気づいたらメカゴジラ転生して20年経ってた 作:よよよーよ・だーだだ
15、第一次攻防戦 ~『地球防衛軍』より~
恐怖のナノメタル注射から辛くも逃がれた、カズオとハルノの兄妹。二人はすぐさまメカゴジラ病院を飛び出した。
病院から逃げ出すにあたって、二人とも病室から拝借したマスクを口に着用した。今の東京の街を支配するナノメタル怪獣に対する防御としてはあまりにも心許なかったし、マスクをしたまま走るのはとにかく息苦しくて大変だけれど、無いよりはずっとマシだ。少なくとも、濃厚に立ち込めるナノメタルのミストやフォールアウトを吸い込まなくて済む。
外の街は、いつになく静かだった。
メカゴジラ=シティによる侵略が始まってから東京の街はずっと活気を失っていたけれど、今日は殊更に静かだ。ナノメタルミストがもたらした先を見通せぬほどの白い闇の中、すべてがしんと静まり返っていて、それこそ人っ子一人、猫の子一匹見当たらない。まるで街そのものが死んでしまったかのようだ。
そんな死の街と化した東京を彷徨い歩きながら、カズオは思考を巡らせる。
……先ほど病院で受けた“激震”と“咆哮”、あれらは果たしていったい何だったのだろう。遠くで聞いている限りではゴジラの鳴き声のようにも思えたけれど、もしやナノメタル=メカゴジラ以上の怪獣でも上陸したのだろうか……?
カズオとハルノの兄妹はとにかく街を歩いた。
住み慣れた孤児院からも遠く離れた見知らぬ東京の大都会、行ける当てなど無いし、いったいどこに逃げればいいかもわからない。けれど、とにかくこのままじっとしていてはいけない。本能的にそう考えた二人は、ただひたすらに、白い闇の中を歩き続けた。
と、その当て度のない旅路の果てに、二人はようやく見つけ出した。
「お兄ちゃん、アレ……!?」
ハルノが指差した先、ナノメタルの霧の向こう側、ぼんやりと遠い前方にライトのようなものがゆっくり近づいてくるのが見えた。ちょうど道路一車線程度の幅に左右並んだ光、クルマのライトだ。
……しめた、クルマに乗っている人がいる! こんな異常事態に走っているクルマなんて、東京から脱出しようとするもの以外にあり得ない。
「乗せてもらおうよ、お兄ちゃん!」
「ああ!」
絶望の中で差し込んだ希望の光明に、カズオとハルノは心の底から喜んだ。二人で一斉に走り出し、助けてくれえ!と声を掛けながらクルマの方へと向かってゆく。
……ところが、である。
「ま、待って、お兄ちゃん!」
不意にハルノに呼び止められて、カズオも足を止めた。
……いったい、どうした? カズオが訊ねると、ハルノはこう答えた。
「……あのクルマ、なんか、ヘンじゃない?」
クルマが、変? どういうことだ? カズオがさらに追及すると、ハルノは恐る恐る答える。
「だって、クルマのライトなのに光が赤いもの」
言われてみればそうだ。クルマのライトにしては妙に赤い。バックライト? だとすればこのクルマは道路のど真ん中を逆方向に、しかもバック走行で進んでいることになる。
それじゃあ、あいつはいったい……? 近づいてくるクルマを前に、カズオが目を凝らしたときである。
クルマが、ぬらりと立ち上がった。
そのときカズオは、昔孤児院で観たロボットの映画で、クルマがロボットのエイリアンに変形:トランスフォームするものがあったのを思い出した。善と悪のロボット軍団が戦いを繰り広げる、楽しいアクション映画だ。だけど彼らは映画の作り物、コンピュータで造られたCGアニメのキャラクターであって、現実にいる本物じゃあない。
なら、目の前で立ち上がったクルマは……?
