気づいたらメカゴジラ転生して20年経ってた 作:よよよーよ・だーだだ
ホームグラウンドであるメカゴジラ=シティで対決したエイペックス=メカゴジラは、やはり恐るべき強敵だった。
そのナノメタル合金製の強靭な巨体が繰り出す圧倒的なパワー、それでいて隙を見せない機敏さ、そして全身に満載した大火力。流石最新型のメカゴジラだ、本領さえ発揮できればその実力はやはり旧型機であるぼくよりも遥かに上だった。
他方、ぼく:メカゴジラ機龍は既に激戦を経て消耗しているし、なにより本来の指揮官であるヤシロ=ハルカがいないのが致命的すぎた。司令代行を務める副長のハヤマくんも懸命に指揮を執ってくれているけれど、日頃のハルカの号令が無いとやはりどうしても隊全体の動きに精彩を欠いている感は否めない。
「機龍、エネルギー残量低下!」
「急げ、最寄りのアスカロン=イレヴンで補給を……!」
「了解っ!」
ハヤマくんの指示、そしてアキバくんの操縦を受け、ぼくはアスカロン=ポッドへと駆け寄った。このままだとエネルギー切れで倒れてしまう。
しかし、エイペックス=メカゴジラはそんなチャンスを見逃さなかった。僅かに背を見せたぼくの隙、それを目にしたエイペックス=メカゴジラは背鰭と瞳を残忍に輝かせ、その巨大な咢を開いて吼えた。
「しまっ……!」
直後、プロトンスクリームキャノンによる真っ赤な閃光の一撃がアスカロン=ポッドを撃ち抜き、そのままぼくの左肩をかすめた。アキバくんが反応してくれたおかげで身をよじって直撃だけは躱せたけれど、一手遅れてしまった。
――ドオオンッッッ!!
続けざまに、爆散するアスカロン=ポッド。怪獣さえも焼き尽くす衝撃波、その余波を受けきれずぼくはイワトオシを取り落とし、その場へと倒れ込んでしまった。
……見てみればぼくの左肩装甲が真っ赤に融解し、抉れてしまっていた。骨格や人工筋肉部分は無事だからなんとか動かせるものの、あとほんの刹那でも回避するのが送れていたら、ぼくの左腕は二度と使い物にならなくなっていただろう。
とにかくすぐさま起き上がろうとするぼく、だけどすかさずエイペックス=メカゴジラの巨体が飛び掛かり、ぼくの上へとのしかかってきた。
ぼくの体に跨った姿勢、いわゆるマウントポジションだ。ぼくはすぐに押しのけようとしたけれど、エイペックス=メカゴジラの総重量は3万トン、咄嗟にどうにかできる重さじゃない。
こうして有利な頭上を取ったエイペックス=メカゴジラは、高速回転する鋼の拳:ロータークロウを振り上げてぼくを打ちのめした。一撃、一撃が怪獣をも殴り殺せる破壊力。その猛襲で、ぼくの装甲は見る見るうちに凹んでゆく。
「機龍、いま助けるっ!」
ぼくの窮地を見て、キサラギさんのしらさぎ隊が空中から急降下爆撃を仕掛けようとする。しかしエイペックス=メカゴジラは全身のハッチを展開、盛大にミサイルを打ち上げた。
「くそっ、近づけないっ!」
キサラギさんが悔しげに唸る。巧みな機動でミサイルを躱し続けるしらさぎ隊だけれど、近寄ろうとすればエイペックス=メカゴジラによる対空ミサイルが飛んでくる。
しらさぎの援護は無理、ハヤマくんが次の指示を下した。
「ミサイルで蹴散らせ、アキバ!」
「了解っ!」
アキバくんは即座にぼくの両肩からミサイルを撃とうとする。しかし、エイペックス=メカゴジラはミサイルが放たれるよりも先に、ミサイルポッドのハッチを手で抑えつけ、そのまま力任せにぼくのミサイルポッドを毟り取ってしまった。なんて馬鹿力だ。
「くそ、ミサイルがダメなら……!」
次にアキバくんはぼくのバックユニットのロックを外し、ブースターを点火した。バックユニット射出、総重量4万トンであるメカゴジラ機龍を宙へと浮かし、ゴジラさえも押しのけるほどの大出力。それがエイペックス=メカゴジラの顔面へと直撃する。
――ごブッ!?
唐突に発射されたバックユニット射出による不意打ちは、ものの見事に成功した。ゴォォーンという盛大な金属音と共にエイペックス=メカゴジラは鼻先を強打し、ぼくの上にのしかかっていた巨体が思いきり引っ繰り返った。
この隙にぼくは機体を起こし、取り落としてしまった薙刀イワトオシを拾い上げて構えた。矛先で狙うのは宿敵、エイペックス=メカゴジラだ。
エイペックス=メカゴジラの方もまた、折れた歯をペッと吐き捨てながら威嚇の咆哮を轟かせる。真正面から向き合ったエイペックス=メカゴジラの顔つき、バックユニットの直撃で鼻先が凹んでいたけれど、みなぎる殺意はちっとも衰えてはいない。
「……やるじゃあねえか、エイペックス=タイタン」
そんな状況を前にして、アキバくんが瞳の炎を滾らせた。
「だが勝負はまだまだこれからだぜ、エイペックス=タイタン! いくぞ機龍! この最新型メカゴジラさんに、勝ち負けは機体の性能差だけじゃあ決まらねーってことを教えてやろうぜ!」
ああ、まだまだっ!
