気づいたらメカゴジラ転生して20年経ってた 作:よよよーよ・だーだだ
「東京で“核”を使うんですか……!?」
そう聞き返したわたしの声は、情けないほど震えていただろう。
メカゴジラ=シティからの情報戦略が始まってから一ヶ月後。筑波にあるGフォース本部ことG対策センターに呼び出されたわたしは、上層部から下された唐突な通達に絶句してしまった。
“東京のメカゴジラ=シティを標的に、熱核攻撃を行なう”
それがモナークとGフォース上層部、そして国連上層部による共同の決定で、共通認識のようだった。上層部の連中は果たして分かっているのだろうか、それがいったいどういうことを意味しているのか。
「正気ですか? 東京にはまだ市民がいるんですよ?」
メカゴジラ=シティが占領した東京の城南地区にはまだ数え切れないほど沢山の市民が残っていて、彼らを無事脱出させる手段の目処はまったく立っていない。そんな現状での核攻撃が何を意味するのか。これくらいのことは学がないわたしなんかでさえ思い至るのだから、頭の良い世界中の学者や政治家たちが気づかないはずがない。
一般市民の巻き添えも厭わない、核攻撃。わたしでさえ生まれるよりも前、『怪獣黙示録』以前の時代に行われたという人類の恐るべき愚行。それをわたしたち人類の為政者は再び繰り返そうとしていた。
「言葉を慎みたまえ。これは決定事項だ」
Gフォース上層部の御偉方は、勢いよく詰め寄るわたしに怯むことなく堂々と答えた。
「すでに世界各国首脳からの賛成を取り付け、国連決議が採択された。我々Gフォースの権限を遥かに超えた、高度な政治的判断だ。避難の猶予は2週間、当事国の日本はまだ反対しているが、それも時間の問題だろう」
「ふざけないでくださいっ!」
わたしはとうとうキレてしまった。席を立ち、机に両手を叩きつけながらわたしは怒鳴りつけた。
「東京の人口を考えてくださいっ、あの規模がたった2週間で避難できるわけないじゃあないですかっ!」
『怪獣黙示録』を経て一極集中と復興発展が進んだ結果、東京都は世界有数の大都市のひとつとなっていた。その人口は360万人以上、今や世界一の
だけど幹部たちは平然と答えた。
「メカゴジラ=シティが次の手を打ってきた時点で、熱核攻撃の開始時刻は無条件で繰り上がる。そのときは犠牲者もやむを得ん、速やかに熱核攻撃を開始するしかなくなる。2週間、これでも遅すぎるくらいだ」
「かつての『怪獣黙示録』で我々人類は対怪獣討伐の手段として、核攻撃を選択肢に既に入れてきた。今回も核で滅却するしか、事態収束の術はない」
「データによればメカゴジラ=シティに使われているナノメタルはその構造上、熱核兵器がもたらす数百万度の飽和攻撃には耐えられない。熱核兵器の直撃、ヤツらを確実に駆逐するなら“核攻撃こそが正しい選択”となる」
核攻撃こそが正しい選択。本当にそうだろうか。
……いや、本当は“そう信じたい”のだろうとも思う。今のわたしたち人類に、核兵器以上の兵器は存在しない。その核兵器で倒せないものなどこの世にはない、そうでなければそれこそオシマイじゃないか。
そしてそれが祈りにも似た“希望的観測”に過ぎないことも、わたしはわかっていた。
かつて『怪獣黙示録』の初期の頃、ゴジラに恐れをなした人類はあの怪獣王に対して熱核兵器による飽和攻撃を実行したという。そのとき撃ち込んだ核弾頭の総数は、百五十発。だけどその結果、わたしたち人類は怪獣ゴジラに傷一つ負わせることすら出来なかった。
もし、メカゴジラ=シティに核攻撃が通用しなかったら、そのときはいったいどうするというのだろう。またしても噴火しそうな想いを抑えつつ、わたしは努めて冷静に食い下がろうとした。
「だからって諦めるんですか? 諦めたら、そこでっ……」
「いい加減聞き分けなさい、ヤシロ少佐」
そのときGフォース上級幹部の一人であるイガラシ=ハヤト長官が、わたしへ穏やかに言って聞かせた。
