エンターテイルズ   作:セカラボ

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第4章 夢の続き

大学の校内、時間帯は昼休み。いつもの場所にて。

 

「……ということがあったのだよ、目覚まし君!ねぇ……聞いてる?」

「はぁ。ちゃんと聞いてますよ。それと、目覚まし君じゃないですって何回言ったら分かるんですか」

 

いつもの調子で会話を続けている。

この人は珍しくちゃんと起きているかと思いきや、何を寝ぼけたことをいっているのだろうか?寝言は寝て言えと、そんな感想を口に出来たらどれ程良かったか。

マターさんが抱きかかえている不自然にモゾモゾと音のするバックをチラリと見ながらそんなことを考えていた。

犬猫の類いだとも思ったが、なんとなくそんな簡単なオチでは無いと思えてくる自分がいる。犬や猫にしては明らかに丸っこすぎるし、バック詰めで学校に持ってきている先輩を愛護団体に突き出したくは無い。

 

「それで、なんでこの話を俺にしたんですか」

「そりゃあ、気にしてただろ?僕が見てた夢」

 

痛いとこを突かれて反論できずにいると、マターさんは続きを話し始めた。

 

「君に先ず教えようかなぁと……」

 

マターさんは目線をバッグに向ける。同時にバッグの中から白色の変な玉が這い出てきた。

 

「ミィ!!新鮮な空気ミィ!」

「これが話で出たラミィですか?」

 

自慢では無いが、俺の嫌な予感の的中率はかなり高い。今回も例に漏れず当たってしまった。

 

「そうだとも!僕の描いた絵にそっくりな物が現れ、命を持って動き出したんだ!凄いだろう?」

 

俺は興奮気味に話す先輩を冷めた目で見る。

そんな俺を見て思ったのだろう。

 

「さては信じてないな?こうやって目の前で」

 

とむすっとした顔で言ってきた。けど、俺が思ってるのはそこじゃない。

 

「違いますよ。俺らの世界が危険だってとこです。そんなの俺らの周りにも起きてないですし、第一信用できる話じゃないじゃないですか?」

「む、むぅ」

「それにマターさんが話した本から描いた絵が出てきたって話、それも正直信じ難いです。まぁ百歩、いや、十歩くらい

譲って絵が上手なことは承知してますけど、それが実体化するなんてありえないです」

「意外とリアリストだな、目覚まし君」

「はぁ、話はそれだけですか?俺は危機とかそんなの信じないんで、やるならマターさん達でやってくださいよ。俺、これか

ら講義だし、何より今日はラノベの新刊が出るので」

 

少々早口で捲し立て、強引に話を終わらせ足早に広場を後にする。マターさんはこういうのに弱いことは前の件で分かってい

るし、何よりこのくらい言っても大して凹まないことも分かっている。明日になればまたいつもの調子で「目覚まし君~」と

飛びついてくるんだろう。

(はぁ……。何してんだろうなぁ、俺)

確かに気にはなる。それが人の性というものだ。だが、忘れた方が良い、思い出さなくて良いことだってあるんだ。あんな顔

をしたマターさんは初めてみたし、何よりそれほど本人を苦しめている記憶があるのなら。けれど、マターさんの落書きでよく見る「ラミィ」が現れた。その事実は変えようのない事だ。

俺には、そんな記憶を思い出さないよう、祈ることしかできな

い。

 

「って、やべっ!講義に遅れる!」

 

腕時計を見て、時間がないことに気付いた俺は急いで校内へと入る。その時、背後で何か黒い靄が蠢いたような気がした。

 

「ダメだったミィね」

「うーん、目覚ま……ゲフンゲフン、月代君なら分かってくれると思ったんだけどなぁ」

 

昨日ラミィから聞いた話を彼にしたのは、人数は多ければ多いほど良い、何せ僕一人が助っ人に来たところでどうにもならないであろうと思ったからである。

 