……しかしそうやって威勢よく闘志を燃やす一方で、ぼくは戦局が不利なことを薄々察知し始めていた。
エネルギー残量が少ないのはさきほどアンザイさんが指摘してくれたとおり、だけどアスカロン=ポッドで補給を受けようとすれば、すかさずエイペックス=メカゴジラが攻撃を仕掛けてくるだろう。
かといって補給なしで戦い続けるには、今のぼくのエネルギー残量は少々心許ないのは否めない。戦ってる最中にエネルギー切れを起こしてしまえば、それこそエイペックス=メカゴジラの思うつぼ、動けなくなってしまったぼくをそのまま八つ裂きにしてエイペックス=メカゴジラの勝ちだ。
誰か助けでも来てくれないか? そんなことを期待して周りに注意を向けてみる。
「助けは……望めなさそうですね」
サエジマくんが呟いたとおりだ。
まずS.O.N.G.のピー助くんはというと、敵地のド真ん中に深々と喰らいついていた。
「今行くぜっ、機龍サンよぉ!」
ぼくの窮地を察したものか、慌てて引き返そうとしてくれていたピー助くん。けれど、今のピー助くんは敵陣へあまりに深く突貫し過ぎていた。ドローン=タイタンの首を掻っ切り、頭を叩き潰し、胴体を切り裂く。そうやって奮戦していても、ドローン=タイタンは続々とピー助くんの行く手を阻んでいた。これでは当分、こちらに戻ってこられる気配はないだろう。
Gフォースの戦車隊も、他の部隊も同じだ。ドローン=タイタンの大軍に阻まれ、こちらを援護する余裕なんてものは無い。
そして上空では相変わらず、モスラが一方的にファイヤードラゴンに甚振られ続けていた。小美人たちの悲鳴が聞こえてくる。
「きゃあっ!」
「や、やめなさいっ、このロボット怪獣!」
モスラ自慢の極彩色の翅だけれど、今や散々に燃やされてすっかりぼろぼろに焼け焦げてしまった。これじゃあ長く持たない。そして今モスラが落とされたら、せっかく受けられている鱗粉の加護がなくなってしまう。そうなればぼくらGフォースは勝てないだろう。
……と、ここまでの戦局を鑑みて、ハヤマくんがふと気がついた。
「エイペックス=タイタンの奴、ここまで見越して動いてやがるってのか……!?」
その呟きに応えるかのように、エイペックス=メカゴジラが勝ち誇ったような咆哮を挙げる。
……ここでどうやら認識を改めないといけないらしい、とぼくも悟った。エイペックス=メカゴジラの奴、機体の性能差だけに頼った単なるパワー馬鹿なのかとばかり思っていたけれど、実はこう見えてなかなか頭も回るみたいだ。
だけど、負けていられない。
『怪獣黙示録』のこの時代、思い通りにならないことなんていっぱいあった。救いたくても救えない命は沢山あったし、届かない願いも山ほどあった。不条理、理不尽、この世界はそんな世知辛いことばっかりだ。
だけど、今回ばかりは負けるわけにいかない。
ここでぼくたちが負けてしまったら世界は核戦争、今度こそ終わりだ。たとえ核戦争にならなくても、侵略者の軍団によって好い様にされる絶望の未来が待っている。
――……オマエのせいだ。
そう言われたような気がしてぼくが振り返ると、エイペックス=メカゴジラが真紅の瞳でぼくを睨みつけていた。その目に煮え滾っているのは憎悪。
やがてエイペックス=メカゴジラは、身の内の怒りを爆発させるように吼えた。
――こんなことになったのはオマエのせいだ、メカゴジラ機龍。オマエさえいなければ、オマエさえ造られなければ、俺たちの御主人様はこんなことをしなくても良かった、俺たちの御主人様は今でも幸福だったはずだ! なにが『人類最後の希望』だ、ふざけるなっ……!
そうやって憤怒の雄叫びを轟かせるエイペックス=メカゴジラ。その凶暴な姿は相変わらず禍々しくて、まるで本物のゴジラみたいだ。
――オマエさえ、オマエさえいなければ……ッッ!!
……けれど、そう語るエイペックス=メカゴジラは不思議なことに、鋼鉄の頬からは涙なんか一滴も流れていないのに、なんだか泣き叫んでいるかのようにぼくには思えてならなかった。
……エイペックス=メカゴジラの言う『御主人様』。
それがいったい何処のどちら様なのかぼくはちっとも知らないし、そもそもぼくがロールアウトしてから20年、そうやって誰かから酷く恨まれる覚えなど欠片もない。
仮にぼくへの怨恨が動機だったのだとして、こんなふうに東京を侵略して占領していい理由なんかにならない。卑劣な外道の、下劣な逆恨み。客観的に見るなら、誰もがきっとそう言うだろう。
けれど、ぼくはそんな簡単に切り捨てる気にはなれなかった。
こいつ、ぼくとおんなじだ。
エイペックス=メカゴジラの言う『御主人様』。ぼくはそれを自分の大切な人たちに置き換えてみた。
街の人、機龍隊の皆、そしてヤシロ=ハルカ……もしそういう人たちが不幸になってしまったとして、その根源がヒーロー然として敵として立ちはだかってきたら? ぼくだってきっと戦ったはずだ。まさに今、ぼくの眼前で怒り狂うエイペックス=メカゴジラのように。
ぼくはようやくこいつの、エイペックス=メカゴジラの気持ちがわかった気がした。
エイペックス=メカゴジラ、いいやメカゴジラ=シティのロボット怪獣たちはきっと誰もが“そう”だったのだろう。メカゴジラ=シティの奴らはただの機械じゃない、ちゃんと心がある。大切な誰かを想い、誰かの為に命懸けで戦える、そういう優しい心が。
けれど、いや、だからこそ。
ぼくはこいつらが許せなかった。
エイペックス=メカゴジラ、ゴジラ・タワー、ファイヤードラゴン、そしてメカゴジラ=シティのロボット怪獣たち。
おまえらみたいな非道の悪党どもにもそうやって、大切な誰かを想うことのできるような『優しさ』があるというのなら。そうやって、誰かの為に命懸けで戦えるような素晴らしい『心』があるというのなら。
どうして、踏み潰される人たちのことを思い遣れなかったんだ?
