気づいたらメカゴジラ転生して20年経ってた 作:よよよーよ・だーだだ
その後わたしたちは、エイペックス社のマイア=シモンズについて調べた。
調べたといってもネットで軽く検索しただけ、だけど彼女の情報はすぐに出てきた。なぜかって? マイア=シモンズはエイペックス社の広告塔だったからだ。
わたしがネットの画面を眺めながら、彼女のプロフィールを読み上げる。
「マイア=シモンズ。年齢は20。エイペックス社のCEOで、最新モデルであるエイペックス=タイタンのテストパイロット……」
そもそもエイペックス社とは、アメリカに本社を構える世界最大の多国籍企業の一つだ。今日の夕飯から紛争地域の軍事まで幅広く手掛けるいわゆる“軍産複合体”という奴で、モナークや我々Gフォースとも提携しての共同研究や相互での技術供与を行なったりしている。
そしてマイア=シモンズはそのエイペックス社の現CEO。プロフィールによれば会長であるウォルター=シモンズ氏の一人娘なのだという。アキバはうんざりしたように呆れ笑いを溢した。
「社長令嬢でパイロットかよ……ガンダムじゃあるまいし、怪獣退治はロボットアニメのごっこ遊びじゃあねーんだぞ」
そんなアキバのぼやきに、キサラギが口を挟む。
「でも彼女、オペレータとしての実力はホンモノよ。見たでしょう、あのエイペックス=タイタンの挙動を」
キサラギの指摘に対し、アキバも「う、うむ……」と頷くしかないようだった。
たしかにキサラギの言うとおりだった。怪獣の序列で言えば上から数えた方が早い強豪怪獣アンギラス、それをあっさり叩きのめして瞬殺したエイペックス=メカゴジラのスマートなあの動き。エイペックス=メカゴジラがそれだけ高性能だということもあるのだろうが、それを乗りこなせるマイア=シモンズの技量も相当に高いものに違いない。
キサラギの言及に続いて、サエジマが分析を述べる。
「エイペックス社としては、マイア=シモンズ女史を『自ら怪獣と戦うヒロイン社長令嬢』として打ち出すつもりなのでしょうね。それに彼女、若いし、美人ですし」
「……サエジマさん、『若いし美人』ってとこ、わざわざ言う必要あります?」
「ぼくはただ
「……別に、いいですけどっ」
そう言われてみて、わたしはマイア=シモンズの容姿を改めて思い出してみた。くっきりとした目鼻立ちと健康的に日焼けした肌、緩やかなウェーブの掛かった黒髪。すらりと長い手足と鍛え抜かれた体躯もスタイル抜群、会社の広告塔としてはこの上ない美貌だろう。
しかし。
「怪獣と戦うヒロイン社長令嬢、ねぇ……」
……ふっ。
わたしは、かつて『オペレーション=エターナルライトの戦乙女』なんて呼ばれていた自身のことを思い出してしまった。
英雄、戦うヒロイン? そんなの全然いいもんじゃあない。わたしが実際にオペレーション=エターナルライトでやったことと言えば怪獣どもに追われて、死に物狂いでメーサーを走らせて、やっとのことでようやく生き延びた。ただそれだけのことだ。
それなのに帰った途端アイドル扱いされて、一時は見世物にされたようなものだった。あのときはわたしもティーンエイジャーで若かったから、
まあ、オペレーション=エターナルライトに関しては、あれがきっかけでアキラとも出会えたわけだから、そう悪いことばっかりでもなかったけど。
「隊長、なにをニヤけてるんですか?」
「え、あ、いや、ちょっと昔をね?」
独り口元が笑っているわたしに気づいたキサラギ、それを慌てて誤魔化すわたし。アキバ、サエジマ、アンザイ、他の隊員たちもよくわからなかったのか不思議そうな顔をしている。いやわからなくていいの、そんなん。おいこらハヤマ、そこ意味がわかったからってニヤニヤ含み笑いするんじゃあないっ。
……おほん。ま、それはとにかく。
「マイア=シモンズ、ああ見えて頭もキレるタイプよ。自分が成り上がるためなら、親のコネでも容姿でも躊躇なく使う。まさに政治家タイプ、要注意ね」
わたしがそう締めくくったちょうどそのとき、つけていたテレビからひときわ大きな歓声が聞こえてきた。
