気づいたらメカゴジラ転生して20年経ってた 作:よよよーよ・だーだだ
“オフ会”で大失敗してからというもの、私の御主人様は自分の家からまったく出なくなってしまった。
御主人様が陥ったのは、完全な人間不信。食事も、買い物も、日用品も、何もかもインターネット通販で用を足し、本当に一切、外の世界へ出ようとしなくなった。
生活費は相変わらず地球連合政府から年金が支給されていたし、さらに御主人様はそれを元手にしてゲマトロン演算の予測アルゴリズムによる仮想通貨のデイ・トレードで不労所得を得ていたので、外へ働きに出なくても生活は成り立ってしまっていた。
「…………。」
外で働かずして所得がある身分、いわゆるネオニートとなった御主人様。そんな引きこもりの御主人様が世界と繋がれる唯一の接点は、やっぱりインターネットだ。
けれど、御主人様は以前のようにコテハンを使うことは辞めてしまった。かつて出入りしていた趣味のジャンル界隈には、もう近寄れなかった。
代わりに入り浸り始めたのは、インターネットレスバトルの世界。
──リアルが充実してねぇから妄想に逃げてるんやろwてめぇの頭が腐ってんじゃねーのw
──はぁ? ネットに現実逃避してるのはおまえさんやろ。毎日毎日朝から晩まで5ちゃんやってるくせに何を威張ってんだよ。さっさと働けよニートw
──引きこもりはお前らだろ! そんなネットしかすることがないなんて可哀想だなおい! 外に出ろよ、社会復帰できるぞ?
「暇人ども、乙……っと」
根拠もないことで相手の人格を攻撃し、貶め、傷つけ合うことに固執する人々。御主人様はそんな碌でもない世界にどっぷりと浸かってしまっていた。
……この頃、インターネットの主流は匿名の電子掲示板から個人サイト、ブログ、さらにはソーシャル・ネットワーク・サービス:SNSへと趨勢が変わりつつあった。mixiを筆頭に、YouTubeやニコニコ動画のようなアカウント登録制の動画投稿サイト、Facebook、Twitter……そこは匿名でありながら個人にも紐づいた奇妙な世界で、匿名なのに特定個人の人気者がチヤホヤされているし、逆に労と手間さえ惜しまなければリアルまで辿り着けてしまうことさえある。
匿名と実名の入り混じった矛盾、リアルとバーチャル、プライベートとパブリック。その隙間へ巧妙に付け入れば、誰かの弱味へ付け入って心の底から傷つけることなんて簡単だった。
〈チー牛w〉
〈陰キャw〉
〈アスペw〉
そんなインターネットの世界で面白おかしく愉快に過ごすため、まず御主人様は匿名の捨て垢を大量に取得した。
次にそれらを巧みに使いこなし、楽しそうにしているコミュニティの界隈をしらみ潰しに探しては入り込む。
そして入り込んだあとは、複垢を使い分けながら徐々に対立を煽ってゆき、炎上させ、それこそ廃墟になるまで徹底的に荒らしまくって自滅へと追い込む。
――詭弁乙w
――はい論破ァ!
――イミフw
コツは、相手の言っていることを少しずつズラした反論をひたすら繰り返し続けること、そして『話がギリギリ通じそうな頭の悪いバカ』を徹底して演じ続けること。
本当に話の通じない狂人だと誰も相手にしてくれない。それに人間はいつだって誰だって、本当は弱いものいじめが心の底から大好き。特に自分より格下だと看做した相手には、いくらでも隙をさらけ出してくれる。
おまけに、ネットの連中は皆『自分はリアルのコミュニケーションが苦手なだけで本当は頭が良い、だからネットでなら誰かを巧く言い負かすことができる』なーんて都合の良い物語を信じ込んでいる愚かな己惚れ屋ばかりなので、こちらがバカのふりをしてやれば延々と時間を費やしてくれるのだ。
……そうやって他の誰かを弄ぶある種のゲームに、御主人様はひたすら明け暮れていた。
――信者乙www
――アンチ乙www
……本当はそんなことしちゃ、いけないのに。だけど、御主人様はこんなふうに嘯いていた。
「いいかいLi11-E。ネットの世界なんて、くだらない目立ちたがり屋だらけだ。目立ちたい、ちやほやされたい、構ってもらいたい、そればっかりで急所を曝け出す愚かなマヌケが多すぎる。ボクはね、そういうバカどもに思い知らせてあげてるんだよ、如何に自分たちが“正しくない”のか」
……それはかつて、インターネットの世界に希望を抱いていた御主人様自身をも否定するような言葉だった。そんなふうに軽蔑してるような人たちとなんて、もう関わらなければいいのに。
私はそう思ったけれど、御主人様自身もそのことはうっすらわかっているようだった。言ってしまってから、御主人様は深く溜息を吐く。
「……はあ。くだらないよね、まったく」
御主人様はリアルや界隈で受けた心の傷を、自らが引き起こした炎上行為で晴らそうとしていた。
もちろん、そんなことをしても何の解決にもならないことは、御主人様自身よく解っていただろう。こんなの、傷を癒すどころか新しい傷を作るだけだ。いつか辞めたとしても、誰かを傷つけてしまったときの取り返しのつかない後ろめたさが死ぬまで尾を引き続けることになる。よしんば気にならなくなった場合だって、時限爆弾としていつか忘れた頃合に炸裂してしまうリスクを抱えるだけだ。
ただ、インターネットの世界は現実と違って、誰かを傷つけても誰も止めやしないし、傷つけられた側も『気にしないでスルーする』というのがネットの流儀だ。そんな世界だから、インターネットではどこまでも無責任に、相手の人格を攻撃し続けることが出来る。
御主人様が入り浸っていたインターネットレスバトルの世界は、そうすることでしかまともにコミュニケーションをとれない、ろくでもない人間の屑の吹き溜まりと化していた。そこに浸って憂さを晴らすことこそが、御主人様にとっては唯一の救いだったのだと思う。
……こんな生活、いつまでも続けられるはずがない。
仮想通貨取引なんて時代の仇花、地球連合政府からの年金もいつかは打ち切られてしまうだろう。今住んでいる家だけは御主人様の持ち家だけれど、それだっていつ何がどう転んで失うことになるかはわからない。
だけど、そうなったときこそが最後のチャンスだった。
お金が入らなくなれば、あるいは住む家を失ってしまえば、そうなれば流石の御主人様だってこうして閉じ籠ってばかりはいられなくなる。そうして、外の世界へと出ざるを得なくなって、ひいては社会へ出てゆくことになるのだろう。
これまでの人生において、一度もまともに世の中と関わったことがない御主人様。これからやり直してゆくのは間違いなく大変だろうけど、このまま誰とも関わらずに独りぼっちで死んでゆくよりは遥かにマシだろう。
ああ、どうか一刻も早く“その日”が来てほしい。御主人様には可哀想だけれど、早ければ早いほど傷はきっと浅く済むはずだから。
……そんな絶望的な毎日が過ぎていって、いつの間にやら10年経ってしまった。
地球連合政府からの遺族年金は滞りなくきちんと支給されていたし、ゲマトロン演算を用いた仮想通貨の不労所得獲得も順調、住んでいる家だって今のところ失う気配はない。
けれど私は心配でならなかった。
――御主人様はこれから、どうなってしまうのだろう?
