エンターテイルズ   作:セカラボ

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第11章 焔と冰のファンタジア

眼前の黒い空間が晴れる。最初に目についたのはカーネイトと戦う前の景色とはガラリと変わった、一面が氷漬けの路地裏だった。黒の次は白い空間が俺たちを待ち受けていた。あまりの変わり様に目がチカチカするが、この異様な光景、俺たちには見覚えがあった。

 

「……っ! これは」

「見つけた」

 

頭上からの声にはっと息を呑み、上を見上げる。そこにはいつか見た、白髪で着物を着た少女が立っている。

 

「探した。ようやく見つけた」

「君か。前にも会ったよね? 何の様だい?」

 

マターさんもいつか聞いた様なナンパの様な発言を彼女にする。だがそれは、前に聞いた明るい声色ではなく、今の空間の様な冷え切ったものだった。

 

「……お前と話すことはない。私は、そこのお前に話がある。」

 

と、少女が指差したのは、俺だった。

 

「お、俺ですか?」

「そう、お前。お前、そこにいる奴らとは違う。そうでしょ?」

「俺、は」

 

言いそうになった言葉を遮る。ここは何と言えば正解なのか。違うと言っても違わないと言っても一瞬で終わらせられてしまう様な、そんな感覚が脳裏に過ぎった。不安になり助けを求める様に俺は後ろに振り返る。自然と目が合ったマターさんは何か、俺に小声でこう言えと言った。俺はその通りに彼女に告げる。

 

「俺は、そうです。月代瞬、普通の人です」

「そ。ならお前は良い。」

 

張り詰めていた空気が一瞬和らいだ気がした。だが、そんな空気をまた彼女は元に戻す。

 

「そいつらに付くのも勝手だ。だが、お前がそちらにいると言うのなら、容赦はしない」

「なぜ」

 

質問をしようとするが、空中を滑る様に移動し、こちらに向かってくる彼女には届かない。

 

「名乗られたから名乗る。私は、風花。一ノ瀬の名を継ぐ者」

「い、一ノ瀬!?」

 

一ノ瀬という名前には覚えがある。と言うか寧ろ知らない方がおかしいまである。だが、俺以外のこの場にいる化け物達は揃いも揃って「ん?誰?」と言いそうな顔だ。

 

「一ノ瀬って言うとあれですよ! 元華族で今は皇族の人です!なんで、どうして!?」

 

何て事だ。俺たちは国家を敵に回していたのか。と言うことはアンチエンターって国家公認の組織なのか?そいつらが人の娯楽を奪ってる?

 

「皇族って、偉い人の事だよな? 彼女もアンチエンターなのか?」

「ちょっと待ってください。頭の整理が追いついてないんですけど。」

「襲ってくるなら敵だよ、きっと! それより、来るよ!」

 

ユウさんの言葉を合図に、向かってくる一ノ瀬に対し、大きく距離を取る。それほどまでに大きな氷塊が俺達を襲ってきたからだ。空中を移動する彼女の後ろには、板状の氷が出来ている。

 

「目覚まし君、気になっても触れちゃ駄目だよ。トラップかもしれないし」

「そんな子供じゃないんですし分かってますよ!それよりも壊した方が手っ取り早いでしょ」

「いや、瞬。そして、マター。その必要は無さそうだ。」

 

空中に留まっていた板状の氷が徐々に壊れていく。音もなく、ボロボロと。

 

「どう、なってるんだ?」

「きっと彼女の能力だね。恐らくだけど、空気も凍らせる程の冷気使い、そして、氷漬けになった物を壊す能力、ってとこだろうか」

「冷気、か」

 

時期的には冷え込むにはまだ早い。が、しかしこの場は真冬もかくやと言わんばかりに目が冴えるような、それでいて頭が痛むような冷風が吹いている。そんな中、マナは1人、風花の方に顔を向ける。

 

「私は冷めたものは嫌いだ。この勝負、私が受けて立つ! 皆は手を出さないでくれ。」

「あんたのそのノリもだいぶ寒いと思うけど?」

「何とでも言え! 燃えろ!」

 

風花を地を這う炎が包み込む。だが、それは不発に終わった。

 

「温いね、あなたの炎」

「何っ……!?」

 

少女の周りを包んでいた炎は忽ち凍り付き、その炎の形に凍った後、跡形もなく崩れ落ちる。

 

「先程の威勢の割にはその程度なのね」

「ぐぅっ……」

 

ギリギリと歯軋りをし、拳を握り締めるマナ。

 

「駄目だよ、マナちゃん! 挑発に乗っちゃ」

「分かってるよ、姉さん。」

「前に対峙した事あるからの忠告なんですけど。ここは撤退すべきです、マナさん。俺たちはあれには、恐らく敵わない」

「……わる」

「……え?」

「断る。敵わないのだとしても、一矢報いてやる! じゃなきゃ私の気が晴れない!」

 

駄目だ、マナは完全に熱が入ってる。それほどまでに、炎を凍らされた事がショックだったのだろう。語気が強くなっている。

 

「ふーん。無駄だと思うけど」

「やってみなきゃ分からないだろ!」

 

ゴオッ!

