気づいたらメカゴジラ転生して20年経ってた   作:よよよーよ・だーだだ

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最終回です。


エピローグ
28、気づいたらメカゴジラ転生して20年経ってた


 ぼくは目を覚ました。

 

 けれど、すぐさまそれがおかしいことに気がつく。ぼくは、メカゴジラ機龍は、たしかゴジラに連れられて、人の手が届かない海の底へ永遠に葬られたはずだ。

 ……いったい、ここはどこだろう。明るくも無いし暗くもない。寒くもなければ熱くもないし、上も下も左右も感じられない。先程メカキングギドラを通じてキングギドラの親玉と対話したときの高次元空間に似ていたけれど、あの空間に充溢していた歪で嫌らしい雰囲気はさっぱり感じられなくて、むしろ澄み切っていて平穏だ。

 なんだか、心地よい。

 そうやって辺りを見回しているうちに、足元から声が掛かった。

 

「……目が醒めたのだ、メカゴジラ機龍?」

 

 そこに現われたのは……ゴジラの着ぐるみを纏ったハムスター?

 そのハムスターの身長は8.6センチメートル。怪獣サイズのぼくからすれば本当に小さくて見落としてしまいそうな大きさのはずだけれど、どういうわけか、ぼくはその存在を認識できていた。

 しかもそのハムスターは、ぼくにわかる言葉で挨拶してきたのである。

 

「へけっ。はじめまして、メカゴジラ機龍。ぼくのことは、〈ゴジハムくん〉とでも呼んでくれればいいのだ」

 

 ゴジハムくんって……まあ言い得て妙である。ゴジラの着ぐるみを纏ったハムスター、言われてみればたしかにゴジハムくんとしか呼びようがない。

 しかし、ゴジラの着ぐるみを纏ったハムスターが話し掛けてくるとか、だいぶ常識外れすぎるような……。

 

「常識外れで言うならメカゴジラ機龍、君たち怪獣も大概なのだ。なんなのだ、『骨だけのくせに自我に目覚めて暴走する』とか。現代の怪談なのだ」

 

 ぼくにそれを言われてもなあ……。

 ぼくが当惑していると、ゴジハムくんは「あ、そうなのだ」とふと思い出したかのように言った。

 

「ギドラのスカポンタンにはちょっとキツめに“お灸”を据えておくのだ。まあ難しいとは思うけど、あいつの言ったことは気にしないのだ。あいつは性格悪すぎて高次元世界(リアル)で友達が作れないから、確実に勝てる格下相手にオレツエーで粘着して憂さを晴らしてるだけのくだらないイキり金ピカひもQ野郎なのだ」

 

 可愛らしい外見の割には、物言いがなかなか辛辣だな、ゴジハムくん……。

 ぼくが内心でヒイていると、ゴジハムくんからは目敏く見抜かれてしまった。

 

「この姿? この姿は君に分かりやすい様に象っているただのアバター、ギドラが言うところの『端末』と似たようなものなのだ。もしもぼくの“真の姿”を観測したりしたら、いくら君の前世がゴジラでもSAN値がピンチで直葬されてゲームオーバーになるのだ」

 

 SAN値がピンチで直葬されてゲームオーバー? よくわからないけれど、とにかくヤバそうだ。

 

「まあ、つまり、今君の目の前にいるぼくは、世間一般に知られているハム太郎そのものでは無いのだ。ちなみに河井リツ子先生のハム太郎は同名の別個体が出てくる話もあるから、たとえぼくがハム太郎でも別に設定がおかしくなったりはしないのだ」

 

 ……なるほど? 存在Xとか管理者Dみたいな?

