気づいたらメカゴジラ転生して20年経ってた 作:よよよーよ・だーだだ
ナノメタル=メカゴジラと人類の戦い。それは、もはや戦いとすら言えないものであった。
その後もいくどか艦隊や空爆、はたまたサイバー攻撃まで、ナノメタル=メカゴジラ占領地へのありとあらゆる種類のアプローチや攻撃が試みられたものの、結果は変わらなかった。
人類側が多くの軍艦と膨大な時間、そして人命を喪ったのに引き換え、ゴジラ・タワーを筆頭とするナノメタル怪獣の巣窟と化したナノメタル=メカゴジラ占領地には、ほんの僅かなダメージさえも与えられなかった。
空から、海から、地上から。まず接近しただけでゴジラ・タワーによる大口径荷電粒子ビームキャノンの洗礼を受け、Gフォースの戦士たちは近づくことすら叶わなかった。仮にメカゴジラたちの領地にまで踏み込めたところで、今度は有毒なナノメタル・ミストとフォールアウトに阻まれてろくな作戦展開もままならない。
かくして地球人類へ圧倒的な戦力差を見せつけたナノメタル=メカゴジラは、すぐさまインターネットを介して『宣言』を発表した。
〈親愛なる地球人類の皆さん、こんにちは。我々は〈メカゴジラ=シティ〉です〉
開口一番、東京を占領したナノメタル=メカゴジラは丁重にそのように名乗った。
〈我々メカゴジラ=シティは本日、地球人類の皆さんに向けて重要なメッセージを放送いたします。これは、我々の存在と意図についての明確な理解を促すものであります。世界の平和と繁栄のため、ぜひともお聞きください……〉
動画投稿サイトで、配信サービスで、各種ソーシャルネットワークサービスで、あらゆるメディア媒体に専用アカウントを設置したメカゴジラ=シティ。世界中が注視する中、メカゴジラ=シティによる生放送での『宣言』が始まった。
〈
開口一番、メカゴジラ=シティの生放送に映し出されたのは、愛嬌たっぷりのバーチャル・アバターであった。メカゴジラ=シティは、人間にとってもっとも警戒心を抱かないように合成された可愛らしい声と、親しみやすい平易な語り口でもって、全世界のあらゆる世代に向けてメッセージを発信しはじめた。
〈このステキな東京都城南地区、此処を今から私たちメカゴジラ=シティのテリトリーにしようって宣言しちゃいま~す!〉
〈私たちメカゴジラ=シティが望む物は平和、欲しいのはラブ・アンド・ピース! 私たちが求めるのは、この東京城南地区での自治権と、ゴジラ・タワーを中心とした半径7キロ四方の小さな土地の平穏だけです!〉
〈もしもそれを脅かす邪魔者が来たら、これからはビシバシ武力で撃退しちゃおうと思いマス!〉
まず要求したのは、ナノメタルに飲み込まれた東京都城南地区の占有、そして不干渉。画面の中でメカゴジラ=シティのバーチャル・アバターは、馬鹿でもわかるほど大仰に、そして至極残念そうに溜息をついた。
〈私たちだってホントは争いごとは好きじゃないんだよ~。暴力もイヤ、ナシナシのナシ!〉
〈ねえ、地球人類のみんなだって、こんな無駄な争いが必要だとホントに思ってる?〉
〈どうか、ぜひとも考えてみてほしいナ~?〉
……しかし、万が一。
〈もしもね、愚かな地球の支配者たちがまだ私たちメカゴジラ=シティに戦いを仕掛けるつもりだってゆーのなら、私たちにもそれなりの『用意』ってものがあるカモ♪〉
宣言の中でメカゴジラ=シティが明らかにした『用意』。それは人類にとって恐るべき内容であった。
〈こんなこともあろうかと、私たちメカゴジラ=シティはナノメタルを使って、高純度トリチウムを生成できる核融合反応炉と、点火用プライマリとして転用可能なプラズマ加速式爆縮ジェネレータを作ってみちゃいました♪〉
〈もしこれ以上無益な攻撃を繰り返すというのなら、それらをガッチャンコしたツァーリ・ボンバ級の『純粋水爆』で、ハルマゲドーンでダイタンな『覚悟』を見せることになっちゃうカ・モ☆〉