せっかく頑張って作ったものを奪われて悪用されてしまった、エイペックス社。平穏に暮らしていただけなのにいきなり侵略されて占領されてしまった、東京の街。そして心待ちにしていた『人類の新たな希望』に裏切られたばかりか、突如降って湧いた核戦争の恐怖に晒され、眠れない夜を過ごすことになってしまった世界中の人たち。
数え切れないほど沢山の人たちを食い物にして、不幸にして、おまえたちの“御主人様”がそれで幸せになんかなれるわけないじゃないか……っ!
そうやって怒りに震えるぼくを、エイペックス=メカゴジラはすげなく一蹴した。
――……ふん。御主人様を不幸に陥れた、こんな世界のことなど知るものか。
そしてすかさず両腕のカギ爪:ロータークロウと、尻尾の鋭利な掘削機:テイルドリラーを唸らせる。
――メカゴジラ機龍、オマエの首を貰う。そうすればきっと御主人様も心が晴れることだろう……っ!!
戦意に溢れたエイペックス=メカゴジラの姿に、ぼくも奮起する。
こうなったら、砕け散るまで戦ってやる。そう奮起したときだった。
遠くから、雄々しい雄叫びが聞こえてきた。
「なんだ、今のはっ!?」
「東京湾、港区芝浦方面、レインボーブリッジから怪獣が上陸、識別名は……〈アンギラス〉ですっ!」
なんだって!?
ぼくもセンサーを向けてみると、たしかにレインボーブリッジをくぐるように芝浦地区へと這いあがる怪獣の姿が見えた。全長100メートル、四足歩行で全身に棘の鎧を満載した暴竜、アンギラスである。
しかも、である。
「あ、アンギラスの奴……こっちに向かってきてない?」
しらさぎで空から見ながらキサラギさんが声を張り上げたとおり、アンギラスの奴はよりにもよってぼくたちへと向かってきていた。ハヤマくんが苛立たしげにつぶやく。
「くそう、こんなときに……っ!」
ハヤマくんの言うとおりだ。ただでさえメカゴジラ=シティ相手に大奮戦している最中だってのに、アンギラスなんて相手していられないよまったく!
ところが、事態はぼくらの予想外の方向に向かった。
「アンギラス、進行方向を北に逸れました! 向かう先は……エイペックス=タイタン!?」
当初ぼくへと向かってくるかに見えたアンギラス、しかし駆け寄る方向はだんだん逸れてゆき、そのままエイペックス=メカゴジラへと向かっていった。ぼくらが見守るその前でアンギラスは自慢の俊足でもってどんどん加速してゆき、やがて全身の棘を逆立てながら巨体を丸めてボールのように転がり始める。
アンギラス必殺、暴龍怪球烈弾。
『アンギラスボール』とも呼ばれる突進技だ。
鋼鉄さえも貫く強力な棘を満載したアンギラスボール、その強烈な一撃をエイペックス=メカゴジラはまともに喰らってしまった。不意を突かれたエイペックス=メカゴジラは、高速回転する数万トンの巨重で思いきり跳ね飛ばされ、そのまま背後のビルへと倒れ込んで巻き込みながら突き崩してゆく。
そんな状況を前に、ハヤマくんが言った。
「アンギラスの奴、エイペックス=メカゴジラと戦う気か……!?」
……アンギラスと言えば、『一度も勝ったことが無い怪獣』と言われている。
無論それは怪獣同士での話で、Gフォースや人間の軍隊相手にはそれなりの戦績も誇っている強敵ではあるのだけれど、アンギラスが怪獣同士の戦いで勝ち星を上げたことがないのもまた事実だ。ましてや今回の相手はエイペックス=メカゴジラ、史上最強の最新型メカゴジラを相手にするとなると流石に力不足は否めないようにも思える。
しかもエイペックス=メカゴジラは一度、既にアンギラスへ勝っている。さきほどは不意撃ちを喰らいはしたものの、アンギラスの手の内はだいたい読めているはずだ。かたや『史上最強のロボット怪獣:エイペックス=メカゴジラ』、かたや『一度も勝ったことが無い怪獣:アンギラス』。どう考えてもエイペックス=メカゴジラが有利な戦いになるはずだ。
だけど、それでもアンギラスはたじろぐこともなく、一歩一歩軽やかに地面を踏み締めて突撃していった。アンギラスは、丸めた身体をしなやかに伸ばして方向転換。勢いを緩めることなく通行の邪魔になるビルを蹴り倒し、立ちはだかろうとするドローン=タイタンをも跳ね飛ばし、そして真っ直ぐエイペックス=メカゴジラへと向かってゆく。
そんなアンギラスに対し、起き上がったエイペックス=メカゴジラが咆哮を上げて迎え撃った。エイペックス=メカゴジラVSアンギラス、怪獣同士の対決の始まりだ。
先手を打ったのはエイペックス=メカゴジラだった。
エイペックス=メカゴジラは背鰭を赤く光らせ、口元にエネルギーを収束させ始めた。エイペックス=メカゴジラの主兵装にして最強兵器、プロトンスクリームキャノンを撃つつもりだ。
しかし、それでもアンギラスは怯むことなく勇猛果敢に立ち向かってゆく。
放たれるプロトンスクリームキャノン。
赤い閃光が迸り、アンギラスは横へ跳んですかさず回避。エイペックス=メカゴジラの殺人ビームはアンギラスの胸元を僅かにかすめたが、アンギラスの猛進はなおも止まらない。
接近するアンギラスを追い払おうとプロトンスクリームキャノンを撃ちまくるエイペックス=メカゴジラ、その猛火力の隙間をすり抜けるようにアンギラスは俊敏に駆け寄ってゆき、そしてエイペックス=メカゴジラの懐へと飛び込んで、その喉笛へがぶりと噛みついた。
――ッ!?