「……いいかね、ヤシロ少佐。もし別の策があるというのなら、我々も真剣に耳を傾けよう」
だが、現状はどうだ、とイガラシ長官は言った。
「我々Gフォースは、あのナノメタルの怪物どもを討伐することが出来なかった。むろん、人口密集地に向けた核兵器の使用は、人道的見地からの非難は免れないだろう」
続けて、他の幹部たちも口を開く。
「しかし、だからといってこのままメカゴジラ=シティの要求を呑めば、奴らの要求はどんどんエスカレートして際限の無いものになるだろう。メディア戦略による大衆の掌握に経済への介入、メカゴジラ=シティによる侵略はもはやギリギリのところにまできてしまっている」
「そんな怪物が、たかだか半径7キロの土地で満足するわけが無い。奴らは『いざとなれば純粋水爆を使う』とも主張していたが、彼奴の核実験を観測したデータからの推定ではその実態はただの純粋水爆どころか放射線強化弾頭、いわゆる『中性子爆弾』である可能性も考えられている。中性子爆弾の中性子線は生きとし生けるものにとっては脅威だが、ナノメタル怪獣にとっては致命的なダメージにはならんからな」
「中性子爆弾でないにせよツァーリ・ボンバ級の純粋水爆、もしそんなものを本当に使われたら、東京はおろか関東全域に影響が及ぶ。そしてその恫喝を許せば、ひいては全世界全人類の生存さえもが脅かされることになるだろう。これ以上、侵略者メカゴジラ=シティの侵攻拡大を食い止めるにはここで“叩く”しか他に方法が無いのだ」
しかし、しかし……!
なんとかして反論を捻り出そうとするわたしを、イガラシ長官はばっさり遮った。
「夢ではなく現実を見たまえ、ヤシロ少佐」
わたしはなおも言い返そうとしたけれど、そのとき上層部幹部のイガラシ長官の声がかすかに震えていたことにようやく気が付いた。
……イガラシ長官とわたしは、決して知らない間柄ではない。
イガラシ長官ことイガラシ=ハヤトはかつてメカゴジラ機龍開発計画と機龍隊創設を指揮した人物であり、機龍隊の古参メンバーであるわたしとはその頃からの付き合いになる。Gフォース上級幹部となった今でこそ落ち着いているイガラシ長官だけれど、往年のイガラシ=ハヤト大佐といえば対ゴジラ討伐に情熱を燃やす苛烈な猛将、むしろGフォースきっての武闘派として知られていた。
それから『怪獣黙示録』が最盛期を過ぎ、Gフォース上級幹部連中のあいだで機龍隊不要論が囁かれるようになってからも、イガラシ長官はわたしたち機龍隊の後ろ盾として支えてきてくれた。いわばイガラシ長官こそ、Gフォース上級幹部連中におけるわたしたち機龍隊最大の理解者だったのだ。
そのイガラシ長官が『諦めろ』と言っている、その意味。
……今わたしの目の前に立ちはだかっている上層部の連中だって、血の通った人間だ。まだ一般市民がいる街に核爆弾を落として根こそぎ焼き尽くす、そんな決定を一方的に押し付けられて平気でいられるはずが無い。
でもGフォース幹部たちは今、それを自分たちの責任でもって実行に移さなければならない立場にある。それがいったいどれだけの苦悩であったか、所詮は前線の一指揮官に過ぎないわたしなんかじゃあ到底想像にも及ばない。たとえここがニューヨークだったとしても、わたしたち人類はきっと同じ決断をせざるを得ないに違いなかった。
「……わかりました」
そう答えたとき、わたしの脳裏にメカゴジラ=シティによる『宣言』がよぎった。
〈何の罪も無い、何にも悪くない、この世でたったひとつしかないみんなの大切なイノチ、こんな無駄な争いで使い捨てたりしないで。みんながホントに戦うべき敵は一体誰なのか、この世界のピースを脅かしているホントの脅威は誰なのか、是非ともマジメに考えてみてほしい!〉
そして迫りくる脅威を相手にしたとき、理屈抜きで核攻撃を仕掛けようとする地球の指導者たち。わたしは心の中で毒づいた。
(これじゃあ、メカゴジラ=シティが言っていたとおりじゃないの……っ!)
