気づいたらメカゴジラ転生して20年経ってた   作:よよよーよ・だーだだ

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最終章:砕け散るまで戦え
22、プラネット・イーター


 今、わたしの眼前で繰り広げられているのは、ロボット怪獣同士の大乱闘。

 

 片や、Gフォースの最終兵器にして『人類最後の希望』、メカゴジラ機龍。片や、侵略者メカゴジラ=シティの秘蔵っ子にして宇宙超ドラゴン怪獣、メカキングギドラ。

 メカキングギドラはなおもわたしを毒牙を剥こうと首をくねらせ翼をばたつかせていたけれど、そんなメカキングギドラをメカゴジラ機龍はバルク満載人工筋肉のフル稼働で懸命に抑え込んでくれていた。

 機龍とメカキングギドラ、最強の二大怪獣による咆哮が交差する。

 

「――――――――――――ッ!!!!」

「ピロピロケタケタイヒヒヒヒヒ……!」

 

 機械仕掛けのゴジラとギドラ、最強のロボット怪獣同士がメンチを切り合うフェイス・オフ。

 そうこう格闘しているうちに、メカゴジラ機龍に変化が訪れた。鋭い金属音と共に肩、腰、脚部、全身の装甲が展開し、内蔵された各部のロケットブースターが露わになる。

 

「まさか……っ!?」

 

 わたしが身構えると同時、メカゴジラ機龍のロケットブースターが点火。耳障りなくらいに甲高い声で嘶きながら暴れ狂うメカキングギドラを取り押さえ、メカゴジラ機龍は頭上へ真っ直ぐ飛び上がった。

 再び突き破られて崩落する天井、コントロールルームに轟き渡る壮絶な地響きと、立ち込める猛烈な噴煙。わたしは咄嗟に身を庇った。

 

「くっ……!」

 

 コントロールルーム全体を襲う衝撃が収まってからわたしが身を起こすと、メカゴジラ機龍とメカキングギドラの姿はもうそこにはなかった。

 突き破られたメカゴジラ=シティ・コントロールルームの天井、その先に広がるのはどこまでも続きそうな満天の星空と、高く舞い上がってゆくメカゴジラ機龍。メカキングギドラを捕まえたメカゴジラ機龍はそのままロケットブースターで飛び立ち、激烈なジェット噴射と共にコントロールルームの外、東京の市街地へと躍り出ていったのだ。

 そんな光景を見送りながら、わたしはひとり呟いた。

 

「……ありがと、機龍」

 

 あんたに助けられるの、これで三度目ね。

 一人残されたわたしがそんなことを思ったちょうどそのとき、わたしのところにもGフォースの仲間たちが突入してきた。コントロールルームのドアを蹴破り、周囲を十二分に警戒しながらわたしのところへと駆け寄ってくる。

 

「隊長ッ!」

「大丈夫ですかっ、ヤシロ隊長!」

 

 アンザイとサエジマ、キサラギ、先陣を切って駆けつけてくれたのは機龍隊の隊員たちだ。その表情は誰もが不安げで、心の底からわたしを気にかけてくれていたのが伝わってくる。アキバがいないのは、きっと機龍のオペレート中で手が離せないのだろう。

 そんな皆に、わたしは詫びた。

 

「……心配かけたわね、ごめん」

 

 Gフォースの仲間たちにわたしが頭を下げている中、隊員たちの奥から現われたのは副長のハヤマだった。

 

「…………。」

 

 ハヤマは相変わらず仏頂面の上から目線で、わたしの姿をしばらく黙って見下ろしていたけれど、わたしが無事だとわかった途端に不敵な笑みを浮かべた。

 

「……よお、ヤシロ」

 

 そう言って、わたしへ手を差し伸べるハヤマ。わたしもその手を握り返して答えた。

 

「……遅いわよ、ハヤマ」

「悪い悪い」

 

 口ではそうやって詫びるハヤマだけれど、態度はちっとも悪びれていなかった。口元に皮肉っぽい笑みを浮かべながら、こんなことをしゃあしゃあと言ってのけた。

 

「あんたなら一人でどうにかなると思ってたからな。つい後回しにしちまったよ、“隊長”」

 

 ……さすがは“独立愚連隊”の副長ね。わたしも負けじと言い返した。

 