「突発的だったとはいえ、あそこまで言われるとは思わなかったよ。ちょっと凹むなぁ」

 

でも確かに、現実味のない話であることに間違いないし、月代君の言うことには一理ある。僕らの周りでは起きていないのは

事実、何かしらの危機ならニュースの一つにでもなっているはずだ。だが、それもない。

 

「他に宛てはないのかミィ?」

「ないことはない……けど」

 

ふと時計を見る。時間は午後一時過ぎ、少しばかり眠くなってきた。

 

「今日の僕の講義はないし。少しの間だけ眠りの精の慈悲を受けるとしよう」

「眠りの精の慈悲、ミィ?ボクの他にも妖精がいるのかミィ?」

「あ。いや、眠ることだ」

「最初からそう言って欲しいミィ!」

「すまない。つい癖でな」

 

一つ欠伸をして眠気に身を委ね、瞼を閉じる。しばらく経った

時だろうか、視界に何か浮かび上がってくる。

______________________________

大学近くの本屋、そこに月代君らしき人影が本屋に入っていくのが見える。それに、本屋を取り囲む黒い影と、赤と黒の長い

髪を束ねたスーツを着た男がいる。何かの話しているように見える。その瞬間

 

「……!!」

 

本屋が黒一色に染まる。黒い靄が晴れた後、人はおろか、本屋すらも消えている。残ったのはスーツの男だけ。

______________________________

「ハッ!?」

 

あまりの衝撃に目をカッと開く。机に突っ伏して寝ていたはず

だが、仰向けになっている。

 

「大丈夫?」

 

広場の目の前にある保健室。その先生に声をかけられる。

 

「あ、えぇ、大丈夫、デス」

 

咄嗟のことにぎこちない返答をしてしまったが、今はそれどころではない。嫌な汗が頬を伝う。

 

「それなら良いんだけど、夢でも見てたの?すごく魘されていたけど」

「えぇはい、とんでもなくこう、嫌な感じの夢で。何か起きて

いる気がしてならないので僕はこれで」

「一人で大丈夫?送ろうか?」

「いえ、大丈夫です。さすがにもう大学生ですし、自分の身体は自分が良く分かっていますよ」

「そ、そう? じゃあ気をつけて帰りなね?」

 

先生の言葉を聞き終える前に、僕は荷物をまとめ、韋駄天の如く大学へ一番近い本屋へと駆け出す。

 

近くまで着くと見慣れた人影がそこにいた。

 

「月代君っ!」

 

イヤホンをつけて先を行く彼の姿がそこにあった。先ほど夢で見た光景が脳裏に浮かぶ。であれば、もうじきここにスーツの

男が来るはず。今まで寝ぼけ眼のラミィだったが、

 

「ラミィ!やつらが、『アンチエンター』来るかもだ。」

「マター君っ!」

「あぁ、分かってるとも!」

 

キリッとした表情をして鞄から出て、本に飛び乗る。

 

「さて、じゃあ少し準備を」

 

そうこうしている間に、月代君は本屋へと吸い込まれていく。

だが、スーツの男は一向にやってこない。

「あれ?」

「来ないミィね。でも近くにいることは間違いないと思うミィ」

 

準備万端の僕とラミィはお互いに首を傾げて顔を見合わせる。

その間に目的を済ませたのか、少しニヤけた顔をした彼が店から出てきた。

 

「やっと買えた~、この新刊!続きが気になって前のやつ、何回も見直してたんだよなぁ」

 

少し遠く離れた場所から様子を窺う。しばらくして後ろからスーツを着た男が月代君に向かって歩み寄る。年上、特に男性

が嫌いな僕からすれば該当する人達全員怪しく見えるものだが、そいつは明らかに違う。オーラというか…その見に纏う雰

囲気が周囲とは全くの別の物だったように思う。そうすると、

その男性は彼の肩を叩き語りかけた。

 