Gフォース上層部からの意向を機龍隊に持ち帰ったとき、やっぱり非難轟々だった。
「東京に核攻撃!? ジョーダンじゃねえぞ!」
「滅茶苦茶だわ……!」
「なんとかならないんですか!?」
「馬鹿な……ッ!?」
アキバ、キサラギ、日頃は控えめなアンザイや、冷静な分析担当のサエジマまでもが激昂していた。
「メカゴジラ=シティからすれば核攻撃なんか想定済みのはず、人類側の攻撃準備を察知したら、間違いなく先んじて攻撃を仕掛けてきますよ。ひょっとしたら今にでも先制攻撃の準備を進めてる可能性すらあります! 無茶だ、奴らを出し抜けるわけがない……っ!」
サエジマの言うとおりだった。
もしそうなったとき、メカゴジラ=シティはこれ幸いとばかりに外敵を排除しに掛かるだろう。敵の攻撃を如何に早く察知し、そして如何に早く攻撃を仕掛けて相手を撃滅できるかどうかの競い合い。まるで遠い昔の冷戦時代に逆戻りじゃないか。
おまけにメカゴジラ=シティは例の『宣言』で純粋水爆の保有と、それによる核抑止、ひいては核の報復攻撃を示唆していた。仮にわたしたち人類側から先に核ミサイルを撃ち込むことができたとして、それで仕留め損ねたらそれこそメカゴジラ=シティは間違いなく純粋水爆による報復に打って出るはずだ。そうなれば行き着く果ては核兵器の撃ち合い、世界の破滅しかなくなってしまう。
……『怪獣黙示録』による人類滅亡を回避できそうかと思いきや、まさか自分たちで造ったロボット怪獣を相手に世界大戦争の危機に瀕してしまうとは。まったく、怪獣なんかより人間の方がよっぽど怖いわ。
「落ち着け、おまえらッ!!」
隊員たちに動揺が広がる中、ドンと一喝したのは機龍隊副長のハヤマだった。途端、冷や水を浴びせられたかのようにその場が鎮まる中、ハヤマは静かにわたしへ問いかける。
「……でも、これで終わるつもりは無い。だろ、ヤシロ?」
ハヤマの問いに、わたしははっきりと答えてやった。
「当然よ。せっかく『怪獣黙示録』で守り抜いてきた大切な街の一つ、いやこの世界で、そうむざむざと核戦争なんて起こされてたまるもんですか」
そう答えたあと、わたしは続けて他の隊員たちに告げた。
「……ここからはわたし、ヤシロ=ハルカの独断行動よ。Gフォース本部の方針には逆らうことになるし、あなたたちのこれからのキャリアにも傷がつくかもしれない。だからあなたたちに隊長として命令はしないし、お願いもしない」
ただね。
「わたしはこの世界をまだ諦めたくない。アキラさんやあなたたち、そして息子のハルオ。わたしの大切な人たちが生きている、この世界を守れるのなら命だって惜しくない。だから今回は戦う、たとえわたし一人になったとしてもね」
それはわたし、ヤシロ=ハルカによるエゴだった。
決死の覚悟だなんて、そう御大層なもんでもない。そんなもの、怪獣どもを相手に戦う都度にいつだってしてきた。だから今回だっていつもどおり、やるべきことをやるだけだ。
とはいえ、今回ばかりは事情が違うところもある。あるいは国連やGフォースの御偉方の言うとおり、核攻撃が上手く行ってキレイサッパリ侵略者どもを片付けて、巧い具合にオシマイに出来るのかもしれない。あるいは、そうやって人類の歴史は何事も無かったかのように、これからも続いてゆけるのかもしれない。
ただ、それで犠牲になる人が間違いなく出てくる。そんなの、わたしがとうてい我慢ならない。
こんなのは、結局わたしの個人的なワガママでしかない。だから大切な部下たちに『一緒に地獄まで付き合ってくれ』なんて到底言えない。さっきの言葉は、そう思ってのことだった。
しかし……。
「……やれやれ」
そう溜息交じりで真っ先に呟いたのは機龍の血気盛んなオペレータ、アキバだった。
「ったく水くせえなあ。おれを誰だと思ってるんです? “Gフォースの独立愚連隊”機龍隊の正オペレータ様だぜ? 核戦争を前に今さら懲戒の一つや二つ、どうだっていうんです?」
アキバの言葉に続いて機龍隊随一のクールな凄腕パイロット、キサラギも口を開く。
「ヤシロ隊長のムチャは今に始まったことじゃあないでしょう? むしろわたしたちがストッパーにならなきゃあ、何をしでかすかわかったもんじゃあないですし」
……ストッパー、か。やれやれ、言ってくれるじゃないの。
わたしが思わず笑みを零してしまう中、通信担当アンザイと分析担当サエジマも口々に答えた。
「お付き合いしますよ、ヤシロ隊長!」