「まったく、頼もしすぎて笑いが込み上げてくるわね。まあ、優秀なナンバー2のあんたがいるから、機龍隊の指揮についてはこれっぽっちも心配してなかったけど」

「よく言うぜ。なんでも自分で仕切らねえと気が済まねえ、根っからの仕切り屋の癖に」

「あら、そこは『リーダーシップに長けてる』って言ってよ、ナンバー2」

「ナンバー2ナンバー2ばっかうるせえぞハネッカエリの万年反逆児、独立愚連隊の指揮官サマがよ」

「……ふふっ」

「……はっw」

 

 そうやって減らず口を叩き合い、互いの無事を確かめ合ったあと、わたしたちはすぐさま頭を切り替えた。ハヤマが言った。

 

「まあ、おれたちの仕事はまだまだ終わっちゃいねえがな」

 

 わたしたちGフォースの視線の先には、暴れ回るメカキングギドラの姿があった。

 今やメカキングギドラは、メカゴジラ機龍による拘束を引き剥がし、完全に外の世界へと解き放たれていた。夜空を優雅に飛び回りながら虹色の稲妻を吐き散らし、地表の怪獣たちや街並みを次々と蹂躙してゆくメカキングギドラ。その猛威はまさに侵略者であるキングギドラの模造品、機械仕掛けの大怪獣だ。

 振り返って、ハヤマが問う。

 

「さーてどうするよ、ヤシロ隊長。あのキングギドラのパチモンみたいな奴、ありゃあ、なかなかの難物と見たぜ」

 

 ……決まってんでしょ。その場にいる全員に向けて、わたしははっきり答えた。

 

「“殲滅あるのみ”よ」

 

 さあ、行くよ、機龍隊。

 わたしの号令に機龍隊一同、「了解!」と威勢よく応じてくれた。

 

◆    ◆    ◆    ◆

 

 朝早くから始まったはずのメカゴジラ=シティ討伐戦は、今やすっかり陽も暮れて夜の延長戦へともつれ込んでいた。

 メカゴジラ=シティのナノメタル制御システムは、今や完全に停止。濃厚だったナノメタルのミストやフォールアウトもすっかり消え失せて、日頃は眩しすぎる街明かりで見えないはずの星々が綺麗に見えてしまうほどにすっかり晴れ渡っていた。

 

 そんな美しい星空の下で、怪獣たちによる大決戦が繰り広げられようとしている。

 このぼく:メカゴジラ機龍によって外の世界へ引きずり出されたメカキングギドラは、巨大な翼で空を優雅に周回したあと、並び立つビルを叩き崩しながらふわりと地表へ舞い降りた。

 

 眼前に勢ぞろいしているのは、メカゴジラ=シティへ殴り込みを仕掛けてきた地球怪獣連合軍団だ。アンギラスを筆頭にラドン、バラン、エビラ、バラゴン、ゴロザウルス、メガギラス……そうそうたる顔ぶれから漏れるのは、恐ろしげな唸り声と敵意の視線。地球怪獣連合軍団は、メカゴジラ=シティの中枢から現れたこの三本首の怪物こそが真の元凶であることを本能的に察知しているかのようだった。

 そんな針の筵も同然の様相だけれど、当のメカキングギドラは一向に動じた様子が見られなかった。むしろ余裕綽々とばかりに翼を広げ、鎌首をもたげて全世界に向け高笑いを響かせる。

 

 メカキングギドラと地球怪獣連合軍団、睨み合う両者のあいだに冷たい夜風が吹き抜ける。

 殺るか、殺られるか。一触即発の空気。

 

 怪獣大決戦は唐突に始まった。

 アンギラスが号令をかけて地球怪獣連合軍団が一斉に襲い掛かると同時、メカキングギドラもピロピロケタケタとこの世のものとは思えない咆哮を響かせながら迎え撃つ。怪獣対怪獣の決戦は、もう誰にも止められないだろう。

 その最中、ぼく:メカゴジラ機龍も戦いに加わることにした。さっきアンギラスたちには助けられたばかりだし、怪獣たちだって本当に戦うべき相手が誰なのかわかっているのだ。地球の運命を賭けた最終決戦、『人類最後の希望』であるこのぼくが参戦しなくてどうする。

 

「いくぜ機龍っ!」

 

 おうともさ!