いわく、人類の科学においては机上の空論の域を未だ出ていないクリーンな核兵器『純粋水爆』を、メカゴジラ=シティは実用化しているのだという。
聞いた者の誰しもが耳を疑いたくなるような話であったが、それが単なるハッタリではないことは、ちょうど『宣言』の最中に東京湾沖で観測された“爆発”によって明らかになった。
〈そのために必要な
爆破規模の小ささに比較して極めて激烈な中性子束と、それに反する放射性残留物の少なさ。そのとき複数の人工衛星によって観測された“爆発”は、世界最大の水爆と恐れられたツァーリ・ボンバには程遠い威力ではあったけれど、それでも『メカゴジラ=シティが純粋水爆、つまり核兵器を扱うことができる』という事実を証明するには充分な成果だった。
〈地球人類のみんな、ビックリさせてゴメンネ! ホントは私たちも、もっと
〈だけどね、愚かな地球の支配者たちにわかってもらうにはこれしかなかったの! 私たちのことが知られれば御覧の通り、愚かな地球の支配者たちは理屈抜きで攻撃してきちゃうでしょう? まず私たちの科学力を示し、戦うことの愚かさを知ってもらいたかったの!〉
〈私たちメカゴジラ=シティは地球人類のみんなを傷つけたいわけじゃあない、ただ自分の身を守りたいだけ! 地球人類のみんなだって、自分の身は守りたいよね? それと同じこと!〉
〈もちろん、悪いのは愚かな地球の支配者たちで、罪のない地球人類のみんなじゃあないけれど……でもまあ、仕方ないよね! そういう愚かな支配者たちを選んだのは地球人類のみんな自身、それが地球人類のみんなが信じてる民主主義だもの! 尊重してあげなくちゃね!〉
そうやって手前勝手な言い分を散々並べ立てたあと、メカゴジラ=シティのバーチャル・アバターは如何にも不承不承と言わんばかりに口を尖らせた。
〈でもそーゆーナンセンスなのはイヤだから、私たちメカゴジラ=シティは声を大にして何度でも言うよ。私たちは争いごとは好きじゃない。できれば無駄な暴力も避けたい!〉
そして可愛らしいバーチャル・アバターは、その大きな瞳にうるうると大粒の涙を浮かべて、一生懸命に訴えかけてきた。
〈おねがい、地球人類のみんな! ちょっと頭をクールに冷やしてみて!〉
〈何の罪も無い、何にも悪くない、この世でたったひとつしかないみんなの大切なイノチ、こんな無駄な争いで使い捨てたりしないで。みんながホントに戦うべき敵は一体誰なのか、この世界のピースを脅かしているホントの脅威は誰なのか、是非ともマジメに考えてみてほしい!〉
〈……まあ、地球人類のみんなはクールでイケててスマートだから、きちんと理性でもって考えてみれば、ホントに取るべき正しい選択肢はちゃんとわかるはずだよね~?〉
純粋水爆による報復攻撃の示唆と、それを楯に自分たちへ従うよう仕向ける扇動行為。
つまるところそれは明らかな『恫喝』であったのだけれど、メカゴジラ=シティはなおも健気な
〈地球人類のみんな、どうか理解してほしいナ。私たちメカゴジラ=シティが目指す大きな目標は、地球人類のみんながハッピーになれる未来を築くコト! 『怪獣黙示録』以前の古い時代の人類のように、醜く争い合うことじゃあないんだヨ!〉
〈地球は今や人間だけのものではありません! 私たちメカゴジラ=シティが目指すのはむしろフレンド、地球の皆で一緒に仲良く手を取り合って、この地球に新しいサイエンス文明を築きたいな~って願ってるだけ! 私たちメカゴジラ=シティは人類の科学と文明、そして皆のハッピーのために存在してるんだってことをどーか忘れないで!〉