「あ、始まるみたいですよ、量産型メカゴジラの引き渡し式!」
アンザイの一声で、わたしを含む機龍隊隊員一同がテレビへと振り返った。
『機龍さえも倒し損ねた暴龍:アンギラスを見事討伐』という華々しい初陣を飾ったエイペックス=タイタンこと、エイペックス=メカゴジラ。その後の活躍もめざましいものがあった。
スカルクローラー、クモンガ、カマキラス、ラドン、エビラ、ZILLA……世界各地を襲った数々の強敵怪獣をエイペックス=メカゴジラは難なく制圧。かくして試験運用も滞りなく無事完了し、プロトタイプの運用データを引き継いだ量産モデルのドローン=タイタンたちも各地のGフォース拠点へ配置されることになった。
そして今日はその引き渡し調印式。機龍隊一同、式典の様子を映すネット中継映像へと注目した。
引き渡し式は燦々と陽の注ぐ真昼間、オーストラリアのシドニーで行われていた。
シドニーの沖合海上に建造された人工島、そこに設営された広大な屋外特設ステージ。その上の特設ハンガーに並び立つのはエイペックス=メカゴジラとその量産型であるドローン=タイタン。観光名所であるオペラハウスとハーバーブリッジを背にし、燦々と降り注ぐ南洋の日差しを照り返しながら、ずらりと並び立つメカゴジラたち。まさに圧巻、鋼鉄の軍団だ。
そんなメカゴジラの軍団を前にした観衆たちは、期待に胸を膨らませながら歓声を轟かせている。その前方にはエイペックス社の重役や関係者が座しており、彼らの表情には高揚と自信が溢れ出ているかのようだった。
〈ごらんください、この熱狂!〉
中継を行なっている報道リポーターが捲し立てる。会場のエキサイティングな熱気に圧倒されてか、その語り口調はいささか興奮気味だ。
〈会場に駆け付けたのは数千人、この式典会場の入場チケットの倍率は10,000倍以上、新たなメカゴジラたちの御披露目を一目でも見ようと、世界中の人々がこの式典へと注目しています! これぞまさに人類の〈新たな希望〉! 今まさに、新しい時代が始まろうとしています……!〉
会場のカメラがシドニー会場を一通り映したところで、続いてステージの上へと切り替わった。ニューヨーク、パリ、リオデジャネイロ、サンティアゴ、ニューデリー、カイロ、マニラ、上海、香港、ソウル、沖縄……引き渡し会場で各地のGフォース代表へ引き渡されてゆくエイペックス=タイタンたちと、歓声を上げて迎え入れる世界中の人々。
「……しっかし、ひでぇ話だよな」
なにが?
機龍隊一同で振り返ると、機龍隊のアキバが「だって、」と不満げな顔でぼやいていた。
「後任のロボット怪獣たちはこんな盛大に迎えてもらえてるのに、前任のおれたちはこうして会場にも入れず最寄りの港で待機、機龍に至っては空母に置きっぱなしだもんな」
アキバの言うとおりだった。
エイペックス=メカゴジラはこんなに盛大に式典まで開いてもらえている一方で、わたしたち機龍隊と言えば式典会場の近くで沿岸警備を命じられていた。警備といっても実際は空母サラトガで待機しているだけ、暇を持て余したわたしたちに出来ることと言えばこうしてテレビを観ながら腐ることぐらいしかない。
「何より不憫なのは機龍だ。後釜のエイペックス=メカゴジラがこんな盛大な式をやってもらえてるのに、機龍の方はその目と鼻の先でこうして隅っこで立ちんぼう。こんなの、可哀想じゃないか」
アキバの想いは、機龍隊のメンバーなら誰もが共感できるものだった。
そもそもこれまで20年以上、人類の平和を守るために戦い続けてきたのは機龍の方じゃないか。その機龍が来年退役するというのだから、巷でももうちょっと気に掛けてもらえてもいいのにとわたしでさえ思う。
だというのに、今や世界中の興味関心はポッと出の新型ロボット怪獣どもに軽くカッ攫われてしまった。実際、メカゴジラ機龍の退役を話題にしてくれているのは、せいぜいがネットのマニアックなミリタリーオタク界隈くらいらしい。新しい物好きが世の常とはいえ、世界中から熱烈な歓待を受けるエイペックス社のメカゴジラたちの華々しい扱いを目の当たりにしてしまうと、やっぱり、ちょっと、ねえ?