その気になれば怪獣だって焼き殺せる、エイペックス=メカゴジラ必殺のプロトンスクリームキャノン。けれど喉の下は流石に死角だ、狙い様がない。
――ッ! ……! ……ッ!!
虎の子のプロトンスクリームキャノンを封じられたと見るや、エイペックス=メカゴジラは絞め殺されるような悲鳴を挙げながら、今度はミサイルとバルカンを乱射した。その流れ弾が四方八方に撒き散らされ、メカゴジラ=シティの街並みが次々と突き崩されてゆく。
「危険です、退避しましょう!」
「ああ、退避だ、退避!」
エイペックス=メカゴジラのミサイル乱射に巻き込まれないよう、一斉に距離をとるGフォース一同。
メカゴジラ=シティ一帯に轟く砲撃と壮絶な爆発、エイペックス=メカゴジラの繰り出す猛烈な猛火力、その直下に曝されながらもアンギラスは深々と喰らいついて決して離そうとはしなかった。
……そういえば、かつてのゴジラとキングギドラが覇権を争ったとき、ゴジラ側に与したアンギラスはキングギドラの首へ噛みついて大ダメージを負わせたことがあるという。たとえキングギドラから空へ宙づりにされても離さなかったというアンギラス、そのド根性はまさに折り紙付きである。エイペックス=メカゴジラなんかには引き剥がせやしない。
そうしているうちに、メキメキと金属のひしゃげる音が鳴り始めた。
音源は、エイペックス=メカゴジラの喉元。アンギラスによる桁違いに強靭な顎の力で、エイペックス=メカゴジラの首の装甲が噛み砕かれ始めているのだ。
――……ッ!!
たとえロボット怪獣エイペックス=メカゴジラといえど、首が重要なケーブルや脊椎が通った急所であることは違いない。
自身の頸動脈を喰い破られる危機を察知したエイペックス=メカゴジラはますますもって暴れたけれど、アンギラスはここが正念場と見たか、いよいよ力を込めて必死に喰らいついてゆく。
追い詰められたエイペックス=メカゴジラが、とうとう
――――――ッ!!
エイペックス=メカゴジラによる大号令、アルファ・コール。
その命令に呼応したのか、周囲のドローン=タイタンたちが集まってきた。全身の武器を展開、ミサイルとバルカン砲をぶっ放そうと構える。ドローン=タイタンの総火力、それらすべての照準が集中している先はエイペックス=タイタンの喉に喰らいついているアンギラスだ。
その状況を見て、アンザイさんとサエジマくんが報告した。
「ドローン=タイタン、集結中!」
「ドローン=タイタンの奴ら、エイペックス=タイタンを助けるつもりですっ!」
「…………。」
現場の報告を受け、指揮官であるハヤマくんは思案していた。長年の付き合いだからぼくにはわかる、きっとハヤマくんは今こんなことを考えているのだろう……。
……Gフォースの基本原則は怪獣撃退、本来怪獣は人類の敵、アンギラスも例外ではない。それに則ればアンギラスがドローン=タイタンに撃ち殺されそうになっていたところで、助けてやる義理なんかない。
けれど、『敵の敵は味方』なんていう言葉もある。現に、つい先ほどまで優勢だったはずのエイペックス=メカゴジラは、今はこうしてアンギラスに追い詰められている。そういう意味では、アンギラスはぼくたちの味方をしてくれている。そしてGフォースは全体で見れば劣勢、このままだとメカゴジラ=シティの大軍勢に捻り潰されてしまうだけのジリ貧だ。
だったらこの状況、上手く使わぬ手はない。アンギラスだって上手く利用できれば、あるいは逆転の端緒を掴めるかもしれない。
「……こりゃ博打だな」
ハヤマくんが苛立たしげに爪を噛んだとおり、これは賭けでもあった。
仮に、アンギラスにエイペックス=メカゴジラを仕留めてもらったとして、必ずしもGフォースの味方になってくれるとは限らない。あるいは、エイペックス=メカゴジラを倒したあとはこちらに牙を剥いてくる可能性だってある。そうなりゃ、ぼくが相手をしなきゃいけない敵がエイペックス=メカゴジラからアンギラスに代わるだけだ。
どうする、ハヤマくん。ハヤマくんが葛藤する。悩んで、考えた末に、ハヤマくんは決断した。
「……Gフォース、残存する全火力をドローン=タイタンへ向けろ! アンギラスを援護するんだっ!」
「了解!」
ハヤマくんの号令を受け、Gフォースは一斉に動き始めた。
戦車隊、航空隊、歩兵隊、それらすべてが砲塔を旋回、迫りくるドローン=タイタンどもへありったけの砲火を浴びせ始める。冷凍メーサー、冷凍ミサイル、レールガンの速射砲。Gフォースのつるべ撃ち、砲撃による激烈な洗礼を前に、ドローン=タイタンどもは次々と打ち倒されてゆく。
――ッ!?!?