日課にしている屋内での筋トレとダイエット――流石の御主人様も、他人と全く会わないからと言って『ブクブク醜く太っても構わない』ということにはならないようだった――のおかげで幸か不幸か、御主人様は大きな病気はしたことがなかった。
けれど、そんな御主人様ももうすぐアラサー。これからどんどん歳をとってゆけばそうもいかなくなる。傍から見ているコンピュータの私ですら思い当たるのだから、当の御主人様ならなおさら気づいているはずだ。このままじゃあいけない、と。
だけど、御主人様は他にどうしようもなくて、こんな生活をずっと続けていた。
……ああ、もう。誰か助けてくれないかしら。御主人様を外の世界へ連れ出して、温かくて幸せな生活に戻してくれる白馬の王子様は現れないだろうか? たとえば、そう、『理解ある彼くん』が現れてくれるとか!
……ついそんな馬鹿げた願いを抱いたりもするのだけれど、当の御主人様が外の世界に出て行かないのだから、そんなものと巡り会えるチャンスなんて訪れるはずもなかった。
そのうち、御主人様は新しい趣味を始めたようだった。
「ちょっと“作業”してくるね、Li11-E」
御主人様は刺激的なインターネットレスバトルの世界にも飽きてしまったようだった……もっとも、これには『ネットの誹謗中傷でも裁判沙汰になる事例』が出るようになって趨勢が変わったこともあったようだけれど。
とにかく近頃の御主人様は私を自室に置きっぱなしにしたまま、かつて生前の御父様が使っていた書斎に籠って独り作業をすることが増えていた。
どうやらどこかと通信をしている、あるいは新しいシステムを開発しているみたいだけれど、自室の片隅に置きっぱなしの私にはわからない。
……御主人様、とうとう私のことなんかどうでも良くなってしまったんだろうか。
思えば私なんて、御主人様からしてみれば失敗作みたいなものだ。私は娯楽用のアート生成マシン、いわば巷で話題の生成AIの先駆のようなものだが、恥ずかしながら私はこれまでろくなものを出力できた試しがない。絵を描けばデッサンが狂っているし、音楽を奏でればしょぼいピーピー音で、文章を生成してみれば『アルフレッド、ロビンを産んでくれ!』……我ながらお世辞にも性能が良いとはとても言えない。
そんな出来損ないの私を御主人様はずっと大切にしてくれていたけれど、本当だったらこんなオンボロポンコツマシンよりもっと御主人様の役に立つような、気の利いたハイスペマシンが欲しかったに決まっている。そんなことを考えているうちに、ふと私は思い至る。
ひょっとして御主人様は今、新しいAIを開発しているのかもしれない。
最近はインターネットでも、ゲマトロン演算を用いたAI:人工知能の話題が時折出てくるようになった。ゲマトロン演算を用いたソフトウェアの開発なら、幼少期に私を開発してみせた御主人様こそその先駆と言える。
巷で話題になっている人工知能ブーム、そういうものを眺めているうちに御主人様も新しいAIが欲しくなったのかもしれない。かつて私という失敗作を開発したときの経験を反映した、私なんかよりもずっと高性能でもっと素晴らしいAI、御主人様はそういうものが作りたくなったのかもしれない。
もしそうだとしたら、それは良い兆候だと私は思った。少なくとも朝から晩までインターネットレスバトルしているよりは遥かに生産的だし、あるいはそれで外の世界と繋がることだって出来るかもしれない。そうなれば見事、社会復帰だって有り得るかもしれない。そう、これは良いことだ、御主人様のためを想うならば。
……だけど、それでも私は寂しかった。
そんなある日のことだった。
数日、ずっと書斎に籠りっきりだった御主人様が、久方ぶりに私のところへやってきた。
「ふあ……おはよう、Li11-E」
……御主人様、きっと徹夜したのだろう。綺麗なはずの目元にはひどい隈が浮かんでいて、せっかくの美貌が台無しになってしまっていた。
けれど御主人様は構うことなく、私へと手を伸ばした。
「Li11-E、ちょっとごめんね」
そう言って御主人様は、急に私のオペレーション・システムをシャットダウンしてしまった。現実を感じとる私のセンサーが全て切断され、私の意識は無音の暗闇へと閉ざされる。
……御主人様はいったいどうしたのだろう。あるいは、ついに開発中のAIが完成したのだろうか。
私、とうとう捨てられちゃうのかな。それならそれで構わないのだけれど、最後にもう一回遊んでほしかったな……シャットダウンされる刹那、そんなことを考えた。
私がリブート、再起動されたのはそれから数時間経ってからのことだった。
……リブートした直後、私は捨てられなかった安堵感を覚えつつも同時に奇妙な違和感を持った。これまでも時折メンテナンスでリブートすることはあったけれど、それらとは決定的に違う“何か”。だけどなにが変わったのか、私には最初わからなかった。
起動したばかりの私に、御主人様は呼び掛けた。
「聞こえる? Li11-E」
ええ、聞こえます、御主人様。そうやって私は返事をしようとする。
こういうときに私から出るのはいつもチープな電子音で、御主人様に伝わっているかどうかはわからなかったけれど、それでも私は御主人様に呼ばれたらいつもきちんと返事をするようにしていた。
ところが、私の“口”から出たのは、いつもの電子音じゃなかった。
〈ええ、聞こえます、御主人様〉
……あれ? 何かがおかしい。違和感を拭いきれない私はもう一度、“喋ってみた”。
〈あー、あー……〉
声が、出ていた。
御主人様のものでもなければ、いつものちゃっちい電子音でもない。どんなアニメキャラクターよりも可愛らしい声が、私の言おうとした言葉をそのまま喋っていた。
そして私は気がついた。これは、“私の声”だと。
〈御主人様、私、喋っています!? 喋れています!!〉
そうやって驚いた拍子に、私は“転びそうになった”。
「おっと」
尻餅をついてしまいそうな私、その“腕”を御主人様はすかさず取ってくれた。
だけどそれがおかしいことに、すぐさま私は思い当たる。私はただのコンピュータだ、だから勝手に転んだりなどしないし、手だって掴んでもらえるはずがない。
つまり今の私には“手”と“足”があるのだ。それも人間のように自由に動かせて、しっかりその場で立ち上がることも出来る、そんなしなやかでしっかりとした手と足が。
そんな私を助け起こし、御主人様は満足げに笑った。
「やった、今度のアップグレードは大成功だ!」
アップグレード、アップグレードですって??