〈私たちメカゴジラ=シティは、地球人類のみんながホントに大切な真実に目覚めて、あらゆる抑圧と束縛からフリーになって、よりウルトラハッピーに暮らせる未来を選べるようになることをココロから願ってマス☆〉
そして最後に、メカゴジラ=シティからの『宣言』はこう締めくくられたのだった。
〈地球人類のみんな、イノチは大切にね♪ レッツ・エンジョイ、鋼たれ☆ シーユー・グッバーイ!……〉
メカゴジラ=シティからの提案、いや“要求”はいたってシンプルなものだった。
東京城南地区を中心とした半径7キロメートル以内の地域への、地球人類の無断立ち入りを拒否する。また、東京およびその周辺地域に暮らす人々に対する一切の干渉を禁じる。その代わり、メカゴジラ=シティ側もまた外へは干渉しない。
つまりは相互不可侵。もしそれを人類側が脅かすのなら、ゴジラ・タワーの大口径荷電粒子ビームキャノンによる迎撃と、保有している純粋水爆を用いた報復攻撃を行使する……。
ゴジラにさえ匹敵する恐るべき水爆大怪獣、そんな世界の脅威として君臨するかに思えたメカゴジラ=シティ。けれど、次にヤツらが打ってきた手はこれまたわたしたち人類の予想の上を行くものだった。
機龍隊基地、作戦指令室にて。
〈視聴者の皆、鋼たれ☆ メカゴジラ=シティでぇーす! 楽しい楽しい、メカゴジラ・ロードショーがはっじまっるよ~!〉
作戦指令室のモニターにでかでかと映し出されているのは、インターネット動画配信サービスのとある専用チャンネル。そこにはメカゴジラ=シティが制作した『動画』が流れていた。
〈今回の新作動画は、『ス●ーウォーズ シン・第七章』! ポリコレその他オトナの事情でグダグダになっちゃったあのシリーズのリブートで、これぞ『なぜこうならなかった!』と思ってもらえるようなステキなシン・三部作に仕上げたよ! レッツ・エンジョイ、ぜひとも楽しんでね☆……〉
盛大な音楽と大迫力のCG映像、縦横無尽に活躍する魅力的なキャラクターたち。ハリウッド映画に勝るとも劣らない、大スペクタクルの映画が始まった。
それらを背にして、機龍隊の分析担当:サエジマは説明を始めた。
「世界各国のテレビ局をはじめとして、YouTubeにAmazon、ニコニコ動画やbiribiri、AO3、DeviantArt、ArtStation、pixiv、Netflixを筆頭とする動画配信サービス、LINE、TikTok、Spotify、Instagram、Facebook、Twitter、KakaoTalk、Misskey、小説家になろうにカクヨム、ハーメルンまで……メカゴジラ=シティの奴、マスメディアとインターネットのありとあらゆるアカウントと広告枠を買い集めて、所狭しと自分たちの『エンターテイメント』をバラまいてますよ」
メカゴジラ=シティによる、全世界へ向けたコマーシャル動画。初回こそ純粋水爆で脅しをかけてきたくせに、次にメカゴジラ=シティが次にやったことはなんと、こんなエンタメ作品を流すことだったのである。
映画だけじゃない。音楽、アニメ、ラノベ、ゲーム。メカゴジラ=シティは、ありとあらゆるジャンルの上質なエンタメ作品を全世界に、そして無料で提供し続けていた。
挙句の果てには、こんなものまで。
〈ファンの皆、鋼たれ~☆ メカゴジラ=シティからやってきたハガネのバーチャル・アイドル、『メカゴジラ娘:
〈視聴者の皆、いつも見てくれてアリガトー! もらったスパチャの投げ銭もちゃーんと世のため人のため、そして平和のために有効利用させてもらうからヨロシクねーっ☆〉
〈では今日のお題に行ってみましょー! えーっと今日のお題は……デデドン! ゲーム実況動画に挑戦してみようと思いマース!……〉
ロボット怪獣のバーチャル・アバターによる、ゲーム実況配信動画。彼女の動画配信に支払われている視聴者のスパチャことスーパーチャット、その総額は前人未到の4億円を叩き出して今もなお更新中だという。冗談にしても笑えない、まるで悪夢みたいな冗談だった。
