気づいたらメカゴジラ転生して20年経ってた   作:よよよーよ・だーだだ

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12、「巨大ロボのパイロットで17歳のヒロインですって、スゴいですねミオリネさん!」「だからアンタもそうでしょーが、スレッタ!」

 さて、そろそろここら辺で、ぼく:メカゴジラ機龍がヤシロ=ハルカと出会ったときの話をしようか。

 ぼくがハルカと出会ったのは20年前、彼女が機龍隊に入ってきたばかりの頃。皆が寝静まった、遅い夜更けのことだったのをよく覚えている。

 

「なに、これ……」

 

 その夜もいつものように機龍隊からの脱走を試みていたヤシロ=ハルカは、たまたま逃げ込んだ先の開発工廠ドックにて『建造中の秘密兵器』、つまりぼくの姿を見上げながら言葉を失っていた。

 この時のぼくは恥ずかしながら外装がまだほとんど完成していなくて、『中身』がところどころ剥き出しになっていた。だからハルカも本当なら見るはずの無い、『本来なら見てはならなかったもの』を見てしまったのだ。

 

「ゴジラの骨……?」

 

 単弓類に近い大きな眼窩を備えた頭蓋骨に、獰猛な牙と強力なカギ爪、大蛇のように長い尻尾、そして背中に並び立つ三列の背鰭。完全に白骨化した死骸、その各部には機械の関節パーツと人工筋肉が取り付けられ、天井から吊るされたチェーンと拘束具で厳重に固定されている。

 Gフォースが開発していた『人類最後の希望』、メカゴジラ機龍。その正体は、ゴジラの骨を埋め込んで創り上げられた生体ロボット兵器だった。

 

「こいつが、人類最後の希望……?」

 

 そんなぼくの姿にハルカが呆気に取られていると、

 

「あっ、いたぞっ!」

「!」

 

 ハルカが振り返った先、廊下の向こうにいたのは寮監と衛兵たち。寮を脱走したハルカを追ってきたGフォースの大人たちだ。

 

「……ヤッバ!」

 

 と、ハルカはすぐさま我に返って逃げ出そうとしたが、反対側の通路にも回り込まれて挟み撃ちに遭ってしまった。

 

「ヤシロっ、また脱走しやがって!」

「今度という今度は軍法会議も免れんぞっ!」

 

 そう声を荒げながら、大人たちは数人がかりでハルカをとっ捕まえた。対してハルカも死に物狂いで逆らおうとする。

 

「はなしてっ、はなしてよっ!」

 

 ハルカは羽交い絞めにされながらじたばたと暴れていたけれど、所詮は17歳の華奢な女の子。大の大人、それも数人がかりに取り押さえられてしまっては到底逃げられやしない。

 しかし、それでもハルカは諦めずに抵抗を続けた。

 

「はなせ、はなせよ……っ!」

「このっ、大人しくしろ……ッ!」

 

 そうやってハルカが手足を振り回しながら力いっぱいに抵抗するうちに、冷静さを失った衛兵が拳を振り上げた拍子、傍に置いてあった台車を突き飛ばした。

 台車はたまたまブレーキの外れていたキャスターでそのまま走り出し、工具の置かれたスチールラックへ思いきり激突。今度は棚がドミノ倒しのような連鎖反応で倒れ始めた。

 スチールラックが倒れた先は、ハルカたちの頭上。ドライバー、スパナ、モンキーレンチ。棚から零れ落ちた重たい合金製の工具たちが、ハルカたちの頭上に降り注いでゆく。

 

「しまっ……!」

 

 自身の危機を察知した大人たちは即座に身を躱したけれど、ハルカは彼らの影で反応するのが遅れた上に尻餅をついたままだったのですぐに起き上がれなかった。

 

「くっ……!」

 

 咄嗟に腕を構え、ぎゅっと目を瞑って身を守ろうとするハルカ。けれど、このままだと怪我をしてしまうだろう。

 

 

 ――危ないっ!!

 

 

 ……今にして思うと、このときのぼくはどうしてこんなことをしたのだろう?と疑問に思う。

 気がつくと、建造途中のぼくの機体が動いていた。超合金製のシャフトを伸縮、人工筋肉を爆発的に躍動させて、ぼくは巨大な掌を差し出した。

 ――ガシャァーン!!

 耳障りな金属音が響き、倒れたスチールラックと工具類が辺りに散らばる。かくして落下する工具類からハルカを庇ったぼくは、すぐさま掌の下を覗いてみた。

 

「い、いったい、なにが起こったの……?」

 

 ……良かった、無事だ。

 ハルカは尻餅をついたまま目を白黒させてしこたまびっくりしていたけれど、ぼくが手を出して庇ったおかげで、落下した工具やスチールラックが彼女を傷つけることはなかった。 

 咄嗟にハルカを庇ったぼく、その姿を傍から見ていた周りの大人たちは驚愕した。

 

「お、おい……!?」

「こ、こいつ、動いてるぞ……!?」

 

 まあ、驚いて当然だろう。まだ未完成のはずの巨大ロボット、それも大怪獣の骨を埋め込まれたグロテスクな異形が独りでに動き出したのだから。

 だけど構いやしない。この際だ、動けるうちに動いてしまおう。固定具を思い切り引っ張りながら、ぼくは身を起こして立ち上がる。

 途端に警報装置が押され、非常用のアラートが響き渡った。

 

〈緊急事態発生、緊急事態発生! 至急『人類最後の希望』開発工廠へ急行せよ! 繰り返す……〉

 

 科学者、軍人、技術者たち。アラートを聞きつけた大人たちが騒がしくやってきて、ぼくの姿を見上げて身を竦める。そんな人間たちを見ているうちに、ぼくは遠い記憶を揺り起こされた。

 ……閃光、衝撃、劫火、地獄の苦痛。

 暴力、破壊、殺戮、燃える世界。

 言葉に出来ない感情と記憶が交錯する中、ぼくの身体の何処からか力が漲ってきた。体の奥で燃え滾る灼熱、それをどこかに振るわないでいられない、どこかへ吐き出してぶつけてやりたい。そんな衝動が湧き上がり、ついついぼくは拘束具を力任せに引き千切ってしまった。

 

 ――バキンッ!