そうこうしているうちに、立ち上がったクルマが、地響きのような足音を立てながらカズオたちの方へと歩み寄ってくる。ナノメタル濃霧の向こう側を越えて、徐々にその詳細なシルエットとディテールがはっきりしてくる。
そしてカズオとハルノは、その“クルマ”の正体に気づいた。
「メカゴジラだっ……!」
全高は、10メートル程度。顔つきはまさにゴジラの骸骨であり、長い尻尾と三列の背鰭を持つその姿はまるで工業部品で組み立てられた機械仕掛けのゴジラ、妖怪ガシャドクロのようにも思われた。
……ただの一般市民でしかないカズオとハルノは知らないことだったが、それはかつてシドニーで暴れた量産型メカゴジラことドローン=タイタンのミニチュアであり、ゴジラ・タワー倒壊に伴いメカゴジラ=シティが街の哨戒のために送り込んだドローン=タイタンの小型改良版であった。
そんなことは知らないカズオとハルノだったが、それでも直感で理解した。こいつは敵、“ヤバい奴”だと。
「走れえっ!」
カズオが声を挙げると同時に兄妹二人は踵を返し、もと来た道を逆方向に走り始めた。ドローン=タイタンもカズオとハルノに気づき、一気にスピードを上げて猛追を開始する。
「ふうーっ、ふうーっ、ふうーっ……!」
呼吸を荒げた口にマスクが貼り付いてきて、ひどく息苦しい。呼吸困難で心臓が張り裂けそうになりながら、それでもカズオとハルノは一生懸命に走った。どこか都合のいい隙間や横道はないかと見回したが、ここは大通りであり、しかも分厚く立ち込めるナノメタルミストのせいで見通しがひどく悪いのもあって、上手い逃げ道はなかなか見つからない。
他方、ドローン=タイタンは息切れなんてものとはまったく縁が無い。足のタイヤでスムーズに路面を滑走しながら、容易くカズオとハルノの兄妹を追い詰めてゆく。
そしてとうとうドローン=タイタンが手を伸ばし、一歩遅れていたハルノの胴体を摘まみ上げた。
「お兄ちゃあん!」
……しまった!
先頭を切っていたカズオはすぐさま方向転換、ハルノを掴んだドローン=タイタンの腕に飛びついてぶら下がった。
「お兄ちゃん、助けてえ!」
「まってろ、今行くからな……はなせ、離せよう!」
雲梯のようにブラブラとぶら下がりなら、思いきり足を振り上げてドローン=タイタンの腕を蹴りつけるカズオ。けれど鋼のナノメタル合金で出来たドローン=タイタンの腕はとにかく頑丈で、子供の力で蹴ったぐらいのことではまるでびくともしない。
ドローン=タイタンは、自身の腕へぶら下がっているカズオのことは後回しにして、まず捕まえたハルノのことをしげしげと観察した。
生育年齢……11歳。体内のナノメタル……未検出。ナノメタル注射……未接種と推定。
メカゴジラ=シティの中枢コントロールへ指示を仰ぐまでのこともない、この人間の幼体にはナノメタル注射が必要である。そう判断したドローン=タイタンはもう片方の指先を注射器へ変形させ、その針先を精密機械のような繊細さでハルノの無防備な腕へと向けた。
その光景を目の当たりにし、ハルノは悲鳴を上げ、カズオが絶叫した。
「いや、いや、いやあ!」
「やめろ、よせ、やめてくれえっ……!!」
……これじゃあさっきのシチュエーションの再現だ。せっかく恐ろしいメカゴジラ病院から逃げ出したのに、またしても注射されそうになってしまっている。
「だれか、誰か助けてえ!」
ハルノは泣き叫んで助けを求め、カズオも周りを見回した。しかし、やはりと言うべきか、周囲には誰の姿も見当たらない。聞こえるのは不気味なナノメタルミストの排気音ばかりだ。
……もうダメだ、と二人が思ったその瞬間、甲高い金属の砲撃音と共にドローン=タイタンの胴体に強烈な衝撃が走った。
「きゃあっ!?」
不意を突かれたドローン=タイタンの手中からハルノの小さな身体がすっぽ抜け、カズオと縺れ合うように落下してゆく。その高さは数メートル、打ち所が悪ければ大怪我、ともすれば頭を打ってしまうだろう。
