「わたしと あそびましょう。ねぇ ナガレ!」
「何だ!? 何で俺の名前を知ってんだ? どこにいやがる!?」
パニックになる俺。横から何かの声が聞こえる。
「落ち着くんだナガレ。ここでは何が起こってるか分からないから、ひとまず子供たちが入って行ったテントへ向かおう」
「……そうだな」
マターの声だ。俺は、こいつの声で冷静さを取り戻し、走ってテントのある場所へ向かう。不思議なことに、結構な距離であったにも関わらず人とすれ違う事なく、その場にたどり着いてしまった。……遊園地、だよな?平日ってのもあるかもだが、従業員の1人にも会わなかった。
(なんだ? なんで、こんな閑散としてやがる……?)
「ねぇ、ナガレ」
「……なんだ?」
「やっぱり、僕の読みは合っていたみたいだ」
「……アンチエンター、っだけか?」
「そうだね、さっきの人形。それが今回の僕らの相手だろう。この静けさといい、この雰囲気。間違いないだろう」
その辺は俺は詳しくないから分からねぇが、こいつの言うとおりなんだろう。
「黒い影とそれらを使役するもの。使役するものがまさか今回は白い人形とは……。それと、一つ良いかい?」
「お、おぅ。なんだ?」
「あの人形。はっきりと君の名前を読んでいたね。君にやたらとご執心みたいだけど、何か関係あるのかい?」
走りながらマターは俺の方を見つめる。……あの目だ。何もかもを見透かすような大きな瞳。その目を見ていると、何か引き込まれるような感覚に陥る。
「俺は、あいつの事は知らない」
「……そうかい」
正面に向き直り走るマター。向き直ると同時にその感覚が落ち着く。そのあとは何もなく、目的地に到着した。
「ここだね」
「特に何も変わっちゃいねぇが?」
「あなたたちも あそびに きたのね。ていいん おーばーだし 『おとな』 だけど とくべつにしょうたい して あげる」
スマホから聞こえたあの声がテントの中から聞こえてくる。
「声はこの中から発生しているみたいだね」
「だからテメェは誰だ? どこに……って何だ、こりゃ!?」
入り口から無数の白く細い機械のような腕が伸びてくる。それは俺を掴むと、とてつもない力で引き摺り込んでくる。
「っ!ナガレ!!」
マターが俺の方に腕を伸ばすも、掴むことができず、俺はテントの入り口へと飲み込まれる様に引き摺り込まれた。
「いっつつつ。どこだよ、ここ」
外観は少し大きめなサーカステントの様な見た目だったはずだ。こんなに内装が広い訳がない。
「ようこそ わたしの おうち ふぁみりーてんと に」
「くそっ、誰だテメェ! どこだよ、ここ!!」
俺は怒りに任せて声に言い放つ。その声は、ゆっくりと答える。
「わすれた なら おしえて あげる。 わたしは 『くぐつ の ゆーぎ』。あんちえんたー の ひとり」
「アンチエンター……! やっぱり、お前が……」
「あんち えんたーは しってる?なら はなしが はやい。 わたしと げーむ しよ?」
「ゲームだと?」
「ゔぁーきる が いってた。げーむ は つよいものの あかし。げーむめい は めいろ からの だっしゅつ。いま あなたの いるばしょ は めいろに なってる。でぐち みつけて」
迷路からの脱出だと? そんなの俺の拳で壁をぶち壊してやる。俺にはそんな事に付き合ってられないとそんなことを思っていると、この考えをお見通しだと言わんばかりに声は続ける。
「でも ただの めいろ つまらない。だからわたしの てした はいちした。たおしても たおさなくても かまわない」
「は? ふざけんな!早く出て来い!」
「ちなみに かべ こわそうとしても むだ。あなたの ばかぢからでも こわせないように してる」
「なっ!? 誰が馬鹿だぁ!?」
「るーるは せつめいした。いじょう」
そこで、プツンと音声が途絶えた。付き合ってられるか、こんなの。俺は渾身の力で壁を殴り付ける。が、ヒビが入るどころか傷一つ付いていない。
「っつ……! まじかよ」
「? こっちから音が聞こえたよ!」
「すっごい大きい音だったね? 私、怖いよ」
「大丈夫! 僕がついてるから」
壁を殴った後に、男女2人のガキの声が聞こえる。辺りを見回すが、それらしき影はない。が、相手は先にこちらを認識したようだ。
「あっ、あの人!ユーギ姉が言ってた人だ!」
「本当だ。でも、あの人、入り口前でぬいぐるみ渡してきた人に似てるね?」
「ん?そうなの?僕、黒髪の人しかよく見てなかったから分かんないや。綺麗な人だったね?」
「そうだねぇ。私もあんな風になれるかなぁ?」
何の話をしてるのか、姿を探りながら会話だけを聞く。どうやら、先程ラミィとジョートを持ってここに入ったガキ達のようだ。が、俺らのことを話している。
「違くても違わなくてもどっちでも良いよ。気が付いたら、あのぬいぐるみもいなくなっちゃったし。僕らはあの人を」
次の瞬間
「倒さなきゃいけないんだから!」
唐突に、目の前に現れた小さな2つの影。やはりそれは、さっきのガキ達だった。が明確に違う点が一つあった。彼らの小さな手には、キラリと光る刃物が握られている。
「ユーギ姉の劇の邪魔をしたんだ。その罰を与えなきゃ」
「そうだね、ユーギ姉さんの言う通りに」
「……っ!」
2人が黒い影に紛れて、同時に襲いかかってくる。本当にさっきのガキなのか?そう疑いたくなるような身のこなしで手にした凶器を振りまわす。反撃したいところだが、相手が相手だ。非常にやり辛い。もしや、ユーギの言っていた手下というのがこいつらなのか?だとしたら、逃げた方が得策だろう。
俺はその2人に背を向け、暗い迷路をひたすら走る。後ろからは、俺を追ってきているのであろう、狂ったような笑い声が聞こえてくる。
「あはははははは! 鬼ごっこだねぇ、お姉ちゃん!」
「そっちは行き止まりだよぉ?大人しく捕まった方が良いんじゃないかなぁ?」
「チッ……!」
相手が子供だから、行き止まりに差し掛かっても俺の力で何とか凌げるか?だが……手を出すのは、やはり気が引ける。
「あなたは わすれているの でしょうね。 えぇ あのこ かーねいとおねえちゃんもいってた。ひとは わすれる いきもの って。」
唐突に聞こえる、ずっと俺に語りかけてきていた声。
(忘れる? 俺が、何を忘れてるってんだ?)
