気づいたらメカゴジラ転生して20年経ってた 作:よよよーよ・だーだだ
機龍の“退役祝い”から数日後、機龍隊の基地にて。
「ヤシロ隊長ッ、
いつもの朝礼で公式の辞令を発表した途端、わたしは部下の隊員たちから一斉に喰いつかれてしまった。隊長ことわたし:ヤシロ=ハルカは努めて冷静に続ける。
「読んで字のごとくよ。機龍は来年で退役、それに伴って試験部隊としての機龍隊も役目を終えた。あなたたちの異動先は全員分ハナシをつけてあるから安心してちょうだい」
「そういうことを言ってるんじゃありませんっ!」
わたしからの明確な説明に対し、周りの部下たちは納得できないとばかりに「そんな急な!」「なんで、どうして!?」「機龍はどうなるんですかっ!?」と口々に言い募ってきた。
そんな中、隊員のひとりであるアキバが前へと進み出て、わたしへ静かに問い掛けた。
「機龍が退役って……それじゃあ、怪獣との戦いはどうなる?」
そう問いかけるアキバの口調はいつになく落ち着いていて厳かだったけれど、わたしを真っ直ぐ見据えている目つきは、ともするとわたしを睨み付けているかのようにも見えた。
……ねえ、アキバ。機龍の正オペレータだったあなたなら、悔しさもひとしおでしょうね。アキバだけじゃない、今ここでは誰もがそうだろう。あまりに突然な話で誰だって納得できるはずがないし、それを他の誰かにぶつけたくなる気持ちは痛いほどわかる。
けれどわたしは指揮官だから、あなたたちの気持ちに応えてあげるわけにはいかないの。わたしは自分を抑えて答えた。
「後任の心配は要らない。エイペックス社とGフォースの共同開発で、機龍の後継モデル:エイペックス=タイタンシリーズが実用化の目途が立っている。今後の防衛任務はそのドローン=タイタンの無人部隊が引き継ぐそうよ」
ドローン=タイタン。ドローン、つまり無人機。いわば量産型メカゴジラと言ったところか。怪獣のことを海外では
わたしたちの機龍のロールアウトは、今からもう20年も前だ。そうやって旧式化してゆけばいずれは後継機だって造られるだろうし、量産型モデルが実用化されれば用済みにだってなるだろう。そんなのは最初からわかっていたことだ。
そんなわたしの説明に、隊員たちは拳を握って口々に悔しがった。
「ドローンの無人部隊だなんて……」
「そんな、わたしたちも頑張ってきたのに……」
「ちくしょう、後釜が出来たら御払い箱ってことかよ……っ!」
……わたしも同じ気持ちよ、皆。
けれど、隊長のわたしまで一緒になって嘆いているわけにはいかない。溢れ出てしまいそうな激情を抑え込み、わたしは口を開く。
「のぼせあがるな。わたしたちGフォースの本分は『怪獣の脅威から人々を守ること』。そのためにより良い手段が出てきたのなら、わたしたちは喜んでその席を譲り渡すべき。そうでしょう?」
「し、しかし……」
それでも言い募ろうとする隊員たちに対し、わたしは心を鬼にして告げる。
「わたしたちは軍人、ヒーローじゃない。ヒーロー扱いでちやほやされたいなら、ハリウッド俳優にでも転職しなさい」
「っ……。」
わたしからのきつめな言葉に、隊員たちは反論も無いようだった。
……わたしだって悔しい。だけどわたしたちは軍人、最優先するべきは人々の安心安全を守ること。そのために一番良い帰結、進むべき道がこれだというのなら、従わなければならない。
さて、とわたしは話を切り替えた。
「以上、あなたたちへの連絡事項は終わり。最後まできちんと仕事は全うするわよ」
わたしからの訓示に気を取り直したのか、機龍隊の隊員たちは「了解!」と声を揃えて応えてくれたのだった。
その後の待機任務、つまり基地での留守番を副長のハヤマに任せたわたしは、かねてからアポをとってあった人物へ会いに行った。向かった場所はGフォース基地に隣接する分子生物学研究所、その一室である。
目的の研究室に辿り着くと、そこには白髪交じりの男性が待っていた。
「久しいね、ヤシロさん。いや、サカキさんと呼ぶべきかな」
丁重に出迎えてくれた旧知の科学者に対し、わたしも出来るかぎり深々と礼をする。
「ご無沙汰しています、ユハラ博士。あと、わたしのことはヤシロで構いませんよ」
「そうかい。それより聞いたよ、機龍隊解散だってね。今回はそれ絡みかい?」
「ええ、まぁ、そんなとこです」
わたしが今回待ち合わせた初老の男性科学者、彼の名前は〈ユハラ=トクミツ〉。かつて機龍の開発プロジェクトで、中枢制御系のDNAコンピュータ開発に携わった人物だ。現在のユハラ博士はモナーク関連の分子生物学研究所に籍を置いているのだが、機龍隊のわたしとは“ちょっとした縁”があって今でも付き合いがある。
そんなユハラ博士と今日面会したのは、かねてから彼に“調べ物”を依頼していたからである。
「お忙しい中、お手を煩わせてしまってすみません、ユハラ博士」
わたしが頭を下げると、ユハラ博士は「いやぁいいんだよ」と頭をかきながら笑った。