「ハルノ!」
咄嗟にカズオがハルノへ飛びつき、抱きかかえて受け身をとりながら、地面へと落下した。
「ぐふっ……!」
ハルノの体重を抱えたままアスファルトに叩きつけられ、カズオは衝撃で肺を潰されて呻いた。「大丈夫、お兄ちゃん!?」とカズオの腕の中でハルノが悲鳴のように声をかけ、カズオは息が詰まりながらもなんとか応答した。
「ああ……なんとかな」
学校で柔道の授業を真面目に受けておいてよかった、とカズオは心底思った。そういえば学校の同級生で、交通事故に遭いながらも柔道の受け身が出来たおかげで骨を一本さえも折らなかったヤツがいた。彼のように受け身の練習をちゃんとしていなかったらカズオ自身はもちろん、ハルノだって大怪我していただろう。
……しかし、一体何が起こったのだろう、あの恐ろしいロボット怪獣メカゴジラが急に手を離すなんて。カズオとハルノが顔を上げ、砲撃音の聞こえてきた方角へと振り返るとそこには予想外の光景が展開されていた。
「あ、あれは……!?」
ナノメタルミストを掻き分けて姿を現したのは、巨大な機械だ。真っ先にドローン=タイタンの仲間かとも思ったカズオとハルノだったが、機体側面に描かれたロゴマークのおかげでそれが何者なのかすぐに理解することができた。
「Gフォースだ……!」
四足歩行の車輪に、機体上部から突き立っている左右一対二門のレールガン砲塔。間違いない、Gフォースが運用している多脚砲台戦車だ。こちらはメーサー戦車と違って実弾を使う兵器であり、ロボット怪獣に対してもその砲撃は有効だった。
多脚砲台戦車の方から飛び交っている声を、カズオとハルノは耳にした。
「ドローン=タイタン確認、民間人二人を襲っています!」
「了解、このクソロボット怪獣め、子供を襲いやがって!」
そして多脚砲台戦車は、その重厚なキャタピラでもって地響きと砂煙を巻き上げながらドローン=タイタンへと突進してゆき、瞬く間に砲口を向けていた。
「ファイア!」
掛け声とともに、砲弾が放たれた。至近距離からの砲撃はナノメタルの霧をも貫いてドローン=タイタンへと着弾し、激しい炎と粉塵を巻き上げる。
超音速のレールガン砲弾が直撃し、ナノメタル装甲をぶち破られて悲鳴を上げるドローン=タイタン。即座に反撃しようと両腕のバルカン砲を構えたドローン=タイタンだったが、雨あられと間断なく撃ち込まれる猛烈な弾幕の前では反撃の隙すら与えられなかった。
――ぎゃあああああああああ……!!
やがて轟く猛烈な爆炎と、金属質な断末魔の絶叫。カズオとハルノを襲おうとしたドローン=タイタンは、為す術もなく木端微塵に吹き飛んでしまった。
ドローン=タイタンを仕留めた多脚砲台戦車、その車内から即座にGフォースの兵士たちが降り立って、カズオとハルノのもとへ駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか、怪我は!?」
そうやって、二人のことを気遣ってくれるGフォースの大人たち。彼らの声と表情はとにかく真摯で、頼もしくて、そして優しかった。
……ああ、自分たちは、助かったんだ。
安堵のあまり、カズオとハルノの兄妹はその場で腰が抜けてしまった。
メカゴジラ=シティの中心地である芝公園近辺で、ぼく:メカゴジラ機龍と機龍隊は、メカゴジラ=シティの軍団相手に死闘を繰り広げていた。
――くたばれっ、ロボット怪獣め!
ぼくが咆哮と共に思いきり殴りつけると、ドローン=タイタンは顔面を粉砕され、一撃でもって機能を停止した。
……今ぼくらが戦っているこいつらは、かつてシドニーでも戦ったドローン=タイタンと同型のロボット怪獣だ。純粋にナノメタルだけで構成されているので通常のメーサーは通じないけれど、格闘戦は相変わらず有効だった。
「ドローン=タイタンをブッ潰せ、機龍!」
ああ、了解だ!
