ピピピヒッ!
ピピピヒッ!
ピピピヒッ!
セットしておいた目覚まし時計のアラームが、部屋の中でけたたましく響く。手探りでその時計を探し出し、スイッチを消す。3コール目辺りで音が鳴り止み、部屋に静寂が訪れると同時に俺は布団から身を出す。
昨日のあれのせいか、あまり寝た気がしない。心なしか体調もあまり優れない。だが、だからと言って大学を休む訳にはいかない。祖父母がお金を出してまで入学させてくれたんだ。俺もそれに応えないと。
「……準備しねぇとな」
水で顔を洗って目を覚まし、寝癖を で治し、朝食のパンを焼く。これが俺の朝のルーティンだ。ここまですると学校へ行くのに丁度いいくらいの時間になる。玄関を開け、学校へと向かう。
「……」
正直な話、俺にとって学校は苦痛なものだ。
人ってのは、脆い生き物なんだ。身体的にも精神的にもだ。
さて、つまらない学校の講義も終わったし、帰って何しようか。帰路で何をするか考えながら、ものの数分で家の前まで辿り着く。着いたは良いのだが、玄関の前に何かいる。いつもの景色とは違う、非常識なものに俺は呆然と立ち尽くすしかできなかった。玄関の前にいるそれは人型ではなく、大きめのバッグであれば入りそうなサイズ感の、水色のベレー帽を被った、白く丸い生物が、何やら俺の玄関前でうろうろしている。暫く様子を見ても一向に退いてくれる気配は無く、このままいても家に入れそうにない俺はその存在に話しかけてみることにした。
最悪の場合、俺の力で何とかなるだろうと踏んだからだ。
「おい、テメェ。俺ん家の前で何してるんだ?」
「……!?」
俺が話しかけるとそれは、驚いた様な反応を示した後、こちらを睨みつける様な視線で見つめ
「ね、姉ちゃんはどこでござる!」
と、震える様な声で言い放つ。
……姉ちゃん? 誰の事だ? 俺はそんな奴知らねぇし、そもそもこいつの事も知らない。
「知らねぇよ。そもそも、お前は誰なんだよ?俺の言葉を理解出来てるってんなら言えるよな?」
「拙者は『ジョート』!さ、さては貴様、言葉を司るアンチエ
ンターか!?」
「……は?」
知らない奴からの知らない単語の連撃に、俺の脳は致命傷を受けた気分だ。だが、そんな事はお構いなしにジョートと名乗った目の前のやつは俺に捲し立てる様に話し続ける。
「言葉のアンチエンター、初めて聞くでござる。拙者は名乗っただろう。名を名乗るでござる!」
「……待て。何一つ言ってる事が分からない。何がどうなのか説明してくれないか?」
「そうやって騙そうってたって無駄でござる!ここにいる事はこのレーダーで分かってるでござるよ!」
そう言うとジョートは帽子の中に腕のような部位を突っ込み、
そこからコンパスのような物を取り出して目の前に掲げる。
「これは拙者が作った『妖精探知機』。使用者以外の妖精の気配を感じ取ることが出来る物でござる。人間界に来た妖精は姉ちゃんだけ。この場から妖精の気配を探知したということは、そう言うことではないでござるか?」
「……はぁ?」
全く訳が分からない。ただ一つ、分かることがあるとするならば、俺は何かしらの容疑をかけられているようだ。そして、俺はそれを晴らさなければならないようだ。
「……わーった。とりあえず俺は本当に何も知らない事を証明すれば良いんだな」
「こ、この期に及んでまだそんな事を」
「うっせぇ。疑い続けられるのも気分が悪くなるだけだ。今から部屋開けてやるから、確認したらとっとと去れ。その方が早いだろ?」
「……そう、でござるな」
「じゃあまずそこ退け。玄関開けれねぇから」
恐らく罠だとか警戒してるんだろう、俺の行動をずっと目で追っている。本当に何も知らねぇんだけど。なんなんだよ、マジ。
玄関の扉を開け、靴を荒っぽく脱ぐ。しばらくして奴が入ってくる。
「……な、何もない……?」
「さっきから言ってたろ。何も知らねぇって」
「ど、どう言う事でござる?妖精探知機が故障してるのか?こ
こに来るために乗って来た『車』も壊れてしまったし、どういう事でござる?」
部屋に入って、目当ての物がないと分かると1人その場でぶつぶつ呟いていたが、ここは俺の家。異物がいては居心地が悪い。
しかも、それにずっと疑われていては尚更だ。
「何もなかったらとっとと去れ。そう言っただろ?」
「……も、申し訳なかったでござる。拙者の早とちりで貴女に多大な迷惑を」
「そういうの、良いから」
「……失礼した」
その言葉を最後に、目の前の存在はスッと玄関の方へ振り返り、音もなく出ていった。面倒なのが消えて清々した。今から明日の昼飯を作ろうと考えていたが、さっきので気力がごっそり持っていかれた。
(朝起きたら作るか)
そう思い、俺は睡魔に身を委ねる。
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「皆の物、聞くが良い。こやつは大罪を犯した。国宝に触れた
事はおろか、新たな生命までも創り上げた。それが、これだ」
「……?」
見たこともないような光景。煌びやかな服を着た耳の尖った人が、木で出来た檻を持って立っている。その中には赤のベレー帽を被った白く丸い生物が閉じ込められており、足元には黒い人の形のモヤが倒れている。
「や、やめてよ……。なんで、なんでこんな」
「愚者は黙っておれ!」
「う、あぐぅ……!」
耳の尖ったやつが、倒れ込んでいる黒い影を踏み付ける。とにかく、とても見て気持ちいい物ではないのは確かだ。
「な、何たる事か。国宝に触れるとは。厳重に保管されていた
はずであろう」
「しかし、なぜ国宝には主がいるにも関わらず大罪者を選んだんだ?」
「知るかよ。大罪を犯したのは変わらないんだ。裁きを受ける
には充分すぎる罰だ」
周囲にも耳の尖ったやつらがおり、次々と思ってることを口に出す。その場はそれらの話し声で響めく。
「貴様がいなくなって清々するぞ。貴様が国王様に好かれていた。ここにいる皆はそれが気に入らないと思っていたが。ククク、貴様自ら追放されに来るとはな!」
「や、やだ……やめて……!!」
「やれ」
ドゴッ!
バキッ!
耳の尖った人が次々と黒い影を踏み付けたり、蹴ったりしている。影は抵抗しているが、それも虚しく彼らにやりたい放題状態であった。
「うぅっ……な、で……!」
「しぶといな。あまり使いたくはなかったが、仕方あるまい。おい、お主らそこを離れよ」
「はっ!」
一度倒れ込んだ影から離れる耳の尖った人たち。煌びやかな服を着た人が木で出来た杖を天高く放り投げ、その間に何かを呟くと同時に、床に魔法陣が展開される。
その中心部に杖を突き立てる。
グサッ!
「……え?」
見ていられないものから、目を背けたくなるものへと変化した。床にうつ伏せている黒い影の心臓辺りに杖先が突き刺さり、胸部から赤い液が飛び散る。
「フン、貴様はこの程度では倒れないんだったよな?暫くこうしてれば、貴様も動けまい。さて、こやつをどうするか。魔力に変換してやるか?こやつは相当の魔力になるはずだ」
「ミ、ミィ……?」
「だ、駄目……『連れてかないで』……!」
「⚫︎⚫︎⚫︎を、いじめるなぁ!!」
人形を手に持った青髪の少女が飛び込んできたところで辺りが白く染まった。