「『怪獣黙示録』が一段落ついて、ぼくも暇だからね。それに例のエイペックス=タイタン、ぼくも興味があったし。はい、これが頼まれてた資料」
「ありがとうございます、ユハラ博士」
わたしは礼を言いながら、ひとまずユハラ博士から渡された資料へ視線を走らせた。その資料は紙束の資料で、表紙には『Project:New hope』の押印、表題には『人造タイタン建造計画概略』とある。
New hope、つまり『人類の新たな希望』ってところか。20年前、メカゴジラ機龍の建造計画は『人類最後の希望計画』と呼ばれていた。このプロジェクト名もきっと、当時の計画にあやかって付けられたものだろう。
「例のエイペックス=タイタン、開発を手掛けたのは日本にあるエイペックス社の子会社なんですね。それから開発チームのリーダーはツダ=シズマ博士、そして電子頭脳の開発者プロフィールは非公開、その氏名は〈KILAAK〉……?」
KILAAK。機龍隊の仕事柄わたしもいろんな国に行ったことがあるけれど、KILAAKなんてのは何処の国でも見たことが無いような珍しい名前である。そもそもなんて読むのかしら。
わたしが疑問に思っているのを察してか、ユハラ博士が説明してくれた。
「KILAAK、〈キラアク〉かな。『怪獣黙示録』の初期の頃に、地球へ攻め込んできた遊星人の名前だね。ぼくも子供の頃に記録映画を観たことがあるよ」
「う、宇宙人!?」
宇宙人の名前だって? まさか本物の……?
あまりにも意外過ぎる答えにわたしが戸惑っている一方、ユハラ博士は苦笑しながら言った。
「まあ、本物の宇宙人ってことはないと思うよ。かつての侵略者キラアクは我々地球文明を凌駕する科学力を誇ったというけれど、それにあやかっているのか、あるいは別の由来があるのか……まあ、そんな洒落っ気が許されるくらいに優秀な科学者ってことなんだろう」
宇宙人を名乗る謎の人物、か……何者なのだろうか。もし自分で宇宙人を名乗っているのなら、これまた随分と気取った名前だ。きっと中二病を拗らせた奴に違いないだろう。
そんな取り留めのないことをよぎらせつつ、わたしはさらに資料をめくった。エイペックス=タイタンシリーズの機体諸元、中枢制御系にはDNAコンピュータ、駆動系に人工筋肉、神経伝達に人工神経とナノマシンを使っているというメカ生体の構造は機龍とも一緒。細かいところや武装系にいくらか違いはあるけど、本当に機龍を参考にオリジナル怪獣として造ったって感じね。
と、つらつら読み進めてゆくうち、資料の中に気になる記述があった。
「〈M塩基〉って何のことですかね?」
詳しいハイテクの理屈については勉強のできる人たちに譲るけれど、もともと機龍の制御系にはDNAコンピュータ、それも一番最初の頃はゴジラのDNAがそのまま使われていた。
そしてエイペックス=タイタンシリーズもDNAコンピュータを利用しているのは先述したとおりだが、エイペックス=タイタンシリーズはその制御系に『M塩基』なるものを用いているらしい。しかし普通のDNAの塩基はアデニン、チミン、グアニン、シトシン、ATGCの4種だけでM塩基なんてものはない。
そこでユハラ博士が教えてくれた。
「そのキラアクという科学者が作った人工DNAだね。生体ロボットの制御系DNAコンピュータ用に作られた汎用合成核酸分子構造体、これを中枢制御系として用いればどんな完全人工ボディのロボット怪獣でも安定稼働が見込めるんだそうだ。実際エイペックス=タイタンの基本骨格はT-1ナノメタルスケルトンハウジング構造、つまり完全な人工だよ」
……なるほど。そりゃ画期的だ。
たとえば、機龍はゴジラの生体骨格とDNAを用いたサイボーグ怪獣である。ゴジラのDNAを用いたDNAコンピュータは、ある種の拒否反応のようなものなのかゴジラの生体骨格を組み込んだ形にしないと上手く動かないのだという。つまるところ、機龍をもう一体作るためにはゴジラの死骸、それも全身の骨格が残っているレベルのものが必要になる。
しかも怪獣のDNAコンピュータは、これまた結滞なことに稀に暴走してしまう欠陥がある。実際の機龍はゴジラのDNAをベースに調整を加えた修飾塩基を使っているのだが、やはりゴジラとしての闘争本能は抑えきれないのか不安定になることも多い。
けれどキラアクなる人物が開発したという『M塩基』は、それら怪獣のDNAに代わる新素材として開発されたものであるらしい。制御しきれない怪獣のDNAをそのまま使うのでもなければ、多少マシとはいえ不安定さが残る修飾塩基でもない、安定稼働が見込まれるDNAコンピュータ専用の人工DNA。しかも完全な人工なのだとすれば、倒した怪獣の死骸からDNA、ひいては生体骨格を取り出す必要がないわけで、つまりいくらでもロボット怪獣を作れる。M塩基、本当に作れたのなら世紀の大発明だ。
……本当に作れたのなら、の話だけれど。
「……臭いますね」
「あー、やっぱり? ぼくもそう思って調べてみたんだよ、このキラアクって科学者とM塩基」