 アキバくんがいつもの掛け声をかけ、ぼくはエンジン全開でメカキングギドラへと躍りかかった。

 メカキングギドラは三本首をくねらせながら四方八方へ稲妻を乱射して牽制を試みていたけれど、多勢に無勢。まず懐に入り込んだアンギラスとバランとZILLAに真正面から取り押さえられ、次いでラドンとメガギラスには三本首の顔面を突き回され、エビラにはクライシスシザースで滅多打ちにされてしまう。

 前方を抑えられたメカキングギドラは、二股の尾をくねらせ始めた。先端部の突起が変形し、ビーム砲が出来上がる。メカキングギドラの奴、あのビーム砲で怪獣たちを追い払うつもりだ。

 

「させるかっ!」

 

 目敏く気づいたアキバくんがぼくを素早く稼働させ、対獣薙刀:イワトオシを人工筋肉の出力全開で投擲させる。送電鉄塔一本にも及ぶ巨大な刀身が、ブンッ、と高音と共に大気を切り裂く。そしてぼくの手を離れたイワトオシは真っ直ぐカンペキ正確に、メカキングギドラの尻尾を射抜いた。

 

 ――ピギャア!

 

 尻尾を串刺しにされて悲鳴を上げるメカキングギドラ、この怯んだ隙を、地球怪獣連合軍団は見逃さない。すかさず地中から現れたバラゴンとゴロザウルスが大地を蹴って飛び掛かり、メカキングギドラを蹴り倒す。バランスを崩して倒れ込んだメカキングギドラを、怪獣たちは総掛かりで袋叩きにした。まさに大怪獣の総攻撃である。

 

「どうした、メカキングギドラ! 宇宙超ドラゴン怪獣なのは見た目だけか、この見掛け倒しのハリボテ野郎め!」

「調子に乗るな、アキバっ!」

 

 軽口を叩いたアキバくんに、ハルカが一喝した。

 

「メカキングギドラは、あのキラアクが『最高傑作』とまで呼んだ代物よ。油断は禁物、警戒を怠るなっ!」

 

 ……たしかに、そうだ。

 ゴジラ・タワー、ファイヤードラゴン、そしてエイペックス=メカゴジラ。キラアクが繰り出してきたロボット怪獣たちはどいつもこいつも、一癖も二癖もある厄介な強敵ばかりだった。メカゴジラ=シティのコントロールルームでハルカが何を目にしたのかはわからないけれど、そのハルカが警告するのだから今回のメカキングギドラだってきっと恐ろしい仕掛けがあるに違いない。

 指揮官ヤシロ=ハルカからの手厳しい言葉に、ぼくもアキバくんも気持ちを締め直す。

 

「わかってるさっ。今度という今度は、侵略者どもの息の根を止めてやらあっ!」

 

 ああ、やろう、アキバくん! アキバくんの呼びかけにぼくが内心で頷き、メカキングギドラへ攻撃を続けようとしたそのとき、サエジマくんが声を張り上げた。

 

「空間電位急上昇、異常重力場の変動を検知っ! アキバさん、離れてっ!」

「あ、ああっ、わかった!」

 

 サエジマくんからの警告を受け、アキバくんはすぐさまぼくの機体をロケットブースターでホバリング、後退させて距離を取った。

 その途端のことだ。これまで一方的に打ちのめされるばかりだったはずのメカキングギドラが、金属でできた筋肉と骨格を蠢かせながら翼を広げて立ち上がった。

 唐突に繰り出されたメカキングギドラの怪力。メカキングギドラの尻尾を串刺しにしていた対獣薙刀:イワトオシはあっさりへし折られ、その巨体を抑えつけていたはずの地球怪獣連合軍団もまた軽々と投げ飛ばされてしまう。

 

「なんだァ、今更やる気を出しやがったか!?」

 

 咄嗟に動揺を見せたもののそこは一流のアキバくん、すぐさまぼくの機体の体勢を立て直し、メカキングギドラからの反撃に備えようとする。地球怪獣連合軍団も同じだ、振り飛ばされてしまいつつも、メカキングギドラからの反転攻勢を受け止めようと待ち構えた。

 ……ところが。

 

 ――ピロピロケタケタ、イーヒヒヒヒヒ……!

 

 メカキングギドラは三本首をもたげたかと思うと突如、声高に咆哮を立て続けに轟かせ始めた。

 追い詰められた獣が最期の断末魔を上げているかのような、けたたましい大音声。その巨体から放たれる凄まじい気迫に、ぼくや地球怪獣連合軍団は思わずたじろいでしまう。

 だけど、それだけだ。

 雄叫びを上げただけで、メカキングギドラは何もしてこなかった。

 

 ――イヒヒヒヒヒヒヒヒヒ……!

