取り戻したユウさんはようやく俺たちに気付き、声をかけて来た。

 

「お、来たな。二人とも。いらっしゃい」

「ユウさん。俺、幻滅しましたよ。まさか、厄介オタクの典型みたいな方だったなんて」

「え"。いやぁ~、さっきのはほら。本人を目の前にするとやっぱ興奮する、しない?」

「そりゃするとは思いますけど、あそこまでは流石にないです」

「うっ。マ、マナはどうだ!?漫画が好きなら分かってくれるはず」

 

若干というか、ユウさんの顔からは大量の汗が流れている。助けを求めているような声色でマナに話を振る。マナは溜息を一つ

 

「はぁ~……」

 

とついた後、ユウさんの事を見向きもせず本を手に取り読み漁り始めた。まるで、最初からそこにいない存在のように無視を決め込んでいるようだ。これはマターさんにも使えるかもしれない。俺も勉強しなければ。と、そうだ。気になる事が一つあった。俺はその事について彼女に直接聞く事にした。

 

「そう言えば、諷香さん。なんでここに?」

「あ、月、代さん。でしたよね? 昨日はありがとうございました。今日はあの人はいないんですか?」

「あの人?あぁ、マターさんの事かな? 今日はいないよ。」

「そう、ですか。」

「もしかして、あの人に何か用があった? なら今すぐ呼びますけど。あの人だったら文字通りすぐ飛んで来るだろうし」

「あ、い、いえ。大丈夫です。特に用事はないんですけどその、親しげな感じだったので」

 

そんな感じに見えてたのか。俺はすかさず訂正を入れる。

 

「俺たちはそんな仲じゃないよ。なんなら俺はあの人の事どっちかって言うと苦手だし。向こうが勝手についてくるっていうか。勝手に俺のこと目覚まし君とか呼んでくるしうんざりなんすよね」

「……そうなんですね。私は気になる本があってここに来たんです。そしたら、あの人に」

 

と、横目でマナに必死で語りかけてるユウさんの方を見る。どうしよう。知り合いだって言い辛い。けど、向こうから話しかけて来たし隠し通すことはできないと判断した俺は、素直に謝っておくことにした。

 

「すいません。あれが前に言ってたハム子さん。俺達の知り合いです」

「あ、いえ。全然大丈夫ですよ……!あの人が前に言ってたハム子さん、なんですね。ちょっと、怖かったです、けど。月代さんとマナさんが来てくれたお陰で少し楽になりました」

「俺たち何もしてないけど?」

「いえ、いてくれるだけで充分有難いです。精神的な余裕、ってやつですかね?」

「そ、そう?なら良いか」

 

今になってもマナに向かって語りかけてるユウさんを放っておいて、俺たちは目当ての本を探すため、一旦離れた。いや、正確には俺は違うか。面白そうな物を探すために来たんだから。

店内をぐるっと一周し、気になる様なものも無かったので、彼女が立っているコーナーに俺も行ってみる。そこはライトノベルのコーナーで

彼女が手にしているのは「復讐色シンデレラ」という題名のライトノベルだった。

 

「私、この絵柄が好きで読み出したんですけど、中々面白いんですよね」

「へぇ、そうなんだ。どんな内容なの?」

「えと、そうですね。簡単に説明すると、いじめられっ子を庇った主人公が能力に目覚めて、いじめっ子達に制裁をする話、ですかね。私自身あまり見ないジャンルの物だったから惹かれたのかも?」

「ふーん、面白そう。俺もこれ読んでみようかな」

 

俺も彼女の持つライトノベルと同じ物の一巻を手に取りレジへと向かった。が、そうだ。この時間帯のレジはユウさんしかいないんだったっけ。ユウさんの方を見ると、未だにマナにストーキングをしている。俺も溜息を一つ吐き、吸血鬼に喝を入れる。

 

「ユウさん。仕事サボってないで仕事してください。」

「うっ。どうして2人して同じ事言うんだ。俺は悲しいぞ。」

「そんなの決まってるでしょうが。ほら、レジ打ってください。古筆さんも待ってますよ」

「何ぃ!? 今すぐ行くぞ!AP_incenseさんを待たせてはいけない!! うぉおぉぉぉ!!」

 

そう言うと、ユウさんは俺の目の前を走り抜けた。それも、勢いが強くて残像が見える程のスピードで。ユウさん、ここが本屋だって忘れてるのでは?と、心配になってきた。何でマターさんがいないのに、こんなに疲労感がするんだろう。そう思いながらレジの方へ向かう。

 

「ありがとうございます! 俺もこのラノベ読んでるぞ! 良かったら語り合わないか!!?」

「あ、は、はいぃ……」

 

最初と比較して少しくらいで良いから大人しくなっていて欲しかったが、俺の願いは届いてはいなかったようだ。

 

「少しは自重して下さい、ユウさん!俺、もうフォローしきれませんよ。ちゃんとした接客の一つも出来ないんですか」

「ぐぅ……。アンがいたらそんな事言われてるだろうことを一言一句違わず言われるなんて」

「当たり前のことを当たり前に出来てこそ、一人前です。まだまだ素人ですね」

「一体いつからこんなズバズバ言うようになったんだ? 俺は本当に悲しいぞ、瞬」

「はいはい。じゃ、会計お願いします」

 

そう言ってレジに持ってきた本を出して、お金を払う。会計を終えると同時に、マナもレジへとやってきた。手には本を持っていなかったが、ユウに話しかける。

 

「姉s……いや、兄さん。今日私は帰らないから。マターのとこに行く。そんだけ」

「な、何ぃ!? まぁ、マターのとこなら良いか」

 

ユウさんの気を付けろよの言葉と同時に振り返り、足早に店を後にするマナ。俺もそれに続くように店を出る。降りたバス停と反対方向のバス停に先に着いていたマナに追い付く。

 

「そう言えばマターさんのとこに行くって言ってましたけど、本人から許可は取ってるんですか?」

「ん? あぁ、勿論だ。先程メールで聞いたら速攻で返ってきた」

「……あの人らしいっすね」

 

マナの持つ携帯の画面を見て俺は苦笑する。やり取りがまるで俺と同じような、おちゃらけた感じの対応だ。メールの対応が早い点も含めて。

 

「姉さんもどちらかと言えば早いけど、それ以上の速さで返ってきたからびっくりした」

「まさかっすけど、ユウさんの態度見たから帰らないって言ったんですか?」

「そうだな。半分正解で、半分不正解だ」

「? どう言うことです」

 

一番肝心な所を聞こうとした時、店から出た古筆さんが俺たちの所にやって来た。顔色を伺うと、酷く疲れ切った顔をしていた。

 

「ど、どうしたんですか!? さっきまでとは比にならないくらい窶れてません?」

「あ、はい~。ようやく解放されたので」

「ほんっとすみません! 俺からキツく言っときます!」

 

こう言った場面は当事者ではない人がひたすら謝ることしか出来ないのが辛い所だ。迷惑をかけた本人、いや本鬼?が自覚すらないのが一番ダメな所ではあるのだが。

 

「い、いえ。寧ろあそこまでされた事がなかったので。勉強になりました」

「サインとか握手とかは執拗に強請られたら断った方が良いですよ」

「……すみません、それは最後にやっちゃいました」

「はぁ~……。ほんとあれ、何考えてんだ!!」

 

閑散としたバス停に俺の声が、山彦の様に響き渡った。暫くしてバスが到着し、それに乗り込む。降りるバス停まで俺たちは、今日買った本の内容について語り合っていた。談笑していた所、古筆さんが降りる駅になり、俺たちはそれを笑顔で見送った。

 

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