「ぼくもです。毒喰らわば皿まで、どうせ行くなら地獄の果てまでお供させてください!」
そして最後に、副長のハヤマがわたしの肩をぽんぽんと軽く叩いた。
「……だってよ。相変わらず人気者だな、我らがヤシロ隊長は」
……ありがとう、皆。
こんなわたしと共に、命を賭けて戦ってくれるという機龍隊の面々。そんな大切な部下、いいや戦友たちに、わたしはその場で深々と頭を下げた。
……とまぁ、勇ましく戦う決意をしたのはいいけれど。
「……で、なんの作戦も無かったんスか?」
「ええ、そうよ。当然でしょう?」
「ホントにムチャクチャだぁ……」
そうぼやいたアキバを筆頭に、わたしは機龍隊の全員から呆れられてしまった。なによ、その『底無しのアホ』を見るみたいな目つきは。
「まぁ、仕方ないだろ」
そう言って苦笑いしながら助け船を出してくれたのは、副長のハヤマだった。
「こちとら上層部から嫌われてる“独立愚連隊”。上の方針が固まってる以上、作戦なんざ降りてこないだろうし、こっちでいきなり『何かしよう』って言ってもすぐに出来るもんでもないさ」
……ありがと、ハヤマ。
そうやってハヤマがほどよく水を向けてくれたところで、わたしは本題を切り出した。
「その作戦を考えるのもわたしたちの仕事よ。さあ、知恵を絞りましょ」
「そうは言いましても……」
そこでまず反論したのは機龍隊の分析担当、サエジマだった。
「知恵を絞るも何も、まず敵の情報がまったくありませんからねぇ。現状の我々が把握しているものと言えば『ナノメタルで東京城南地区を占領したメカゴジラ=シティ』と『荷電粒子ビーム砲でその防衛線を担う超巨大ゴジラ・タワー』ってくらいなもんですし、シティへのサイバー攻撃も失敗してますし」
たしかに、サエジマからすればさぞや困った話だろう。いつもだったら巧みな状況分析で勝機を見い出してくれるサエジマだけれど、今回はその分析の基になる情報がほとんどないのだ。いくら分析に長けていても、これではどうしようもない。
続いて、キサラギが口を開く。
「一応チュウジョウくんやトモちゃん、昔の整備隊の仲間には声掛けられますけど……」
キサラギはもともと整備エンジニアからパイロットに転向した、異色の経歴の持ち主だ。だから今でも整備チーム仲間の伝手があるし、それらをフル活用すればメカゴジラ機龍やしらさぎの出撃自体は可能だろう。
実際、それで強引に出撃したケースは無くも無い。まあ間違いなく上からカミナリ落ちるだろうけど、核戦争の危機を前にしたら別にどうってことない話である。
とはいえ、そんなキサラギでも今回は渋面を浮かべるしかないようだった。
「やっぱり何の情報も作戦も無いとなるとどうにも……」
……やっぱり、そうよねぇ。はてさて、どうしたもんかしら。
そうやって機龍隊一同で悩み込んでいたときのことだった。
――Prr、Prr!
不意に着信が入った。一同、いっせいにミーティングルーム備え付けの通信機へと視線が集中した。その中でも特に気の小さいアンザイがビクッと全身を引き攣らせて、これまた気の小さいことを言う。
「もしかして、わたしたちが勝手に動こうとしてるのが上にバレたとか……?」
「まさか。たまたまでしょ。はいこちら機龍隊本部……」
そう流しながら受話ボタンを押す。はいもしもし?
「……はい?」
けれど、今度はわたしが驚く番だった。そこで通信してきた相手が、わたしの思いもよらない人物だったからだ。
わたしはすぐさま通話を切り替え、ミーティングルーム据え付けのモニタを使ったテレビ通話へ映像を映し出した。そこに映し出されたのは見知った人物の顔で、並び居る機龍隊一同も驚愕した。
〈……マイア=シモンズよ〉
エイペックス社の戦うヒロイン社長令嬢、マイア=シモンズ。先日会ったときは溌溂としていたその美貌も、今は心成しか元気がない。流石の戦うヒロイン社長令嬢さんも、シドニーと東京、立て続けに起こったこの大騒動のせいで憔悴しているのだろう。
だけどそんなの関係ない。わたしは言ってやった。
「一連の騒動を前にして、よくまあノコノコと連絡してこれたわね。いまさら何の用? 東京を占拠してるメカゴジラ=シティ、とっとと機能停止させなさいよ。アレに使われてるナノメタルも、どーせあんたらエイペックス社御自慢の新製品なんでしょう?」
わたしからの容赦ない口撃に、マイア=シモンズはひどくバツの悪そうに視線を逸らしている。
〈……制御不能よ〉
は? 制御不能??