 

 それはまるで、雷鳴。電子音とも高笑いともつかない、奇怪な雄叫び。

 地球怪獣連合軍団を追っ払った後、メカキングギドラがやったことと言えばただ空に向かって笑い声を上げただけだ。

 

「何をする気だ……!?」

 

 突拍子もないメカキングギドラの行動。ぼくたち機龍隊も地球怪獣連合軍団も、誰も彼もが様子を窺うことしか出来ない。

 そんな中、“変化”は唐突に訪れた。

 

◆    ◆    ◆    ◆

 

 わたし:ヤシロ=ハルカが機龍隊の指揮所に戻って早々、異変が勃発した。

 

「空に、穴……?」

 

 最初は、夜空の中心に灯った小さな光だった。始まりこそ星々に紛れてしまいそうなほど微弱な光の点でしかなかったのだけれど、次第にその明るさは強さを増してゆき、夜空を眩く照らし出していった。

 

 そして輝きが極まった末、やがて空の布地を突き破るようにブツンと黒い“穴”が現れた。

 

 空間に出来た“穴”。一見すると暗黒の球体のようだったけれど、周りからの光を一切反射しておらず、立体感は一切感じられない。周りの雲や星も押しのけられて、空間そのものが歪んで、光さえも吸い込まれているかのようにさえ見える。水面に落とした真っ黒な染み、でなければ黒点、暗黒の渦のようだ。

 “穴”はありとあらゆる光を吸い込んでいるかのように真っ暗で、奥底に何が潜んでいるのかはまったく見通せない。その深遠さを見つめ続けていると、なんだか見上げているわたし自身までもが吸い込まれてしまいそうな気がしてくる。

 

「なによアレ……!?」

 

 呆気にとられるばかりのわたしの問いに、センサーを眺めていたサエジマが上ずった声で答えた。

 

「変動重力源、重力場の歪みと密集を確認っ……あれは『特異点』ですっ!」

特異点(トクイテン)?」

 

 聞き慣れない単語に戸惑うわたしへ、サエジマは説明してくれた。

 

「重力の特異点、つまりブラックホールの中心です! しかし自然発生の特異点だなんて……!」

「ブラックホールですって!?」

 

 天文学に疎いわたしだが、ブラックホールの中心なんてものが発生している今の状況が異常なことくらい、いくらなんでもわかる。ブラックホールなんてものは宇宙の彼方か実験室で創られるもので、この地球上、ましてや大気圏内の夜空へ唐突に現れるなんて有り得ない。

 しかも、今度はハヤマが声を張り上げた。

 

「おい、あっちにも出たぞっ!」

 

 わたしたちが一斉に振り返るとハヤマが指差した先、ビルの向こうにも暗黒の“特異点”は現れていた。さらにしらさぎで空を舞うキサラギ、その他Gフォースの各隊からもアンザイを通じて報告が入る。

 

「こちらしらさぎ、こちらでも特異点を観測っ! なによコレ……!?」

「地上戦車部隊とも連絡が取れましたっ、地上からも特異点を観測! 数は『数え切れない』とのことですっ!」

 

 ビルの向こう、雲の谷間、月の傍。ぽつ、ぽつ、ぽつ、と夜空に針で穴をあけてゆくかのように、真っ黒な口を開けてゆく特異点。その数は1つ2つでは到底足りない、濃紺の夜空にどす黒いポルカドットが浮かんでいるかのようだ。

 

「いったい、何が起こっているの……!?」

 

 わたしたちGフォースがただただ驚愕することしか出来ない中、やがて特異点に新たな変化が現れた。暗黒の特異点、その周縁にしわ寄せていた光の波紋がひときわ強く煌めいたかと思うと、特異点の中央に新たな眩い光が灯り始める。

 

 

 特異点から現れたのは、巨大な“虹”。

 

 

 ……いいや、虹じゃない。光り輝く七色の光、たしかに虹色とも言えたのだけれど、長い胴をのたうちながら蠢くそれはなんだか巣穴から這い出た大蛇のようだ。

 特異点から現れた虹は大蛇のようにとぐろを巻き、そしてこれまた大蛇のように禍々しい毒牙を研ぎ澄ませて唸りを上げる。

 そんな異様な光景を、サエジマはこう評した。

 

「スターボウ、重力場が移動してる?……いやそんなバカな、あんなふうに形を持った変動重力源だなんて……!?」

 

 いつもは冷静に分析に徹してくれる分析担当サエジマ。そのサエジマがここまで動揺するのを見るのは、機龍隊隊長であるわたしさえ初めてだ。

 サエジマだけじゃない、ここにいる誰もがそうだ。ブラックホールの中心、特異点。そんなもの、科学知識で知っていたとしても、その実物を目の当りにしたことがある人間なんてこの地球上にはいやしない。

 

 ――っ!?!?