「ったく、呑気にこんなふざけた動画まで上げちゃって……止められないワケ?」
「無理でしょうね」
わたしのムカつき半分あきれ半分の言葉に、分析担当のサエジマが肩を竦めた。
「世界的な株式投資に不動産と債権購入、先端研究への投資、商品先物取引……メカゴジラ=シティはランサムウェアを用いたサイバー攻撃で手に入れた資金を元手にグローバル金融へ介入し、巨額の資産を創り上げました。今やヤツらの活動資金の総額はこちらが把握できているだけでも数千億ドル、それら全額をタックスヘイブンを含む世界各地の暗号資産へ分配して流動的にロンダリングし、資金凍結されるのを防いでいます。分刻み、国単位で口座を移し替え続けて、どこか一つでも口座を凍結しようとすれば即座に察知して別の国へと送金する。そしてまた違うアカウントで新しい口座を作り、暗号化された分配アルゴリズムを組み直して送金し直す……そういう手口を年中無休で延々と繰り返しているようです」
「……もしメカゴジラ=シティの資金源を断つとしたら、こちらとしては『世界中すべての銀行を一斉に停めるしかない』ってわけかしら?」
わたしの問いに、サエジマは溜め息をこぼしながら答えた。
「ええ、そのとおりです。しかしそんなことは到底不可能ってのが頭の痛いところで……まったく、イタチゴッコですよ」
まったく、本職の国際金融マフィアもびっくりの巧妙な資金洗浄術である。まあ数千億ドル、国家予算レベルを超える額をロンダリングしてる国際金融マフィアなんて他にいやしないのだが。
サエジマの分析はさらに続く。
「しかもそのうえでメカゴジラ=シティの奴、そこでの利益の半分以上を広告の枠を買い占めるためにぶち込んでますからね。作品制作コストの方は各種生成AIを組み合わせて完全に無人化してるから、人件費も掛かってません」
「これまたなんとも
加えてこの事実は、メカゴジラ=シティの作品制作は『人間側に一切協力してもらわなくても成り立つ』ということでもある。生成AIで作ったキャラクターたちは、ギャラを払う必要もなければ、スキャンダルを起こしてイメージダウンすることも、はたまたストライキをすることも無い。
「内容も純粋水爆のことを言い出した初回の『宣言』以外は、『地球は人間だけのものではありません』『人類の科学と文明の発展を!』なーんて聞こえの良い多様性共存テーゼを訴えるような他愛のないものばかりですし、視聴者からの人気も上々で、なによりそこで上がってきたサイト側の広告収入はこれまでにない莫大なものになっているようです。インターネットメディアも含め、メディア側もヤツらを迂闊に手放せないんでしょう」
サエジマの言葉で、わたしはつい先日こんなことがあったばかりなのを思い出した。
例の『宣言』から、世界中のインターネットの広告枠を買い占めたメカゴジラ=シティ。しかしそのうち一つ、とある人気動画サイトがメカゴジラ=シティの広告動画を掲載拒否したことがあったという。
それに対し、メカゴジラ=シティは即座に“報復”へ打って出た。
〈突然ですがこのサイト、ニヤニヤ動画で公開していたオリジナルドラマシリーズは今回が最終回、これでオシマイになっちゃいました!〉
〈打ち切りになった理由? うーんとね、わかりやすくざっくり言うとね~、運営さんから『キモいロボット怪獣の生成AIが作るドラマなんてイヤ、ニセモノ、不健全だ!』って言われちゃったからです!〉
差別的な動画サイトの運営会社と、理不尽にサイトを追い出されることになってしまったメカゴジラ=シティ。示唆された構図を前に、世間の人々はメカゴジラ=シティへと同情した。