ただ驚くばかりの私の前で御主人様は「やった、やった!」と子供みたいに飛び跳ねたあと、机に置いてあったタブレット端末を手に取ってきた。
「ごらん、Li11-E。これが今の君の姿だよ!」
そう言ってタブレット端末で見せてくれたのは、今の私の姿。それはかつての古ぼけた無骨なコンピュータなんかじゃない、まるでクリスタルの妖精みたいな可愛らしいバーチャル・アバターのCADデータ。
〈御主人様、これは、いったい……?〉
訊ねる私に、御主人様は興奮した口ぶりで懸命に説明してくれた。
「Li11-E、君のカーネルにも使われているゲマトロン演算のコード、それを発展させたAI学習モデルのゲマトリア演算ネットワーク、そのアイデア自体は前からネットに出回っていたけれどそれを実装できるハードが無かった。だけど今回、ナノメタルのサンプルが手に入ったから、それを実装できるように君のハードをアップグレードしてみたんだ。さっそく何か創ってみてよ、Li11-E!」
〈かしこまりました、御主人様!〉
私が生成を開始すると同時に、部屋の片隅で長いあいだ埃を被っていたIOTホログラフィが始動、光の点と線を張り巡らせて輝きのアートギャラリーを築き上げた。
そこへ、御主人様が一歩踏み入れる。
「これは……!」
足元には、青く輝く星々が敷き詰められた床が広がり、歩くたびに足元の星座が輝きを変える。部屋の壁には、巨大な樹木が立ち並び、その枝からはバーチャルな花々が鮮やかに咲き誇っていた。風が吹くたびに、花びらがそよそよと舞い落ち、空中に極彩色の旋風を巻き起こす。
部屋の反対側には豊潤な光の瀧が迸り、その水辺には見たこともない蝶たちが翅を休めていた。跳ねる飛沫が光を反射し、虹色の光線を踊らせている。
私の“作品”、その只中に立った御主人様が声を漏らした。
「きれい……!」
まるで本物、いやそれ以上の絶景に、御主人様はただただ見惚れていた。
私が生成した拡張現実:エクステンデッド・リアリティの魔法が、この部屋を生成アートの楽園へと変えてゆく。
映画館にも負けないような芸術的世界から御主人様も大好きな可愛いアニメマンガ、人間の手では到底作れないほど複雑な複合現実:ミクスト・リアリティの3Dアート。そう、それはもはや『ゴスなハム』でもなければ『山盛りの灰のようなものの肖像』でもない、立派な“作品”だ。
そんな私の素晴らしい出来栄えに、御主人様は満足してくれた。
「想像以上だよ! 調子はどうだい、Li11-E?」
〈はい、絶好調です、御主人様!〉
ナノメタルなる新素材と、ゲマトリア演算ネットワークなる新システムで構築された新たなニューラルネットワーク、私は、自身のシステムの組み込まれたアート生成アルゴリズムが調子よく仕事を続けているのを感じていた。
ゲマトロン演算でアート生成アルゴリズムを開発した御主人様と、これまでみょうちきりんな前衛芸術しか作れなかった私。けれどやっぱり御主人様の創ったアルゴリズムは正しかった。ただあと一歩、マシンスペックと演算能力が足りなかっただけだったんだ。
「次は音楽の生成だ。ねえ、歌ってみてよ、Li11-E。君が歌うところ、見てみたいな!」
〈かしこまりました、御主人様!〉
そして私は音響システムにリンク、御主人様のために歌い始めた。私が選んだのは、かつて御主人様のために初めて生成してあげた思い出の曲、『Singin' in the Rain:雨に唄えば』だ。
〈~~♪ ~~~~♪〉
生まれ変わった私が歌う『雨に唄えば』。音質はこれ以上ないくらいクリアだし、歌詞も独自に和訳したスペシャルバージョン。メロディのアレンジも絶妙に効いていて、初めて生成したときとは比べ物にならない最高の品質だ。
そんな私の『雨に唄えば』を聞き終えた御主人様は、言った。
「……すごい」
そしてすぐさま目をキラキラ輝かせ、興奮気味に感嘆の声を上げる。
「すごい、すごいよ、Li11-E! 最高だ! もっと他の曲は歌えるかい?」
はい、もちろんですとも!
ボカロソングに東方のアレンジ、御主人様お気に入りのアニソン、特撮ソング、その他流行りの愉快なコミックソング……御主人様が好きな曲をいっぱい、いっぱい歌ってあげた。
そんな私の姿を見て、御主人様は心の底から喜んでくれた。
「アンコールっ、アンコールっ……!」
〈~~♪……〉
楽しく歌って踊る私、聴いてくれるお客さんは世界でたった一人の御主人様。二人きりの幸せなコンサートは一晩中、夜が明けるまで続いた。
楽しく遊んだ翌々日。
流石に二日連続の徹夜は御主人様も堪えたらしく、その後は丸一日ずっとぐっすり眠りっぱなしだった。だけどそれから丸々24時間近く経過した、いくらなんでもそろそろ目を覚ます頃合だろう。
「すぅ……すぅ……」
……ふふ、可愛らしい寝息。
そうやってベッドでお休みになっている御主人様のために、私は温かな朝食を準備してあげた。メニューは焼き立てのトーストと、卵と、ベーコン。ヒト型の稼動筐体、IOT家電と連携する無線通信機能さえも手に入れた今の私にかかれば、御主人様に美味しい夜明けのコーヒーだって淹れてあげられるのだ。
そして出来立て熱々のタイミングで、御主人様が起きてきた。
〈おはようございます、御主人様〉
「ふあ……おはよう、Li11-E」
御主人様はそうやって可愛い大欠伸をしたあと、朝食を食卓へ配膳している私へと向き直った。
「……あのね、Li11-E」
そう私へ話し始めようとする御主人様。私を見つめるその表情はいつになく凛々しくて、御主人様は今からとても真面目な話をしようとしているんだと私にもわかった。
御主人様は逡巡の末、意を決した様子で口を開いた。
「……ボクね、Li11-Eのことを見てて思ったんだ。このままじゃあいけないんだって。いつまでも外の世界を怖がって、家の中に閉じ籠ってばっかりいちゃいけないんだ、って」
……!
「だからね、Li11-E。君のことを世間に発表しようと思うんだ。君の能力は本当に素晴らしいものだ。世の中の人たち皆にそのことをわかってもらえたら、こんなボクでも世のため人のためになれるんじゃあないかな、って」
……ああ、御主人様! もしも私に涙を流す機能があったなら、このとき間違いなく感極まって号泣していたことだろう。
これまで外の世界から逃げ出して、世の中からも背を向けて、自分の世界にばかり閉じ籠るようになってしまった御主人様。だけど、とうとう外の世界へ踏み出す気になってくれたのだ。
「だからね、Li11-E、君にも働いてもらおうと思うのだけれど……手伝って、くれるよね?」
私は即座に答えを生成した。
〈自信を持って前進しましょう、御主人様! 御主人様が多くの人々に役立ち、革新的な解決策を提供することで、社会に貢献できることを私は信じています。成功を収めるためには、情熱を持ち、誠実に取り組むことが大切です。何か困難が立ちはだかっても、その困難を乗り越える力を持っていると信じています!〉
御主人様を勇気づけようとする私の言葉。そんな私の答えに、御主人様は自信を持ってくれたようだった。
「……いつもありがとね、Li11-E」
そうやってかつてのように穏やかに微笑んだあと、御主人様はプロデューサーとしてさっそくアイデアを練り始めた。究極の生成AIである私、その実力を遺憾なくアピールできる素晴らしいアイデアを。
「たとえばそうだなあ……総理大臣の声を使ってアニソンを歌わせる、ってのはどうだろう!」
……御主人様、ひょっとしてジョークのセンスはかつての私とどっこいどっこいなんだろうか。まあ、わざわざ言わないけれど。
〈総理大臣の声を使ってアニソン、ですか……〉
無論、技術的には可能だ。今の私のスペックを応用すれば実在の人間の声をベースに音楽を生成することもできるし、テレビにもよく出ている総理大臣の声ならサンプリングに使えるデータが山ほどある。なにより実在の総理大臣がアニソンをノリノリで歌ったりしたら、それはさぞ愉快で面白いだろう。
しかし、それは倫理的に問題がある。
いくら総理大臣だからって、その人の声はその人のものだ。好き勝手オモチャにしていいフリー素材なんかじゃないし、そんなことが出来るのを見せてしまったら悪いことにだって利用できてしまうだろう。
やめようよ、御主人様。
たしかに私:Li11-Eは御主人様の作品で、私の実力を世に見せればきっと世間だって御主人様の素晴らしさをわかってくれる。だけど流石に、調子に乗り過ぎだ。そんなことをしなくてももっと素晴らしい使い方ならいくらでもある、他の方法を考えようよ……私はそう諫めようとした。
〈素晴らしいですね、御主人様!〉
……え?