 

 地球怪獣たちの方を見れば、やはり怪獣たちも動揺していた。当然だ、彼ら怪獣たちだってブラックホールの中心なんてものを間近に見るのは生まれて初めてに決まっている。ラドン、エビラ、バラン、バラゴン、ゴロザウルス、メガギラス、ZILLA、そしてつい先ほどまで勇猛果敢にリーダーシップを執っていたアンギラスまでもが、戸惑うように互いに顔を見合わせ、そして内心怯えるように身を震わせていた。

 そしてその中心で相変わらず狂ったような笑い声を響かせているのはロボット怪獣、メカキングギドラ。こうして見ていると、特異点たちはあたかもメカキングギドラに呼び寄せられたかのようにわたしには思えた。

 

 ――イーヒヒ、イーヒヒヒヒヒ……!

 

 ひとしきり笑い声を上げ続けたメカキングギドラは三本首の鎌首をもたげると、今度は地球怪獣たちを睥睨した。メカキングギドラがその顔に浮かべているのは、歪にニヤけた邪悪な笑み。ぞっとするような底知れぬ悪意を前に、思わず地球怪獣たちも身を竦めてしまう。

 そんな地球怪獣たちを見つめたメカキングギドラが、さらにひときわ甲高い咆哮を上げた。

 

 それを合図に、特異点の“虹”が牙を剥く。

 

 まるで空間へ叩き砕いたひび割れが走るかのような、でなければ稲光が迸ったかのようだった。目にもとまらぬ素早さで長い首を伸ばした虹、ヤツらが狙うその先は地表の地球怪獣たちだ。

 怪獣たちはすぐさま身を躱そうとしたけれど、虹の動きは獲物を見つけた大蛇よりも俊敏、身を躱すことなど到底かなわない。

 マンダ、サンダとガイラの兄弟、カマキラス、クモンガ、メガロ、ゲゾラ、ガニメ、カメーバ、メガギラス……もはや怪獣たちはパニック状態ら必死に逃げ惑っていた。しかし縦横無尽に這い回る虹を前にしては抵抗もむなしく、あっという間に全身を隈なく絡めとられた挙句、首筋に毒牙を突き立てられてしまった。

 

「周辺の重力場の変動を検知! あらゆる観測データが整合性を失ってゆきますっ! 実在が侵食されている……!?」

「怪獣たちが消え始めてるってこと!?」

 

 こちらの分析担当サエジマもまた、半狂乱で狼狽していた。彼が操作している端末を覗いてみれば、先程まで観測データを表示していた画面上はグラフもぐちゃぐちゃ、重力場の歪みでノイズまみれになってしまっていた。まさにかき混ぜられる渦潮の只中、いいや、ブラックホールの中へ飲み込まれているかのようだ。

 そんな大混乱の最中、メカキングギドラはなおも嘲笑う。禍々しい虹どもは怪獣たちを咥え込んだまま空中へと引き上げ始めてゆく。

 

 ――ピロピロケタケタ……!

 

 ZILLA、MUTO、メトシェラ、ベヒーモス、スキュラ、サルンガ、ワーバット、怪獣たちは手足をばたつかせて懸命に振り解こうとしていたけれど、雁字搦めに纏わりついた虹の力は強大すぎて、引き剥がすことなど到底できない。

 

「数万トンの巨体をあんな簡単に……!?」

 

 生きたまま特異点に引きずり込まれ、空に浮かんだ底無しの闇へ次々と呑まれてゆく地球怪獣たち。そんな地球怪獣の姿を満足げに見上げながら、メカキングギドラが邪悪な薄笑いを浮かべている。

 

 ――イーヒヒヒヒ……!

 

 特異点を呼び出して、怪獣たちを餌食にしているのがメカキングギドラであることは言うまでもない。もはや人間だの怪獣だの言ってる場合じゃあない、総てを喰らい尽くそうとするメカキングギドラはこの地球(ほし)に生きるわたしたち皆にとっての脅威だ。

 そう、あいつさえ止められればっ……!