途端、エイペックス=メカゴジラが絶望の悲鳴を上げた。なおも手下どもへ助けを求めようとアルファ・コールを連発したけれど、頼みの綱のドローン=タイタンどもはGフォースによる大火勢に阻まれ、指一本触れられなかった。アンギラスもまたますます勇ましい唸り声をあげて、エイペックス=メカゴジラの首元の奥深くへと食らいついてゆく。
そんな光景を、機龍隊分析担当のサエジマくんはこう評した。
「人類と怪獣の共闘ですね……!」
人類と怪獣の共闘。
たしかにLTFシステムやオルカ=システムなど、人間たちが怪獣を作戦に利用した例は歴史上、枚挙にいとまがないかもしれない。けれど、明確に手を組んで協力したのはきっとこれが初めてだろう。
人間たちGフォースが奮闘している中でも、エイペックス=メカゴジラとアンギラスの死闘はなおも続いた。
エイペックス=メカゴジラとアンギラス、メカゴジラ=シティの町並みを巻き添えに突き崩しながらもつれ合う両者。ロボット怪獣と暴竜、二大怪獣による熾烈な取っ組み合い、ケモノじみた殺し合いの応酬はやがて決着を迎えた。
響いたのは、重くて鋭い金属音。
同時、エイペックス=メカゴジラの首元からどす黒い循環液オイルが噴水のように噴き出し、赤い瞳から先程までの禍々しい光が消え失せた。
続けて、エイペックス=メカゴジラの鋼鉄の巨体が糸の切れた操り人形のようにその場へ崩れ落ち、轟音と共に大地へと沈む。アンギラスによってエイペックス=メカゴジラの首、中枢神経がとうとう喰い千切られてしまったのだ。
しかも暴竜アンギラス怒りの猛攻撃は、なおも収まらない。
アンギラスは動かなくなったエイペックス=メカゴジラの喉笛に噛みついたままその死骸を振り回し、散々に地面へ叩きつけてから、力任せにエイペックス=メカゴジラの頭を脊椎ごと引っこ抜いた。
凄まじい音と共にねじ切れる合金パーツと、飛び散る循環液オイルの血飛沫。もぎとられたエイペックス=メカゴジラの生首、アンギラスはそれを地面へ吐き捨てるとさらに思いきり踏みつけた。
――グシャッ……!
ナノメタルの超合金フレームも、体重3万トンの巨重で力一杯に踏み躙られてはたまらない。アンギラスに踏まれたエイペックス=メカゴジラの髑髏は、踏みつけられた空き缶のように呆気なく踏み潰されてしまった。
その光景を見ていた機龍隊、やがてアンザイさんが呟いた。
「アンギラスの仇討ち、ですかね……?」
そう言われてみて、ぼくも気づいた。かつてエイペックス=メカゴジラが一番最初の戦いで血祭に上げたのは、今回と同じアンギラスだ。
……まったく皮肉な話だ。かつてアンギラスを殺して鮮烈なデビューを飾ったエイペックス=メカゴジラが、最終的には別個体とはいえ同じアンギラスに倒されてしまうだなんて。そういう目線で見るとたしかにアンザイさんが言ったとおり、アンギラスが仲間の仇を獲ったかのように見えないこともなかった。
そんなぼくたちの勝手な感慨を他所に、アンギラスによる雄叫びが響き渡る。
「――――――――――――――ッ!!!!」
進軍ラッパを思わせる、アンギラスの勝どき。これに呼応するかのように地鳴りが響き始め、観測レーダーからの報告を受けたアンザイさんが素っ頓狂な声を上げた。
「た、大変ですっ!」
大変、なにが大変だって?
普段のアンザイさんなら明確な報告をしてくれるところ、今回はいつになく不明瞭だった。アンザイさん自身に何かあったのか、あるいは『よほどのこと』でも起こったというのか。
そんなアンザイさんを、ハヤマくんが問い詰めた。
「どうしたアンザイ!? 明確に報告しろっ!」
「いや、あ、あの……」
そしてアンザイさんが伝えてくれた報告内容に、今度はぼくたち全員がブッたまげることとなってしまった。
「世界中から、怪獣が集まってきてます……!」
〈大変です、御主人様ぁ~!〉
メカゴジラ=シティの管理システム:Li11-Eが、悲鳴のような報告を上げた。
〈東京湾から、埼玉秩父山中から、その他ありとあらゆる方面から、御主人様のシティに向かって怪獣が集結しています~!〉
「なんだって……!?」
先鋒、アンギラスによるエイペックス=メカゴジラの撃破を皮切りに、次々と怪獣たちがメカゴジラ=シティへ攻め込んできた。
空からは翼を羽ばたかせながら舞い降りるラドン、続けて急降下してくるバラン。荒れる波間の海からは、真赤な巨体と鋏をぎらつかせるエビラ。地中からは、大地を覆しながら這い上がったバラゴンとゴロザウルスが雄叫びを響かせる。
さらに怪獣たちの侵入は続いた。マンダ、サンダとガイラの兄弟、カマキラス、クモンガ、メガロ、ゲゾラ、ガニメ、カメーバ、キングシーサー、メガギラス、ZILLA、MUTO、メトシェラ、ベヒーモス、スキュラ、サルンガ、ワーバット……世界中から集まってきた、怪獣による殴り込みだ。
「まさに“怪獣総進撃”ね……」
ラドンのソニックブームが前列に立つドローン=タイタンをまとめて吹き飛ばす。
そこで相手の隊列が崩れた場所をエビラが切り込んで、クライシスシザースで相手を三枚に下ろした。空からバランの巻き起こす旋風が敵陣の中央を薙ぎ払い、逃げ惑うドローン=タイタンどもをバラゴンの落とし穴に嵌め落とす。逃れた相手を待ち受けるのは、脚力が自慢のゴロザウルスだ。カンガルーキックで相手をバラゴンの作った穴へと蹴り落とし、余った相手をZILLAがまとめてブチのめす。