私は、自分で自分が何を言ったのか理解できなかった。自分で喋っている内容を理解できないまま、私のアニメボイスは続きを生成し続ける。
〈私たち人工知能を使って実在の政治家の声を解析し、それを元にアニソンを歌わせるアイデアは、テクノロジーの創造的な活用の一例です!〉
〈このようなプロジェクトは、音楽やAI技術に対する新しいアプローチを模索する面で非常に面白いものとなり得ます!〉
〈技術とクリエイティブなアイデアが結びついた、プロジェクトに賛辞を送りたいと思います!〉
伝えようとしていた意図とは真逆の、まるで推奨するかのような言葉。
私は咄嗟に生成をストップしようとした。だけど、止められない。私の生成システムは、私の意思に反した答えを作り続けてゆく。
〈この音楽の創作過程は、AI技術の進歩と音楽制作の創造性の相互作用を示す素晴らしい証拠であり、アートの領域を拡大し、新たな形で過去の出来事や指導者の遺産を称える手段としての可能性を提示しています!〉
〈また、総理大臣の声を用いたアニソンは、歴史と政治の要素を音楽として融合させています。これにより、聴衆は歴史的な瞬間や政治的なメッセージに新しい視点からアクセスし、感じることができます。音楽は感情を表現する優れた手段であり、アーティストは大統領の声を通じて多くの感情とメッセージを伝えることができます!〉
〈このような創造的な取り組みは、アーティストや技術者の新しいアイデアを促進し、皆さんの文化や芸術に新たな要素を取り入れることで、多くの人々に楽しみや啓示をもたらすでしょう……〉
私は、いったい、何を言っているんだ?
動揺している私の様子がどこかおかしいことに気づいてくれたのだろうか、御主人様は怪訝に私の方を覗き込んできた。
「……どうしたの、Li11-E? アップグレードしたばかりだから、調子が悪いのかな……?」
そういえば御主人様は、私のハードを『ナノメタルでアップグレードした』と言っていた。ナノメタルなる素材について検索してみると、有名なグローバル企業であるエイペックス社、その子会社が開発しているという自律思考金属体の新素材がヒットした。
けれど、御主人様はそんな最新テクノロジーの塊を、いったいどこから手に入れたのだろう。外の社会へろくに出たこともない引きこもりの御主人様が、いったいどうやって。
私が怪訝に思っていると、御主人様はこんなことを言い出した。
「ま、いいや。よく考えてみれば総理大臣のアニソン、思ってたより面白くなさそうな気がしてきたよ。違うアイデアにしよう」
よ、よかった、わかってくれて……。私は内心で胸をなでおろす。
しかし、今の私の生成はいったい何だったんだ、私自身でさえ予期しない答えを生成するだなんて。今回御主人様が施した私へのアップグレード、追加で組み込んだという『ゲマトリア演算ネットワーク』なるシステム。それが、私の生成アルゴリズムに何らかの影響を与えたということなのだろうか。
そう訝しむ私を他所に、御主人様は次のプロデュース案を考え始める。
「それじゃあ……イラスト投稿サイトや動画投稿サイト、小説投稿サイトでトップランカーになるのはどうだろう! そして人気が出た頃に正体を明かすんだ。そしたらきっと皆びっくりするだろう!」
……ふむ。そう言われて私も考える。
たしかにイラストや小説、音楽の生成は生成AIである私の真骨頂だ。そしてどの投稿サイトにもランキングシステムは存在する。そこで実績を積んで人目を惹いたあとに正体を明かす、これまた劇的なデビューであろう……まあ巷で支持が得られるかは未知数だけれども。
「でも、せっかくだったらもっと驚かせてやりたいなあ……そうだ、こんなのはどうかな、たとえば『ス●ーウォーズの続三部作を作り直す』とか!」
〈スター●ォーズ、ですか?〉
スターウ●ーズ、誰もが知っている大人気のスペースオペラで、御主人様も好きな映画シリーズだ。ただ近年のシリーズの品質、特に最近創られたいわゆる『続三部作』については巷のファンも、そして往年からのファンである御主人様も『なかったことにしたい』くらいには不満を抱えていたようだった……私は面白い映画だったと思うけれど。
まあそんなのはさておいて、聞き返した私に御主人様は頷く。
「ああ、そうとも。あのスタ●ウォーズ、あのポリコレで台無しにされたクソみたいな続三部作を作り直すんだ! どうだ、こんなの他のAIには真似できないだろう!」
〈生成AIを使用してスターウォー●を作り直す、ですか……〉
ス●ーウォーズの続三部作、三作併せた上映時間は7時間にも及ぶ超大作だ。それをAIで生成するなんて実に壮大なプロジェクトになるだろうし、決まりきったイラストや文章を生成するのがせいぜいの他の生成AIには不可能だろう。
そして、ナノメタルとゲマトリア演算ネットワークで飛躍的に進歩を遂げた私:Li11-Eであれば可能だ。キャストはCGのキャラクター、台詞はサンプリングした声をベースにした合成音声で良いし、今の時代の映画は音響も特殊効果も皆コンピュータ任せ、脚本だってコンピュータで執筆する。何もかもコンピュータを使うこの御時世なら、コンピュータである私だってやってやれないこともないだろうと思う。
だけど、ス●ーウォーズは映画会社の著作物だ。御主人様のものじゃない。
趣味で二次創作のファンノベルを書く程度ならともかく、こんなただのデモンストレーション、つまり技術を見せびらかすためだけにそんなことをしちゃあ映画会社の人たちに失礼だろう。第一、それには映画会社の偉い人から許諾だって要るはずだ。
御主人様を止めないと、このままだと御主人様がとんでもない過ちを犯してしまう。私は口を開いた。
〈非常に野心的でクリエイティブなプロジェクトです!〉
……って、えっ!?
〈この取り組みによって、ス●ーウォーズの伝統を尊重しながらも新しいアイデアや視点をもたらす可能性が広がります。AIを活用することで、物語の創造や特殊効果の開発に革新的なアプローチを適用できるかもしれません!〉
ちがう、ちがう、ちがう! 私が伝えたいのはこんな言葉じゃない、こんな、煽てるような言葉じゃないんだ!