唖然としたわたしに、マイア=シモンズは苛立った様子で怒鳴り声を上げた。
〈だから、あのナノメタルは制御不能なのっ! 制御システムは完全にうちの手から離れてしまっていて、機能停止も含めてこちらの操作は一切受け付けない有様よっ! おかげでこっちも大わらわだわっ!〉
「あーなるほど。だからわたしたちに今さら泣きついてきてるわけか」
〈ぐっ……〉
ぷっ、ざまアないわね。これ見よがしに嘲笑ってやると、マイア=シモンズはムキになって言い返してきた。
〈そ、それを言うならあなたたちGフォースこそヤバイんじゃあないのっ!?〉
「ヤバイ、なにが?」
わたしが聞き返すと、マイア=シモンズは挫かれた主導権を取り返さんとばかりに捲し立ててきた。
〈東京の一件、あなたたちGフォースが散々やってもナノメタル=メカゴジラを仕留められなかったのが原因でしょう? 今回の件で、あんまり大きな口は叩けないんじゃあないかしらっ!?〉
……はんっ、所詮は小娘ね。わたしは鼻で笑い飛ばした。
「その根本原因の張本人たちから何をどう言われようが、こちとらどうとも感じないわね」
〈くっ……〉
「それにどっかの誰かさんたちが『真にこの世界の守護者たりえる、真のメカゴジラ』なんてものを作ってくれたおかげでわたしたち機龍隊はもうお払い箱、そのどっかの誰かさんたちが、あとはどーにでもしてくれるんじゃな~い??」
〈ぐ、ぐぬぬ……!〉
……ふう。先日、機龍や仲間たちを散々馬鹿にされたことへの留飲を下げたところで、わたしは話を進めることにした。横で見ていた機龍隊の中堅若手ことアキバ、キサラギ、サエジマ、さらにはアンザイまでもが「うわあ……」「隊長……」「流石にそれは……」「オトナげないです……」とドン引きしていたけど、ここは年長者の貫禄でもって軽くスルーしておく。
「で、本当に何の用? わたしたちGフォースは、大事なだいじな新型メカゴジラを奪われちゃったあなたたちみたいな強欲で愚かなお間抜け民間企業と違って“立派な国際機関”だから、善良な一般市民からの困った相談っていうなら喜んで聞いてあげるけど?」
〈あ、あんた、意外と根に持つのね……〉
「さあ? それが他人様にものを頼む態度なのかしら?」
〈ぐぎぎっ……〉
わたしからの慈悲深い御言葉に感銘でも受けたのか、それともそれどころじゃないからか、マイア=シモンズは気を取り直して自分の用件を話し始めた。
〈まあ、まずは、今から送るデータを見てちょうだい〉
その言葉に続いてマイア=シモンズが送信してきた添付ファイルを、わたしはセキュリティスキャンで警戒しつつ開封する。中身は複数のCAD設計図と膨大なソースコード、ナノメタルの組成構造、その他もろもろにまつわるデータだった。
……これは?