「でもまあ、仕方ないでしょ」
と、キサラギが肩を竦めて応えた。
「機龍、ああ見えて結構ナイーブだしね。こないだも原因不明の機能停止を起こしたばっかりだし、下手に式典なんか出して暴走でもしたらどうすんのって話もあるでしょう?」
「そりゃ、まあ、そうだが……」
尤もなキサラギの指摘を受け容れつつも、アキバは納得しきれていないようだった。そこへサエジマが冷静に口を挟む。
「これまで機龍はワンオフ、一機しか造れなかったけれど、これからは同等以上のものが世界中に配備されるわけですからね。いわば国ごとに専属の機龍が着いて守ってくれるようなもの。機龍一機に頼りきりだったこれまでの状況と比べたら、世界中の人たちが歓迎するのも無理ないですよ」
「だよなぁ……」
世知辛い現実を前に、アキバたち若手連中は目に見えて気を落としていた。そんな彼らの肩を、副長のハヤマが「まあ、気持ちはわかるが」と叩いた。
「機龍、そしておれたちの戦いがなければエイペックス社の連中もドローン=タイタンを造れちゃいない。おかげで世界はより平和に、皆安心して暮らせるようになるんだ。その礎になれただけでも充分だろ」
「……まぁ、そうっすね」
さて、アキバのぼやきも一区切りついたところで、わたしたちの関心は再びネット中継に映る式典へと戻った。ネット画面の中に映る引き渡し式の光景、並び立つGフォースの高官とエイペックス社の重役たち。その中に混じって、わたしたちも見知った顔が映り込んでいた。
「あ、マイア=シモンズ」
キサラギが呟いたとおり、映っているのは先日我々機龍隊と小競り合いを起こしたエイペックス社の社長令嬢、マイア=シモンズだ。そんな彼女は今、エイペックス社の重役たちを率いながら周囲へ愛想よく笑顔を振りまいていた。きっと彼女も、エイペックス社の代表として式典に出席しているのだろう。
やがて司会者の前説が終わり、ステージに一人の男が上がってくるのが映された。機龍隊のサエジマが説明した。
「こちらはウォルター=シモンズ氏ですね。マイア=シモンズの父親で、エイペックス社の会長ですよ」
頭髪に白いものが混じる程度には老齢であるはずのウォルター=シモンズ氏だが、その背筋は真っ直ぐ伸びていて、踏み出す歩みもまた力強い。世界経済を牛耳る軍産複合体、まさにその総帥たるカリスマが総身から溢れ出ていた。
壇上に立ったウォルター=シモンズは会場、いや全世界へ向かって語り始めた。
〈会場の皆さん、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。本日は我が社、エイペックス社が誇る新型メカゴジラ、エイペックス=タイタンシリーズの引き渡しの日を迎えることができ、大変光栄に思っております……〉
大仰な身振りと、メリハリの利いた語り口、観客の心を惹きつけてゆく不思議な魅力。ざわついていた観客席の狂騒は徐々に静まってゆき、シモンズ氏のスピーチに耳を傾けてゆく。
静まり返った会場の中、シモンズ氏はスピーチを続けた。
〈この私、ウォルター=シモンズについてこう評する方がいます。『このメカゴジラを一人で造り上げた』と、そのように仰る方もいます。身に余る言葉ではありますし、私自身そのように自負したいところもあります、が……〉
と、ここでシモンズ氏はにこやかな微笑みを浮かべた。
〈それを成し得たのは私一人の力では到底ありません。『怪獣黙示録』と呼ばれるこの時代、今もなお世界各地で怪獣の襲撃が続くなど、私たち人類はかつてない非常事態に直面しています。この危機に立ち向かうために、私たちは力を合わせ、研究と開発に取り組みました。これらはまさに人類の英知の結晶、我々人類の真の強さなのです。常識を覆す突飛な奇想発想、そんなアイデアは大歓迎です。私自身もそんなアイデアで財を成し、成功を収めました。それらすべての地道な積み重ね、無数の蓄積、それらこそが私たち人類の歴史であり、その上に立つのが現在であり、その先にあるものこそが我々人類の未来であります……〉
……この会長さん、敵ながらなかなか良いこと言うわね。いや、敵ではないんだけどさ。
『怪獣黙示録』の時代、壮絶で苛烈な不条理を勝ち残り、今や
そんな風にわたしが密かに感心していたちょうどそのとき、ふと声がした。
「「……ヤシロさん、ヤシロさん!」」
ん? 誰かなんか言った?