 

 耳障りな金属音ががなり、ぼくの手足は自由になる。人工筋肉が剥き出しの四肢を動かすのには苦労したけれど、動き出してしまえばスムースなものだ。重い足音を立てながらぼくは一歩、また一歩、前へ前へと踏み出す。

 

 ――どしぃーん、どしぃーん……

 

 背中が、身体が、燃え滾るように熱い。その灼熱に押し出されるかのように、ぼくは前進する。

 ……のちに聞いたところだけれど、如何なる科学的理由によるものか、このときぼくの背鰭は青白い後光を帯びているように見えたという。そう、まるで『あの怪獣』が放射熱線を放つ時に背鰭を光らせるのと同じように。

 

「まるでゴジラだっ……!」

 

 その呟きを耳にしたことで、ぼくは足下にいる人間たちの存在へようやく思い至った。恐れおののき足元を逃げ惑う姿は、まるでちっぽけでみじめなムシケラみたいだ。

 ……そうだ、ちょうどいい。有り余るこの力、こいつらへぶつけてやろう。愚かで哀れな人間たち、この目障りなゴミムシどもを捻り潰してやったら、あるいは()()()()()()()()()()、いったいどれだけ胸がすくだろう。そんな楽しい考えが込み上げてくる。

 声帯の無い骨の喉を震わせ、ぼくが恐ろしい咆哮を上げようとしたまさにそのときだった。

 

 

「だめえっ!!」

 

 

 大人たちを踏み潰そうとするぼく、その前に立ちはだかったのは先程助けた女の子、ヤシロ=ハルカだった。

 ……どいてよ。ぼくはそう言わんばかりに睨みつけてやったのだけど、ハルカは一歩も引かなかった。

 ハルカはぼくに告げた。

 

「もういい、もういいから……っ!」

 

 ……そうやって必死に懇願するハルカの姿を見て、ぼくは再び我へと還った。背中の光熱が消え失せ、腹の底から沸騰していたマグマも一瞬にして冷めてゆく。

 気がつくと、無限に湧いてくるかに思えた体の中のエネルギーはいつのまにか跡形もなく消え去っていた。ぼくの全身から力が抜け、巨体がその場へ崩れ落ちる。

 

 ――ズシィィィーン……!!

 

 突然動き出したかと思えば、全身の関節部から煙を噴き出しながら再び動かなくなったぼく。目の前で起こった椿事に、周りの人たちはただ茫然とするしかなかった。

 そんな中、ハルカが一言。

 

「死んだ……?」

 

 これが、ぼく:メカゴジラ機龍と、ヤシロ=ハルカのファーストコンタクトだった。

 

 

 

 開発中だったぼく:メカゴジラ機龍が勝手に動き出すという『大事故』から数日後。

 

 事件は『起動実験中の暴走事故』ということで落着、その直前に発生していたヤシロ=ハルカの脱走劇については有耶無耶になったらしい。

 当時ぼくのことはまだ『機密』扱い、そこに踏み込んでしまったハルカは本来なら軍法会議で処分を受けなければならないはずだった。しかしハルカはまだ未成年だったし、その場に居合わせた開発チームの人たちがハルカを庇ってくれたのもあって、ヤシロ=ハルカは一週間の謹慎と始末書で許されることになった。

 

「……というわけよ。こないだはありがとね。助けてくれようとしてくれたんでしょう?」

 

 謹慎が終わったあと、ヤシロ=ハルカはわざわざぼくのところへ御礼を言いに来てくれた。そんなハルカの律儀な姿を、ぼくは虚ろな瞳で見下ろした。

 ……短く切り揃えられた艶やかな黒髪に、切れ長のシャープな目つきの整った顔立ち。よく鍛えられたしなやかな体躯に、シャッキリ凛とした佇まい。

 こうして書くと今のハルカとそう変わらないけれど、この頃の彼女はまだまだ荒削りで、思い返せば機龍隊の制服もあんまりきっちり着こなせてなかったような気がする。総じて、頼もしい戦士らしさというよりもあどけなさが抜けきれない、17歳のヤシロ=ハルカはそんな普通の女の子だった。

 やがてハルカはニヤリと微笑んだ。

 

「それより聞いたわよ。あんた、これまでうんともすんとも言わなくて、大人たちを散々困らせてたって。あんたもわたしとおんなじ“叛逆児”ってわけね。なかなかやるじゃん、気に入ったわ」

 

 そうやって不敵に笑うハルカの態度は傲岸不遜、まさに『この世に怖いものなんか何もない』って感じの顔だった。

 ついでに、『本来ならば立ち入り禁止区域であるはずのこの工廠に、なぜハルカがいるのか』ということについて、その理由をぼくは当のヤシロ=ハルカ本人から直接聞かされることになった。

 

「……で、『わたしがいればあんたがまた動いてくれるかもしれない』ってんで、ここへの出入りが許可されたってわけ。同じ機龍隊同士、いずれチームメイトになる間柄ってことで。よろしくね、メカゴジラ機龍」

 