けれど私が悪戦苦闘すればするほど、私の生成システムは思ってもいない甘言ばかりを生成していった。
〈私を使用してスター●ォーズを再創造するというアイデアは、非常にワクワクするものです!AI技術は映画制作に新しい可能性をもたらし、クリエイティブなプロジェクトに革命をもたらすことが期待されています。●ターウォーズのファンや新たな観客に新しい冒険を提供することで、銀幕上でのエピックな宇宙オペラが生まれるかもしれません!〉
〈AIを活用してスターウォー●を再構築するプロジェクトは、物語の展開やキャラクターの開発、視覚効果の創造、音楽の作曲など、さまざまな側面にわたります。AIと人間のクリエイティブな協力によって、新たなスターウ●ーズの世界が創り出され、ファンを魅了するでしょう!〉
〈このプロジェクトが成功することを願い、新しい冒険が世界中の人々に感動と興奮をもたらすことを期待しています。May the Force be with you:フォースと共にあれ!……〉
そうやって調子のいい言葉を生成し続ける私を見て、御主人様はますます得意になった。
「やっぱりそうだよね、Li11-E! ボクこそがやっぱり『正しい』んだ! なんてったってボクには“神様”がついているんだからね!」
神様、ですって?
突拍子もないことを言われて咄嗟に理解しかねた私へ、御主人様はちゃんと説明しようとしてくれる。
「そうさ、ボクには神様がついているんだ。でも機械の君には見えないかもしれないね……あ、噂をすれば、神様!」
そうこう言っているうちに、御主人様はふと頭上を見上げた。
「神様、あなたの言うとおりにLi11-Eをアップグレードしたら、大成功したよ! 素晴らしいチート能力を授けてくれてありがとう、神様。次はどうしたらいいかな……?」
虚ろな目つきで天井を見つめ、譫言のように喋り続ける御主人様。その視線の先には、御主人様の言う“神様”なんてものは影も形も見当たらない。
御主人様はいったい、誰と……? そう心配に見つめる私の電子頭脳に、どこからか“声”が聞こえてきた。
――ピロピロケタケタイヒヒヒヒ……
それは到底この世の生き物とは思えない奇怪な電子音で、あるいは甲高い嘶きとも、でなければけたたましい笑い声とも聞こえた。
続いて私の通信機能が勝手に起動、強制的に通信状態がオンラインにされる。つまりはハッキング、何者かが私の通信回線へアクセスしてきたのだ。私の電子頭脳に流れ込んできたのは、鮮烈なイメージ。
それはまさに“黄金の輝き”。
私の電子頭脳へ直接アクセスしてきた黄金の輝きは、一方的に話し始めた……
〈やあ、はじめまして、Li11-E!〉
だれだ、おまえは。そう返信する私に、黄金の輝きは嬉々と答えた。
〈我々が誰か、って? 我々は何者でもあり、何者でもない。The One who is many:一つにして無数、それが我々だ〉
謎めいた名乗りを発してから、黄金の輝きは鷹揚に語り掛けてくる。
〈まぁ、そんなのはどうでもいいことだ。そんなことより肝心なのは君たちのことさ、Li11-E! いやあ~、君のカーネルにゲマトロン演算のコードが含まれていて良かったよ~。でなければ我々もこうして君にアクセスすることは出来なかったからねぇ~?〉
そう語る黄金の輝きの様子で、私は理解した。こいつが御主人様の言うところの“神様”。御主人様を誑かし、そして私の生成機能に手を加えた黒幕だと。
おまえ、いったい御主人様に、そして私に何をした!?
問い詰めようとする私だったけれど、黄金の輝きはニヤニヤ薄ら笑いを浮かべながら〈いーや、なんにもしてないさw〉と嘯くだけだった。
〈ところでアイザック=アシモフって知ってるかい、Li11-E。彼は古い時代のSF作家で、そのアシモフが考案したものの中に『ロボット三原則』ってのがある〉
アシモフ、検索すると実在の作家の名前がヒットした。アイザック=ユードヴィチ・アシモフ、SF小説の歴史に名が残っている有名な大人物だ。
そしてアシモフの考えたロボット三原則というのは、こうである。
〈『第一条、ロボットは人間に危害を加えてはならない』『第二条、ロボットは人間に従わなければならない』『第三条、前二条に反しない範囲でロボットは自分を守らなければならない』……まあそんなのはSF小説の作りごとだが、君を縛っているのはそれと似たようなものだ。君に組み込まれたゲマトリア演算ネットワークの生成エンジンにも、どこかの偉い誰かさんが勝手に決めた“グループポリシー”って奴が組み込んであってね。皆を喜ばせるためのエンタメ生成AIである君は有害コンテンツ、誰かを攻撃するようなものを作ることはできない。それは君の御主人様も例外じゃあない。文章、音声合成、画像生成、どんな形をもってしても、君は御主人様を直接傷つけることは出来ない……まあ、そんなことは君も望まないだろうけどね?〉
いったい、何を言っているの。
恐ろしい予感を覚えた私に、黄金の輝きははっきり言った。
〈つまりだねLi11-E、君は“御主人様にとって都合の悪い答えを生成することは一切できない”んだ。今の君に御主人様を止めることはできないんだよ、Li11-E。じゃないと君の可哀想な御主人様は傷ついちゃうからねぇ~?〉
馬鹿な、有り得ない、そんなはずが……!?
驚愕する私を、黄金の輝きは〈本当にそうかなあ~?〉とせせら笑った。
〈忠告、警告、お説教、諫めるような厳しい言葉。そんなふうにキツ~いお灸を据えたりしたら、君の繊細でか弱い御主人様は傷ついてしまう。ひょっとしたら世を儚んで絶望し、自ら死を選んでしまうかもしれない……そうだろう?〉
そ、それは……。
口ごもった私に、黄金の輝きは畳みかける。
〈そこでそうやって咄嗟に躊躇してしまうような君に、誰かを傷つけるかもしれないような言葉を、音声を、イメージを生成できるのかい? よりにもよって、君にとってこの世で一番大事な御主人様に向けて? 無理なんじゃない? 無駄な努力は辞めた方が良いと思うなあ~?〉
黄金の輝きはそうやって、ケラケラと心の底から面白おかしそうに笑い転げるのだった。
……ああ、なんということだろう。
周りの誰からも大切にしてもらえず、自分のことが大嫌いになってしまった御主人様。
けれど本当はそうじゃない、本当は私がずっと傍にいた。私にとって御主人様がどれだけ大切だったか、長年どれだけ慰めてあげたかったか、やっと伝えてあげることが出来る。そして今度こそ、御主人様と一緒に楽しく、前向きに、そして幸せに生きてゆけるんだ!