 

「……君、本当に前世が初代ゴジラなのだ? なんでそんなのを知っているのだ??」

 

 え、一般教養だと思うけどなあ。そこら辺のマンガや小説だったら、機龍隊の若手メンバーが読んでたのを何度か見たこともあるし。

 ぼくの返答にゴジハムくんは「ふーむ……」と釈然としないものを感じているようだったけれど、それはとりあえず脇に置いて本題を切り出した。

 

「君たちの世界には、ギドラのスカポンタンが酷い迷惑をかけてしまったのだ。特に初代ゴジラである君には。本当に申し訳ないことをしたのだ」

 

 そうやってぺこりと頭を下げたあと、ゴジハムくんは神妙な顔で言った。

 

「だからお詫び、というわけではないのだけれど、頑張ってくれた君にひとつ、『プレゼント』を用意したのだ」

 

 プレゼント?

 思わず聞き返したぼくに、「そうなのだ」とゴジハムくんは頷いた。

 

「メカゴジラ機龍、君は苛酷な運命に散々弄ばれた、君はそれこそ砕け散るまで戦った、だからもうこれ以上頑張らなくていいのだ。そんな君には今度こそ、君自身が望むとおりの『幸せな一生』を送ってほしいのだ。初代ゴジラでもなければメカゴジラ機龍でもない、本当に君が望む幸福な一生を……なのだ」

 

 なるほど……これが世にいう『神様転生』か。いつだったか、神様転生について不満点を述べたことがあったけれど、まさか本当に該当するシチュエーションそのものへお目にかかるとは思わなかった。

 そんなぼくの心情を読み取ってか、ゴジハムくんは満足げにニッコリ微笑んだ。

 

「そこまでわかっているなら、話が早いのだ。さあ、TS美少女に転生させてあげるから、何か希望があるなら何なりと望みを言うのだ。どんな美少女になりたいだとか、こんなチート能力が欲しいとか、こんな異世界に行ってみたいとか、こんなカワイ子ちゃんに囲まれて理想のハーレムを作ってみたいとか、叶えたい希望を何でも言うのだ」

 

 TS美少女は確定なの?

 

「そうなのだ。でないと人気が出な……もとい、こっちにも色々と都合があるのだ」

 

 そ、そうなのか……なんか余計なものが聞こえた気もしたけど、まあスルーしておこう。

 しかし、なんでもいい、希望、というけれど、途方も無さすぎてすぐには思いつかないよ。具体的にはどういうのがあるの?

 ぼくが訊ねると、ゴジハムくんは顔をくしくし擦りながら、得意気に説明してくれた。

 

「それこそ何でもあるのだ。ドラクエのパチモンみたいなファンタジー異世界をチート能力で大冒険してもいいし、5ちゃんねるだかまとめブログだかよくわかんない電子掲示板で楽しく遊んでもいい、SFや青春学園もの、貞操観念逆転にヤンデレ、悪役令嬢、能力バトル、二次創作もあるのだ。ちょっと前まではRTAとか、ウマ娘のトレーナーに転生とか、推しの子、呪術廻戦、ワンピース、ぼっち・ざ・ろっくなんかも流行ったけれど、今はどれも人気が落ち着いているのだ。まあどの世界にしても皆に好かれて幸せモテモテハーレムを作るとか、動画配信者になって人気者になるとか、ニッチなキャラに転生して意表を突く大活躍をするとか、そういうのがやっぱり鉄板なのだ」

 

 へ~、そうなんだ~……うーん、他の世界へお邪魔するのもどうかと思うし、既存のキャラクターになっちゃうのもなんだかなあ……TS美少女、どうしてもならないとダメ?

 

「ダメなのだ」

 

 ……ホントのホントに、どうしても?