世界中から集まった怪獣たちが『群れの力を見せてやる』と言わんばかりに、メカゴジラ=シティのロボット怪獣軍団へ壮絶な攻撃を仕掛けてゆく。
雪崩れ込んできた大怪獣たちによる総攻撃を前にして、ドローン=タイタンどもはひとたまりもなかった。つい先ほどまではGフォースに圧倒的な優勢をとっていたドローン=タイタン軍団だったけれど、地球怪獣連合が参戦したことで、一気に形勢が逆転してしまった。
「なっ、馬鹿な……っ!?」
そんなモニターに映る光景を前にして、キラアクはただ茫然と立ち尽くしていた。まさに信じられないことが起こった、とでも言いたげな顔だ。
……ぷぷっ、バカ丸出し、良い面の皮だわ。わたしは口を開いた。
「『地球は人間だけのものでは無い』だったかしら? たしかにそうね、地球はわたしたち人間だけのものでは無い」
だけどね。わたしは言ってやった。
「かといって、あんたみたいな人でなしのものでもなかったみたいね、キラアク。あんたが大好きな怪獣たちは、あんたが掲げてる“正しさ”とやらが気に喰わないみたいよ?」
「だまれっ!!」
先程までの鼻持ちならない勝ち誇りっぷりはどこへやら、今のキラアクはもはやパニック状態だった。
「有り得ない、有り得ない、有り得ないっ!! ボクは正しいんだ、正しいはずなんだ、間違ってるはずがない!!」
ぼさぼさの髪を掻きむしりながら、ヒステリックに叫び続けるキラアク。やがて何かに気づいたように、目を見開く。
「……そうか、卑劣なGフォースめっ、さては怪獣たちを思い通りに誘導してるんだな!? そうだ、オルカ=システムか、LTFシステムか、きっとそうだ、そうに違いない!! でなければ素晴らしい怪獣たちが、怪獣の味方であるボクを攻撃するはずがない……ッ!!」
……何言ってんだコイツ。
意味不明なことを喚き散らしているキラアクの醜態にわたしが内心で唖然としていると、やがてキラアクは怒りの矛先をわたしに向けた。
キラアクはわたしに、血走った目つきで怒鳴り散らした。
「さあ答えろ機龍隊隊長ヤシロ=ハルカ、いったいどんな手品を使った!? どんな卑劣な手管を使って可哀想な怪獣たちを操ってる!? さあ、答えろッッ!!」
ぶふうッ……w
「なにが可笑しいッ!?」
キラアクのあまりのトチ狂いぶりに、わたしはとうとう噴き出してしまった。あーおっかしー。怪獣を思い通りに操る? そんなスゲー裏ワザあったら、こっちが教えてほしいわ。
半狂乱のキラアクを見ながら、わたしはお腹を抱えて笑い飛ばしてやった。
「いい加減認めなよ、キラアク。あんた、怪獣にすら嫌われてんだよ」
「な、なんで、そんなはずは……」
だってさあ。動転するばかりのキラアクを、わたしはせせら笑う。
「世の中への逆恨みを拗らせて八つ当たりしたいだけのクズの分際で、口先では
たまーにいるのよね~、怪獣が絡んできた途端に『やはり人間は愚か』とかのたまう底無しの無責任ウスラバカ。
こういうアホンダラは大抵『人間も自然の一部であり、またかく言う自分自身こそまた人間の一人である』という現実を都合よく考慮していなかったりする。そうやって自分だけ棚に上げて責任から逃れようとする傲慢さや卑劣さ、あるいは虫の良い身勝手さこそが『人間の愚かさ』そのものなのにね。
わたしがそんなことを思い返していると、やがてキラアクはこんなことを言い出した。
「……こんなの偽物だ」
……はあ? わたしが呆気に取られていると、キラアクはヒステリックに喚いた。
「人間の味方をするなんて本物の怪獣じゃない、偽物だッ! きっとGフォース辺りが作ったウソンコ、偽物怪獣だ! きっとそうだ! そうに違いない……!!」
……どこまでクズなんだよ、こいつは。そうやってこれまでの主張をあっさり覆したキラアクに、わたしは心底呆れてしまった。
人間の味方をするウソンコ偽物怪獣? じゃあモスラやキングシーサーはどうなんだよって話だし、そんな都合の良いものを造れるというならわたしたち人類は対怪獣兵器なんて造ってないしGフォースも結成していない、ひいてはこんな事態にすらなっていなかったはずだ。
つい先程まで『地球は人間だけのものでは無い』なんて怪獣との共存をあれだけ声高にのたまっておきながら、いざ都合が悪くなれば途端に切り捨てて別の“正しさ”へと乗り換える。まったく、目も当てられない醜悪さである。
「流石は時計じかけのオレンジ、中身空っぽの暴力人間は信念を乗り換えるのもラクでいいわね」
「うるさいだまれっ!」
“正しさ”へ執拗にこだわり続ける侵略者キラアク、それが行き着いた本性は下劣で浅ましく身勝手なエゴイスト、まさに『愚かな人間』そのものだった。まあ、そんなのは最初からわかりきってたことだけど。
わたしが呆れ果てているうちに、やがてキラアクは次の行動に打って出た。
「偽物怪獣どもを皆殺しだ、メカゴジラ=シティ、アルカノイズを出せ!」
〈申し訳ありません御主人様、アルカノイズはS.O.N.G.のシンフォギア装者と交戦中です~! 再生成には時間がかかります~!〉
「く、くそう……こ、こうなったら……っ!」
そして怒り狂った激情そのまま、叩きつけるような勢いでタブレット端末を操作し始めるキラアク。その顔には先程までの余裕ぶった軽薄さは見受けられない。奴は本気だ。
「『純粋水爆』で、一匹残らず始末してやる……っ!」
……マズイっ!!
