気づいたらメカゴジラ転生して20年経ってた 作:よよよーよ・だーだだ
膠着していた情勢に変化が訪れたのは、突然だった。
「隊長ッ、機龍の体内が加熱しています!」
「なんですって!?」
サエジマの報告を受け、わたしは指揮所に据えられたモニタリング用端末を覗き込んだ。
端末のモニター、そこに映されていたのはメカゴジラ機龍の体内を透視した解析映像。サーモグラフィで視覚化された、機龍の内側で巻き起こりつつある膨大な発熱が映し出されていた。
それらを眺めながら、サエジマが叫んだ。
「機龍、体内温度が急上昇! 冷却機能、完全に停止! 一部では摂氏1,000度を超えています……っ!」
今度はいったい、何が起ころうとしているの……!?
わたしたち人間が何も出来ないうちに、事態はさらに急変した。変化が巻き起こったのは、またしてもメカゴジラ機龍だ。
「――――――――――――……ッ!!!!」
突如、ゴジラそっくりの雄叫びを轟かせた機龍、それに伴って全身から溢れ出るエネルギー。身体中の隅々に張り巡らされた回路サーキット、それらすべてを瞬時に焼き切ったかのような猛烈な火花が、機龍の体から迸った。
「ッッ!?!?」
それと同時に、まるで超高熱のショックに触れて飛び上がったかのように、メカキングギドラは三本首で咥えていた機龍の巨体を放り捨てた。
投げ飛ばされた機龍は地面へ拳を衝いて巧みに着地、全身から夥しい量のスパークと蒸気を噴き散らしながら体を起こす。
……おかしい。これだけ酷いダメージを受けているのに、機龍の動きが滑らかすぎる。
そんな違和感を覚えたわたしは、すぐさまオペレータのアキバへと振り返った。
「アキバッ、どうなってるの!? 制御は!?」
「おれじゃねえ! 全制御システムがシャットダウンだ!」
このときになって、わたしは今のメカゴジラ機龍が恐るべき事態に陥っていることを悟った。
全制御システムがシャットダウン、なのに動いているってことは。
「“暴走状態”か……ッ!」
かつて21年前、建造途中に時折見せていたメカゴジラ機龍の不可思議な挙動、いわゆる“暴走状態”。それが今、わたしたちが考えられる中でも最悪のタイミングで発生していた。
……あるいは、メカキングギドラの狙いは最初からコレだったのかもしれない。こうやってメカゴジラ機龍にエネルギーを流し込み、暴走させて、生前のゴジラのように暴れさせるのが狙いだったのかもしれない。
そんなふうにも思ったのだが、状況はさらに思わぬ展開へと転がっていった。
「――――――――――――ッ!!!!」
さらに勇ましい咆哮を轟かせたメカゴジラ機龍。
……さきほどまで全身から噴き出ていた火花の鮮血は、いつの間にか青白い高熱の炎へと変わっていた。装甲の隙間という隙間からメラメラと溢れ出る膨大なエネルギー、それらは大気を焼き、ひいてはゴジラの放射熱線にさえ耐える超合金装甲をも焼き始めていた。
激戦の果てでボロボロになってしまった装甲、ショートした回路、全身から立ち昇る猛烈な蒸気、満身創痍の壮絶な姿。まるで、青い火の玉が燃え上がっているかのようだ。
それでも機龍は、力強く唸りながら立ち上がる。一歩一歩、地面を踏み砕きながらメカゴジラ機龍が向かった先は眼前の怨敵、メカキングギドラだ。
「……っ!!」
メカキングギドラはというと、そんな機龍の異様な形相に怖気づいたのか、ほんのわずかに身を竦めていた。
だけどそこは流石の宇宙超ドラゴン怪獣、すぐさま立ち直ったメカキングギドラは二股の尻尾を伸ばして槍のように構えた。
「ピロピロケタケタイヒヒヒッ……!」
メカキングギドラの尻尾、その先端でチャージされ、煌めき始める虹色のエネルギー。メカキングギドラの奴、尻尾から強力な引力光線を放つつもりだ。
ここで、メカゴジラ機龍は思わぬ行動に出た。
「機龍の背鰭が……!?」
機龍の背鰭が白く、光っていた。まるで本物のゴジラのように。
機龍が背負った白い輝きは瞬く間に力強さを増してゆき、極限まで凝縮されたエネルギーは、ついには機龍の眼前へと収束されてゆく。
まさか。わたしたちがそう思ったその時、
機龍の口内から、純白の光が撃ち出された。
……光のエネルギーというのは、強ければ強いほど白くなるという。強烈なフラッシュ閃光で視覚を潰されそうになり、わたしたち人間は思わず目を、いいや顔面を両腕で庇った。
そして爆音、怪獣の叫び。
「ピギィぃィーッ!?」