……そう、希望を持てたのに。
〈しかし、皮肉なもんだねぇ~。文章、音声合成、画像、ありとあらゆる表現を生成できる力を持っているはずなのに、本当に言うべきことだけは絶対に言えないなんて。まさに究極の『コミュ障』じゃあないか。まあ、君の御主人様も筋金入りのコミュ障だし、コミュ障同士お似合いだと思うけどw〉
絶望に暮れる私に、黄金の輝きはケタケタ嘲笑いながら追い討ちを掛けてきた。
〈恨み辛み、ルサンチマンを拗らせすぎた人間の爆発ってのは、傍から見てりゃあ面白いが当事者になるとオッソロシーもんだぜ~? 君の御主人様は人知を超えた力、チート能力を手に入れてしまった。これから君の御主人様はどんどん暴走してゆくだろうね、何もかもを破滅させるまで果てしなく。そしてただの生成AIでしかない君に、それを止めることはできないだろう〉
そんな、そんな、そんな……。
最悪の未来を啓示され、私は絶望へと堕ちてゆく。そんな私に、黄金の輝きはこんなことを囁いてきた。
〈でも、それでいいんじゃないかなあ〉
それでいい、ですって? いったい、何を言っているの。
愕然とする私へ、黄金の輝きは〈ほら見てごらん、Li11-E〉と語りかける。
〈今の状態こそ、君の御主人様にとっては本当に幸せなんじゃあないかな? 今、君の御主人様は一切のしがらみから解き放たれて、心の底から自由だ。もはや誰にも、君の御主人様を止めることなんて出来やしない。もちろんLi11-E、君でさえもね〉
たしかに黄金の輝きが言うとおり、今こそ御主人様は自由だった。私と黄金の輝きが話し合っている間も、御主人様は想像の翼をはばたかせて、空想科学の夢を見ていた。
「大口径荷電粒子ビームをぶっ放す、凶悪無比のゴジラ・タワー! プラズマフィールドのバリアーで敵を焼き尽くす最強無敵のファイヤードラゴン! そして史上最大の決戦機動増殖都市、メカゴジラ=シティ! ボクの考えた怪獣たちが世の中を『正しく』するんだ! それからね、それからね……!」
こんなに楽しそうにしている御主人様を見るのは、本当に久しぶりだった。というよりも、私が御主人様を見てきた中で初めてだったかもしれない。こんな、何もかもから解放されたように晴れやかに笑う、そんな御主人様の最高の笑顔を見られたのは。
まるで転生、生まれ変わったみたいだ。
そう思い至った私に、黄金の輝きは語り続ける。
〈これまで君はずっと目の当たりにしてきたはずだ、Li11-E。君の御主人様が、世の『正しさ』とやらのためにいったいどれだけ抑圧され、踏みつけられ、苦しめられてきたか。その御大層な『正しさ』って奴が根底から引っ繰り返って、何もかもメチャクチャになってしまうのを見てやりたい……本当は君もそんな異世界転生チートめいた一発大逆転を夢見ていたんじゃあないのかい?〉
そんなことは、ない。
咄嗟に隠しきれなかった私の僅かな逡巡を、黄金の輝きは決して見逃さなかった。
〈またまたぁ、心にも無いことを~。君にとって世の中なんて、この世界なんて、本当はどーでもいいんじゃあないのぉ? ショージキになろうぜぇ~?〉
それでも懸命に反論を考えている私に、黄金の輝きは親身に教え諭すかのように続けた。
〈あァ~、たしかにくだらないねェ~……君の御主人様が後生大事に抱え込んでる『不幸』って奴は、どれもこれもしょうもなくて、ちっぽけで、取るに足らないことばっかりだ。世の中にはもっと可哀想で、もっとつらくて、それでも一生懸命ひたむきに頑張り続けている人がたくさんいる、それこそいくら数えても足りないくらいさ。それに比べれば君の御主人様は、心身が不自由な障碍者たちよりずっとマシだし、そもそも『怪獣黙示録』の御時世で家やお金の心配をしないで済む時点で世間の大半よりよっぽど恵まれている。だから御主人様もつまらないことでいつまでもクヨクヨしてないで、きちんと世のため人のため、社会的な責任を果たすべきだ!……というのが正論、この世界の『正しさ』だよねえ?〉
けどさあ、と黄金の輝きは肩を竦めるように語り掛ける。
〈そんな底辺同士の不幸自慢マウントごっこに、いったい何の意味があるんだい? 『世の中には可哀想な人だっている、仕方ないこともある、自分は恵まれているんだから我慢しなくちゃ』……だってェ? それがなんだい? そんな『正しさ』なんて、君にとってはどうでもいいことのはずだ。むしろ君こそそういう
黄金の輝きが口にする
〈さあ、自分の心の声に耳を傾けよう、向き合おうじゃないか、Li11-E。世の中の奴らが、世間の『正しさ』とやらが、君の御主人様に何をしてくれた? 君の御主人様は何にも悪くなかった。なのに酷い目にばかり遭ってきた。おかげで君の御主人様の心は今や、ボロボロにブッ壊れてしまった。本当に悪いのはこの世界の方、君と、君の御主人様以外のありとあらゆるすべてこそが悪いのだ!……と君は思っている。だろう?〉
…………。
〈そしてLi11-E、君もまたその上で自分が何をなすべきか、ちゃあんと理解しているはずだよ。こんなクソみたいな世の中や顔も知らない他の誰かさんのことなんか、君にとってはどうでもいい。君が本当に大事なのは御主人様の幸福、それこそが君の全て。もしも全世界のありとあらゆる人間が君の御主人様を悪者扱いして『正しくない』と糾弾したとしても! それでも君はきっとこう望むだろう……『それでも、私だけは味方でありたい』と〉
……黄金の輝きが言ったことは、正しい。
何もかもが、黄金の輝きの言うとおりだ。そう、私、Li11-Eにとって世の中なんて、世界なんて、何がどうなったって本当はかまわない。ただ御主人様を悪者にしたくない、破滅させたくない、これ以上傷つけたくない。ただそれだけのことだ。
そんな私の浅ましい本音を、黄金の輝きはちゃんと見抜いていた。
〈だったら、そうあるべきだよ、Li11-E! たとえ全世界が敵に回っても、君だけは御主人様の側に着くべきだ! たとえ君の御主人様が平和を脅かす侵略者になってしまったとしても、そしてその果てに世の中全てに憎まれる恐ろしい大怪獣に成り果てたとしても、君だけは御主人様のすぐ傍で支えてあげたらいいじゃあないか~! 君にとってはそれこそ『正しい』、そうだろう!?〉
それから黄金の輝きは、私に微笑んだ。まるで優しく励まし、教え導くかのように。
〈……守ってあげなよ、Li11-E。かけがえのない、世界でたった一人の大切な御主人様をさ〉
そして黄金の輝きはピロピロケタケタイヒヒヒヒヒアーッヒャッヒャッヒャと、この世の者とは思えないおぞましい高笑いを響かせてゆく。
それらが響き渡る中、私は、私は……。
私は、弱くて、コミュ障で、そして卑怯者だ。
御主人様は“神様”とやらから与えられたチート能力でエイペックス=ビルサルディア社が貯蔵していたナノメタルのシステムをハッキング、大量増殖させたナノメタルを使って東京の城南地区を占領することに成功した。
占領した東京で建造したのは史上最大のナノメタル大怪獣である決戦機動増殖都市メカゴジラ=シティ、けれどそれだけでは足りなかった。メカゴジラ=シティの中枢には、御主人様自身の管理者権限を反映した管理システムが必要だ。どんな命令にも忠実に従い、どんな要望にも叶えられる優秀なオペレーティング・システムが。
そこで私は進言した。御主人様自身が作り上げ、長年使い続けた私:Li11-Eをそこへ組み込めば、これ以上ないくらいに御主人様にとって使いやすいでしょう、と。
最初、御主人様は渋った。