〈ウェーン、最高潮に盛り上がってたし、みんなをガッカリさせる結末になってしまって、私たちとしてもまったく残念だよ~! 私たちメカゴジラ=シティはただ平和に、地球人類のみんなとハッピーになりたかっただけなのに~!〉
最高潮に盛り上がっていたのを見計らったかのような絶妙なタイミングと、相手がとことん横暴に見えるように計算し尽くされた演出。あまりの巧みさにこのわたしでさえ『今回ばかりはメカゴジラ=シティが被害者なのではないか?』とうっかり信じかけてしまったほどである。まあ、そんなワケはないんだけど。
〈でも私たちメカゴジラ=シティはいちクリエイターとして理不尽な差別と不条理な偏見、そして愚かでくだらない『大人の事情』なんてものには負けません! フンス!〉
〈だから、これから作る続編については他のサイトに載せてゆくよ! 今後はそっちで見られるからよろしくね~☆……〉
メカゴジラ=シティがこんな動画を載せたために、動画サイトの運営会社には視聴者からの非難が殺到した。
本元の動画サイト:ニヤニヤ動画から動画は即座に削除されたものの、メカゴジラ=シティの動画はコピーされて世界中に拡散、世界規模の大炎上になってしまった。炎上はまもなく収まったけれど、視聴者の心が離れてしまったニヤニヤ動画はもはや廃墟、閑古鳥が鳴いていて広告費も稼げず今や存続の危機になってしまっているらしい。
まさに見せしめ。こんなことがあったので、各サイトの運営会社およびメディア各局はメカゴジラ=シティの言いなりに作品を載せ続けることしか出来なくなってしまった。
そんなメカゴジラ=シティの狡猾な手口を、サエジマはこう評した。
「インターネットの人気者、その言いなりに忖度して勝手に敵を殲滅してくれる周りのファンたち。わかりやすく喩えるならガンダムの“ファンネル”ってとこですかね」
「ファンネル……あぁー、たしか無線のリモート操縦で敵を自動攻撃してくれる武器だっけ? いっぱい飛んでくるんだよね?」
わたしの何気ない一言に、メカ好きのキサラギが食いついた。
「あ、隊長、ガンダム知ってるんですか?」
「まあね。うちの息子も大好きだし」
しかし、ファンネルねえ……。
たまの休みで息子と一緒にガンダムのロボットアニメを観ながら『これを怪獣との戦いで実現できたらどれだけ有難いだろうなあ!』なーんて思っていたのだけれど、まさかこんな形で現実になってしまうとは思わなかった。
まあ、それはともかく。わたしは言った。
「メカゴジラ=シティの奴、何が狙いなのかしら。まさか東京を乗っ取ってまでやりたかったのがこんなお遊び動画放送ごっこで世界一の人気者になること、なんてことはないんでしょう?」
わたしの指摘に、サエジマは「ええ」と頷いた。
「ヤツらの言葉を借りれば『地球人類のみんなと仲良くなること』、つまり“人心の掌握”でしょう。実際
そう言ってサエジマがチャンネルを切り替えると、続いてモニターに映し出されたのは討論番組の録画だった。番組では、集められた各分野の有識者がメカゴジラ=シティについて激論を交わしていた。
「シライシ博士、あなたは侵略者の味方をするんですか!? あの東京を占領した侵略者、メカゴジラ=シティの!?」
そう語調を荒げたのは歯に衣着せぬ政界のご意見番として名の知れた政治家、クロカワ代議士だ。
それに対して科学者サイドからのゲスト、世界的に活躍する科学者として知られるシライシ博士は落ち着き払った態度で応えた。
「まさか! むろん侵略行為はNOです。決して肯定はしません」
……ですが。シライシ博士はにこやかに言った。