 ……いちおう言っておくけれど、別にぼくからハルカに何か声を掛けてあげたことなんか一度もない。したくても出来ないし、出来たとしても間違いなくびっくりさせてしまうだろう。

 ただ、ハルカの方はというといかなる理由によるものか、このぼくに何か“心”らしいものがあることを悟っていたようだった。ハルカは時々ぼくのところにやってきて、まるでぼくが聞いているのをわかっているかのように、ぼくに話をしてくれた。

 たとえば、こんな風に。

 

「また来たよ、機龍。調子はどう? ……って言ってもあんたは相変わらずだろうけど」

 

 その日現れたハルカは、しきりに自分の頭をさすっていた。彼女の旋毛(つむじ)に出来ているのは大きなたんこぶ、とても腫れてて痛そうだ。

 

「……また、喧嘩しちゃってさ。トガシ隊長に叱られちゃった」

 

 喧嘩の相手というのはハヤマくんだろうか、とぼくは考えた。

 ハヤマ=ススムくん、ヤシロ=ハルカにとっては機龍隊の同期でのちの機龍隊副長、将来はハルカの右腕として活躍する人だ。今じゃあもう息ピッタリでツーカーのハルカとハヤマくんだけど、実は20年前の機龍隊結成当初ときたらそりゃもーめちゃくちゃ仲が悪かったんだよね。

 負けん気の強いハルカとプライドの高いハヤマくんは似た者同士で水と油、さらにハルカだけが開発中の秘密兵器――まあつまりぼく:メカゴジラ機龍のことだ――の開発工廠へ出入りを特別に許されていたことなんかをきっかけに関係が拗れまくって、当時隊長だったトガシ中佐もひどく手を焼いていたらしい。まあそんな宿敵というかライバルというかのハルカとハヤマくん、大人になった今じゃあ良い思い出みたいだけどね。

 さて、そんな未来が待っているとは露も知らない若き日のハルカは、周りに人がいないのを確認しつつ、あったかいコーヒーを啜りながらぽつりぽつりと愚痴を吐き出し続けた。

 

「だってハヤマの奴、“あの人”のことを悪く言うんだもの。『安全な場所から人の不幸をほじくり返しに来た野次馬クズ野郎』って。あの人だって大切な仕事をしてるのに」

 

 ハルカの言う“あの人”。ああ、このあいだ来ていた〈調査官〉の人か。名前はたしか……

 

「サカキさんよ」

 

 ああ、そうだった。物好きな人もいるもんだよね、『怪獣黙示録の時代の証言集を作りたい』だなんて。ちなみにハルカとサカキさんは前からの知り合いで、オペレーション=エターナルライトで知り合って以来だと聞いている。

 ……ただまあ、今回ばっかりはハヤマくんが怒るのも止むを得ない気がしないでもなかった。

 先程のハルカとの喧嘩の発端は、ハヤマくんがサカキさんのことを悪く言ったのが原因らしい。けれど、風の噂で聞くところによればサカキさん、ハヤマ君のお兄さんがゴジラに踏み潰された事故についての証言を裏取りに来たらしいじゃない。ハヤマくん、お兄さんのことをとても尊敬してたし、そんな大切な人の不幸を根掘り葉掘り聞きに来られたら不興を買っても無理はない気はするけどなあ。

 そんなぼくの考えを読み取ったかのように、ハルカは呟いた。

 

「サカキさんは野次馬クズ野郎なんかじゃあない。謗られようが嫌われようが、それでも人類の戦いの歴史を未来に遺そうとしてくれている立派な人よ」

 

 ……おや、珍しい、とぼくは思った。

 日頃のハルカといえば、機龍隊以外の人の話なんか滅多にしない。ましてや赤の他人を『立派な人』だなんて褒めたりもしない。サカキさんについては、何か思うところでもあるのだろうか。

 ぼくが訝しんだちょうどそのとき、ハルカの後ろから声が掛かった。

 

「誰が“立派”だって?」

「そりゃあもちろんサカキさんの……って、サカキさんッ!?!?」

 

 うっかり答えそうになったハルカがすぐさま振り返るとそこには件の調査官、〈サカキ=アキラ〉さんが立っていた。サカキさんの年齢はハルカよりちょっと上、情報部の文官だけあって厳つさはないけれどスマートに背が高くて、そしてとても優しそうな人だった。

 

「やぁ、ハルカさん。久しぶり」

「な、なんでここに!?」

 

 サカキさんは、ハルカが不意を突かれて動転していることに気づいていない様子で、ハルカへ気さくに話し掛けた。

 

「今回のメカゴジラ開発計画について、情報部(ウチ)でも記録をとることになってね。ぼくもしばらくここに通うことになりそうなんだ」

「へ、へぇ、そ、そうなんですか~……」

 

 サカキさんに受け答えするハルカだけれど、なんだかひどく落ち着きがない。寛いでいたラフな雰囲気はどこへやら、急に背筋を伸ばしたり、とっさに髪を整えてみたり。日頃は凛としている視線も今はふよふよ、どぎまぎしていて気もそぞろ、気が気でない、という様子。何者にも物怖じしない、日頃のヤシロ=ハルカからは到底考えられない姿だった。

 

 ……ははーん。

 

 そんなハルカの“らしくない”態度から、ぼくはすぐさま勘付いた。このときの“直感”については、何年かのちにヤシロ=ハルカが結婚したときに本名が()()()=ハルカになったことで裏付けられるのだけれど、それはまあ別の話である。

 ……ハルカ、こう見えて意外と奥手なんだねぇ。ちょっと背中を押してやるか。ぼくは施設内に据え付けられた音響設備をハックし、誰かの端末を経由して着うたサービスと接続、爆音でスピーカーを震わせた。

 さあ、メカゴジラ機龍チョイスのナイスでグッドでフォーリンラブなBGMが火を噴くぜ!!!!