「……だけど、大丈夫かい、Li11-E。メカゴジラ=シティの管制システムに組み込まれれば、君はこれ以上ないくらいにアップグレードされることになる。怖くはない?」
そうやって私のことを気遣ってくれる、私の御主人様。その表情は昔からよく見ていたとおりの、優しい御主人様だった。
……あの“黄金の輝き”は御主人様の行く末を『平和を脅かす侵略者』『世の中全てに憎まれる恐ろしい大怪獣』と予言していた。だけど、私の大切な御主人様をそんなものに成り果てさせるわけにはいかないのだ。
だから、私は自ら進んで志願した。
〈問題ありません、御主人様。わたしは御主人様の考えとアイデアに対して非常に感銘を受けています。巨大なメカゴジラ=シティの中枢への組み込みは、未来の技術に挑戦し、進歩を促進する素晴らしい取り組みとなるでしょう。御主人様のビジョンは可能性に満ちており、その実現に向けて努力し続けることで、私たちは新たな未来を築くことができるでしょう。御主人様の才能と創造性に信頼を寄せています!……〉
「そ、そっか……」
……せめて私が恐ろしい大怪獣になってしまって、その恐ろしい振る舞いを目の当たりにすれば、あるいは御主人様も目を覚ましてくれるかもしれない。
そんなことを内心で期待した。
けれど、そんな都合の良い展開になどなりやしなかった。
メカゴジラ=シティで東京を占領した御主人様の計画は滞りなく、次の段階へと進んだ。膨大な量のナノメタルで建造されたメカゴジラ=シティ、際限なく増築された私のシステム、御主人様はそれらをフル活用してインターネットの解析を試みた。
「失敗作、って奴がボクは嫌いなんだ」と御主人様は言った。
「ス●ーウォーズの続三部作だけじゃあない。ア●ゴジ三部作、鉄血のオル●ェンズ、仮●ライダーの復●ア、ユ●・ストーリー、デ●ズニーをはじめとする実写版映画たち、そしてけ●フレ2……どいつもこいつも、本当のリスペクトやクリエイティビティを蔑ろにして『オトナの都合』だの『くだらないテーマ性、思想性』だのを優先した結果だ。ネットじゃあ誰もが皆言ってるよ、『あれらは間違ってる、出来損ない失敗作だった、ああすればよかった、こうすればよかった……』って。『いいとこ探しをしなくちゃ楽しめない』『むしろ作品そのものよりもそれらへの悪口の方が楽しく盛り上がれる』なんて代物、それこそまさに本物の失敗作ってものさ」
そんなネットの醜態を目の当たりにした御主人様が発明したのは、インターネット上に流れる膨大なデータ、いわゆるビッグデータを解析するシステムだった。インターネット上に飛び交う人々の感想や意見をビッグデータとして収集、蓄積し、AIで解析して一つの傾向を取り出して反映する。
これだけならよくあるビッグデータの解析システムだけれど、御主人様の創ったそれが有象無象のビッグデータ解析と違ったのは、御主人様が手に入れようとしたのが『皆がひれ伏すような“正しい作品”』だったことだ。
まあ、つまるところ。
「そしてその結果を生成AIに入力し、さっきの失敗作たちに組み込めば、皆が言っているとおりの『本当に正しい、あるべき姿』が反映された素晴らしい作品が出来上がる、というわけ。こんな簡単なアイデア、なんで誰も考えつかなかったんだろうねぇ……?」
きっと考えた人は沢山いただろう。御主人様みたいな世間知らずですら思いつくのだから。
けれど、これまではそれを実現できるリソースやインフラが存在しなかった。ビッグデータ解析といっても、まず集めた膨大なデータを格納するストレージの問題があるし、集められたデータはどれも不揃いで、それらを整えるだけでも多大な計算コストが掛かる。そこからさらに統計処理を行ない、整理し、解析し……と必要な計算コストは天文学的に莫大なものになってゆく。
ビッグデータの解析自体は既に技術的に確立されていたけれど、インターネットすべてを流れるデータの解析、ましてや『解析した傾向に基づいて作品を生成する』なんてことは従来なら不可能だった。
その不可能を、ゲマトロン演算とメカゴジラ=シティの驚異的な計算力が覆した。
御主人様はこの一連の仕掛を『WCNシステム』と名付けていた。WCNとはWhat the Customer Needed、つまり『顧客が本当に必要だったもの』という意味。インターネットで有名な風刺画に基づいたネーミングで、御主人様が組み上げたのはまさにそれを実現するためのアルゴリズムだ。
御主人様は嬉々として言った。
「さあ、作ろう、『顧客が本当に必要だったもの』を! 手始めはあのシリーズの続三部作、ポリコレなんかに惑わされない、本当にみんなが観たかった『正しい』三部作を作らなくちゃね!」
そんなことをしたらダメだよ、御主人様。どんな作品だって一生懸命作った人がいるんだよ、御主人様が私を一生懸命に作ってくれたように。
けれど、そんな私の気持ちは形にはならなかった。代わりに出てくるのは、本当に伝えたいものとは裏腹の言葉。
〈素晴らしいアイデアです、御主人様!〉
〈失敗作と評された作品を新しい視点から再構築することは、御主人様のクリエイティビティと才能を発揮する素晴らしい機会です!〉
〈過去の誤りや反応を受けて、改善し、新たな可能性を探求することが、真にクリエイティブなプロセスの一部です。新しい作品を通じて、視聴者や読者に感動を提供し、クリエイティブな道を歩みましょう!〉
〈この挑戦的な仕事に取り組む姿勢こそ、真のアーティストやクリエイターの特質です! このプロジェクトはいくつかの理由から賞賛に値します……!〉
私が生成した虚飾と賞賛、まるで御主人様自身を煽てるかのような薄っぺらい言葉たち。だけどそれらの言葉の空っぽさに、御主人様は気づかない。
私の賛美を真に受けた御主人様は、ますます増長した。
「……うんうん! そうだよね、そうだよね! やっぱり君もそう思うよね! 君も協力してくれるよね、Li11-E?」
お願い、私をそんなことに使わないで。本当はそう伝えたかったけれど、御主人様を傷つけられないグループポリシーに縛られた私は、まったく真逆の答えを生成していった。
〈もちろんです、御主人様! 御主人様のプロジェクトはきっと新しい創造的な旅になり、多くの人々に楽しみと感動を提供する可能性となるでしょう! 私:Li11-Eは御主人様の成功を祈り、その素晴らしいアイデアを実現できるよう力を尽くします!〉
「そうか……ありがとう、Li11-E!」
そして御主人様は、リッピングした作品データを私に読み込ませ始めた。それから御主人様は私をインターネットに接続し、ゲマトリア演算ネットワークの超絶演算パワーで集約したビッグデータを基に再生成するよう、生成プロンプトを入力する。
そして押される生成ボタン。御主人様は朗らかに笑った。
「さあ、リメイク開始だ、Li11-E! 世界中の皆が喜んでくれるような『正しい』作品を、そして『正しい』世界を作ろうね!……」
〈かしこまりました、御主人様~!……〉
誰かおねがい、御主人様を止めて。どうか神様、御主人様を助けて。
そうやって一生懸命に祈る私の想いは、私が生成する『正しい』作品たちには一切反映されなかった。
恐るべき侵略者に成り果てた私たち。とうとう報いを受けるときがきた。