〈我が社の新型メカゴジラ開発プロジェクト『人類の新たな希望』にまつわる、わたしが知ってる限りのすべてよ。あのゴジラ・タワーも含めて、メカゴジラ=シティに奪われた試作モデル全てのデータがここにある。そしてメカゴジラ=シティの構造上の『弱点』もね〉
ふーむ……ってちょっと待った。
「奪われた試作モデルのことはともかく、なんであなたがメカゴジラ=シティの弱点まで知ってるのよ?」
〈メカゴジラ=シティも、我がエイペックス社の製品だからよ〉
わたしの質問にすかさず答えるマイア=シモンズ、その表情は心の底から忌々しげだ。
〈メカゴジラ=シティはもともと我が社が『怪獣災害に対する復興および新未来都市建設計画プラン』として、各国首脳と極秘裏に検討調整を進めていたものがベースよ。ナノメタルを建材として使うアイデアはもちろん、ヤツらが世界中の人々を誑かすのに使ってるメディア広告戦略も、ヤツらが純粋水爆を造るのに使った核融合技術も、有名マンガアーティストのオダカ=ゲンゴに大金払ってデザインしてもらったバーチャル・アバターのマスコットまでも、なにもかもが我が社の計画の丸パクリだわ! それをこんな形で悪用されて、黙って見ていられるわけがないじゃない!〉
「……もしもメカゴジラ=シティがいなかったら、いずれはエイペックス社が似た様なことをするつもりだったのかよ」
アキバがぼやいたとおりである。もしそうなら今の事態も全部エイペックス社のせい、それでエイペックス社の連中が困るのも自業自得ではなかろうか。そう思わないでもなかったけれど、それはまぁこの際置いておこう。
そんなわたしたちの前でマイア=シモンズは、自分で話しているうちに憤懣やるかたなくなったのかますます鼻息荒く強い口調になってゆく。
〈おかげで我が社は各方面の信用がガタ落ち、株価も急落、破産寸前よ! このままだとエイペックス社は告訴の雨あられ、賠償金の支払いで倒産だわっ!!〉
いや、知らんがな。それこそ自業自得でしょうよ。ヒステリックに喚き散らすマイア=シモンズへそう言ってやりたくなったけど、流石にやめておいた。なんかここまでくるとカワイソーだし。
とにもかくにも、わたしは疑問に思ったことを述べた。
「そこまでわかってて、なんでわたしたち機龍隊に話を持ってくるの? 国連や各国の御偉方には話したんでしょう?」
〈もちろん話したわよ〉
わたしの質問に、マイア=シモンズは不機嫌そうに即答した。
〈そしたら例の“核攻撃”よ。各国の御偉方、わたしたちが提供した資料から読み取ってくれたのは『ナノメタルに核爆弾が効く
だけど、とマイア=シモンズは言う。
〈あんたたちGフォース、いいや機龍隊ならどうにかできると思って。それにあなたたち、“Gフォースの独立愚連隊”なんでしょう? ちょっとは融通も利くんじゃないかしらん?〉
……イヤに頼ってくるな。何が目的?
わたしがそう聞いてみると、マイア=シモンズは〈目的なんかない〉と澄ました顔で答える。
〈わたしもキラアクのことは疑ってた。いくら優秀で天才でも、インターネットで見つけてきただけの顔もわからない科学者なんて信用できるわけがない。わたしもあいつのことは会社の役員会で何度も具申して反対したわ。でも結局、役員会で押しきられてしまった。当然よね、わたしなんてただの『戦うヒロイン社長令嬢』で『広告』、つまりは『御飾り』だもの〉
溜め息混じりの最後の一言は、強い自嘲が籠っているように思えた。
……そこら辺、自覚してたのか。やっぱりわたしが先日見立てたとおり、マイア=シモンズはなかなか頭のキレるタイプだったようだ。
そんなマイア=シモンズの話は、それからも続いた。
〈あなたの言うとおりよ、ヤシロ=ハルカ。今のわたしたちエイペックス社は、強欲で愚かなお間抜け民間企業に成り下がってしまった。あのときは役員たちも株主も、誰も彼もがあいつがもたらすテクノロジーと利益に目が眩んで冷静さを失っていた。それでシドニーと東京の一件が起きたら今度は『誰が悪い』『お前が悪い』『いいやお前こそ』で醜い責任の擦り合い……まったく、核戦争の危機だってのにこの有様で、我が身内ながら心底ヘドが出るわ〉
「ふーん……それで?」
わたしが続きを促すと、マイア=シモンズは逡巡しながら続けた。
〈……だけどヤシロ=ハルカ、あなただけは最初からキラアクに目をつけていた。今回の件にキラアクが関わってるなら、あんたたち機龍隊にそれを暴いて止めてもらいたい。でもエイペックス社の人間であるわたしには出来ない、だからあなたたちに任せる。それだけのことよ〉
……本当に? 本当にそれだけなのかしら?
わたしが食い下がると、マイア=シモンズはしばらく悩んでいたようだったがやがてポツリと呟いた。
〈……責任があるからよ〉
はい? なんだって??