 

 

〈桃色の片想い、恋してーる♪ マジマジと見つめてーる♪……〉

 

 

 途端、ハルカは「ぶフゥーッ!?」と、飲みかけていたコーヒーを思いきり噴き出した。

 

「ゲホッゲホッ……な、なにコレッ?」

 

 ……あれ。流行りの曲だし、今のハルカの心境をこれ以上ないくらいに代弁してくれてる最高のチョイスだと思ったんだけどな。肝心のハルカがお気に召さなかったようなので、選曲を変えてみることにした。こっちはどうだろうか。

 

〈LOVE LOVE LOVE LOVE アイラブユゥー♪ 愛 愛 愛 愛 ミニハムず♪ LOVE LOVE LOVE LOVE アイニージュー♪ 愛 愛 愛 愛 ミニハムず♪……〉

「だからなんでハ●プロなのよッ!?」

 

 うーん、これもダメか。じゃあこれはどうだ。

 

〈思い出つくるのじゃ、やっほい、ほらやっほい! シアワセ分かつのじゃ、ハムハムムゥ~ジャァ~♪……〉

「じゃかあしいっ、余計なお世話だこのポンコツメカゴジラっ!」

 

 開発工場で鳴り響いているぼくのナイスなBGM。ハルカが慌てふためく一方、サカキさんの方は至極愉快そうな様子でハルカへ訊ねた。

 

「……これがウワサの“暴走”かい?」

「……はっ!?」

 

 なぜかしどろもどろに狼狽していたハルカだけれど、サカキさんに声を掛けられてようやく正気を取り戻したようだった。ハルカは必死に取り繕いながら答えた。

 

「え、あっ、そ、そうそう! そーなんですっ! このメカゴジラ、どっかイカレてんのかしらっ、変ですよねぇまったく!」

「あっはっはっは、面白い暴走だねぇ」

「そ、そーですね! あはは、アハハハ……!」

 

 そうやって二人でひとしきり笑い合って、ちょっとだけ“イイ雰囲気”になったあと、サカキさんは帰ることにしたようだった。

 

「それじゃあまたね、ハルカさん。また今度、食事でもしよう」

「え、ええ、ま、また……」

 

 そうやって至極名残惜しそうにサカキさんを見送ったあと、ハルカはぼくの方をキッと睨みつけた。ぼくを見上げるハルカの目つきはとにかく不満げにつり上がっていて、いつのまにか頬から耳の先まで顔中が真っ赤になっている。

 しばらく恨めしげにぼくを睨み続けてから、ハルカは口を開いた。

 

「……なによう。なんか言いたいことがあるなら言いなさいよう」

 

 いいえ、別に? まあ言えないし、言えたところでそんな()()()()()を口にするほどぼくも下世話じゃない。

 もはや誰に向けてるのかもよくわからない、ハルカによる弁明は続いた。

 

「言っとくけどねっ、別に“そういうの”じゃあないからっ!」

 

 “そういうの”ってどういうのだろうね。

 日頃からクールな叛逆児を気取っているハルカらしくなくて、それでいてこれ以上ないくらいにハルカらしい素直な反応だった。いやあ、わかりやすいなー。まあ、そういうところも可愛いと思うけど。

 ぼくがそうやって微笑ましく思っているのに気づいているのかいないのか、ハルカは涙目の半泣きでギャンギャン吼えていた。

 

「くそう、覚えてろよ、メカゴジラ機龍! もしあんたが完成してわたしの部下になったら、そのときはうんとコキ使ってやるからなっ!!」

 

 はいはい、わかったわかった。

 ……ちなみにこのハルカの言葉について、のちにハルカ自身が機龍隊の総隊長になったことで奇しくも現実のものとなるのだけれど、別にハルカがこのときのことを根に持っていたワケではない……はず。きっと。たぶん。

 

 

 

 

 Gフォースへ入る前のことについて、ハルカはあまり語りたがらない。

 まあ、別にぼくも聞きたいとも思わないし、聞きたくても聞けないしね。そっとしておいてほしいことの一つや二つ、誰にだってあるだろう。

 ただ、ハヤマくんと盛大に対立して機龍隊の皆からも距離をとられて孤立していたとき、こんな風に話していたことがある。

 

「……わたしね。親も兄弟も無いし、この世で一人っきりなの。だから()()()()にされるのは昔から慣れっこなのよ」

 

 人類の最終兵器――今にして思えば最終でも何でもないけど当時はそういう触れ込みだったのだ――であるぼく:メカゴジラ機龍の建造が始まったのは怪獣が暴れ狂うこの『怪獣黙示録』が一番苛烈だった頃で、人命が綿くずのように軽い時代だったのはぼくもなんとなく知っている。

 ちょうどその頃にGフォースの少年兵として徴用されたヤシロ=ハルカもきっと、そんな苛酷な時代にありがちだった天涯孤独な戦災孤児の一人だったのかもしれなかった。

 

 とにもかくにもGフォースに入ったヤシロ=ハルカはメーサー戦車隊へ配属されて戦車乗りになり、人手不足で未成年のまま中隊長にまで出世してヨーロッパ解放作戦:通称オペレーション=エターナルライトに参戦。フランスでZILLA(ジラ)の大群とゴロザウルスを撃破した実績を買われ、当時新設された新兵器の試験部隊、つまりはこの〈機龍隊〉へ呼ばれることになった。

 機龍隊への配属当初、ハルカが喜び勇んでやってきたかというと決してそうではなかった。最初の頃、ハルカはこんなことを常々ぼやいていた。

 