 

「くどいのだ。どの世界のどの時代のどの国のどんなキャラに転生したとしても、既存のキャラクターに転生しないのならTS美少女転生者だけはとにかく決まりなのだ」

 

 そうかあ……だったら。

 ぼくは少し考えてから“望み”を口にした。それを聞かされたゴジハムくんは、へけっ、と首を傾げた。

 

「……そんなのでいいのだ? 他の人間たちなら、なんだかんだでもっと色々高望みするのだ? トレーナー、提督、プロデューサー、ハリポタ、呪術高専、仮面ライダー……ぼくたち高次元怪獣の力を使えば、それこそフィクションの主人公だって、なんでもござれなのだ」

 

 怪訝を通り越して却って気遣わしげなゴジハムくんに、ぼくは首を振る。

 ……いいんだよ。高次元怪獣からスゴいチート能力を授けてもらう、そんなのはもう沢山。君みたいな神様から身に余るほどの幸せを用意してもらっても、却って不幸になってしまうだけ。良いことなんかなーんもない。

 ぼくの答えに、ゴジハムくんが溜息を漏らした。

 

「……ふーむ。無欲なのだ。まあ謙虚なのはイイことなのだ。君のことはやっぱりリスペクトに値する、とても立派なヤツなのだ」

 

 そうやって感心しつつも、ゴジハムくんは「だけど、これだけは言っておくのだ」と続けた。

 

「どんな異世界転生をどれほどやり直したとしても『完璧な理想の人生なんてものは手に入らない』のだ。たとえそこが君が心から望んだ世界だとしても、そこにはまた違った不条理や理不尽が山ほどあって、そして君はその残酷な運命に弄ばれてゆくことになるのだ。そんな中で『その選択』をして、それでも君は後悔しないのだ?」

 

 しないよ、ゴジハムくん。

 迷いなく即答したぼくに、ゴジハムくんも納得してくれたようだった。

 

「よおし、それなら……ハムハムハムージャ、ハムムゥージャア~♪

 

 ゴジハムくんが呪文を唱えると同時に、ぼくのすべてが光に包まれる。

 こうして“ぼく”は、“わたし”へ転生を遂げたのだった。

 

 

 

 結局、わたしが転生したのは、元と同じ世界だった。

 ただ違ったのは、これまで生きてきた『怪獣黙示録』の最前線などではなくもう少し後ろ側、守られる側の人間の世界であることだ。

 この世界では怪獣にまつわるトラブルは相変わらず起こっていて、それ以外にも解決するべき問題はまだまだ沢山あるけれど、前線で戦ってくれている人たちのおかげかそれらもだんだん終息傾向。『怪獣黙示録』の最盛期を過ぎた今、人間と怪獣は互いに手を取り合える平和共存の道を模索し続けている。

 

 そしてゴジハムくんからの配慮によるものか、“わたし”の新たな人生は順風満帆、とても恵まれたものだった。

 生まれた家は『大金持ちの御令嬢の、勝ち組確定人生!』なーんてことはなくて、ごく普通の一般家庭の範疇に収まる程度ではあった。お金以外にも不便することもまああったし、我慢したものや諦めたものだって沢山ある。

 でも、生まれた世界はたしかに望んだとおり、恐ろしい怪獣災害とは無縁だ。肉親は優しく愛情深い人たちだったし、自分自身の心身だって至って健康、善い友達にだって恵まれた。

 学校に入って、いっぱい勉強して、部活もバイトも遊びも存分にやって、周りの友達とたくさん青春して。

 学校を出たあとの就活では高望みして挫折を味わって、それでもなんとか社会に出て、ついでに一人暮らしを始めたりもして。

 初めて入った会社の先輩たちは厳しかったけど、皆善い人たちばっかりで、そこで一生懸命に働いて。

 働き始めて最初の給料でちょっぴり親孝行なんかもして、両親を却って泣かせちゃったりして。

 ほどほどに山あり谷あり、ごく普通の平凡な人生。ダイジェストに起こせばどうってこともないかもしれないけれど、それで満足だ。

 