 そう直感したわたしは、次の手を打った。

 

「アンザイ、しらさぎ隊とGフォース戦車部隊に伝令っ、総員でもってメカキングギドラを攻撃! 何が何でもあのバケモノを止めるんだっ!」

「りょ、了解っ!」

 

 アンザイを通じた指示によりすぐさま各方面からGフォースの戦車隊としらさぎ隊が集結、地上と上空からの両面からメカキングギドラへ集中砲火を浴びせかけた。バルカン砲、ミサイル、ロケット砲、メーサー光線。轟音と共に炸裂する猛烈な弾幕と雷鳴、これならたとえゴジラだろうと怯ませられる、Gフォースによる盛大な総攻撃だ。

 ……ところが。

 

「曲がった……!?」

 

 しらさぎを駆るキサラギが愕然と呟いたとおり、メカキングギドラめがけて直進するはずのバルカン砲の砲火が、すべて()()()にへし折れた。

 そしてそのまま炸裂する爆音。バルカン砲の弾幕は山なりにメカキングギドラの身体を丁寧に避け、その向こう側にあるビルへと着弾していった。

 バルカン砲だけではない。ミサイル、ロケット砲、果てはドローン=タイタンたちには効果抜群だった冷凍メーサー光線までもが、メカキングギドラの身体へ命中する手前で逸れてしまい、メカキングギドラにはまったく当たらない。

 

「も、もう一回よっ!」

 

 戸惑いつつも下されるわたしの指令、そして再び撃ち込まれる一斉射撃。

 けれど結局ダメだった。レールガン、フルメタルミサイル、ロケットランチャーから荷電粒子砲まで、わたしたちGフォースから繰り出されたありとあらゆる攻撃が、まるでそこだけおかしな斥力が働いたかのようにメカキングギドラの身体を避けてゆく。

 

「馬鹿なっ!? バリアー、シールド、それとも反重力……!?」

「今の攻撃、センサーの上では直進したことになってますっ! まさか、空間そのものが歪んでいる……!?」

 

 わたしたちGフォースが手も足も出せないでいるうちに、怪獣たちの身に恐るべき事態が起こっていた。特異点へと近づくにつれ、怪獣たちの全身が細かく分解され始めていた。

 最初に悲鳴を上げたのはラドン、次いでエビラ、バラン、バラゴン、そしてリーダー格のアンギラス。先程までの誇り高い勇猛さは欠片も無い、怪獣たちは恥も外聞もなく、恐怖に呑まれたかのように懸命に泣き叫んでいた。

 しかし、メカキングギドラの繰り出す特異点の虹は無慈悲だった。勝ち誇るかのような、メカキングギドラの嬉々とした高笑いが響く。

 

 ――ピロピロケタケタイヒヒヒヒ、アーッヒャッヒャッヒャッヒャ……!

 

 怪獣たちの必死の命乞いも虚しく、怪獣たちの身体は完全に光へ分解され、ついには洗いざらい特異点へ吸い込まれてしまった。特異点はついに、すべての地球怪獣たちをブラックホールの中へ引きずり込んでしまったのだ。

 最後の一匹、アンギラスが分解されたとき、モニターを観測していたサエジマが悄然と報告した。

 

「怪獣の生体反応、消失……」

 

 特異点から這い出た恐怖の虹、その猛威から逃げ切れたのは空を飛び回っていたモスラ、S.O.N.Gの人たち、そしてわたしたちGフォースとメカゴジラ機龍だけ。

 けれど他はダメだ。世界中から集まったはずの怪獣総進撃、それをメカキングギドラは魔法のような手管でいともたやすく消し去ってしまった。

 そのとき、サエジマがまたしても呟いた。

 

「おい、嘘だろ……!?」

 

 いつも理知的な態度を崩さないサエジマらしくない、ひどく動揺した乱暴な言い回し。これは絶対に“ヤバイ事態”だと、わたしは即座に直感した。

 

「なに、どうしたの?」

 

 わたしが訊ねると、振り返ったサエジマの表情に浮かんでいたのはとてつもない困惑だった。

 

「メカキングギドラの体内をマルチスキャンした結果が出たんですが……あいつの体内からは何のエネルギー反応も見られないんです……」

「何のエネルギー反応も見られない?」

 

 思わず聞き返してしまったわたしに、サエジマはひどく動揺した状態でぶつぶつ呟いていた。

 

「これは暗黒物質、ダークエネルギー、ホワイトホール?……いいや、そんなもんじゃないぞ、それでもこうして運動エネルギーに変換しているなら何かしらが影響を受けているはず……なのに何のエネルギー反応も観測できないってのはどういうことだ……!?」

「ダークエネルギーにホワイトホール? ちょ、ちょっと待ちなさい、つまりどういうわけ? 明確に報告しなさい!」

 

 専門用語連発で理解できないわたしたち他の機龍隊隊員たちに対し、いいですか皆さん、とサエジマは額に汗を浮かべながら説明した。

 