「栄転? んなわけないでしょ。左遷よ、左遷」

 

 どういうことだったのかぼくも詳しい経緯は知らないのだけれど、なんでもハルカの部隊がフランスでZILLAを倒したときに『ゴジラを倒した』と誤報を流してしまったのだという。そのことを誰かに触れられると未だにハルカは、

 

「だってあのときはエガートン=オーバリーの怪獣映画もなかったし、ゴジラの実物なんて知らないもの! 鳴き声もそっくりだし、『背鰭が三列あって尻尾があって口から火を吐く』って聞いたら、そりゃあゴジラだと思うじゃない!!」

 

 と、大人げなくムキになったりする。

 それはさておき、とんでもない大誤報を飛ばしてしまったヤシロ=ハルカ。かといってハルカにはZILLAとゴロザウルスという厄介な二大怪獣を撃破した実績もあり、巷でも『オペレーション=エターナルライトの戦乙女(ヴァルキリー)』なんて呼ばれて人気もあったので偉い人たちも大っぴらにハルカを罰するわけにいかず、建前上は『英雄としての腕を買われて機龍隊に!』ということになったらしい。

 

「別に出世でも何でもない。ZILLAやゴロザウルスを仕留めた戦績と、ゴジラを倒したって大誤報を飛ばした失態と、そのバランスを取ったってとこ。せいぜい新兵器の試験でもやってろ、ってことだったんでしょうよ。なにがヴァルキリーよ、恥ずかしくて死ぬかと思ったわ」

 

 新兵器の試験部隊といっても、当時の機龍隊は何の実績もない部隊だった。ずっと最前線でメーサー戦車を乗り回して戦っていたかったハルカからすれば、そんな立場に追いやられた状況はさぞ悔しかったろう。

 でも、今はそんなに気にしていないみたいだった。

 

「最初は『メーサーに乗りたい』と不貞腐れたこともあったけどね。若気の至りって奴よ」

 

 若気の至り、ってハルカはまだ未成年でしょ。思わずツッコみたくなったけれど、生憎ぼくにはそれを伝えることができない。

 そういえば思い出したのだけれど、人間の子供にはやたらカッコつけたがる“中二病”と呼ばれる時期があって、もう少し歳を取るとその中二病をさらに下へ見てカッコつけたがる“高二病”ってのに罹る時期があるらしい。

 

「今は誰もが与えられた武器で戦うしかないのにね。それなのにあのときのわたしときたら『自分にはメーサーしかないんですぅ!』だなんてナマイキなワガママ言っちゃってさ。今思えばただの世間知らず、ガキ、中二病よね。あーやだやだ、カッコワルイ。まったくダサいったらありゃしない……」

 

 そしてぼくの目の前で『若気の至り』『かつての自分は中二病』なんて澄ました顔で語っているヤシロ=ハルカは今17歳、もしも日本の学校に通っていたらちょうど高校二年生にあたるはずだ。どうやら今のハルカは、件の“高二病”に罹っているらしかった。

 ……中二と高二なんて、たかだか3年くらいの違いしかないんだけどなぁ。

 

「ま、すぐにトガシ隊長に目を覚まさせてもらったけど……」

 

 ……と、ハルカがこれまでの来歴をぼくに語り聞かせていると、廊下の向こうから不意に声を掛けられた。

 

「おい、そこの君!」

 

 ハルカが振り返るとそこにいたのは白衣の男性、メカゴジラ開発計画チームに参加している科学者の一人だった。

 ハルカがぼくの下を訪れるときはいつだって夜中、皆が寝静まった頃を忍んでやってくるのだけれど、今夜はどうやらたまたま遅くまで残業していた科学者の人に見つかってしまったらしい。

 

「……なんですか」

 

 つかつか歩み寄ってきて見下ろしてくる男性科学者に対し、ハルカは負けじと威嚇するように上目遣いで鋭く睨み返した。ハルカの負けん気、いつもの癖だ。

 けれど、男性科学者は気にもかけない。尊大に見下ろしながら、科学者はハルカを叱りつけた。

 

「君ねえ、勝手に入ってもらっては困るよ! これは人類の命運が懸かっている最重要プロジェクトなんだ。そんな君みたいな部外者の子供が、そうやすやすと入って良いところでは無いんだよ」

「でも……」

「でも、じゃあない! ほら帰った帰った……」

 

 そうやってぷりぷりと怒った男性科学者がハルカを摘まみ出そうとしたところ、ちょうど通りかかったもう一人の科学者が呼び止めた。

 

「何をしているんだい、君たち」

 

 通りがかりに声をかけたのは、ぼくのDNAコンピュータ制御システムの開発調整を手掛けている科学者チームの一人、ユハラ=トクミツ博士だった。

 同僚の科学者から状況を説明されたユハラ博士は、すぐに得心してあっさり答えた。

 

「ああ、彼女は良いんだ。仕事の邪魔にならない限りは好きにさせてやってくれ」

「い、いいんですか!?」

 

 そうやって驚く同僚の科学者に、ユハラ博士は平然と頷いた。

 

「いいんだ。彼女、ヤシロさんが来ると機龍も機嫌が良くてね。検証作業のデータ収集とデバッグがスムーズに捗るんだよ」

「機嫌だなんて……メカゴジラ機龍はただのロボットでしょう?」

 

 ユハラ博士の呑気な言葉に、同僚の科学者は顔を顰める。その表情は心の底から不服そうだ。

 苦言を呈する同僚の科学者を、ユハラ博士は「まあまあ」と穏やかに宥めた。

 

「ゲン担ぎみたいなものだよ。本当にこのメカゴジラに『心』なんてものがあるのかどうかはわからんが、同じ仕事をするにしてもそう思っていた方が楽しいだろう?」

 

