エンターテイルズ   作:セカラボ

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第10章 少女の終着点

「よし、着いた。古筆さん、君がアンチエンターの1人だったのか」

「あら、驚かないのね。まぁ、どちらでも良いですけれど」

「ニュースで話題になっているよ。殺人事件が多発してるって。それ、君の仕業じゃないかい?」

「へぇ〜、そんな事まで知られてるんだ」

「否定は、してくれないんだね」

 

いつの間に追いついていたのか、マターさんが俺たちの後ろから現れ、前に出る。俺の横を通りながら諷香さんに話しかけるマターさんの表情はどこか、悲しげだったように思う。

 

「面倒だけど、ここで倒しとかなきゃだよね。陳腐の奴にも言われたし」

「陳腐、メタファーの事ミィ!?」

「えぇ、彼を知っているのね。あれには気をつけなさい? けど、その前に」

「皆、来るよ! 構えて!」

「私が片付けてあげるわ。行きなさい、影精!」

 

その声を合図に地面に落ちている影から人の姿をした影精がこちらに向かってくる。

 

「危ない、瞬!」

 

ボウッ!!

 

向かってきた黒い何かは俺の後ろから飛び出したマナの炎の攻撃によって消滅した。

 

「ショックなのは分かるが、怠けてるとやられてしまうぞ、瞬」

「やるじゃない、魔法使いさん」

「な!? なぜ君がそれを知っている?私は君に魔法使いなんて言った覚えはないぞ。」

「私も聞いた覚えは無いです。無いですけど私、目が効くんです。あなたが人じゃない事なんて、一目見て分かってたんですよ。さて、お喋りは面倒なので、ここまでで良いですか? 来て、私の、影精騎士!」

 

古筆さん、いや、カーネイトが顔の横に両手をやり、2回叩くと漆黒の鎧のような物を身に纏った、巨大な騎士の風貌をした影精が彼女を抱える様にして現れた。それを皮切りに先ほどの騎士の影精の小さい奴が続々と出てくる。俺たちが先程までいたであろう路地裏も、茜空に染まった空も、その影たちに呑まれ辺りは漆黒に包まれる。

 

「影精相手なら僕に任せて! 照らせ、包光蓮華!!」

「あなた達の行動はフォルディのくれたデータから読み取れてるわ。だからその攻撃は、無駄よ。」

 

マターさんの取り出した書から光が放たれる。が、前の時の様に影は消滅せずその場に留まっている。

 

「ど、どうして? 前はこんな事にならなかったじゃないですか。マターさん、手抜いてます?」

「そんな訳ないだろう、後輩! 僕はいつでも本気だよ。こいつら、僕の出してる光を盾で防いでくるんだよ!」

「ウフフ……」

「なら、私の光線で! 行くよ、アン!」

「承知っ!」

 

剣に変形した傘から青白い斬撃が放たれる。辺りを包む黒い影が少しだけ和らいだ気がする。

 

「これならいけます! ユウさん、そのまま頑張ってください!」

「押し切ってやるわ! おりゃー!」

「……」

 

しばらくユウさんの放つ斬撃音が辺りに響く。その間、カーネイトは何もせずこちらをじっと見ている。何が目的なんだ?この間にも、こちらに攻撃すれば倒せるだろうに。何で攻撃してこないんだ?

 

「だ、駄目だ月代君。いつまで経っても明るくならないよ!」

「そ、そんな!」

 

こちらの様子を窺い、不敵な笑みを浮かべ、俺たちを見下すような視線を向けるカーネイト。あれが、今まで接してきた、彼女と同一だと言うのか?そんなの信じられない。俺は説得を試みることにする。

 

「なんで、なんでこんな事をするんですか?」

「はぁ……皆なんで、なんでって。面倒くさいなぁ。理由なんていらない、そうでしょう? 私がそうしたいと思うからよ。その方が、皆も見てくれるでしょう?」

「そんな……漫画が好きなんですよね? 少なくとも描いてるってことは」

「いいえ。」

 

俺の問いにバッサリと即答するカーネイト。

 

「漫画なんて大っ嫌い。流行りのものなんて設定が似たり寄ったりだし、それに乗っかるとパクリだと揶揄される。絵も下手だ、向いてないって言われるし、あぁ、ほんっとにウザい!やりたい様にやらせてくれても良いじゃない! あまり乗り気じゃなかったけど、やっぱりここで始末しよう。やっちゃってよ、私の騎士!」

 

カーネイトは一方的に会話を終わらせると、そう叫び、さらに影精騎士を呼び出す。とうとう辺りが影精騎士で埋め尽くされる。圧倒的な頭数で攻めてきて、完全に囲まれる形になってしまった。