わたしはすぐさまキラアクへ駆け寄ろうとしたけれど、バリアーに阻まれてしまった。わたしが必死に拳で叩いても、目の前に張られた強固なバリアーはびくともしない。
目と鼻の先でなにも手出しできないわたしの前で、キラアクは着々と準備を進めてゆく。
〈御言葉ですが御主人様、まだ東京都民の皆さんへのナノメタル注射が完了していません。ここで撃ったら人的被害が……〉
「うるさいっ、いいからやるんだっ!」
〈……かしこまりました、御主人様~〉
そしてついに、コマンド入力を終えたキラアクがメカゴジラ=シティへ命じた。
「起爆コード:Destroy All Monsters! さあメカゴジラ=シティ、ツァーリ・ボンバを起爆だ! Gフォースも偽物怪獣どもも、皆まとめて消してしまえっ……!!」
やめろッ――――!!
わたしは声を張り上げた。
世界中から集まってきた地球怪獣連合。彼らのお陰で窮地は脱したものの、ファイヤードラゴンを片付けないとどうにもならない戦況は相変わらずだった。
「なんだあいつ!? “燃える怪獣”なんて反則だろーが!?」
今度ばかりは流石のピー助くんも手こずっているようだ。彼だけではない、アンギラス、ラドン、バラゴン、バラン……地球怪獣連合軍も同様だ、全身を灼熱の炎で覆ったファイヤードラゴンには手も足も出ないらしい。
そんな状況を前にして、ピー助くんがシリアス顔で呟いた。
「まさに手を焼く、ファイヤードラゴンだけにってか……!」
はい? なんだって??
「……ごめん、忘れて」
うん、わかった。
とはいえ、手の出しようがないのはぼくも同じだ。いくらレールガンを撃ち込んでも灼熱の炎に焼き尽くされてしまうだけだし、ミサイルは奴の全身から放たれている磁場の影響で上手く狙えない。おまけに空を縦横無尽に飛び回るものだから、格闘戦すらままならない。
ぼくら怪獣が手を出しあぐねている一方で、機龍隊の皆は臨時の作戦会議を開いていた。
「ファイヤードラゴン、センサーによると表面温度は……ウソでしょ、摂氏5,000度!?」
……はい? 摂氏5,000度?
アンザイさんからのトンデモない報告に、機龍隊一同は思わず動揺した。
「そんなんアリかよっ、5,000度ってもはや太陽並みじゃねーか!」
「炎どころかプラズマね、アレは。しかしいくらロボット怪獣だからって、そんな高温のプラズマを全身にまとうだなんて……」
アキバくんの言うとおり摂氏5,000度といえば太陽の黒点並みの超高温、迂闊に触れればぼくの装甲だって融かされてしまうだろう。
そんな中、冷静に分析を続けていたのはサエジマくんだった。
「いや、メカゴジラ=シティは既に純粋水爆、つまり核融合を実用化しています。磁場を用いたプラズマ制御であれば核融合に必要な技術ですし、それを軍事転用すればアレくらいの代物は作れるんでしょう」
「で、どうすれば倒せる?」
ハヤマくんの問い掛けに、サエジマくんは渋い顔で答えた。
「プラズマ制御に高強度の磁場を用いているなら誘導弾は当たらないでしょうし、あれだけの高温のフィールドにはレールガンは通らない、あのスピードではそもそも砲撃も難しい……」
つまり、手詰まり。
もちろん諦めるわけにはいかない。かといってじっくり考えている余裕もそんなに無かった。たしかにゴジラ・タワーを倒したとはいえあんなのは序の口、メカゴジラ=シティは純粋水爆の核兵器を保有している。今にも、他の国や街に向かって核ミサイルを撃つ可能性だってあるのだ……。
機龍隊一同で悩み続ける中、アンザイさんが何気なく呟いた。
「燃える怪獣だなんて、もはや水でも掛けるしか……」
真剣な空気にそれこそ水を差すかのような一言に、アキバくんがうんざりした様子で応えた。
「あのなあ……そんな手が通用するわけがねーだろっ」
「ひ、ひぇっ、すみません、すみません……!」
アンザイさんお得意の、いつもの余計な一言。叱るアキバくんと、ぺこぺこ謝り倒そうとするアンザイさん。機龍隊ではお馴染みの、よくある光景だ。
……しかし。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
そこに口を挟んだのは、さっきから熟考を重ねていたサエジマくんだ。サエジマくんは、アンザイさんに問いかけた。
「……アンザイさん、今なんて?」
サエジマくんから急に真剣な面持ちで詰め寄られ、アンザイさんはおどおどしつつも答えた。
「い、いや、だって、燃える怪獣だというなら、いっそ水でも掛けたらいいのかな、って……」
「水、水ですか……水冷、冷却……」
アンザイさんの答えに対してサエジマくんはぶつぶつ考え込んだあと、さらにまたアンザイさんへ訊ねた。
「アンザイさん、残りのアスカロンは?」
「あ、えっと、アスカロンは……サーティーンが無傷で残ってます!」
アンザイさんの答えを受けた途端、サエジマくんは表情を明るくした。
「……やっぱり! イケますよ、ハヤマ副長!」
「どういうことだ?」
「はい、それはですね……」
「……!」
サエジマくんからの“作戦”を聞いた機龍隊一同、皆一斉に目を見開いた。そして臨時指揮官のハヤマくんもまた、即断した。
「……よし、でかしたアンザイ、サエジマ。アンザイ、すぐにS.O.N.G.の旗艦へ繋げ!」
「了解!」
そして通信機を手に取り、ハヤマくんは先方に呼び掛けた。
「こちら機龍隊司令代行、ハヤマだ。S.O.N.G.の指揮官、聞こえてるか?」
〈……こちらS.O.N.G.司令、カザナリだ。用件があるなら手短に頼む〉
力強い声ですぐさま応じてくれたS.O.N.G.の司令官さんへ、ハヤマくんはさっそく用件を伝えた。
「カザナリ司令、今からこっちで機龍のパーツ換装をしたい。10分、いや5分でいい。ファイヤードラゴンをそっちのガイガンで抑えてもらえるか?」
〈……勝算があるんだな?〉
念を押すS.O.N.G.の司令官さんに、ハヤマくんは即答する。
「ああ、当然だ。とにかくなんでもいい、機龍の準備が整うまで時間を稼いでもらいたい。頼めるか?」
〈……承知した! 任せておけ!〉
機龍隊とS.O.N.G.の人たちの通信が終わったあと、ピー助くんがぼくのところへやってきて言った。
「……聞いたぜ、『時間を稼げ』って。これが噂の“独立愚連隊”、これまた随分な無茶を押しつけてくれるよな~」
『やれやれ』と肩を竦めつつ、ピー助くんは両手のチェーンソーをギュンギュン鳴らした。
「まぁうちもこういう“無茶”は好きだし、かくいう俺も好きだしな! “お召し替え”、ちゃちゃっと済ませろよ!……」
そう言いながら、ピー助くんはファイヤードラゴンへ果敢に挑みかかってゆく。どこまでもナイスガイなピー助くんだった。