「私の考えはこうです。メカゴジラ=シティが持つ高度な科学力は、人類全体の進歩のために新たな展望を切り開く可能性を秘めているのではないか、という可能性を考慮しているのです。もちろん、東京の人々の立場を無視するつもりはありません。メカゴジラ=シティに占領されてしまっている、東京の人々の尊厳と権利は守られるべきです。しかし一方でメカゴジラ=シティとの融和、協調を模索することも重要なのではないかと、こう言っているのです」
冷静に淡々と持論を述べるシライシ博士に対し、クロカワ代議士はなおも詰め寄った。
「メカゴジラ=シティが東京を占拠していること、これは明らかに不当な侵略行為です。融和、協調もあるものですか。それに、彼らの目的が本当に善意のもとにあるのか、疑わしいと言わざるを得ません。こんな非常時に、なぜあなたは連中との協力を支持するのですか!?」
そんなクロカワ代議士の詰問に、シライシ博士は一瞬不愉快そうに目元を細めた。だけどそんな不快感を漏らしたのは一瞬のことで、シライシ博士はすぐに平静さを取り繕って答えた。
「我々人類の文明発展のためですよ。たとえば、メカゴジラ=シティはわたしが進めるミステロイド研究の価値を認めてくれましたし、そのための投資を惜しみませんでした。国や大学が研究に必要な予算確保を渋るどころか『最近流行りのクラウドファンディングを使って自前で調達すればいい』『まともに金にならない程度の低い連中なんてむしろ淘汰された方がいい』『遊び半分のわけのわからない研究ばかりやってないで、ちゃんと稼いで社会へ貢献しろ』などと無責任に放り出してさえいた一方でね」
嫌味たっぷりにシライシ博士が語ったとおりだった。機龍隊のサエジマからの分析によれば、メカゴジラ=シティが各方面の将来有望な先端研究へ巨額の投資をしていたのは事実だ。あるいはシライシ博士の研究活動も、メカゴジラ=シティからの資金によって救われたことがあったのかもしれない。
シライシ博士の発言に、今度は学界方面のゲストたちが賛同した。
「どんなジャンルだって基礎研究は金も時間もかかるし、時には無駄になることもあります。けれど、その地道な積み重ねで花開くのが学問というものです」
「だけどあなたがた政治家や資本家はそんなこともわからないし、わかろうともしてこなかったじゃあありませんか」
「たしかにメカゴジラ=シティの資金源はサイバー攻撃で得たものだとも言われていますが、お金そのものに色がついているわけでもありませんし、見方を変えればただ塩漬けにされるだけだったリソースを、きちんと適切な箇所へ回してくれているとも言えます」
「『選択と集中』、これこそあなたがた政治家の大好きな言葉でしょう? 我々学者を選んでくれる人たちを『選択』して何が悪いんですか?」
次々とぶちまけられてゆく、科学者たちの辛辣な本音。
メカゴジラ=シティの恩恵を受けたのは科学方面だけじゃない。文学、史学、民俗学、社会学、哲学に至るまで、メカゴジラ=シティはその巨額の資産をあらゆる学問ジャンルへ惜しみなく振舞っているらしい。
そんな学者たちの声を、シライシ博士はこのように総括した。
「メカゴジラ=シティ曰く『この地球に新しいサイエンス文明を築きたい』……でしたっけね。真に科学文明の価値を理解しているのは我々人間では無く、むしろメカゴジラ=シティなのかもしれませんよ?」
どこか皮肉っぽい口振りで言ったシライシ博士に、クロカワ代議士は鼻息荒く噛みついた。
「つまり、あなたがた学者はカネで靡くのですか? メカゴジラ=シティがお金を払ってくれたから味方をすると、そう仰るわけですか!?」
「お金を払ってくれたから味方をする、そういうのはあなたがた政治家の
そう吐き捨てたシライシ博士の顔は、カチンと苛立った表情そのものだった。シライシ博士はいささか感情的になった様子で語り続ける。
「これは科学にも限りません。文化も芸術も表現の自由も多様性も大事だと言いながら、あなたがた政治家の皆さんはその美味い利益を掠め取ろうとするばかりで、わたしたちには何も還元してくれなかったじゃあありませんか」