殴り、蹴り、叩きのめし、八つ裂きにする。うじゃうじゃ群がってくるドローン=タイタンの大軍相手に、ぼくはひたすら暴れまくった。
その激戦の最中、空から黄金の輝きが降り注いできた。前線で戦うGフォースの人たち、そしてぼくの脳裏に、テレパスを介した小美人たちからの声が響く。
「「みなさん、これでかの“禍々しい者”は封じ込めました!」」
降り注いでいる黄金の輝き、その正体はモスラの鱗粉だ。
頭上を見通してみれば、空の高いところにかの巨大蛾怪獣にして慈愛の女王:モスラが懸命に翼を羽ばたかせている姿が見えた。
……モスラの鱗粉には、電磁波へ干渉する能力がある。かつてシドニーの戦いにおいては、この鱗粉でエイペックス=メカゴジラのプロトンスクリームキャノンを防ぐことができた。そして今回もまた、メカゴジラ=シティが操るナノメタル怪獣の活動を鈍らせると同時に、外部への電子的汚染を妨げてくれている。
しかもモスラたちの協力は、鱗粉での援護だけではない。インファント島で採れる赤いジュース、放射能汚染さえ防いでくれるという摩訶不思議なそのジュースには、さらに人体へのナノメタル侵入を防いでくれる効能もある。人体には有毒なナノメタルのミストとフォールアウト、それらを用いた猛毒攻撃からGフォース隊員の健康を守るため、インファント島の人たちはその貴重な赤いジュースを惜しみ無く提供してくれた。
「モスラが時間を稼ぎます! それまでにどうか皆さんであの“禍々しい者”を!」
「しかし鱗粉はモスラの最後の武器です! 時間がありません、早く!!」
……ありがとう小美人たち、そしてモスラ。
ぼくが心の中でモスラに感謝を捧げていたとき、ぼくの体を強烈な衝撃が襲った。途端、アキバくんが怒号を挙げる。
「野郎っ、やりやがったな!」
振り返ると、両腕のフィンガーミサイルを構えたブラックメカゴジラが嘲笑うように立っていた。ぼくは、ミサイルを撃ち込まれたのだ。
「エネルギー残量、危険水域まで低下! 胸部三連スーパーガトリング砲、ライトアーム破損!」
サエジマくんが緊迫した声で報告してくれたとおりだ。ぼくの胸部装甲はボロボロに焼け落ち、右腕の義手も半ばのところでもげてしまっていた。
そんなぼくの姿を鑑みて、ハルカが叫んだ。
「インターバルよっ、しらさぎ隊、戦車隊、リカバーを頼んだ! アキバ、最寄りのアスカロンへ急げっ!」
「了解!」
ハルカの指示のもと、アキバくんはぼくのブースターユニットを操作し、ホバリングで高速移動を開始した。ぼくらが向かう先は補給ポイント、アスカロン=ポッドのところだ。
アンザイさんが声を上げた。
「ゲオルギウス、〈アスカロン=スリー〉と接触! 補給を開始します!」
ぼくが近づくと同時、アスカロンが独りでに開封されて中から複数のメカが飛び出してきた。破損したパーツに代わる新しい右腕義手とメーサーブレード、胸部パーツ、そしてマイクロウェーブ送信によるエネルギー補給。今のぼくに必要な装備品の数々が、ぼくの動作に自動で追尾し、ぼくの身体へとしっかり装着されてゆく。
無防備になったぼくへ、抜け目なく迫りくるドローン=タイタンたち。しかしキサラギさんが駆るしらさぎ航空隊と、多脚砲台の戦車部隊がヤツらの不意打ちを阻んだ。
「“お召替え”の邪魔すんじゃあないわよ、スッタコがっ! ナノメタルだかデスメタルだか知らないけど、侵略ロボット風情が調子乗るんじゃアないっ、機龍隊トップガンの意地と誇り、見せてやるわッ!!」
ありがとう、キサラギさん!