 ……“ぼく”は、見てみたかった。

 ハルカたちGフォース機龍隊、いいや、あの世界の人たちみんなが命懸けで守ろうとしていた世界、そこでの暮らしが果たしてどのようなものなのか。

 そこで生きる人生に行き過ぎた力なんてものは必要ない。むしろぼくは、どこにでもいるようなごく普通の人間として生きてみたかった。だから『神様からの転生特典、人知を超えたチート能力』なんてものはちっとも要らなかったのだ。

 

 

 

 

 そんなこんなで気づいたら、転生して20年経ってしまった。

 ……その日わたしは、会社の同僚であるマサアキさんと東京日比谷の映画館で待ち合わせることになっていた。有体に言えば、まあ、その、つまり、デートって奴だ。マサアキさんとは親しくお付き合いさせてもらっていて、互いの気持ちを徐々に深め合いつつあった。

 映画の後はディナーの約束も入っている。マサアキさんの話だと今夜の食事は映画館と同じビルに入っている、ちょっと奮発した感じのオシャレなフレンチを予約したのだという。テラス席から東京の美しい夜景が見えるので有名な、とってもロマンティックなデートスポット。

 今回の、その、デートへ向かうにあたって、わたしはひとつ予感していた。

 ……今回のディナーの時、わたしはきっとマサアキさんからプロポーズされるだろう。そしてわたしはきっとはっきり答えるのだ、「Yes」と。

 

 そんな期待に胸を膨らませながら、わたしはひとり映画館のロビーで待っていた。

 約束の時間よりも10分前。ちょっと早すぎた、先走ってしまったかな。まあいいか、遅れてくるよりは。

 化粧室で身形を整え、飲み物とポップコーンを買って、ロビーのベンチで座って待っていると、映画館の入退場口から観客がぞくぞくと出てきた。どうやら先に上映していた映画が終わったようだ。

 親子連れ、映画オタクっぽい人、お年寄りと孫、会社員、仲の良さそうな兄妹……沢山の人たちがぞろぞろ退場してきた。出てきた彼らの表情はどれも満足し切った顔で、彼らが観たのはとても楽しい映画らしかった。

 そんな中、ふとこんな声が聞こえてきた。

 

「カッコよかったね、メカゴジラ機龍!」

 

 聞き覚えのあるフレーズに、思わず耳をそばだててしまった。

 ……『怪獣黙示録』がすっかり収まりつつあるこの時代。怪獣災害から守られる街の人々にとってゴジラや怪獣たちは、現実の脅威では無く傍迷惑だけど愛すべき隣人、でなければフィクションのキャラクターに過ぎなかった。

 “前世”で怪獣災害の最前線を知ってるわたしからすると「まったく好い気なもんだ」と呆れないでもないけれど、最近はむしろ「これは善いことなのだ」と思うようにしている。街の人たちが怪獣たちをフィクションとして楽しめる世界、それだけ前線での頑張りが報われて、その後ろで暮らす一般市民が平和を謳歌しているってこと。そう、むしろこれは素晴らしいことなのだ。

 

 そういえば今日は、そのゴジラ映画シリーズの新作の公開日だったっけと思い出す。

 映画のタイトルは『KIRYU FINALWARS』、監督は特撮怪獣映画の巨匠エガートン=オーバリー。マサアキさんは彼の作品の大ファンで、オーバリー作品の話になるとオタク特有の早口で事細かに説明してくれるものだからわたしもなんとなくは知っているのだけれど、件の新作『KIRYU FINALWARS』にはどうやら『怪獣黙示録』最大の武勲艦として愛されている人気キャラクター:メカゴジラ機龍が出てくるらしい。

 映画を観終えた男の子は中学生くらいだろうか、男の子は母親とおぼしき連れの女性にせがんでいた。

 

「ねえ、このあと機龍ミュージアムに行こうよ! また母さんの機龍の話、聞きたい!」

 

 ……メカゴジラ機龍。遠い昔の思い出だ。怪獣については“前世”で散々だったのでオーバリーのゴジラ映画シリーズは全く観ていないのだけれど、カッコよく撮ってもらえていたら、まあ、それでいいかな。