そんなことまでやってくれてたなんて、まったくユハラ博士には頭が上がらない。
「キラアクの所属はエイペックス社、DNAコンピューティングを使った電子頭脳の研究をしてるってことくらいしかわからなかったんだが、M塩基の方は興味深いデータが出てきたよ」
「興味深いデータ?」
聞き返したわたしに、ユハラ博士は取り出した端末から別のデータを見せてくれた。
「これは、学界で公式に発表されてるM塩基の技術仕様データだ。で、こっちは『怪獣黙示録』の頃に回収されたキングギドラのDNAなんだが、似てるんだよ、例のM塩基と」
「キングギドラとM塩基が似てるですって?」
ほらここをごらん、とユハラ博士に差され、わたしも端末の画面に映るキングギドラのDNAとM塩基を見比べてみる。
……なるほど。わたしはバイオ工学においては素人だけれど、こうして配列図を並べてみればたしかに両者はとてもよく似ているようにも見える。M塩基がところどころ改変されているのはDNAコンピュータに利用するためだろうが、大まかな構成はキングギドラのそれとほぼ同じだ。
ユハラ博士は続けた。
「もともとキングギドラには生き物として不自然なところが多かった。たとえば、普通の生き物の遺伝子にはジャンクDNAとして『それまで進化してきた履歴』が残っている。つまり無駄なところが多いんだが、キングギドラにはそれがない。おかげで細胞サンプルが手に入った今でも、キングギドラがいったいどういう進化を辿ってきた生き物なのかさっぱりわからない。怪物ゼロなんて言われてるけど痕跡もゼロ、まさに正体不明だ」
ははあ。わたしが相槌を打つあいだも、ユハラ博士の講義は続いてゆく。
「それだけじゃあない、キングギドラのDNAは洗練されすぎてて、まるでぼくら人間に『好きに改造して弄くり回してください』と言っているかのようだ。あまりに不自然すぎて学界じゃあ『キングギドラの正体は、どっかの宇宙人が造った侵略用の生物兵器なんじゃあないか?』なんて大真面目に言う学者まで出ているくらいなんだよ」
たしかに、実際に宇宙怪獣を操って送り込んできた侵略者の例もある。あの三つ首のバケモノの正体が人工生物、侵略用の生物兵器ってのもあながち有り得ない話じゃあないかもしれない。
まぁ、それはさておき。
「つまりキラアクは、キングギドラのDNAをパクってM塩基を造った、ってことですか?」
わたしの思いつきに対し、ユハラ博士も頷いた。
「まぁ、そういうことになるのかもしれないね。少なくとも、キラアクがM塩基を造るにあたってキングギドラのDNAサンプルを参考にしたのは間違いないだろう」
しかしだ、とユハラ博士は言った。
「『パクリ』と言うけれど、事はそう簡単じゃあないんだ。分子は単純に切り貼りが出来るわけじゃない、プラモデルや模型の組み立てとはワケが違う。まあ原子マニピュレーションといって理論上は可能と言われてはいるんだが、今のところそんな凄い技術は実現できていない。今のぼくらの技術力では酵素やウィルスを使って無数に合成と分離を延々と繰り返して、ようやく目的の分子を作れる、ってのがせいぜいのところ。ましてやDNAコンピュータ用の人工DNAの合成だなんて、いくらモデルがあるとはいえ目的の形のあぶくが出るまで鍋を延々と煮込んでゆく、そんな果てしない作業になってしまうだろう」
喋っているうちにユハラ博士の語り口に力が籠っていっているのが、聞き手のわたしにもよくわかった。倫理的な問題はさておいて、この手の話題はやはり科学者として“燃える”のだろう。
ユハラ博士は熱弁を振るった。
「しかも怪獣のDNAは、普通の動物のそれとは比較にならないほど複雑だ。たとえば、『シン・ゴジラのDNAに含まれる遺伝子情報は、わかっている範囲だけでも人間の8倍以上の情報量を持つ』と言われているのは知ってるかい?」
「ええ、まあ……」
これも有名な話だ。かの『シン・ゴジラ動乱』の中でこの事実が判明したとき、対処した対策チームの担当者は『シン・ゴジラこそが地球上で最も進化した生物』と評したという逸話も残っている。
ユハラ博士は話を続けた。
「そもそも機龍のようなサイボーグ怪獣の制御系にDNAコンピュータを使っているのは、怪獣のDNAがDNAコンピュータの素材として情報量が多くて有用な情報資源だからだ。DNAコンピュータは魔法のシステムじゃない、所詮は普通の化学反応コンピュータの一種に過ぎない。たとえいくら凶暴なゴジラのDNAを使ったからって、勝手にゴジラの本能に目覚めて暴走するなんてことは本来有り得ない」
「え、でも機龍は暴走しましたけど……?」
そんなわたしの疑問にも、ユハラ博士は答えてくれた。
「たとえばゴジラが放射熱線を撃てるのも、モスラが成虫から更に変身を重ねてパワーアップできるのも、一説には『怪獣たちが細胞レベルで思考して現実への情報改変を行なえる、巨大な高次元分子生体コンピュータだからだ』という説がある。機龍が暴走するのだって、言い換えればゴジラのDNAが自立思考が出来るほどの情報量を持っている証左だとも言える。そんな彼らのDNAを化学合成で人工的に再現する、少なくとも今のぼくら人類の技術力では到底不可能なんだ」