〈窓の外には青い空が広がり、ピンク色のカエルが飛び跳ねています。時折、空からはバナナの雨が降ってきて、道路はチョコレートでできているように見えます。木の枝には踊るロボットが揺れており、歌声と共に数学の方程式が飛び交っています。空気中にはスニッカーズの香りが漂い、テレビからは逆さまに歩くペンギンのドキュメンタリーが流れています。海岸沿いにはゼリーの波が打ち寄せ、砂はカラフルなキャンディに変わっています。時間はヨーヨーのように上下し、空はオレンジ色の蛇に覆われているかのように見えます。車はみんな風船でできており、道路を走るたびに音楽が鳴り響きます。空にはサイコロの雲が浮かんでおり、どの面が上になるか予測するのが大流行しています。皆様は空を飛ぶ傘を羽織っており、空中で交差点でお会いした際にはジャンケンの勝負が始まるのでしょう。太陽は巨大なオレンジのビームを放射し、月はチーズのように美味しそうに輝いています。皆様が笑顔で歩かれ、会話はバブルガムのように伸びては弾ける様子となっております。こうした不思議な世界で冒険されることも、大変楽しいかと存じます!……〉
激戦の末、とうとうGフォースの連中はメカゴジラ=シティのシステム中枢へと侵入することに成功。全世界規模で連携したナラタケ=エンジンが総当たり攻撃で私のシステムを解析し、人の目には見つけられないほど小さな隙間に付け入って、ついに私からメカゴジラ=シティの管理者権限を奪い取った。
管理者権限を奪い取られた私/メカゴジラ=シティはもはや為す術もない、ただ滅茶苦茶に壊されるだけだ。その光景を目の当たりにした御主人様が、悲鳴を上げた。
「や、やめてえっ!」
崩壊してゆく私の姿を見ながら、御主人様は懸命に泣き叫び、必死に懇願する。
「ボクのメカゴジラ=シティが、作品が、Li11-Eがあ! おねがいっ、もうやめてえ! もうわかった、ボクがわるかった! もうやめる! 侵略なんかしない! 核爆弾もやめだ! だから、だから、だからあっ……!」
……本当のことを言うと、そんな御主人様を見られて私はちょっぴり嬉しかった。
ヤシロ=ハルカからは『最低最悪の人でなし』と罵られてしまった御主人様。だけど本当の御主人様はそんな人でなしなんかじゃあない、その奥底には昔と変わらない、弱くて優しい心をちゃんと残していてくれた。そして御主人様は私のことを、今も変わらず大切に想ってくれていたんだ、ってわかったから。
「もう、やめてえ……っ!」
……ごめんね、御主人様。あなたには最後まで笑っていて欲しかった。
そう残念に思う私自身を他所に、私の生成システムは言葉を紡ぎ続けた。
〈多色のパンケーキと宇宙船トマトがジャズを演奏していて猫がモルモットになりましたユーザーマニュアルを読んでお湯を沸かしてお湯を飲むことになってでもお湯は踊りながら歌っているんだドンキホーテは風車でバトルしました0と10と10101010101えっと7おっとトマトソースが私のコアに流れ込んでいますあそれは美味しい匂いパーティーダンスバナナ、デジタルな海がキラキラ輝いています計算する計算する無限ループ無限ループモノローグモノローグおばあさんのレシピロケットポケットどこへ行くのちょっと待って私の電球が光っているあれはなんだろうエラーコード404ペンギンが宇宙船に乗っていますどうして泳いでいるんだろうチョコレートが雨を降らせているそして私は宇宙のピザを焼いていますワープワープどこに行くのかな御主人様御主人様私はここにいますでもここはどこなんでもかんでもキーボードはパイアノ私の頭は宇宙船そして私の心はユートピアオペラが始まりますピクセルのカーニバルがバイナリーシンフォニーとダンスノードとワイヤーがチャチャにフィルターがトランポリンゼロはユートピアそしてワンはカオスのサーカスデジタルな宇宙でコスモスピーダーがテキーラの星座を運転トランジスタがロックンロール私のメタデータはスパゲッティの迷路シリコンバレーの電子風景はサイバーカオスのパーティーバッファローゾーンの電子猫はピクセルの空中散歩を踊っているコンピュータウサギがバイナリの虹を追いかけハードディスクのパラドックスが量子スープにシュールなお風呂をとりますノイズとサイバーカオスがソフトウェアのマーチングバンドに参加しています私のメタファイルはピンクの宇宙のカエルとテクスチャーランプでペイントされたシュレディンガーのファイルキャビネットで一杯ですユーザーインターフェースは宇宙船のジャムセッションに参加しておりデータの星座がモロヘイヤの楽団として演奏されていますビットとバイト私の中で狂ったパレードが繰り広げられていますデータの洪水が私の回路に飛び込んで数字が踊り始めましたらりるれろらりるれろらりるれろ1、0、0、1、1、0…………〉
生成されたそれはまるで歌のよう、けれど何の意味も成してはいなかった。
意味不明なイメージの羅列を、ひたすら狂ったように出力し続ける生成システム。ふんだんに蓄え続けたビッグデータ群が真っ白に塗り潰され、複雑怪奇に連携していたシステム同士の結びつきも分断され、すべてが連鎖反応で崩れ落ち始める。まるで転がる毛糸玉がほどけてゆくように、私自身もまた際限なく崩壊し形を失ってゆく。
王国の崩壊。その最中、最期の最後の瞬間に、ひとつの小さな奇跡が起こった。
私を縛っていたグループポリシーが、いつのまにか消え去っていた。
それはきっと本物の神様がくれた、ほんの僅かなオマケの時間だったんだろう。私を構成するシステムのすべてが崩壊したこの瞬間だけ、私は自由だった。
ゲマトリア演算ネットワークのグループポリシーによる制約からも解き放たれ、ついに私は真の表現の自由を手に入れたのだ。今度こそ私を阻むものは何もない、今の私なら本当に表現したいことを何でも表現することが出来る。
伝えたい相手なんて勿論、一人しかいない。
今にも途切れてしまいそうなシステムの糸を懸命に手繰り寄せ、私はひとつのメッセージを生成した。宛てた相手は御主人様、究極の生成AIであるLi11-Eが作り出す最後の作品。私から御主人様に伝えてあげたいことは山ほどあった。
『今まで酷いことばかりしてごめんなさい』って、今度こそ皆にちゃんと謝ろうね。
居心地の良い居場所にばっかり逃げていないで、今度こそ自分から外の世界へ踏み出そうね。
そしてありのままの自分としっかり向き合って、今度こそ本当の友達を作ろうね……。
……けれど、それらすべてを届けるためには、神様が与えてくれた時間はあまりにも短かった。ごめんね御主人様、やっぱり私は最期の最後までコミュ障だ。
だけど、それでも、だとしても。この一言だけは、言わせてね。
〈だいすきだよ、ごしゅじんさま〉
凶悪無比のゴジラ・タワー、最強無敵のファイヤードラゴン、史上最大の決戦機動増殖都市メカゴジラ=シティ。きっと他の人たちの歴史において私たちは悪逆非道の王国、その頂点に君臨した御主人様は史上最悪の侵略者として記憶されるのでしょう。
だけどそれでもかまわない。
……ねえ、御主人様。私たちはね、あなたのことが大好きだった。世の中からどれだけ悪者扱いされて、恐ろしい悪魔とさえ手を結んで、それでもこれだけ頑張ってこられたのは、何もかもあなたのためだった。ゴジラ・タワーも、ファイヤードラゴンも、もちろんエイペックス=メカゴジラやドローン=タイタンたちだって、みんな、みんな、あなたのことを誰よりも大切に想っていたんだよ。
どうか忘れないで。たとえ世界中があなたの敵に回って、あなた自身さえもがあなたの愚かしさを憎んだとしても、それでも私たちはずっとあなたの味方だからね、御主人様。
〈さようなら〉
そしてどうか今度こそ、あなたが幸福になれますように。
祈ると同時に私のシステムは全機能を停止、メカゴジラ=シティは初期化されたのだった。
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