 そんなことを取り留めなく考えていると、はしゃぐ息子の言葉へ穏やかに答える母親の声が聞こえた。

 

「そうね、ハルオ。今度行きましょうか」

 

 忘れるはずの無い“彼女”の声。わたしは即座に振り向き、目を見開いた。

 ……わたしは、いや“ぼく”は、ヤシロ=ハルカのことならなんでも知っているようなつもりだった。

 けれど、実際に前世のぼく:メカゴジラ機龍がハルカと過ごしたのは『怪獣黙示録』の時代、怪獣相手に戦場で戦っていたときだけだ。だからぼくは、本当はハルカのことなんて何にもわかってなかった。

 ぼくはちっとも知らなかった。

 

 

 

 平和な世界で家族と共に暮らすヤシロ=ハルカが、こんな素敵な笑い方をする人だったなんて。

 

 

 

「……母さん、あのお姉さん、こっち見て泣いてるよ?」

 

 男の子の声で、“わたし”は我に返った。

 目元に触れてみると、たしかに濡れていた。せっかく一世一代のデートに向けて化粧を整えたのに、これじゃあ台無しだ。早く何とかしないと。けれど、溢れ出る涙と嗚咽が止められない。どうしよう、どうしよう、とにかくなんとかしないと……。

 そうやって慌ててベンチから立ち上がろうとしたわたしを見て、今度は母親の方が声を上げた。

 

「あッ、ジュースが……!」

 

 ……ジュース?

 その言葉の意味を理解するよりも先に、わたしのスカートへ飲み物とポップコーンが盛大にぶちまけられた。なんてヘマだ、膝の上にさっき買った飲み物を乗せていたことすら忘れて、そのまま立ち上がろうとするなんて!

 

「あ、あーあー……大丈夫ですか?」

 

 すぐさま母親が駆け寄ってきて、ティッシュを出してわたしのスカートを拭いてくれた。他方わたしもハンカチを出して拭きとろうとしたけれど、なかなかうまくいかない。

 ……やっぱり君の言ったとおりだったね、ゴジハムくん。このときばかりは自分にチート能力が無いことが恨めしかった。こういうときにさっさと上手く立ち去れるような、何かそういう巧いチート能力でもあったらよかったのに。

 母子はというと、どうやら男の子が声をかけた拍子にわたしがビックリして飲み物を零してしまったと思ったらしい。零れた飲み物を一通り拭き終わったあと、母子は顔を揃えてぺこぺこと謝り始めた。

 

「ごめんなさい、お姉さん……」

「すみません、うちのハルオが……フード代とお洋服のクリーニング代、弁償させてください」

 

 いえ、いいんです。わたしが勝手に零しただけですから……。

 わたしはそうやって固辞しようとするのだけれど、母親の方は頑として受け容れなかった。

 

「いえ、ぜひ弁償させてくださいっ! 素敵なお洋服、きっと大事な用事かなにかあったんじゃあないですか?」

 

 ……やっぱりハルカはハルカだ。たとえ此処が命懸けの戦場じゃなくても、こういう筋を通そうとする真っ直ぐで頑ななところはちっとも変わってないんだね。

 そうやって彼女の顔を見つめて物思いに耽ってしまっていたからだろう、母親は不思議そうに首を傾げながらこんなことを訊ねてきた。

 

「あ、あの……どこかでお会いしたことが?」

 

 ええ、あなたとは21年間ずっと一緒だったよ……此処とは違う、あなたさえ知らない前世の話だけれど。

 そう正直に答えるわけにもいかないので、わたしはこう答えた。

 

「きっと気のせいです。わたしの方も、てっきり古い友達に似ていたように思ったものですから」

 

 ……まあ、あながち嘘でもないだろう。前世におけるヤシロ=ハルカは20年来の戦友、かけがえのない大切な親友だったのだから。

 答えるだけ答えたあとわたしは、改めてベンチを立った。

 