ぼくは密かに御礼を告げながら、アスカロン=スリーによる装備その他の交換を大急ぎで進めた。
『アスカロン』はもともと、ぼくが長く戦い続けるためのアイデアとして開発されたものだ。
最新型の核融合炉エンジンやナノメタルを満載しているエイペックス社のメカゴジラたちと違って、このぼく:メカゴジラ機龍が保持できるバッテリや弾薬の量は決して多くない。もしもぼくが長時間戦い続けるとしたら、エネルギーと弾薬の補給が欠かせなくなってくる。
そこでこのアスカロンだ。予備の武装と弾薬、そしてマイクロウェーブでエネルギーを送り込んでくれる自走式ポッドを戦場へ送り込み、ぼくは戦いながら武器の交換と、弾薬およびエネルギーの補給を受けられるというのがアスカロンの仕組み。まあ人間でいうところの、長距離マラソンランナーの給水所みたいなものである。
このアスカロン、開発当初は『多目的兵装継戦補給投下型輸送ポッド』なんていう味も素っ気もない名前しかついてなかったのだけれど、今回の作戦で実戦投入されるにあたっては、かの伝説で聖ゲオルギウスが使っていたという聖なる剣:
さて、そうこうしているうちに、ぼくの補給は終わった。
「右腕部交換、アブソリュート・パッケージへ換装および補給を完了、バッテリー残量95パーセントまで回復! アスカロン=スリー、次のポイントに移動を開始します」
潰れてしまった右腕の義手と胸部ユニットは新しいものへと取り換えられ、残量が低下していたエネルギーも今や満タン、戦う準備は万端に整った。
そのタイミングでちょうど、先ほどのミサイルを撃ち込んできたブラックメカゴジラが近づいてきた。アキバくんが即座に反応する。
「喰らえ、不良品野郎!」
不用意に接近してきたブラックメカゴジラ、その懐に潜り込んだぼくは替えたばかりの新品の義手を振り上げて、ブラックメカゴジラの顔面を強かに打ちのめした。
――さっきのお返しだっ!
強烈なアッパーカット、まさに格闘ゲームの昇竜拳。顎下をまともに殴られたブラックメカゴジラは顔面を瞬時に氷結される。さらに続けざまにぼくは口内のメーサー砲と胸部ミサイルポッドを展開、冷凍メーサービームと冷凍ミサイルをしこたま叩き込む。
ブラックメカゴジラは瞬く間に真っ黒な全身を氷漬けにされ、ゆっくり倒れながら粉々に砕け散った。
「シャーベットにしてやるぜ!」
そうだね、アキバくん。
今ぼくに装備されたアブソリュート・パッケージは、対ゴジラ用の冷凍メーサーの技術をメカゴジラ機龍の格闘兵装に応用したものだ。殴ったものを瞬間冷凍し氷漬けにする氷砕パンチと、大火災さえ鎮火してしまう冷凍メーサー、そして胸部に満載した冷凍ミサイルランチャー。変幻自在の流体金属で構成されたナノメタル=メカゴジラの軍団には効果抜群、まさに持って来いの必殺コンボなのだ。
そんなぼくの勝利の姿を確認したアキバくんが、満足げに吼える。
「さあ機龍、あのクソッタレどもをぶちのめしてやろうぜ!」
ああ、いこう、みんな!