……ありがとう、ピー助くん。君はホントに善い奴だ。心の中でお礼を言いながら、ぼくは、アスカロン=サーティーンへと急いだ。
ぼくがアスカロンで“お召替え”を終えて駆け戻ると、ピー助くんは満身創痍の状態になっていた。
大乱戦の中で全身黒焦げ、自慢の腕のチェーンソーも片方が失われてしまっている。そしてその周りは、ファイヤードラゴンに率いられたドローン=タイタンどもでいっぱいだ。
その中心で奮闘しながら、ぼくに気付いたピー助くんが声をかけてくれた。
「待ちくたびれたぜ!」
ごめんよ、そしてありがとうね。
アキバくんの操縦を受け、ぼくは補給したての冷凍ミサイルを盛大にブッ放し、ドローン=タイタンどもを一斉に蹴散らした。一気に氷結し、ナノメタルの塵芥と化して崩れ落ちてゆくドローン=タイタンども。これで雑魚は一掃された。
そんな状況にファイヤードラゴンもすぐさま反応した。全身の炎を滾らせ、ぼくたちの方へと向かおうとする。しかし……。
――……ガキンッ!
そのとき、ファイヤードラゴンの機体に巻き付いていた“ソレ”が、盛大な金属音を立てた。
はたしていったい何が起こったのか、身をくねらせようとするファイヤードラゴンだったけれど、動けば動くほど“ソレ”は可動部へ巻き込まれてゆき、ファイヤードラゴンはますます動きを封じられてゆく。
あれは、まさか……? ぼくが目を凝らすよりも先に、ハヤマくんが“ソレ”の正体に気づいた。
「ガイガンのチェーンか……!」
ファイヤードラゴンの動きを封じたそれの正体はガイガン、つまりピー助くんのチェーンソーのチェーンだった。そういえば片腕のチェーンソーがいつの間にか無くなっていたけれど、そのチェーン部分だけはこうしてファイヤードラゴンの身体に巻きついていたのだ。
ゴジラの皮膚さえも切り裂いてしまうという特殊鋼のチェーンは、ファイヤードラゴンの間接部へ幾重にも絡みついたうえに深々と食い込んでいて、さしものファイヤードラゴンもすぐには抜け出せないようだった。
――……ッ!……ッ!?
ガキン、ガキンと音を立てながらなおもじたばたもがくファイヤードラゴン。その間抜けな姿を見上げながら、全身黒焦げのピー助くんが得意気に笑った。
「ヒャッハッハーッ、どーだァ! これだけ雁字搦めにしとけば動けないだろォー!!」
つくづくナイスなガイガンだ、ピー助くん! でもそうやって悪どく高笑いしてるといよいよ『北斗の拳』とか『マッドマックス』のモヒカンみたいだから、やめておいた方がいいんじゃないかな!
そして喰らえ、ファイヤードラゴンッ!!
すかさずぼくは胸のパーツを展開、空中でもがくことしか出来ないファイヤードラゴンめがけて“必殺技”を撃ち放った。
……このぼく:メカゴジラ機龍が繰り出す必殺兵器、それは本来ゴジラを倒すために開発されたものだ。相手の熱エネルギーを一瞬で奪い、氷点下マイナス273.15度へと叩き落とす。その絶対零度の最中ではどんな猛火だろうと一撃で沈められ、ともすれば分子さえも動きを停めて砕け散ってしまうという。
その名は〈アブソリュート・ゼロ〉。
大気さえも凍らせながら迸るアブソリュート・ゼロの絶対零度光球、その直撃を受けたファイヤードラゴンは途端に動きを停めた。
……数千度の高温と絶対零度の氷結。どんなハイテクで武装しようが、こんな極端な温度差の乱高下に耐えきれるものなんてこの地球上には存在しない。
その刹那、ファイヤードラゴンが甲高い金切り声を挙げた。
――ぴぎゃあああああ……!!
響き渡る、断末魔の絶叫。
そしてファイヤードラゴンは墜落、地表へ激突して木っ端微塵に氷砕された。
タイトルは映画『怪獣総進撃』の英語版タイトル『Destroy All Monsters』から。
好きなゴジラ映画のヒロイン
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山根 恵美子
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小美人(昭和)
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星 由里子さんが演じてた記者の人
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真船 桂
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三枝 未希
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小美人(コスモス)
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小美人(エリアス)
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ベルベラ
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辻森 桐子
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立花 由利
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家城 茜
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カヨコ=アン・パタースン
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尾頭ヒロミ
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マディソン=ラッセル
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ジア
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タニ=ユウコ
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ミアナ
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マイナ
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神野 銘
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小美人(ちびゴジラ)