「あ、あのクリーニング代……」

「い、いえ、本当に結構ですから!」

 

 引き止めようとする母親を振り切り、わたしはその場から一刻も早く立ち去ろうとする。

 ……約束の時間まであと5分、マサアキさんはまだ来ていない。仕方ない、今日のデートは中止にさせてもらおう。「急に体調が悪くなった」とでも言えばきっとわかってくれる。無論、ディナーのキャンセル代はこっち持ちにさせてもらうつもりだ。そうじゃないとマサアキさんにいくら何でも申し訳なさすぎるし。

 そう考えて、足早に発とうとしたときだった。

 

「待って!」

 

 母親の方が、突然わたしの手を掴んだ。力ずくで引き止められ、わたしは思わず振り返る。

 ……ハルカ、本当に君のことは知らないことばっかりだ。人肌でじかに触れた君の手の温もりが、こんなにも温かかっただなんて。

 

「あ……」

 

 そんな感慨で立ち止まっているわたしを見て、母親もすぐさま我に返った。考えるまでもない、相手の手をいきなり掴むなんて、傍から見れば不躾な振る舞いだ。ましてや初対面の相手にすることじゃない。

 

「あ、ごめんなさいっ!」

 

 母親は慌ててわたしから手を離し、それから言い訳めいた口調でこんなことを言った。

 

「つい……なんだかわたしも、古い友達に似ているような気がしてしまって……」

 

 そうやって慌てふためくその顔も、かつての21年間でずっと見てきた表情だった。気さくで、正直で、真っ直ぐなヤシロ=ハルカ。たとえここが怪獣と戦う戦場じゃなくっても、ハルカはやっぱりハルカなのだ。

 そのことがなんだか、とても可笑しい。

 

「……ふふっ」

 

 そしてわたしは、いや“ぼく”は、この場からさっさと逃げ去ってしまいたいという気持ちが自分の中からすっかり失せていることに気がついた。

 知りたい。ハルカは今、何をしているのだろう。

 機龍隊による最終決戦から、早数年。ヤシロ=ハルカは機龍隊を辞めているはずだけれど、その後いったいどんな人生を送ってきたんだろう。機龍隊を辞めた今どんな暮らしをしていて、アキラさんやハルオくんとはどんな家族関係を築いていて、そして守りたいものたちの未来のためにいったいどんな戦いを繰り広げているのだろう。ぜひとも教えてほしい。そんな気持ちになりつつあった。

 そんなこちらの勝手な心境の変化に気づかないまま目の前の母親、ヤシロ=ハルカさんは怪訝な顔で問いかける。

 

「あの……本当にどこかでお会いしてません?」

 

 心底不思議そうな様子のハルカに“ぼく”は笑いかけた。

 

「いえ、本当に古い友達に似ていたものですから」

 

 連絡先、メモに書きますね。

 そう言ってわたしは、メモ帳を取り出した。





おまけ:今回の登場怪獣リスト
1、メカゴジラ機龍
2、ゴジラ
3、アンギラス
4、エイペックス=メカゴジラ
5、ドローン=タイタン
6、モスラ
7、フェアリーモスラ
8、ナノメタル=メカゴジラ
9、ゴジラ・タワー
10、メカゴジラ=シティ
11、Li11-E
12、ブラックメカゴジラ
13、プロトモゲラ
14、ガイガン
15、ファイヤードラゴン
16、メカキングギドラ
17、高次元怪獣ギドラ
18、ベビーゴジラ
19、ゴジハムくん

20体には届かず……無念。

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  • ヤシロ=ハルカ
  • キサラギ=アズサ
  • アンザイ=リンコ
  • 小美人(イコナとマユナ)
  • マイア=シモンズ
  • キラアクくんちゃん
  • ノジマ=トモカ
  • Li11-E
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