そうやって息巻いたとき、地中から震動が響いた。レーダーを監視していたサエジマくんが、すぐに声を上げる。
「アキバさん、足元に敵!」
「なっ……!?」
途端、ぼくの足元が覆され、ぼくは思いきりスッ転んでしまった。すぐさま振り返った先、そこには大地を割りながら新たなロボット怪獣が姿を現していた。
尖った鼻にずんぐりとした体型、そしてキャタピラ風味の重装甲。地中から現れたのもあって、まるで機械仕掛けのモグラのようだ。
「〈プロトモゲラ〉ですっ!」
そう指摘するサエジマくんの言葉を受け、ぼくはデータベースから詳細情報を引っ張り出していた。プロトモゲラはエイペックス=ビルサルディア社が、怪獣災害の都市復興のために開発した土木作業用の試作モデルだ。
……可哀想に。本来なら怪獣に破壊された街を復興させるのが仕事のはずなのに、こんな侵略行為に悪用されるだなんて。
「くそ、足元から狙うなんてヒキョーだぞっ!」
アキバくんの言うとおりだと思うけれど、ここは戦場だ、そんなフェアプレー云々なんて言ってはいられない。すぐさまぼくは両腕のレールガンを構えて牽制の速射を叩き込んだけれど、プロトモゲラは流石に土木作業用のロボットだけあって恐ろしくタフだった。猛烈なレールガン弾幕をものともせず、両腕のドリルを高速回転で唸らせながら迫りくるプロトモゲラ。
……冷凍メーサーも冷凍ミサイルも近すぎる、こうなりゃ格闘戦か。取っ組み合いの泥仕合を覚悟した、まさにそのときだった。
響き渡った、金属質な咆哮。
プロトモゲラとぼくが同時に振り向いた先、ビルの屋上に新たな怪獣が出現していた。
……ナノメタルミストの闇の中、一際強く輝いていたのは真っ赤な眼光だった。まるで目つきの鋭い猛禽が、赤いサングラスをかけているかのようだ。全体的にスマートなシルエット、カラーリングは鮮血のような赤と闇夜のような紺、そして目が醒めるような鋭い輝きを放つ白銀の超合金パーツ。
何より目を引くのは両腕に搭載された巨大な刃物、チェーンソーだ。満載された無数の細やかな刃、それらが壮絶なモーター音の唸りを上げて高速回転しながらぎらついている。
その名はサイボーグ怪獣、〈ガイガン〉だ。
「とうっ!」
仁王立ちしていたガイガンは得意気に掛け声を挙げながら、ビルの上から軽やかに飛び降りた。
向かう先はプロトモゲラ、狙った先はその頭頂部。プロトモゲラも咄嗟に反撃しようとしたが、あまりに俊敏すぎるガイガンの機動には到底ついていけなかった。
ガイガン、起動。両腕のチェーンソーを振り下ろす刹那、ガイガンが叫んだ。
「ガイガン忍法、脳天唐竹割ィィ――――――ッッ!!」
……いや、それは忍法じゃなくてカラテでは? ぼくがそうツッコむ間もないまま、ガイガンは腕のチェーンソーでプロトモゲラの頭蓋を真正面からブチ砕いた。
プロトモゲラの頭部をかち割りながら現れたサイボーグ怪獣、ガイガン。話を聞いてみると彼は国連直下、超常災害対策機動部タスクフォースに所属していて、個体名を〈ピー助〉と名乗った。
「……大丈夫かい、機龍サンとやら」
そうやってぼくを気遣ってくれるピー助くんの様子からは、彼の善良な人柄が窺えた。少なくとも敵ではなさそうだ。
……しかし、ピー助くん、かあ。冷血残忍な怪獣として知られるサイボーグ怪獣ガイガンにしては、あまりに可愛すぎる名前だと思ってしまった。
全身に満載した凶悪な刃物、鋭くぎらつく赤いサングラス、ピー助っていうより『仁義なき戦い』とか『男たちの挽歌』、『テキサスチェーンソー』、映画じゃない喩えで言うなら“愚連隊の切り込み特攻隊長”みたいな感じだよなあ……まぁ愚連隊というならぼくも大概だけど。
そんなぼくの他愛ない感想を、目の前のガイガンは目敏く見抜いたようだった。
「あッ、今あんた、『名前が似合わない』とか思ったろ!? バカにすんなよ、カナデちゃんにつけてもらった大切な名前なんだからなっ!!」
ぷんすか怒るガイガンことピー助くん。悪者っぽい風体のわりに、なかなか正直で仲間思いな性格らしい。