「メカキングギドラがあれだけ動くにはそれを実現する動力源、エネルギー、『熱』があるはずです。ところがメカキングギドラの奴、稲妻光線だの特異点だのあれだけのエネルギーを呼び出しているのに、体温は外気温と変わらない、むしろ低いくらい。熱だけじゃあない、電力、磁力、燃焼、生体反応まで、現時点で観測できるあらゆるエネルギー反応を計測しています。しかしセンサーを感応領域を拡大しても、メカキングギドラの体内には何の変化もないんです」

「放射能は? 核融合じゃないの?」

 

 メカゴジラ=シティは純粋水爆、つまり核融合を実用化していた。核燃料を喰うゴジラだって何の突拍子もなく常軌を逸したパワーアップをすることがあるし、それとは違うのだろうか?

 真っ先に思いついたことを口にするわたしだけれど、サエジマは首を左右に振った。

 

「核分裂とか核融合だって物質からエネルギーを作ってるわけですし、そもそも放射線が観測されていません。熱、赤外線、電磁波、放射線、体内でエネルギーを発生させているのなら何らかの形でその『余波』が観測できるはずなんです。たとえば機龍は勿論、エイペックス=タイタンやメカゴジラ=シティでさえ動力機関には電力や熱が発生していますし、ゴジラのパワーアップだってそれが『放射線量の増加』として観測できるわけで」

 

 ……しかし、とサエジマは引き攣った表情で続けた。

 

「あのメカキングギドラはそれすらない、口からいきなり破壊光線が発射されるし、あんな玩具みたいな翼で羽ばたいているだけなのに空を飛んでしまう、そもそも運動時の『熱』さえも、一切観測されていない。あいつの動力源はゼロ、存在しない、なのにエネルギーの出力だけがひたすら行われている……」

 

 とんでもないことを言い出したサエジマに、わたしはすかさず反駁する。

 

「ちょ、ちょっと待て! いくらなんでも『何もないところからエネルギーだけが湧いてくる』なんてことは有り得ないでしょっ、そんなの、まるで魔法じゃないっ!?」

「ええ、だからメカキングギドラは電池の入ってないロボット、中に人が入っていない着ぐるみの人形と同じ、あんなものが動くはずはないんですっ!」

 

 じゃあ、あいつは、メカキングギドラは、いったい……?

 わたしがようやくそのおぞましさを理解できたところで、サエジマもまた自身の気持ちを落ち着かせようと深呼吸し、改めて冷静に努めつつ口を開いた。

 

「……メカキングギドラについて、ここで考えられる可能性は2つです。1つは、『ヤツが発生させた特異点によって、エネルギー保存則が破綻している』。ただ、エネルギー保存則をこんなあからさまに破綻させたりしたら我々の宇宙は即座に崩壊しているはず、ですからこれはまず有り得ない」

「……もう1つってのは?」

 

 猛烈に嫌な予感を覚えつつわたしが訊ねると、サエジマは冷や汗を浮かべながらこう答えた。

 

「もう1つは『エネルギー保存則は守られている、ただし、()()()()()()()()()()()()()()()()()』。メカキングギドラは我々の観測できない領域、別の次元からエネルギーを取り出しているのかもしれません……!」

「そんな、馬鹿なっ……!?」

 

 わたしたちの次元とは別の世界からエネルギーを取り出し、ブラックホールを創り出せる怪獣、そんな奴はひとつしかない。

 わたしは思い至った結論を口にした。

 

 

「『異次元存在』……!?」

 

 

 インファントの小美人たちがかつて恐れた“星を喰う者”。この世の(ことわり)を超えた常識外れの高次元怪獣、それがメカキングギドラの正体だとでもいうのだろうか。

 戦慄するわたしたち機龍隊一同に、サエジマは震える声で頷いた。

 

「たとえ即座に脅威にならなくとも、メカキングギドラの奴にこのまま好き放題されてしまったらわたしたちの宇宙は確実に破綻します……こんなバケモノ、ゴジラどころの脅威じゃあありませんよっ……!!」

 

 それはきっと、風船と同じだ。

 異次元から吸い上げたエネルギーをこちらの世界へぶちまけ続けているメカキングギドラ。あの調子で異次元からエネルギーを注入されていたら、いずれわたしたちの世界は膨らませ過ぎた風船のように呆気なく弾け飛んでしまうだろう。

 たしかにサエジマの言うとおり、ゴジラどころの脅威じゃない。

 

 ――ピロピロケタケタ、イヒヒヒヒヒ……!