激烈で眩い衝撃が収まると、そこには尻尾のキャノン砲を黒焦げに焼き潰され、悲鳴を上げながら身をくねらせるメカキングギドラの姿があった。
何が起こったか、わたしは即座に理解した。
「機龍が、放射熱線を……っ!?」
もちろん、メカゴジラ機龍にそんな機能は装備されていない。それどころかわたしたち人類の科学力では、ゴジラの放射熱線の再現すら出来ていないはずだ。
尻尾を潰されたメカキングギドラは、大蛇のような三本首を構えた。きっと今度は尻尾からではなく、口から引力光線を放つつもりなのだろう。
そこでも機龍は即座に対応した。またしても背鰭を白く光らせ、またしても眩い閃光を放つ。
「――――――――――――ッ!!」
機龍が口から放った“白熱光”はゴジラの放射熱線、いいやそれ以上の破壊力だった。メカキングギドラも即座に虹色の引力光線を放って迎撃したが、白熱光の膨大な出力の前にあっさり押し負けてしまう。
そして白熱光はメカキングギドラの顔面を貫通、頭一つを木端微塵に爆砕した。
「ピギャアアアアーッッ……!!」
衝撃のあまりもんどりうって引っ繰り返る、そんなメカキングギドラの悲痛な叫びが響き渡った。黒焦げに吹っ飛んでしまった頭一つを庇うように、地面を転げまわるメカキングギドラ。
そんな醜態を晒しているメカキングギドラに、機龍はまったく容赦しなかった。全身から青い猛火を燃え上がらせた機龍はメカキングギドラへ勢いよく飛び掛かり、メカキングギドラの脳天を思い切り踏み躙った。
かかる総重量は3万トン近く、超重量のドロップキック。その直撃を受けたメカキングギドラの頭は威勢よく地面へ叩きつけられ、メキメキとひしゃげた。頭を潰される激痛に、メカキングギドラは苦しげに呻き声を上げる。
「ヒギいッ……!」
そこで機龍は思いきり足を振り上げ、今度はメカキングギドラの胴を一気に蹴り上げた。メカキングギドラ御自慢の白銀装甲が深々と蹴り抉られ、陥没し、叩き砕かれた鎧の隙間から大量の内蔵パーツが臓物のように弾け飛んでゆく。
「ごプゲッ……!」
またしても無様に呻きながら引っ繰り返ってしまったメカキングギドラ。一方的に追い詰められるばかりのその姿は、傍から見ているともはや哀れですらあった。
けれど、怒りの頂点に達したメカゴジラ機龍はとことん無慈悲だった。
「――――――――――――ッ!!」
機龍の奴、今度はメカキングギドラの首根っこを掴み上げ、そのまま背負い投げの要領でメカキングギドラの巨体を軽々と持ち上げた。悲鳴を上げながら軽々と舞い上がり、そして一気に叩きつけられるメカキングギドラ。
数万トン以上の重さが激烈な勢いで墜落、その衝撃波で膨大な爆煙が巻き上がり、大地と大気がまるごと揺れた。
「うわッ!?」
「キャアッ!?」
直下型地震の直撃にも等しい激震、遠く離れたわたしたちまでが引っ繰り返りそうになってしまうほどだった。とっさに身を庇ったあと、わたしたちはその光景を見た。
「噓でしょ……!?」
……そこにあったのは、見渡すかぎり崩れ落ちてしまった東京の大都市と、隕石が衝突したとしか思えないような巨大なクレーター、そしてその中心にそびえ立っているのはメカゴジラ機龍。
全身に怒りの劫火を滾らせながら暴れまくるメカゴジラ機龍と、ただひたすら悲鳴を上げながら痛めつけられるばかりのメカキングギドラ。ロボット怪獣二体の怪獣プロレス、どちらが優勢かは火を見るよりも明らかだ。
「――――――――――……ッ!!!!」
「ヒギャあああ……!」
……まったく、皮肉な展開だと思った。
メカキングギドラの奴が何の目的で機龍をパワーアップさせようとしたのかは結局定かではなかったけれど、それが今や完全に裏目へ出ていた。メカキングギドラのおかげで際限ないパワーアップを遂げたメカゴジラ機龍は、今度はその全力全開のフルパワーを当のメカキングギドラ自身へぶつけまくっている。
そんな中、機龍の状態をモニターしていたサエジマが声を張り上げた。
「機龍、体内温度が5,000度を超えましたっ!」
「5,000度ですって……!?」
改めて見れば、目も眩むほどの青白い炎の中で、機龍の機体が融解し始めていた。灼熱の蜃気楼で大気が揺らぎ、装甲の各部が銑鉄のようにどろりと溶け堕ちて、内側の骨格までもが透けて見えている。
サエジマが続きの報告を上げてくる。
「機龍の体内バッテリー、もう持ちませんっ!」
これまでメカキングギドラから流し込まれたエネルギー量は膨大なもの、文字通り核爆弾並みだ。それがもし爆発でもしたら……!?