……ああ、ごめんよ、ピー助くん。ただちょっと驚いただけで、別にバカにするつもりはなかったんだ。大切な人に貰った名前、バカにされたら怒るよな。ホントにごめんよ。
ぼくが慌てて謝るとピー助くんは腕組み――両手が刃物なのによくまぁ器用に出来るものだ――しながら答えた。
「……まぁ、自分でも『の●太の恐竜か?』って感じはするし、いいけども」
そうやって自身を納得させた様子のピー助くんは、続いて周囲へ振り返る。
「さーて、おいでなすったぞ……」
そうやって周りを見渡すぼくとピー助くん、その眼前に現れたのはメカゴジラ=シティが繰り出してきたロボット怪獣の群れだ。その数、数十体。少なく見積もっても、かつてシドニーでぼくが戦った数の倍はいる大軍勢である。
そんなロボット怪獣の進撃を前にして、ピー助くんは言った。
「“うち”の本分は飽くまでノイズと聖遺物、こんなロボット怪獣の反乱鎮圧なんかじゃあないんだが……」
と言いつつ、ピー助くんはさらにこうも続けた。
「でもまぁ、ロボット怪獣もノイズも似たようなもんだ。アルカノイズの設計図もエイペックス社から流出してるらしいし、その
そうやって、ピー助くんはニヒルに微笑んだ。
……かつて最凶最悪のガイガンとして知られるガイガン=レクスやその量産型ミレースと戦ったことがあるぼくにとって、サイボーグ怪獣ガイガンと言えばてっきり血も涙もない悪い怪獣なのだとばっかり思っていた。
けれど、ピー助くんは例外のようだ。『国連の特殊部隊に所属しているガイガンがいる』という噂はぼくも聞いてはいたけれど、まさかこんな気の善いガイガンがこの世にいるとは思わなかった。まさにナイスガイだ、
その勇姿にぼくが見惚れている中、ピー助くんは動き出した。ジャキンッと腕のチェーンソーを振りかざして始動、ギュインギュインと高速回転で唸らせる。
「さあ行こうぜ、機龍サンよっ!」
そう吠えながらピー助くんは両腕のチェーンソーをじゃらつかせてサムズアップ、迫りくる量産型メカゴジラことドローン=タイタンの軍団のど真ん中へとばったばった斬り込んでゆく。その姿は悪者怪獣なんかじゃない、正真正銘カッコいいヒーローである。
……ホント好いヤツだなあ、ピー助くん。そんなことを思いつつ、ぼくも咆哮を響かせる。
――ああ、行こう!
わたし:ヤシロ=ハルカが率いるGフォース機龍隊は、浜松町駅近辺のビルの屋上に指揮所を構えた。
このビルは、つい先ほどメカゴジラ機龍が倒壊させたゴジラ・タワーを除けば、この界隈で最も高いビルだ。視界は相変わらず濃厚なナノメタルミストに阻まれて見通せないけれど、それでも通信は良好だし、近場の戦局もある程度見渡すことが出来た。
まあそんなことよりも、である。
「あのガイガン、まさか……!」
メカゴジラ=シティで繰り広げられるGフォースの決戦、その最中に割り込んできたガイガン。驚愕するサエジマの呟きに、わたしは答えた。
「ええ。〈S.O.N.G.〉でしょうね」
国連直下の極秘超常災害対策機動部:Squad of Nexus Guardians、頭字語でS.O.N.G.。わたしたちGフォースから見れば国連配下という点において“お隣さん”であるけれど、先方が秘匿性の高い任務に従事していることもあってわたしもその実際の活動を目にするのは初めてだ。
「『国連直下の超常災害対策機動部には、強力なサイボーグ怪獣の用心棒がいる』というのは風の噂で聞いたことがありますけど、本当だったんですね……」
「ええ、そうね」
そして、わたしたちGフォースとは本来管轄が違うはずのS.O.N.G.が出てきたってことは、国際世論の流れも変わりつつあるということでもある。先日東京への核攻撃を決定したはずの国連だけど、彼らとて一枚岩ではない。その中でもわたしたちGフォースの“賭け”に乗ってきた
……面白くなってきたじゃないのっ!
気合を締め直し、わたしは号令した。
「心強い増援が来てくれたことだし、わたしたちも負けてらんないわよ、Gフォース機龍隊ッ!」
「了解っ!!」
と、わたしが気合いを入れたときだった。
「隊長、通信が入ってます!」
通信? どこからよ?