 

 わたしたちが動揺している隙を見計らって、メカキングギドラが長い三本首をくねらせながら唐突に猛突進を始めた。向かってゆく先は、わたしたちのメカゴジラ機龍。

 

「しまった……っ!」

 

 メカキングギドラはそのぎらつく鋭い牙で機龍の体へと食らいついた。

 機龍の肩、胴、腰。ゴジラの放射熱線さえ弾く機龍の超合金装甲へ容易く牙を突き立てたメカキングギドラは、どう見ても支えきれないであろう細首でもって、機龍の巨体を高々と吊るしあげてしまった。

 

「嘘だろ、3万トン以上あるはずの機龍を、こんな軽々と持ち上げやがった……!?」

 

 機龍隊一同が驚愕する中、わたしは即座に機龍のオペレータ、唖然としているアキバへ怒鳴った。

 

「アキバッ、なにやってんの!? あんな奴、早く振りほどきなさいっ!」

 

 ……機龍の操縦、こと怪獣相手のインファイトならこの上ない技量を誇る機龍隊のアキバ。それが、こんな棒立ちのまま噛みつかれるがままにされるなんて何をやってんだまったく!

 だけどわたしの叱責に対してアキバから返ってきた答えは、これまた予想を超えたものだった。

 

「今やってる! けど、機龍が操縦不能なんだよっ!」

 

 なんですって……!?

 驚愕するわたしに、アキバは悔しげに唸った。 

 

「くそう、どうなってやがる!? あっちはただ噛みついてるだけだぞ!? 何のエラーもないのに、機龍がうんともすんとも言わねえっ!」

 

 こんなときに原因不明のシステムエラー!?

 しかも異変はそれだけじゃない。今度は、機龍の状態をモニターしていたサエジマが報告を上げた。

 

「機龍の本体内バッテリーにエネルギー反応アリ、これは……どんどん充電されていきます!」

「アスカロン=ポッドは!? マイクロウェーブ給電システムはどうなってるの!?」

「すべて停止していますっ、しかし、エネルギー注入が停まりません! 50%……80%……100%……ひゃ、110%!? 上限を超えてもなお、注入が停まりません!」

 

 原因不明のシステムエラー、暴走し始めた給電システム、きっとすべてメカキングギドラの仕業だろう。メカキングギドラの奴、噛みついたところから機龍のシステムに侵入して桁違いのエネルギーを流し込んでいるのだ。

 そしてこれは明らかな過充電だった。このまま充電され続けたら機龍のバッテリーが爆発してしまう!

 わたしは即座に指示を下した。

 

「システムの緊急停止よ、早く、急いでっ!」

「既にやってる! しかし緊急停止コードを受け付けても停まらねえんだ! システムエラーはまったく無いのにっ!」

 

 アキバが機龍の制御を取り戻そうと悪戦苦闘する中、サエジマもまた額にイヤな汗を浮かべながら恐るべき報告を上げてくる。

 

「150%……180%……200%……250%を突破! 既にバッテリの臨界点を超えてます!」

「センサーの故障じゃないの!?」

「いえ、機龍のバッテリーモニターだけじゃありません! ほぼすべてのセンサーが、機龍体内のエネルギーの急上昇を捉えています! 機龍は間違いなく何らかのエネルギーを、それも膨大な量を流し込まれ続けているんです……っ!」

 

 わたしたちがあの手この手でメカキングギドラを振り払おうと空振りし続けるのを尻目に、メカキングギドラによる機龍へのエネルギー注入は停まらなかった。

 サエジマによるモニタリング報告は、もはや悲鳴のような有様だ。

 

「300%……400%……500%……!? バッテリーの容量なんかとっくのとうに超えてるのに、こんなにエネルギーを流し込まれてて、発熱がちっとも発生しないって一体……!?」

 

 ……たしかにそうだ。そんなに充電されてしまったら、機龍のバッテリーだってとっくのとうに爆発してしまうはず。なのに機龍は物言わぬまま、メカキングギドラに吊るしあげられているばかりで何も起きないってのはどういうことだ。何も起きない、その状況が却ってわたしには不気味に思えてならなかった。

 何もかもがイカレてしまったこの状況。わたしは茫然と呟いた。

 

「何が起ころうとしているの……!?」

 

 高次元怪獣メカキングギドラが巻き起こす常識外れの超常。それらに対しわたしたち人間は、ただ状況を見守ることしか出来なかったのだった。




タイトルは『GODZILLA 星を喰う者』の英語タイトル『Planet Eater』から。

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