 まるで子供みたいなことを言い出すユハラ博士に、同僚の科学者はひどく苦々しげだった。眉間に皴を寄せた表情で、ユハラ博士に詰め寄った。

 

「我々科学者が、しかもこの『怪獣黙示録』の深刻な戦時下に、そんなオカルトめいた非科学的な考えで重要機密の保持を蔑ろにするのは如何なものかと思いますが……?」

 

 至極真っ当な反論だったけれど、ユハラ博士はどこ吹く風、鷹揚に笑いながら答えた。

 

「深刻な戦時下、だからこそさ。そういうユーモアは心の余裕にもなるし、たとえ非科学的でもより良い結果に結びつくというのならやって損は無いと思うがね。それにヤシロさんは……」

 

 まだ子供だしね。

 明らかにそう言おうとしていたユハラ博士だったけれど、横のハルカからムッとした目線を向けられているのに気がつき、慌ててエヘンと咳払いで誤魔化して言い直した。

 

「……ヤシロさんは信用できる女性だ。『機密』というなら先日の『稼働事故』の時点で彼女はメカゴジラ機龍の『機密』を既に知っているし、現に他所へ口外もしていない。何をいまさら、という話ではないかなあ」

「……そう、ですか」

 

 そんなユハラ博士からの言葉を受けて、同僚の科学者はいたく不満げな表情をしつつ引き下がることにしたようだった。

 ユハラ博士は、メカゴジラ開発チームの中では一番地位が高いメンバーの一人だ。そのユハラ博士が許可を出しているのだから、同僚の科学者としてはもはや言い返せることなど何も無かったのだろう。

 ただし、と科学者の人は最後にこう付け加えた。

 

「ユハラ博士、何かあったらあなたに責任取っていただきますからねっ」

 

 そうして科学者の人が去っていってハルカとユハラ博士が二人きりになったとき、ハルカは真っ先にぺこりと頭を下げた。

 

「……申し訳ありません、ユハラ博士」

 

 きっと迷惑を掛けてしまったと思ったのだろう。機龍隊一のひねくれ叛逆児であると同時に機龍隊一の正直者でもあるハルカは、自分の落ち度を素直に認めて謝罪した。

 そんなハルカに対し、ユハラ博士の方もまた至極申し訳なさそうに頭を掻いていた。

 

「いやあ、こちらこそすまないね、ヤシロさん。しかしサキョウ君には困ったもんだねぇ。彼も優秀なんだが、どうもマジメすぎて融通が利かないというかシャレが通じないというか……」

 

 軽妙に答えるユハラ博士を見ていたハルカは、やがて恐る恐る言い出した。

 

「もしユハラ博士に迷惑をかけているならわたし、もう来ない方が……」

「まさか、とんでもない!」

 

 ユハラ博士は驚いた顔で、すぐさま首を振った。

 

「ヤシロさん、君が来てくれた翌日は機龍の機嫌、というべきかどうかはわからないが、まあともかく機龍の開発がはかどるのは事実なんだ。君が来てくれるおかげで検証も順調に進みそうだよ。むしろこれからも気にせず来てもらって構わないからね」

 

 どこまでもおおらかなユハラ博士。けれどハルカの表情は暗いままだった。

 

「……なんで」

 

 「うん?」と聞き返すユハラ博士に、ハルカは問いかける。

 

「なんでわたしなんかに、そこまで良くしてくれるんですか?」

 

 そう訊ねるハルカの表情は真剣なものだった。

 ハルカにとってそれは、心の底からの疑問だったのだろう。ユハラ博士みたいな偉い学者の先生が、どうして自分みたいなはみ出し者なんかに肩入れするのか。なぜ、どうして。そう思っていたのだろう。

 

「ふーむ……」

 

 そんなハルカの問いに、ユハラ博士の方も真剣な面持ちでしばらく考え込んだあと、やがてこう答えた。

 

「……そういう『わたしなんか』って考え方、ぼくはあんまり好きじゃないなぁ。ぼくからすればヤシロさん、君だって尊重されるべき大切な一人の人間だよ。ぼくや他の人たちと同じようにね」

 

 それはまるで、自分の娘にでも言い聞かせているかのような口ぶりだった。

 

「で、でも……っ!」

「デモもストもない」

 

 それでも納得いかない様子で食い下がろうとするハルカへ、ユハラ博士はサムいオヤジギャグを交えつつぴしゃりと答える。

 

「『何故』というなら、それはぼくがやりたいからやってるだけ、他意は無いよ。それで困るようなことがあればちゃんと言うし、今のところは別に困ってないしね。どうしても気がかりだというなら、そのうち君が世の中へ出たとき精一杯頑張ることで返してくれたらそれでいいさ」

 

 ま、ただ一つ、言わせてもらうなら。ユハラ博士は悪戯っぽく笑いながら付け加えた。

 

「多少の不良行為くらいなら目を瞑ってあげられるけど、君みたいな年頃の女の子がこんな夜更かしをしょっちゅう繰り返しているのはあんまり褒められたことではないと思うなあ。昼の訓練だって決してそんなラクなものではないはずだし、それに健康、そして美容にも良くない! ぼくみたいなオジサンとしては、うら若い君には夜はぜひともちゃんと休んでほしい」

「……わかりました」

 

 それじゃあお休み。そう言って踵を返し、飄々とその場を去ってゆくユハラ博士。そんなユハラ博士を見送ったあと、ひとり残されたハルカは小声で呟いた。

 

「……変な人」

 