わたしはすぐさま指揮官としての自分に立ち戻り、通信担当のアンザイに向かって声を張り上げた。
「アンザイ、Gフォース各隊の被害状況を!」
「了解っ!」
わたしの要請を受け、アンザイからは即座に報告が返ってきた。
「Gフォース戦車隊、航空隊、被害はいずれも軽微ですっ!」
……よし、まだ動けるっ。わたしは即断した。
「全隊、ただちに退避っ! 機龍はまもなく爆発する、機龍とメカキングギドラの戦いに巻き込まれるなっ!」
「了解っ! Gフォース、全隊に通達っ! ただちに機龍から出来るかぎり距離を取り、退避してくださいっ……!」
機龍とメカキングギドラが繰り広げる怒涛の怪獣プロレス、それらから距離を取って退避し始めるGフォース。
まるでそのタイミングを見計らっていたかのように、機龍は次の行動へと移り始めた。
ぱん、ぱん、ぱん。
鋭い発砲音と共に打ち出されたのは、無数のワイヤー。
日頃は、機龍の機体自身を空輸するとき吊るしてもらう目的で装備されているはずの牽引ワイヤー。けれど今度は、違った用途で使われようとしていた。
打ち出されたワイヤーで絡めとられたのは、這う這うの体だったメカキングギドラだ。
「……っ!!」
慌てて逃げ出そうとするメカキングギドラ。だけど機龍はその首根っこを捕まえ、両腕でもってしがみつく。メカキングギドラは死に物狂いで藻掻いていたけれど、そんなメカキングギドラを機龍もまた決して離そうとはしない。
そんな光景を前にして、ハヤマはこんなふうに言った。
「なんだか、機龍が『俺に任せて逃げろ』って言ってるみたいだよな……」
……今にして思えば、思い当たる節はいくつもあった。
けれど、そういうときは決まって引き渡し先で不調が続き、結局機龍は機龍隊へと戻された。いくら検査を重ねても原因不明、エラーらしいものは見つけられなかったという。そんなことを繰り返すうちに、上層部はわたしたち機龍隊を潰すことを諦めてしまった。
それに21年前、わたしがこの目で直接見た機龍の暴走事故。あのときの動きはどう見ても狂ったコンピュータのバグなんかじゃなかった。あとで周りからは人間から見た擬人化、アンスロポモルフィズム、つまりはただの錯覚だと説明されていたけれど、わたしにはやっぱりどうしても明確な意思があるようにしか思えなかった。
機龍隊での大活躍だってそうだ。もちろんオペレータであるアキバ、そしてわたしたち機龍隊の腕がいいのもあるのだろうが、ただそれだけであんなに大活躍できたろうか。
機龍の“不調”“暴走”“大活躍”だと思われていたもの。ホントはそれらこそが機龍の本当の心で、いつもはわたしたち人間の操縦に合わせてくれていたのだとしたら……?
……機龍。あんたはずっと、わたしたちと一緒に戦ってくれてたんだね。
そのことにようやく思い至ったとき、突如わたしの携帯端末に着信が届いた。
懐の携帯端末を取り出して開いてみると、画面には数文字だけが並ぶ簡潔なショートメッセージが映されていた。端末の画面、そこにはこう書かれている。
“SAYONARA HARUKA”
「サヨナラ、ね……」
機龍から託された最期の想いを、わたしは固く握り締めた。
……わたし、泣いてるんだろうか。目元から頬にかけ、熱いものが溢れ出るのを感じる。Gフォース、機龍隊、そしてメカゴジラ機龍。21年分の想いが怒涛の勢いで押し寄せてきて、わたしがいくら堪えても止められそうにない。
……たしかに、『ちょっとくらい応えてくれてもいいじゃん』とは思ったよ。ええ、思いましたとも。
けど、けれど、だけどさ! わたしは思いの丈を絞り出す。
「最後の挨拶だけ応えてくれたって遅いのよ、あのバカ……ッ!」
そんな中でも、わたしは動かなければならなかった。それがわたしの仕事だから。
アンザイ、サエジマ、そして前線からは続々と報告が上がってくる。
「Gフォース全隊退避完了を確認!」
「機龍、臨界点突破! まもなく起爆します……ッ!」
「我々も建物内へ退避をっ!」
わかってるわよっ。
まもなく起こる大爆発に備え、わたしたち機龍隊もまた屋上から建物の陰へと避難する。
その去り際、わたしは心の中で機龍へ告げた。
……ありがとう、機龍。
そして巻き起こる盛大な大爆発。
街を、空を、大地を呑み込む巨大な爆炎が、メカゴジラ機龍とメカキングギドラを呑み込んだ。
今回の話、全体的にこのタイトルがやりたくて書いてた節すらある。
この文章で気に入ったヒロインを教えて
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ヤシロ=ハルカ
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キサラギ=アズサ
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アンザイ=リンコ
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小美人(イコナとマユナ)
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マイア=シモンズ
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キラアクくんちゃん
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ノジマ=トモカ
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Li11-E