確かに、小さい時の記憶は覚えてねぇし、昨日の晩飯とかなんかは気にもしてないだろう。こいつは、俺の何を知ってるんだ?この、アンチエンターと、俺が、何か関係があるってのか?
「……」
「でも わたしは わすれない! わたしを すてていった あなたを! ぜったいに ゆるさない!!」
キイィイィィィィィィィィイィィイン!!
甲高い音があたりに鳴り響く。非常に不快な音だ。だが、それだけで特に何かをされたというわけではない。
「やっぱり、おとな には ききにくい。きかないなら きて わたしの かぞく!」
「なっ、なんだっ!?」
子供の後ろに立つようにして現れる黒い影の塊のような奴ら。これがマターの言ってた、影精ってやつか?
「わたしの かぞく。おんぱで できた かぞくたち」
「……」
「あいつら……! ガキ共を盾にして!」
「これで あなたは こうげき できない。 ばかぢからも むいみ」
「チッ……」
人型の黒い影がゆらゆらと子供の背後で揺らめく。走りに走って、とうとう行き止まりに差し掛かってしまい、壁際に追い込まれた俺。どう切り抜けるか考えていた時だ。
「目を伏せるでござる、ナガレ殿ぉぉぉぉお!!」
そう聞こえたと共に、目の前に青く眩い閃光が迸った。
「うぉっ!?」
「大丈夫でござるか、ナガレ殿!」
ジョートだ。頭に何か付けている。
「無事で何よりでござる。拙者の作っておいたこのフラッシュカメラが役にたったでござるね! これで、影精はいなくなったでござるよ!」
「ありがてぇ。あいつらがいなくなりゃ、こいつらとの鬼ごっこも楽勝ってもんだ」
「へぇ……僕たち、楽勝なんだって」
「楽勝って言われちゃったね、だったら……」
ガキ達の周囲に影が集まる。それが、完全に奴らを包み込む。なにか、嫌な予感がする。
「ジョート!走んぞ!!」
「……? 了解でござる!!」
影に包まれたガキ2人の横を急いで駆け抜ける。刹那、後ろから
「「マぁあぁぁぁテェぇぇぇぇエええ!!!」」
と、甲高い叫び声とも聞きまごう咆哮が轟く。複数の動物の顔や身体を継ぎ接ぎに繋げたようなぬいぐるみの化け物が俺の後ろを付いてくる。あれが、さっきまで親と一緒にいたガキなのか……?
ズシンッ!ズシンッ!
と足音を鳴らし、迷路を、狭い通路をも粉砕しながら進んでくる。
「……出口はまだか!?」
「ナガレ殿、あれ!」
正面にはEXITと書かれた扉があった。
「ユーギ姉のとこには!」
「行かせない!」
ガリッ!ガリガリガリッ!!
と後ろで何かを削り取るような音が聞こえたかと思うと、俺の後ろから巨大な岩が飛び、それが出口を塞ぐ。
「まずいでござる!出口を塞がれた!?」
「……」
「「グルゥウオォォォオオオォォォォオ!!」」
一歩、また一歩と歩みを進める怪物が顔に当たる部分を縦二つに裂き、牙をギラつかせながらこちらに迫り来る。
「ヒッ……ナ、ナガレ殿ぉ!?」
「だったら……」
俺は岩を持ち上げ、怪物の口めがけて投げ飛ばす。
「だったらこじ開けてやらぁ!相手が悪かったなぁ!!おらぁぁっ!!!」
ブンッ!
「「グガァ!?」」
メリメリッ!
「「ギャアァァォォォォオオ!?」」
怪物の勢いが無くなった。口を開けていたせいで岩が歯に挟まり、顎が外れて裂けてしまったようだ。とりあえず、これで動かなくなるだろう。
「そう言えば、ナガレ殿。怪力の持ち主だったでござるね……」
「……そうだな」
「最初からあの怪物、殴り飛ばせれば良かったのでは?」
「……確かに。オラァ!」
バコォ!!
俺はEXITと書かれた扉を思いっきり殴り、壊す。
そこには、
「かんげいするわ、ナガレ。
わたしの げきじょう
『しあたー』へ ようこそ!!」
純白の人形が笑みを浮かべ、こちらを見つめていた。