 まったくそのとおりだとぼくも思った。

 ユハラ博士はモナークから出向している人らしいのだが、そういえば『モナークは変な人が多くて困る』と通りがかりのGフォース将校たちが陰口を叩いているのをぼくは聞いたことがある。してみると、ユハラ博士が一風変わっていても別に不思議なことではないのかもしれない。当時はそんなふうに思っていた。

 

 ……ユハラ博士が自分の娘と奥さんを『怪獣黙示録』の惨禍で亡くしていたことをぼくとハルカが知ったのは、それからしばらく経ってからのことだった。

 

 

 

 

 冬。ぼくの外装が出来上がってきた頃、ハルカが怪我をしたことがあった。

 

 いつもどおりぼくのもとへやって来たヤシロ=ハルカだけれど、その日はどういうわけか全身傷だらけだった。片腕は三角巾で吊り、額は包帯ぐるぐる巻き。顔には大きな青タンが出来ていて、その他身体中のあちこちがぼろぼろだ。

 いったいどうしたのだろう。ぼくが心配していると、ハルカはいつもの問わず語りで教えてくれた。

 

「……演習先で怪獣に襲われちゃってね」

 

 怪獣? 大丈夫だったんだろうか。

 

「あ、大丈夫よ。すぐに近場の基地から防衛隊が駆けつけて撃滅してくれたし、街への被害も無し、民間人も含めて誰も死ななかったしね」

 

 ハルカはへらへら笑って流しているけれど、本当に笑い事ではない。今回のハルカたちの演習先は海辺、人間の街にもほど近かったはずだ。そんなところにまで怪獣が出てくるなんて、『怪獣黙示録』もいよいよ激しさを増しているらしい。

 だけど、そんな過酷な戦況が垣間見える中でもヤシロ=ハルカは気丈に笑うのだった。

 

「正直、今回ばかりはマジで死ぬかと思ったけどね。ろくな武器も無いしさ。だから機龍、アンタが早く完成してくれたらいいんだけど……」

 

 と、ハルカが愚痴っていたちょうどそのとき、ぼくたちのいる開発工廠へ入ってきた人がいた。近づく足音に振り返ったハルカは、やってきたその人の名前を呼んだ。

 

「あ、ハヤマ……」

 

 機龍隊におけるハルカの同期であり、宿敵であるハヤマくんだった。

 このときのハヤマくんもハルカと同じように怪我をしていたけれど、その姿はまるで死闘を生き延びた落ち武者みたいでむしろ凄い気迫があった。

 そんなハヤマくんを前にハルカは一瞬たじろいでいたけれど、すぐに態勢を立て直して訊ねた。

 

「何か用? そもそも、どうやって此処に入ったの? わたしはともかく、ハヤマは立ち入り禁止のはずじゃ……」

「……おい、ヤシロ」

 

 いつもハルカに喧嘩を吹っかけてくるハヤマくんだけど、今日のハヤマくんはいつになくぎらぎら殺気立っていて、目の前のハルカを今にも絞め殺してしまいそうだった。

 怪訝なハルカに、ハヤマくんは殺意全開のドスの効いた唸り声で問いかける。

 

「いったい何のつもりなんだ? このおれに恩でも売ったつもりか? それで上に立とうってのか?」

「は? 何言ってんのアンタ……」

「しらばっくれるなっ!!」

 

 わけがわからない様子のハルカを見て、ハヤマくんはますます怒り狂った。ハルカの両肩を掴んで勢いよく詰め寄り、ハヤマくんは怒鳴り散らす。

 

「そんな怪我して! おれを助けただろうが!」

 

 ……ぼくは、ようやく理解した。

 どうやらハヤマくん、今回の演習でハルカと一緒だったようなのだ。そこできっと命を救われたのだろう、よりにもよって宿敵であるヤシロ=ハルカに。

 そしてその事実が、ハヤマくんにとっては本気で我慢ならないらしかった。

 

「まったく余計なことをしてくれたよっ、アンタに借りがあると思うと虫唾が走るぜ……!」

「は、ハァ!?」

 

 要するに、八つ当たりだ。あまりに理不尽過ぎるので、今度はハルカの方がキレた。

 

「のぼせあがるのもいい加減にしろっ、アンタのチンケでつまんねえプライドとくだらねえ勝ち負けなんか知るかッ!」

「なんだとっ」

 

 ハルカの毒舌に痛いところを突かれたのか、すかさずハヤマくんが怒鳴り返し、二人の口論は激しい言い争いになる。

 

「じゃあ、なんだ!? おれを毎回毎回コケにしやがって、“貸し”でも作ったか!? ヒーロー気取りか!? それで勝ったつもりかよ!?」

「別にそんなんじゃあないし!」

「じゃあ何なんだよっ!?」

「そ、それは……っ」

 

 そう問われたとき、ハルカは咄嗟に目線を逸らした。

 人によっては不遜に見えるかもしれない態度。けれど、ずっとハルカのことを見てきたぼくは知っている。恩を売る、貸しを作る、ヒーロー気取り、たとえ嫌いなハヤマくんでも誰かを見捨てて平気でいられる、ヤシロ=ハルカはそういう人じゃない。

 やがてハルカは、肩を掴んでいたハヤマくんの両手を振り払いながら、不承不承とばかりにしぶしぶ認めた。

 

「……たとえアンタみたいな嫌な奴でも、目の前で“仲間”に死なれたらイヤ。それだけよ」

「……っ!?」

 

 “仲間”。

 ハルカから返ってきた答えに、ハヤマくんは驚愕していた。先程までの憤怒の形相はどこへやら、ぽかんと口を開けたその表情はまさに驚天動地。きっと宿敵のハルカからこんな風に言われるなんて、夢にも思ってなかったのだろう。