「貴方、それ面白いですか?」

「!?え?あ、はい。めっちゃ面白いですよ?」

 

唐突に話かけられた俺は多少驚き、後退りながらも返答する。

 

「そうですかそうですか、フフフ」

「?」

「面白いですか。それは」

「譲る気はないっすよ。まだ在庫あったんで買ってきた方が」

「それは……いただけませんなぁ!」

 

その男は声を荒げ空へと手を掲げる。すると、男の背後に人の

形をした影のようなものが大量に現れた。

 

「ふふふ。さぁ、やってしまいなさい!影精達よ!この小説を、いえ、娯楽を!!跡形も無く消し去るのです!例えるならば、そう。儚い人の生のように!!」

黒い影が店内へと入り、次々に中にいた本や人たちを包み込む。あまりの非日常な光景に立ち竦むしかできない。

「え?は?な、なんだよ、これ。どうなってんだよ!?」

 

一頻り終えたのか、阿鼻叫喚としていた場が静まり返る。

 

「ハッハッハ!さて、仕上げですよ。皆さん!素敵なショーに黒き帷を!」

「どうなってんだよ……これ。」

「なに、そう恐れることはありません。ただ、貴方がたの楽しみを奪うだけ。私にかかれば風の前の塵に同じです。この様に

ね」

 

そう言ってパチンと指を鳴らす。持っていたはずの新刊が黒い塵となって風にさらわれる。

 

「あっ!俺の!」

「無情ですねぇ。ですが、その悲壮に満ちた表情が堪らなく、唆りますねぇ!」

 

男が手を叩くのを合図に、黒い影が俺に向かって一斉に飛びかかる。もう駄目かと思い、咄嗟に腕を顔の前に移動させ防御の姿勢を取る。

 

「僕の後輩に、手を」

「!?」

「出すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

「くっ。ま、眩しい!!?」

 

恐る恐る目を開け、周囲を確認する。辺りを取り囲んでいた黒い影が消滅しており、俺の眼前には見覚えのあるフォルムのも

のと、聞き覚えのある声の主が立っている。

 

「な、何者ですか!姿をお見せなさ…う、美しい……」

「?」

ん?こいつ今、美しいって言った?あまりにも場違いな感想に俺は今、そう言った奴に襲われていたと言う現実を忘れいた。

「おっと、失礼。私としたことが名乗り忘れていました。私はメタファー、『陳腐のメタファー』と申します。以後、お見知りおきを」

「メタファー。やはり、アンチエンターか!」

「おや、我らをご存じで?あぁ、なるほど。そういう」

 

メタファーと名乗った男は、聞き覚えのある声の主の横でふわふわと浮いている丸っこい方に顔を向ける。

 

「貴女でしたか、ラミィ。そこの者に吹き込んだのは。しかし貴女、生命力が強いですねぇ。もしや、虫か何かで?」

「虫じゃないミィ!妖精だミィ!!」

「はぁ、羽もないのにブンブン耳障りな音で飛び回って。本当厄介極まりないですが」

 

今度はラミィの隣に立っている人物に顔を向ける。光が徐々に減衰し、先程と違い、メタファーと名乗った男の視線を確認す

ることが出来た。その目は何かを見定めるような目だった様に思う。

 

「あなたに免じて今回のことは見逃してあげましょう。なに、他の所では上手くいっているでしょうからねぇ。ハッハッハッハッハ!!」

「逃げるミィか!待つミィ!!」

「えぇ!今の貴女たちでは私に太刀打ちできないでしょうからねぇ。ですが、心配しなくとも私たちは互いに引かれ合う磁石!いずれ会えますとも」

 

そういうとメタファーは忽然と姿を消した。何のことかさっぱり状況が飲み込めずへたり込んでいる俺に、先ほどまで目の前にいた人は張り詰めていた空気を和らげるように声をかけてきた。

 

「大丈夫かい、目覚まし君?」

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