すぐさまアンザイに解析させる。
「未確認の通信ですっ、発信元は……え? 『東京芝公園』?」
芝公園、先ほど機龍が降下したポイントだ。今この状況で、そんな場所から電話を掛けてくる奴なんて一人しかいない。わたしはすぐに言った。
「わかった、アンザイ。すぐ繋いでちょうだい」
そしてアンザイから通話を渡してもらい、わたしは正体不明の通信相手に話し掛けた。
「……あんた、キラアクね?」
一連の騒動の裏で暗躍していた正体不明のマッドサイエンティスト、キラアク。これまでずっとこっちが奴の尻尾を追いかけてきたけれど、向こうから直接コンタクトしてくるのは初めてだ。
……これはチャンスだ。奴から何か引き出せるかもしれない。内心の緊張を抑えつつ、わたしは話し続けた。
「こちらはGフォース機龍隊のヤシロ=ハルカ、今回の作戦の指揮官よ。何か言いたいことでもあるなら聞いてあげる」
〈…………。〉
通信相手、キラアクは答えない。だけど構うものか、わたしは話し続けた。
「観念なさい、キラアク。あんたはこれでおしまい、とっとと降参することね。今ならまだ『人として裁いてもらえる』かもしれないよ?」
ミステリアン、X星人、クライオグ……かつて撃退された侵略者たちの末路は、わたしの知る限りどれも無惨で哀れなものだった。
だけどキラアクは違う、今回のキラアクはまごうことなく地球人だ。たしかにキラアクのやった侵略行為は到底許されるものではないけれど、そんなキラアクだって法廷で裁判を受ける権利がある。今ならまだ引き返せる、たとえ判決が死刑か終身刑になるのだとしても、キラアクはちゃんと法の下で、そして『人として』罪を裁かれるべきなのだ。
……そんなつもりの降伏勧告だったのだが。
〈……w〉
それが笑い声だと気づくのに、わたしは時間がかかってしまった。
〈……wwwwwwwwww〉
通信機から聞こえてきたキラアクの笑い声は、ボイスチェンジャーを使っているにしても随分と人間味の薄い声だった。まるで電子楽器の音色のようだ。あるいは音声合成ソフトを代わりに喋らせているのかもしれない。
そんな機械音声だったけれど、わたしのことを嘲笑っている雰囲気はひしひしと感じられた。ひとしきり爆笑したあと、キラアクは言った。
〈やはり人間は愚かだなあ~。この程度で勝ったつもりだと本気で思い込んでいるなんてね〉
……なんだって? そう聞き返そうとしたときだった。
「隊長、危ないっ!!」
誰かが声をかけてくれたけれど、わたしの反応は出遅れてしまった。振り返った目と鼻の先に、新手のロボット怪獣が現れていた。
そこにいたのは、巨大な機械の“燃える龍”。
全身に炎を滾らせたその姿はまさに“燃える龍”、ファイヤードラゴンだ。
……いったい、いつの間にここまで近づいていたのだろう。光学迷彩を解いたファイヤードラゴンは、ビルの隙間を巧みに縫いながら、わたしたちGフォースの指揮所へと音もなく忍び寄っていた。
わたしは咄嗟に懐の拳銃を抜こうとした。
「くそっ……!」
けれど抵抗する暇もなく、わたし:ヤシロ=ハルカはファイヤードラゴンに頭から丸呑みされて、何もわからなくなってしまった。
ピー助くんの出典はこちら。
「第一次攻防戦」は1957年の映画『地球防衛軍』のサントラからで、「地球防衛軍マーチ」の通称で知られているメロディ。『地球防衛軍』というと巷ではゲームの話しか出てこないし、「地球防衛軍マーチ」も『シン・ゴジラ』で使われた宇宙大戦争マーチなどと比べるとだいぶマイナーではあるものの、テンションを最高にブチ上げてくれる名曲です。(オタク特有の早口)
好きなゴジラ映画のヒロイン
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山根 恵美子
-
小美人(昭和)
-
星 由里子さんが演じてた記者の人
-
真船 桂
-
三枝 未希
-
小美人(コスモス)
-
小美人(エリアス)
-
ベルベラ
-
辻森 桐子
-
立花 由利
-
家城 茜
-
カヨコ=アン・パタースン
-
尾頭ヒロミ
-
マディソン=ラッセル
-
ジア
-
タニ=ユウコ
-
ミアナ
-
マイナ
-
神野 銘
-
小美人(ちびゴジラ)