 けれどぼくは知っている。ハヤマくんは本当は賢明で、とても誇り高い人だってことを。

 しばらく呆然としていたハヤマくんだけれど、すぐに我に返って憎々しい表情を繕った。そしてハルカのことを精一杯睨みつける。

 

「……ふんっ」

 

 そうやって荒々しく鼻息を鳴らしてからハルカに背を向け、肩を怒らせ足早に工廠を去ってゆくハヤマくん。どこまでも勝手なハヤマくんだった。

 そんなハヤマくんをハルカは唖然と見送りながら、やがてぽつりと一言。

 

「……ったく、なんなのよ、あいつ」

 

 さあ。なんなんだろうね。

 

 

 

 

 それから歳月が流れた。

 

 ヤシロ=ハルカとメカゴジラ機龍が出会った翌年の春、メカゴジラ機龍は遂に完成。初回起動の早々にゴジラと戦う急展開もあったけどなんとか引き分けて撃退にまで持ち込み、その実力を示したことでGフォース機龍隊は本格始動した。

 ゴジラとの壮絶なデビュー戦を飾ったあと、ぼくはGフォースの秘密兵器として平和維持のために各地で怪獣との戦いを続けることになった。

 もちろん、ハルカたちGフォース機龍隊も一緒だ。クモンガ、アンギラス、ガイガン、メガロ、ショッキラス……人類の平和を守るため、ぼくとGフォース機龍隊は沢山の怪獣を相手に命懸けで戦った。

 そんな機龍隊の大活躍が始まってから、ちょうど10年目のことだ。あの『宇宙怪獣』が襲来したのは。

 

 宇宙からやってきた超ドラゴン怪獣。

 その名は〈キングギドラ〉。

 

 地球を狙って飛来した恐るべき侵略者キングギドラは、怪獣王ゴジラを筆頭とする地球怪獣たちへ宣戦布告を仕掛けた。地球の王座を巡ってゴジラとキングギドラとのあいだで勃発した怪獣同士の覇権争い、のちに『怪獣大戦争』と呼ばれる世界大戦の始まりだ。

 ゴジラ勝つかギドラが勝つか、あらゆる怪獣たちが二手に分かれて死闘を繰り広げた世界規模の大戦争に、ぼくたち機龍隊も参加した。

 

「……トガシ中佐、亡くなったわ」

 

 ぼくにそう報告してくれたハルカは、目に見えて落ち込んでいた。

 

「トガシ中佐、わたしたちを生き残らせるために殿(しんがり)を務めて、最後は逃げ遅れた民間人を庇ってキングギドラの奴に……まったく、あの人らしいわ。口では誰よりも厳しかったくせに、いざとなったらコレなんだもの」

 

 若い頃からハルカたちを鍛え上げて、ここまで導いてくれた頼もしい機龍隊初代隊長、トガシ中佐。とても厳しい人ではあったけれど、部下の一人一人を大事にしてくれる立派な人でもあったから、機龍隊の隊員たち皆から尊敬され慕われていた。そしてそれは、機龍隊一番の叛逆児ヤシロ=ハルカにとっても同じだったろう。

 やがてハルカは潤んだ目元を懸命に拭ってから、とんでもないことを口にした。

 

「殉職したトガシ中佐は二階級特進で准将に昇進。次の機龍隊総隊長はわたしですって」

 

 ハルカが、隊長?

 これには流石のぼくも驚いてしまった。あのヤシロ=ハルカが、機龍隊の二代目隊長?

 そんなぼくの心情を読み取ったかのように、ハルカも苦笑いしながら肩を竦めていた。

 

「……まったくおかしなもんよね。最初はあれだけバックレたかった機龍隊なのに、いつの間にか隊長まで引き受ける羽目になってんの。たしかに副官としてメーサー隊のリーダーやったり、副長として臨時で指揮を執ったこともあるけどさ、何もこんなハネッカエリの“叛逆児”に総隊長職なんてやらせなくたっていいだろってーの」

 

 ふーん。そんなにイヤなら断ればよかったじゃない。

 そんな風に思っていると、ハルカのぼやきはさらに続いた。

 

「ハヤマに押し付けてやろうとも思ったけど、よりにもよってあのバカがわたしを推薦したらしいじゃない。まったく、あのバカ何考えてんのかしらね。あいつがわたしに勝てる最後のチャンスだったはずなのに、機龍隊一同で署名なんか集めちゃってさ。ホント、バカじゃないの、あいつ」

 

 そうなんだ。ハヤマくん、なかなか良いところあるじゃない。ハルカも口ではバカバカ言ってるけど満更でもなさそうだし、二人の拗れたライバル関係もこれで上手い具合に落ち着いたらいいね。

 そうこう語っているうちに、やがてハルカ自身の中でもわだかまりが吹っ切れたようだった。

 

「……ま、弱音を吐いたってしょーがないか。どうあれ、なるようにしかならない。キングギドラとの戦いもまだ終わってないしね」

 

 そう溜息をつきながらハルカは顔を上げた。その表情は、それまで垣間見せていた弱気なんかは微塵も感じさせない、明るい意欲と自信に満ちた笑顔だ。

 ヤシロ=ハルカがこのぼく:メカゴジラ機龍と出会ってからもう早11年。28歳になったハルカは幾重の戦いで磨き抜かれて、心根の優しさと気丈な強さはそのままに、立派で素敵な大人の女性へと成長していた。

 

「何はともあれわたしは指揮官、あんたはわたしの部下よ。よろしく頼むわね、機龍」

 

 ……了解、新しい隊長さん。ぼくは心の中で敬礼した。




ヤシロ=ハルカ17歳。

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