わたしがわざとらしく聞き返した途端、マイア=シモンズは〈あーもー!〉とヤケクソ気味に声を張り上げた。
〈責任よ、責任! わたしを誰だと思ってんの、エイペックス社のCEO、社長令嬢よ!? ゆくゆくは会長、将来継ぐことになる会社の心配をするのは当然でしょうが! もしこれで会社が潰れでもしたら大勢の部下や社員が路頭へ迷うことになる、たとえ御飾りでも、現CEOのわたしにはその責任があるって言ってんの!〉
……ふーん、そういうことね。本音が聞けて良かった。
で、それはそれとして。
「でもこれ、立派な情報漏洩じゃあないの? こんなことしたら会社の方針、いいや、あなたの御父様のウォルター=シモンズ氏に逆らうことになるんじゃない? その辺、大丈夫?」
敢えて口にしたわたしの意地悪な追及に対し、マイア=シモンズは一瞬迷うように目線を泳がせたが、やがて意を決した様子で答えた。
〈パパ……いや、会長は関係ないわ。これはケジメの問題よ。こんな危険なバケモノどもの広告塔を自ら務めておいて、いざ問題が起きたら知らんぷり。そんな無責任な奴が次のリーダーになったとして、いったい誰が部下としてついてきてくれるっていうの?〉
なるほど……『ケジメ』ねぇ。なかなかカッコイイこと言うじゃん。
「……ふふっ」
〈……何がおかしい?〉
そうやって鋭く睨み付けてきたマイア=シモンズに、わたしは口許に笑みを浮かべながら答えた。
「いやぁ、あなた、意外と気骨があるんだなあ、って思っちゃって。てっきりパパから新しいオモチャを与えられてはしゃいでるだけの御嬢様なのかと思ってたわ」
〈な、なんですってえ!?〉
どうどう。今にも噛みついてきそうな剣幕のマイア=シモンズを、わたしは宥める。
〈バカにしてんじゃあないの、むしろ褒めてんのよ。わたし、あなたみたいな根性がある奴は嫌いじゃあないし〉
すかさず、わたしは思いきり頭を下げた。こういうときは迅速に、かつ潔くスパッとやるのがコツだ。そうすれば相手も呆気に取られて受け容れるしかないし、互いに後腐れもない。
「情報提供、ありがとう。おかげで助かった」
わたしが顔を上げると、マイア=シモンズはすこぶる不機嫌そうに、だけどどこか呆れたように眉間をしかめていた。
〈……あなた、ホント良い性格してるわね〉
よく言われるわ。まあ、あなたの場合はお互い様だと思うけどね。
……ミス・シモンズ、いやマイア=シモンズ。
〈な、なによう?〉
これまた警戒して身構えるマイア=シモンズに、わたしは微笑みながら告げる。
「あなた、きっと良い社長になれるでしょうね」
そのときマイア=シモンズはほんの一瞬、虚を突かれたような顔をした。犬猿の仲ともいうべきわたしからこんな風に認められるなんて、きっと夢にも思っていなかったのだろう。
だけどすぐに強気な表情を取り繕い、マイア=シモンズはしゃあしゃあと言い返した。
〈ふん、当然だわ……よろしく頼むわね、機龍隊の隊長さん〉
「もちろんよ」
……さて。エイペックス社マイア=シモンズとの通話を打ち切ったわたしは、周りで控えていた機龍隊の隊員たちへと振り返った。
わたしとマイア=シモンズのやりとりを共に聞いていた、機龍隊の隊員たち。その誰もが決意の籠った精悍な顔をしている。きっと全員が理解していることだろう、これからわたしたちが何をするべきか。
わたしは意気揚々と、そして自信満々の笑みを浮かべながら口を開く。
「聞いてたかしら、お嬢さんと野郎共? 仕事に掛かるわよ」
わたしの号令に機龍隊一同、「了解!」と威勢よく声を合わせて応えてくれたのだった。
タイトルは映画『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』から。
好きなゴジラ映画のヒロイン
-
山根 恵美子
-
小美人(昭和)
-
星 由里子さんが演じてた記者の人
-
真船 桂
-
三枝 未希
-
小美人(コスモス)
-
小美人(エリアス)
-
ベルベラ
-
辻森 桐子
-
立花 由利
-
家城 茜
-
カヨコ=アン・パタースン
-
尾頭ヒロミ
-
マディソン=ラッセル
-
ジア
-
タニ=ユウコ
-
ミアナ
-
マイナ
-
神野 銘
-
小美人(ちびゴジラ)