 

風花に一直線に向かう炎と、地を這うように移動する炎を同時に放つ。しかし、風花は1発目の炎を躱し、2発目の炎を難なく氷漬けにし、粉砕する。

 

「ほら、無駄でしょう?」

「チッ、ならこれで……!」

 

マナは凄まじいほどの熱気を放ち、辺りの空気が燃えるように熱くなる。しかし、それでも風花は平然としている。些か笑っているようにも見える。まるで、待ってましたと言わんばかりに。

 

「!! 危ない、撤退するぞ!戻って、マナ!」

「逃がさない。」

 

ミシッ、キンッ……キンッキンッキンッ‼︎

 

何かが凝結する様な音が耳に飛び込んでくる。の後、身体がふわりと浮かんだ様な感覚がし、視界が暗転した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

目が覚めると、見覚えのある絨毯の上に突っ伏していた。ユウさんの家の物だ。無事に帰ってこれたんだな。そう安堵した俺は、他の皆を探しに屋敷を歩き回ろうとした。が、その必要はないくらい大きな話し声が2階の部屋から漏れている。俺はその部屋に向かうことにした。

 

「ふぅ、危なかった。もう少し、いや、あと数秒でも遅かったら僕達はやられてたよ」

「そうなのかミィ? 何が起こったか分からなかったミィ」

「僕、実はここに撤退するまで彼女、風花の様子をずっと見てたんだよね」

「そうだったのか?」

 

そう言われれば確かに、マターさんは本に何か描きながら様子を見ていた気がする。

 

「見てて咄嗟に思ったんだけど、マナの出す熱気を待っていた様に見えたんだ。だから、その瞬間を見逃さないように観察していたんだけど」

「え? そうだったの? 私、そんな風に見えなかったんだけど。」

「あぁ。そしてそれが来た時、熱気が彼女の、空気すらも凍らせる冷気の能力で大氷塊へと変換された。僕らは危うくそれに押し潰され、粉々になるところだった。」

「……そんな!」

「嘘、だろ……私のせいで。」

「いや、マナちゃんのせいだとかそんなのじゃないよ! 敵わないのも無理はないし。今回で分かった。あれは、どうする事も出来ないよ。しかも皇族だし。」

 

俺はこのタイミングで部屋に入る。話の流れ的にここしかないと思ったからだ。

 

「お、目覚まし君。どうやら無事みたいだね。いやぁ、良かった良かった。これで全員集合だね」

「何ですか。誰か無事じゃないみたいな言い方じゃないですか」

「あぁ、よく気付いたね。目覚まし君。実は僕が無事ではないんだよね」

 

どういう事だ?見た限り、どこも外傷はないが。と、言うかあまり女性の身体をまじまじと見つめるものではないな。そう思った俺は咄嗟に目を逸らす。マターさんはそれを気にせず、話し始めた。

 

「先程の話に戻るんだけど。まだ予想の域を出ないけれども、彼女は何か能力を隠してる。これが証拠だよ」

「なんですか、それ」

 

マターさんは氷漬けになった何かをポケットから出し、俺たちに見せる。未だ見て分かるほどの冷気を放出し続けている。

 

「随分距離を取っていたつもりだったけど、反撃をもらったみたいだ。それもここへと戻るタイミングの時にね。僕の戦闘服の一部が欠けてしまったよ」

 

マターさんはそう言って、欠けてしまった服の切れ端を手に取り、フッと息を吹きかける。それは灰のように、風に乗ってどこかへと消え去った。

 

「まさか、これが無事じゃなかったって事ですか?」

「? そうだけど?」

「たかが描いた服じゃないですか。気にしなくても良いでしょ。」

「何を言うか、目覚まし君!これは重大な事だぞ。」

 

テーブルを両手でバンッと叩き、俺を睨みつける。今までにないマターさんの姿に俺は驚きつつ、話を聞く

 

「そんな重大なんですか?」

「それはそうだろう? 服を魔力で描いてその魔力が凍って、それが今、風に乗って消えてしまったんだ」

「それが、どうしたんですか?」

「本来なら道具の魔力は日を待てば回復するんだミィ。でも、その消えた分の魔力は、もうどうやっても戻らないミィ」

 

なるほど、戦力が少し削られてしまったという事か。フォルディの時も、カーネイトの時も、ほぼサポートに回り、隙を見て追撃をするマターさんの戦い方にとって、それは顕著に現れてくるだろう。

 

「確かに、それは無事ではないですね」

「だろう? けれど、マナのおかげである程度彼女について能力を知ることが出来た。これで対策を練ることができる」

「え、本当!? さっすがマッちゃん! さすマタだね!」

「あぁ。だけど、その為にはちょっと人手が欲しいんだけど……」

 

そう言って俺の方をチラッと見るマターさん。残念だが、俺はそれには乗ってやれない。なので、正直に伝えることにした。

 

「嫌っす。俺、学校なんすよ。ここ最近激動過ぎて疲れてるんですけど。休みたいです。」

「ごめん、マッちゃん。私も用事があって。マナちゃんもそれに手伝ってって言ってるから。」

 

誰1人として手伝える人がいない事が分かるとマターさんは、うんうんと頷きこう言った。

 

「そうか、そうだよね。なら僕1人で行ってくるよ。1人で出来ないこともないし」

「1人じゃないミィよ!」

「おっと。ふふふ、そうだね。じゃあ、ラミィと2人で行ってくるよ。」

「行くミィ!」

「よし、ではラミィ! 2人で遊園地に行くぞ!」

「遊びに行くんじゃないですか、それ!!」

 

 

報告レポート

No.03 デザイア

被験体名:古筆 諷香(こひつ ふうか)

種族:人

サブジェクトレベル:グーフ

担当者:期月映太

 

概要:

漫画家志望の小学生。「我が友」が連れて来た純正の人間だ。人に異能を埋め込むのが初という事もあり、高揚感が抑えきれない。我が友との共同策「教育」を行い、「怠惰」を植え付け、無事成功。

現在は我等の活動の素晴らしさを世に伝えるべく、外の世界へ放っている。

 

特徴:

緑髪のセミロング、赤縁の眼鏡をかけている。

小柄。

 

経過報告:良好。だが、異能が発現したところはあまり見られない。

 

作成日:20××年8月

 

 

 

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