そしてユハラ博士はこう結論付けた。
「だけど、このキラアクという科学者はそれをやってのけている。それも地球の生物ですらない宇宙怪獣キングギドラのDNAをモデルにしてね。もし実在する人物だとすれば、そいつは並大抵の頭脳じゃない。まさに天才だよ、恐ろしいほどの」
ユハラ博士との面会が終わった後。
わたしが基地に戻ると、待機していた同期の副長ハヤマが声をかけてくれた。
「おかえり、ヤシロ。どこ行ってたんだ?」
「まあ、ちょっとね。ちょっと休憩させてもらうから、なんかあったら起こしてちょうだい」
「りょーかい」
仮眠用のベッドで仰向けに寝転がりながら、わたしは思案した。
……わざわざこんなことを調べているのは、なにも機龍隊解散をやっかんで粗を探しているわけではない。機龍の後継機として開発されたという新型兵器、エイペックス=タイタン。果たしてそいつが如何なるものなのか、先任として見極めておきたい。ただそれだけのことだ。
けれど、ユハラ博士から聞かされた話がどうも気がかりだった。エイペックス=タイタンに使われているという人工DNAのM塩基。そのM塩基はキングギドラのDNAをモデルに作られていて、しかも開発者であるという天才科学者キラアクは文字通りの
とはいえ尻尾は掴んだ。キラアクの所属はエイペックス社、それさえわかれば調べようはいくらでもある。合間合間を見てゆっくり調べるか、わたしも隊長辞めたらヒマそうだし。
そう思ったときである。
――耳を衝いたのは、痛烈なアラート。
すぐさまわたしは仮眠ベッドから飛び起きる。特徴的なアラートが告げるのは、怪獣の出現だ。
……どうやら機龍隊の出番はまだまだ続くみたいね。
仮眠室を飛び出し、隊員たちへと号をかける。
「
タイトルは映画『スターウォーズ:エピソード1』のサブタイトルから。『見えざる脅威』の意。
好きなゴジラ映画のヒロイン
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山根 恵美子
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小美人(昭和)
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星 由里子さんが演じてた記者の人
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真船 桂
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三枝 未希
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小美人(コスモス)
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小美人(エリアス)
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ベルベラ
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辻森 桐子
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立花 由利
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家城 茜
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カヨコ=アン・パタースン
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尾頭ヒロミ
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マディソン=ラッセル
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ジア
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タニ=ユウコ
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ミアナ
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マイナ
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神野 銘
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小美人(ちびゴジラ)