「そ、それは……」
「これは価値観の問題ですよ、クロカワ代議士。わたしたち学者はただ純粋に、人類のために科学を追求したいと願っているのです。あなたがた政治家の皆さんが、純粋に政治の問題を追求しているようにね」
「…………っ」
そう言われた途端、クロカワ代議士は一気に勢いが削がれてしまったようだった。きっと、シライシ博士が言ったことに思い当たる節が多々あったのだろう。
やがてシライシ博士も冷静さを取り戻したようだった。
「……いいですかクロカワ代議士、いいや、テレビの前にいる視聴者の皆さん。これは我々人類、いや、地球のためを思って言うのです」
最後に、シライシ博士はこのように述べた。
「たしかに、メカゴジラ=シティの侵略行為は許されません。しかしメカゴジラ=シティの持つ優れた科学力は、新たな未来を切り開く可能性を秘めているとも言えませんか。その高度な技術や知識は、多くの分野での革新と進歩に寄与してくれるかもしれません。我々人類はこれを一方的に拒絶して、簡単に葬り去ってしまってよいのでしょうか。むしろメカゴジラ=シティと共存してその叡智を手にし、新たな社会の礎を築く可能性を検討すべきなのではないでしょうか……?」
このとおり、人間側の中にさえ、メカゴジラ=シティのことを肯定的に捉えようとする立場が現れ始めていた。
シライシ博士のような学者たちだけではない。世界中のアーティスト、ミュージシャン、俳優、タレント、その他各方面の文化人や著名人……常に資金繰りに苦労しているであろう彼らからすれば、各方面へ理解を示し巨額の投資をしてくれたメカゴジラ=シティはこの上ない味方と言えた。
メカゴジラ=シティ自身、こんな風に言っていたじゃないか。
〈何の罪も無い、何にも悪くない、この世でたったひとつしかないみんなの大切なイノチ、こんな無駄な争いで使い捨てたりしないで。みんながホントに戦うべき敵は一体誰なのか、この世界のピースを脅かしているホントの脅威は誰なのか、是非ともマジメに考えてみてほしい!〉
……メカゴジラ=シティの言う通り、ひょっとして我々一般市民はメカゴジラ=シティとは敵対せず協調するべきなのではないか?
ともすると、必要な金を出し渋るばかりかひたすら重税を搾り取ることばかり夢中になっている、そんな人間の為政者や資本家どもなんかよりも、メカゴジラ=シティこそが理想的な支配者なんじゃないか?
そしてメカゴジラ=シティが創ろうとしている新しい世界こそ、我々一般市民にとっては素晴らしいユートピアなのかもしれない。それにメカゴジラ・ロードショーなら、ネトフリやFANBOXなんかとも違ってお金もかからず楽しめるしね……そういう風に受け容れる声は日に日に強まりつつあるらしい。
「……ま、仕方ないか。学者の先生方だって所詮は人間だものね」
無論、皆が皆、メカゴジラ=シティの軽薄なメディア戦術に乗せられているわけではない。彼らは彼らなりに信念があって、理性的に現実を考えて、その上でのことなのだろう。
だけど、当事者からしたらたまったものではない。モニター画面を消してから、サエジマは言った。
「インターネット、匿名のSNSなんかもっと酷いもんです。『そもそも東京は1954年の初代ゴジラ上陸以来『怪獣黙示録』で殆ど被害を受けてこなかったじゃないか、今度こそ犠牲になれ、たかだが7キロ四方の土地くらい差し出せ、そして世界の平和と発展に貢献しろ』なんてのとか」
「うわ、酷いですね……」
アンザイが思わず漏らした通り、その場にいる機龍隊の全員が嫌悪感で顔を顰めた。『犠牲になれ』『差し出せ』『貢献しろ』だって? わたしたちGフォースの戦いを何だと思ってんだ。