 

「ヤバいですよ、これ! どうすれば!?」

「う~ん、そうだねぇ」

 

何でこの人この状況で冷静でいられるんだよ!前もそうだったけど、本当にわからない。自分の命の危機が迫ってきてるのに。

 

「まずは眼前の問題を解決しよう。僕たちを囲む無数の影。これらは盾を構えているね。考えられる理由は弱点の光を防ぐためだろう」

「ゆっくり話してる時間は無いんですよ、馬鹿! とっとと考えてる事話せ!!」

「む。それもそうだね。要するに、盾を剥がすために気を逸らす必要がある。正面からではきついから、この状況だと」

「盾を剥がせば良いのか?」

 

マターさんの話の途中でマナが口を開く。何か策があるのだろうか?

 

「そうだね。盾を剥がせれば光も届いて、彼女本体にも攻撃出来るだろう。」

「ならば簡単だな、燃えろ!」

 

マナが影精ではなく、地面に向かって炎を放つ。足元への攻撃に気を取られ、影精達は盾から手を離し下を向く。

 

「これで良いか?」

「あぁ、ばっちりだ、マナ。では今度こそ喰らうがいい! 描画召喚、包光蓮華!!」

 

俺たちを囲んでいた影精達は次々と光に照らされ消滅していく。やがて全て消え去り、カーネイトと彼女を抱える巨大な影だけが残った。

 

「ふぅん、やるじゃない。けど、もう満身創痍ではなくて?」

「なんの、まだまだミィよ!」

「ウフフ。無数の影を倒しても私にはまだ、このナイトがいる。今のあなた達では太刀打ちできないわ。」

「Oooooooooooooooooooーーーーー!!」

 

彼女に撫でられ、歓喜の声なのか咆哮なのか分からない声で影が叫ぶ。

 

「流石にあの大きさの影だと全部照らせないなぁ。今回はマナのサポートに回るとしよう」

「私もさっきので疲れちゃったから、あとは、よろし、く」

「あぁ、任せてよ」

 

パタっと力なく倒れるユウさんを尻目にマナはゴオッ!!っと音を立て、辺りを熱気で支配する。

 

「ウフフ、良いわ! じゃあ貴方から始末してあげる! 顕現しなさい、黒羽!」

 

黒羽。そう叫ぶと人型の影精の腕部分が翼になった様な影精が数体カーネイトの前に現れ、マナへと攻撃を開始する為に接近する。

 

「甘いな。そこは私の領域内だ」

 

箒の穂先から一本穂を抜き取り、それにフッと息を吹きかける。すると、ゲームで見る火炎放射の様に扇状の炎が黒羽達を襲う。

 

「面白い技ね。私も使っちゃお。顕現、黒霧」

「な!?」

「させるか! 描画召喚、暴風(ストーム)!お返しだよ」

 

カーネイトが顔の前に指で輪っかを作りそこに息を吹きかける。マナに放たれた黒い霧はマターさんの召喚した風によって無効化された。

 

「助かった。ありがとう、マター」

「このくらい大丈夫さ。ただ、このままだと後手後手になってしまって魔力が枯渇しかねないな。ところで、僕らにも見せてない技とかってあったりするかい?」

「あるにはあるが、何でだ?」

「彼女、フォルディから得た情報と、恐らく戦いで見せた戦い方を覚えてそれを完全再現出来る。道具も無しにだ。」

「そうだな。さっきのには驚いた」

「多分、彼女は妄想の中でその召喚、再現を行っている。僕の上位互換じゃないか、全く」

「それと見せてない物と何か関係があるのか?」

「あぁ、そうだったね。それなんだけど」

「……何をずっと話しているのかしら?」

 

ズドォォン!!

 

突如、巨大な影精が手に持つ武器で攻撃してきた。

 

「おっと、危ない。マナ!見せてない物があるなら今の内に出してみてくれ!」

「あ、あぁ。分かった。じゃあ、これだ!」

 

マナは炎を手に纏わせる。手に纏わせた炎はやがて形を成し、細身の剣のような形になった。

 

「Oooooooooo!!」

「くうっ……!せい!!」

 

影精の武器をその炎の剣で受け流し、その炎の剣を影精に向かって突き立てる。すると、その炎が真っ直ぐ伸び影精の兜に直撃する。カーネイトを抱えているので、体勢が崩れた事で彼女にも多少なりのダメージが入っているのか、小さく呻き声を上げる。

 

「ウッ……!」

「今だ! 狙いは巨大な影精! 照らせ、包光蓮華!!」

「効かない、わ!」

「か、ら、の~!」

「!?」

「地を這え! 黒炎(ブラックフレア)!!」

 

ズオォッ!!

