第1章 とある少女の記憶
「本日のニュースです。株式会社アビルディの取締役社長、期月映太氏が本日ーーーー」
ピッ
「ふあぁ~……」
退屈だ。今日は大学の講義が無く、週に三度ある休日の内の一日。休日なんて言っても本当に休めるのなんて半日もないだろう。
何故なら俺は大学寮で一人暮らし。掃除に洗濯、朝昼夜の飯に弁当の作り置きの買い出し。そんな事をしていれば時間なんてあっという間に過ぎていく。
だが、その日は違った。
近くに置いていたスマホから音が鳴る。ホーム画面を確認してみると、大学からのメール通知のようだった。開いてみるとそこには奨学金説明会のお知らせと記された文言が映し出される。
「……そうだった」
すっかり忘れていた。今日だったか。メールを確認すると午後からの予定。少し早めに着いておこうかと考えた俺は、寝ぼけ眼で髪を整え、顔を洗い、支度をする。
「はぁ~、クソだりぃ。何でこういう時に休みなんだよ。なら講義があった方がマシだったろ」
休日に学校に行く事がどれだけ苦痛か。溜め息に混ざって愚痴が飛び出す。支度も終え、昨日作っていた昼飯、正確に言えば夕飯の残りを食べ終えると、丁度いい時間になっている事に気付く。時計を確認した俺は家を出て、徒歩で大学へ向かう。
徒歩で行ける分まだ良かっただろう。電車やバスなんかを使ってまで来る奴だっている。
(本当にご苦労なこった)
いつもと変わらない通学路を使い、学内にある会場へと向かう。会場前では受付の人でごった返していた。早めに着いてこの人数かよ、と内心呟きながらその人集りへ突っ込む。受付では名前の確認と今回使う資料を渡され、案内された席に座るよう促された。俺の席の隣には先に着いていたのか、白のブラウスに緑色のジャンパースカートを着たやつが座っている。どうやらスマホに夢中で、俺には気付いてないらしい。まぁ挨拶す
るのも面倒だし何しろ、俺に関わろうとする奴なんていないんだ。
2時間ほどかかっただろうか。暇すぎて寝そうになっていたが、説明会も終わり会場を後にしようとした時だった。
「はぁっ……起きてください。何、説明会で寝てんすか」
「……ん~?」
「ん~? じゃないですよあんた!そんなんで大丈夫なんですか?これから継続届とか提出することになるんですよ!わかってんのか、このボケ!」
「分かってるよ~。目覚ましく~ん」
「ったく。本当に大丈夫なんすかね。ほら、行きますよ。立っ
てください」
「え~、立たせて~」
「無理、却下、放置」
「ちぇ~」
説明会が終わり、生徒達が続々と教室を後にする中、何も知らない奴からすれば何気ない人と人のやり取りだっただろう。が、俺は違った。
(なんだ……あいつ?)
来た時には感じなかった。いや、気にしていなかったが、俺の隣の、あの横顔はどこかで見たことがある。同じ学校であるのだから、必然的にどこかでは会っているだろう。だが、勿論そんなのでは無い。帰る道中も、あいつの、起こされてた奴の事
が気になって仕方なかった。が、気にしても分からないんだ。
振り払うように頭を左右に揺らし、思考を強制的にシャットダウンする。さて、家に帰ったらまずは、弁当作りか。家にと言っても大学近くの寮だが、そこに帰り着いた俺は、明日の弁当のおかずを作り終え、しばらく時間を潰した後、眠りについ
た。
その夜のことーー
「あれ?君、こんな所で何してるの?こんなとこで寝てたら風邪引いちゃうよ?」
こちらを不安そうな顔で覗き込む影が一つ、俺の目の前でユラユラと揺れている。
「ん~?もしかしたら『王様』が言ってた子かも!?ねぇねぇ!君、名前は?」
「……」
声を出そうにも金縛りのようになって出そうにも出せない。だ
が、その影は無邪気な子供の様な明るい声色でこちらに語りか
けてくる。
「そっか!ナガレって言うんだね!やっぱり『王様』が言ってた子だ!ふふふ、良かったぁ。 ねぇ、僕と一緒に来てよ!」
そう言って、目の前の人影はこちらの手を取り歩き始める。俺はそれに連れられる様な足取りで前へ進む。なんで、俺の名前を知ってるんだ。暫くの間、その影に合わせて歩いていたが、
それはふと何かを思い出したかの様に立ち止まり、話しかけて
きた。
「あ、そうだった!!僕の名前を言ってなかったね。僕の名前はねーーーー」
バッ……!
「……ゆ、夢。か?」
汗をかいていたのか、じめっとする。
気のせいではあるのだろうが、夢で手を握られていた感触が
残っているように思う。夢にしては、やけに鮮明ではないだろ
うか。辺りを見渡し、何もない、いない事を確認する。
「何だったんだ、一体?」
慣れねぇ人波に揉まれて疲れてんのかな。
俺は、あまり他人とは関わらないようにしている。何故なら俺は産まれ付き、力が強かった。いや、強すぎるからだ。物心付いた頃には、触れたもの全てを壊してしまう「怪力」を持ち合わせていた。この力のせいで俺は……いや、考えるのはよせ、
俺。俺はその考えを脳内から消し去り、再び瞼を閉じて眠りに身を任せた