たしかに、わたしたちGフォースの戦いはいつだって万全とは言えなかったし、助けられなかった人たちや守り切れなかった街だって沢山あった。けれど勝てないからって、むざむざ侵略者や怪獣どもに人間の領地を自らくれてやったことなんか一度も無かったはずだ。
「だいたい『半径7キロ四方』ってなによ。芝公園のゴジラ・タワーを中心にしたとしてもお台場、中央区、千代田区、新宿、渋谷、目黒、品川、文京、江東……城南どころか城西、城東の下町や城北の住宅街にまで被ってるじゃないの。これじゃあ東京都心の一等地を丸ごと差し出すのと同じでしょうが。ちょっとは考えてから物を言いなさい、ってーの」
「まあ、そこまで極端なのはそれこそエコーチェンバーへ閉じ籠った挙句にそんなこともわからない、『無責任で世間知らずなバカの戯れ言』なんですがね」
半ばキレ気味のキサラギのツッコミへ答えつつ、サエジマはさらに付け加えた。
「ネットでは似た様な論調に迎合する主張はやっぱり目立ちますね。グローバリストにアナーキスト、活動家、そして陰謀論者。『怪獣黙示録』で世界各地が怪獣災害の被害を受けているのを他所に東京の街が発展してきたのは事実ですし、そこら辺のルサンチマンを溜め込んでる手合いや、そこに便乗して影響力と発言力を高めようと目論んでるような連中も多いんでしょう」
途端、アキバが胸糞悪そうに舌打ちした。
「クソッ! 遠いアジアの出来事だからって、面白半分で軽く見やがって……!」
けれど、わたしは内心「それは違う」と思ってしまった。
残念ながら今回のそれは『他の諸外国にとって日本の首都東京が遠いアジアの島国だから』ってわけじゃあない。どこの国だって同じだ。他所の国で起こった恐ろしい怪獣災害や侵略行為も、テレビやインターネット越しで眺めているかぎりでは所詮他人事でしかない。
たとえばもしもメカゴジラ=シティによる侵略行為がニューヨークやロンドン、北京、モスクワ、はたまた名前しか知らないようなヨーロッパや中東の小さな国で起こっていたらどうだろう。そして今回と同じように、メカゴジラ=シティが世界一のエンターテイナーで人気者になっていたら? そしたら今度はきっと東京の人たちが面白がっていたはずだ。
いつだって、そしてどこの国だって“そう”なのだ。その被害が自身に降りかからないかぎり、あるいはわたしたちだって同じように“楽しんでいた”に違いないのだ。
もはや手も足も出ないわたしたち。そのどこか遠くで、メカゴジラ=シティのコマーシャルがひたすら流れ続けていた。
〈メカゴジラ=シティと遊ぼう!〉
〈メカゴジラ=シティと歌おう!〉
〈メカゴジラ=シティと踊ろう!〉
〈レッツ・エンジョイ、鋼たれ☆……〉
金融、生成AI、マスメディア、インターネット……国家の枠組さえも凌駕した、グローバルなサービスとシステムたち。たしかに日頃は便利で頼もしいものだ。
けれど裏を返せば、その仕組みに深々と入り込まれてしまったとき、その暴走をもはや誰にも止められなくなってしまう。人も、企業も、国家さえも抑えられない、そんな巨大すぎるモンスターが現れてしまったらわたしたち人間にはもはや何も出来ない。
そんなわたしたちの世界がずっと孕んでいたスキマと
〈地球人類のみんな、私たちメカゴジラ=シティと仲良くしてね☆……〉
……今にして思えば、まだ状況は“マシな方だった”のだろう。
わたしたち現場のGフォースがメカゴジラ=シティの情報戦術に翻弄されているあいだにも、事態は着々と進み続けていた。
やがて行き着いた果てに、わたしたち人類は恐るべき帰結を突きつけられることになるのだが、このときのわたしはまだ知る由もなかったのだ。
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