「お待たせしたでござる」
そう窓から声がしたので振り向くと、ジョートがいた。
「少し遅れてしまったでござるか。申し訳ない」
「いや、別にいいけど」
俺は単純にこいつが何してたのか気になったから聞いてみた。
「お前、15分で何してたんだ?」
「あぁ、実は道具を作ってたのでござる。ナガレ殿の分だけしか作れないことに気付いて、拙者用にも作ってたら遅くなってしまったでござる」
「道具?」
「うむ、『転移道具』でござる。先程見た遊園地に瞬時に転移できるものでござるよ」
「……まじ?」
「マジでござる。では早速」
ポチっと装置のボタンを押すと、忽ち俺達の足元に白い魔法陣が展開され、体はそこから発せられる白い光に包まれる。
「うおぉ!?何だこれ!!」
「ナガレ殿、あんまり拙者から離れないで欲しいでござる!」
光が強くなり、あまりの眩しさに目の前を腕で覆い隠す様に持ってくる。その眩さが徐々に和らぎ、隣からジョートの声が聞こえてくる。
「着いたでござるよ、ナガレ殿。目を開けるでござる」
「ほ、本当に着いちまった」
「よし、ナガレ殿!行きましょう!」
俺は唖然とした。目の前には大きく胡桃エンターランズと描かれた門が俺たちを迎え入れるように建っている。呆気に取られている俺の手を取り、ジョートと共に段差の低い階段を登り切り、受付へと足を運ぶ。
「おはようございます!何名様でご来園でしょうか?」
「あ、1人です」
「はい、承知いたしました!入場券を発行いたしますので少々お待ちください!」
「お待たせいたしました!右手にある入り口へお進みくださいませ!」
「……ありがとうございます」
入場券を確認し、入り口前の人が道を開ける。そこを通ると
「おぉ!すごいでござるな!」
「とりあえず一周するか」
「そうでござるな。では拙者はあちらから回ってくる故」
「何言ってんだ。一緒に来い」
「へ?」
俺がそう提案すると、ジョートはなぜ?という仕草をする。
「ラミィってやつがどんなやつかは見たが、はっきりした特徴とかは知らねぇんだ。だから一緒に見て回れ。その方が良いだろ」
「そう言う事でござるか、承知したでござる」
「いざとなれば、俺がぶっ飛ばしてやっから」
「感謝するでござる」
園内の案内板に従いどこからラミィを探すか検討する。それを見ると、遊具は沢山ありそうだが、そもそも園内をどうやって回れば良いのかすら分からない。
「まずは何処から探すか?」
「拙者にお任せあれ!やはり、人の出入りが多いところから探すべきでござる!」
「確かにそうだな」
「ではこちらに行くでござる!」
そう言ってジョートが耳の部分?で指差したのは、ショーが開かれる会場、大広場と書かれた場所だった。
「ここから行くでござる。ここなら人も多いでござる。他の人にも聞き込みができそうでござるよ!」
「よしっ、まずはそこだな」
「いざ、参らんでござる~!」
俺たちは園内を歩いていく。あまり他人とは話したくねぇんだけど。歩いているとジョートが話しかけてくる。
「そう言えばナガレ殿」
「ん?」
「何故、ラミィ姉を探すのに協力してくれるのでござる?正直拙者、見ず知らずの者にここまでされるとは思ってなかった故」
「別に。強いて言うなら……」
「言うなら?」
「……何かの縁だから?」
「縁、でござるか」
「だな」
「そうか、縁でござるか」
そう言いながらジョートはどこか嬉しそうな雰囲気を醸し出している。そんな話をしながら会場に着くや否や、ジョートが俺に慌てた様子で話しかける。
「ナガレ殿!あいつだ!あいつが姉ちゃんを……!」
「は?え?」
「あの黒髪に、あのバッグ!姉ちゃんをバッグに入れてた張本人でござる!!あいつが姉ちゃんを攫った奴に間違いないでござる!」
「……あいつか」
まさか本当にいるとは思わなかったし、こんな早くに見つかるとは思っても見なかった。だが、面倒事が早々に片付くのは良い事だ。俺は気配を殺し、奴に殴りかかる。
ドゴォッ!!
すかさず俺は拳を叩き込む。
「うわっと!!? あ、危ないじゃないか!君!!僕じゃなかったら再起不能になってるよ!?」
奇襲を仕掛けたはずなのに、当たっていなかった。
(かわされた……!?)
ブンッ!!
すかさず拳を叩き込む。が、当たりもしなければ擦りもしない。
「ちょ、ちょっと待って!?何だい、君!?」
「ちょこまかと動きやがって。お前と話すことなんてねぇ。さっさとラミィを出してくたばりやがれ!」
「な、なんだあれ?」
「喧嘩か……?」
騒ぎを聞きつけた人が俺らの周りに集まってくる。ある者は動画を撮ったり、またある者は係を呼びに何処かへ走っている人が見える。
(チッ、面倒だ……どうするか考えてなかったな)
こいつさえやれば面倒な事が全て片付く。そう思って動いたが、その後のことを考えてなかった。思考を巡らせ、沈黙が辺りを包む。その沈黙を破ったのは相手の方だった。
「ラ、ラミィだって?」
「……あぁん?そう言っただろ」
「フフフ、そうか、そう言うことか」
どう言うことだ?なぜ笑っている?一頻り笑った後、俺に向かって、いや、全体に聞こえるような大声で話しかける。
「フフフ!バレてしまっては仕方がないな!そうさ!僕が君の友達、ラミィを連れ去った張本人、『怪人ネメア』!!さぁ、青帽子に導かれし青髪の勇者よ!僕を倒してみせるがいい!!」
「ろ、路上パフォーマンスか!」
「喧嘩じゃなかったのね……」
何がどうなってんだ?奴の発言で俺たちの周りに集まった人々はこれを路上パフォーマンスと思い込んでいる。あいつこそ、ジョートの言ってた『言葉を司るアンチエンター』なのではないか?そう思った俺は、奴に飛び掛かるように攻撃を開始する。だが、悉く避けられる。
「どうした?その程度かい?」
「姉ちゃんを返すでござる!」
「言ったであろう!僕を倒せれば返してやろう、とねぇ!」
「チッ……全然当たらねぇ!どうなってんだ!?」
ブンッ!!
ブンッ!
俺の拳からは空を切る音のみが聞こえる。飛ぶように大きく避けながら移動するネメア。どこかに誘導しようとしているのか、奴は細い路地へと入って行く。そこは、行き止まりの場所だった。自分で不利な状況を作り出した奴に俺は勝利を確信する。
「もう逃げ場はねぇぞ」
「諦めるでござる!!」
「……そのようだね」
そう言うネメアの表情は余裕とも取れる顔をしている。だが、これで面倒事とはさよならだ。
「オラァッ!!」
「描画、送還っ!」
ネメアの口からそう聞こえた瞬間、ここに来た時と同じような光に包まれる。そこで俺は気を失った。