ガシャーン!!

 

光に照らされてもびくともしない影精だったが、追撃の黒い炎をまともに喰らい、大きな音を立てながら崩れ落ちた。抱えていたものがいなくなり、カーネイトは地面に着地するが、驚きを隠せない様だ。

 

「なっ、そんな……!? 馬鹿なことが!!」

「マナ、後輩!攻めるなら今だ!攻撃の手を緩めるな!こういうタイプは隙を見せたらまた先程の様になるぞ。」

「そうだな、マター! 行くぞ、瞬!」

「へ? 俺!?」

「当たり前だろ。1番の大穴は瞬、お前だろ。何も見せてないんだし。」

「で、でも俺何すれば……?」

「なら燃えやすい素材でどうだ?」

「燃えやすい素材、ですか?分かりました。力、お借りします!」

 

マナと共に箒に跨り、マターさんの能力で松ぼっくりを描き、上空から落とす。

 

「な、何これ?……松ぼっくり?」

「君の漫画は面白かった。だけど、これで終わりだ。燃えろ、妄想と共に……」

「え?」

 

ズギャーーン!!

 

地面が赤く光り、マナの描いた魔法陣が浮かび上がる。そして、そこから巨大な火柱が舞い上がった。その中心にいたのだから、やられなくとも相当なダメージを与えたんじゃないだろうか。

 

「そんな、嘘……。私、負け……た?」

「あぁ、そうだね。君の能力、『妄想を具現化する能力』だろう?だから、あのような、影精達を出せたし、僕達の技も妄想で再現できた。違うかい?」

「……。」

「でも、それは完全に君にとって益ではなかったようだね」

「……え?」

 

カーネイトとの戦闘が終わり、俺たちが勝利した。だが何を思ったのか、マターさんは彼女に話しかける。何をしてるんだ、しかも何を言い出すんだこの人。

 

「妄想で巨大な影を召喚したり、技を真似たりするのはすごいと思った。けど、僕達が戦っている中で妙だと思ったんだ。影に囲まれた時、確かに苦戦はしたが、そこまでの傷を負ってはいなかった。けど、君は満身創痍だと言ったよね」

「……」

「それは、君自身が幻を見ていた。僕たちが影に飲まれた。そして、僕達が傷だらけになりながらそんな影の中から出てきた、という幻を」

「そ、そんな。嘘よ。メタファーは私を完全な者って」

「おそらく騙されたんだろうね、君は」

「……」

 

今まで信じていたものに裏切られたのだ。それはそんな反応にもなるだろう。しかし、メタファー。ここでもこの名前を聞くことになるとは。しかも、中学生の子をアンチエンターにさせて部下にするなんて、許せない。

 

「ふ、うふふ。やっぱり私、何の才能無かったのね。人を見る目も、何もかも」

「そんな事はないぞ。さっきも言ったが、君の漫画は面白かった。以前のその発言があったから、私達を攻撃することを躊躇ったんだろう?」

「……人じゃないあなたに私の心を読まれるなんて。いや、寧ろ逆なのかもね」

 

諷香さんは一息間を置き、再び俺たちの方へと顔を向ける。その顔は俺たちを蔑む様な顔ではなく、最初に会った時の古筆諷香の顔になっていた。

 

「人じゃないからこそ、人の気持ちを理解しようとする、のかしら? ……人のフリをするのが上手なのね、あなた」

「……へへーん、まぁね。それ程でもあるかな?」

 

いつの間に起きていたのか、ユウさんがヨロヨロと立ち上がり俺たちの方へ歩いて来る。

 

「……あんたは論外よ。隠す気すら無いじゃない。私が言ったのは」

 

 

 

 

 

 

 

カーネイトが消滅した事により、最後まで聞く事は叶わなかった。だが、その眼はマターさんの隣に立つマナに向けられていた様に思う。

 

「カーネイト、古筆さんは君が魔法使いだって事を見抜いてたみたいだね。それにあの口振りからするに、ハム子の事も吸血鬼だって見抜いてただろうし」

「あぁ、その様だな」

「あの子の能力は勿論だけど、あの観察眼は凄かった。是非とも僕達、RAMICAに加えたかったな」

「そう、ですね」

 

俺たちは幹部を名乗る古筆諷香、もとい怠惰のカーネイトを撃破した。周囲を覆っていた影の様な黒い霧も次第に晴れていき、帰路に着こうとした。

だが、俺達の視界に飛び込んできたものは一面が白銀に覆われた路地裏だった。

 

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