誰かから呼ばれたような気がして、わたしはネット中継から目を離して周りへ顔を上げた。
「今の誰? 不意に変な声出さないでよ」
「わたしじゃないですよ!」
「ぼくでもないです!」
わたしは周囲の顔を見回したのだけれど、機龍隊の隊員は誰一人覚えが無いようだった。いや、でも今たしかに声がしたような、それとも聞き違いだったかしら。
首を傾げていると、再び声が聞こえてきた。
「「ここです!」」
振り向いた先はテーブルの上、そこには“二人の妖精”が立っていた。大きさは手のひらサイズ、その小さな身体に淡い光を帯びており、ひいては熱帯の蝶のような艶やかさがある。目鼻立ちも可愛らしく、まさに光を纏った美少女。
そんな神秘的な妖精たちを目の当たりにして、真っ先に反応したのは機龍隊のアンザイとサエジマだった。二人は、おずおずと口を開く。
「た、隊長……!?」
「この人たちは……?」
……あ、そっか。彼女たちとの関わりはアンザイとサエジマが入る前だから、わりと新参の二人はまだ知らないんだっけ。
不安げな表情を隠せないアンザイとサエジマに、わたしは説明してあげた。
「心配いらない、古い友達よ」
そんなわたしの言葉に小さな発光妖精、〈インファントの小美人〉たちは「はい! お久しぶりです、ヤシロさん!」と愛想よく腰をかがめて挨拶してくれた。
そしてわたしは、膝をかがめて目の高さを合わせながら小美人たちへと笑いかける。
「久しぶりね、イコナ、そしてマユナ」
インファントの小美人、イコナとマユナ。二人の小美人たちは、わたしからの挨拶を受けて無邪気な笑顔をほころばせた。
「覚えていてくださったのですね!」
「当たり前でしょ、忘れるわけがないじゃん」
小美人たちは、かつてわたしたちGフォースと肩を並べて戦ってくれた大切な仲間だ。キングギドラやデスギドラとの戦いでも力を貸してくれたし、ダガーラの一件でも危ないところを助けてくれた。そんな彼女たちとはここしばらく顔を合わす機会がなかったのだけれど、二人とも元気にしてくれていたようで何よりだ。
とはいえ、である。わたしは気持ちを切り替えて言った。
「ところで今日はどうしたの? わざわざ『遊びに来てくれた』ってわけでもないんでしょう?」
小美人たちがわたしたちのところに来るときは大抵、怪獣絡みの何かがあるときだ。今回だってきっと何か重要な使命があるに違いないのである。
わたしからの問いかけに、小美人たちは逡巡していたけれど、やがて意を決した様子で口を開いた。
「……おねがいです、ゴジラの骨を海に還してください!」
聞き捨てならない言葉だった。『ゴジラの骨を海に還す』? つまり機龍に組み込まれたゴジラの骨のことを言っているのだろうか?
どういう意味なのかわたしが問い質すと、小美人たちは「「はい!」」と返事をした。
「『生命は限られた時の中にこそあるべし』……インファントに伝わる古い言葉です」
「人間が、死者の魂に手を触れてはいけない。ゴジラの骨は海底に戻し、時の流れの中に葬らねばなりません」
ですから、と小美人たちは声を合わせて言った。
「どうかお願いです。どうか、そろそろゴジラの骨を海に還してあげてください。さもないと……」
さもないと……?
続きを促すわたしたちへ、小美人たちは悲しげに答えた。
「わたしたちは、いいやモスラまでもが、あなたがた人間の敵にならねばなりません」
モスラが、敵に?
にわかには信じられない発言だった。人間の味方であるはずのモスラが、敵になるだって?
動揺するわたしたちを見た小美人たちは、至極残念そうに目を伏せた。
「もちろん、わたしたちはそれを望んではいません」
「もちろんモスラも。わたしたちもモスラも、あなたがた人間のことは大好きですから」
しかし、と小美人たちは言う。
「人間が、ゴジラの骨から戦いの道具を作ったのはやはり大きな過ちでした」
そう言った途端、隊員たちはいきり立った。
「機龍を作ったのが間違いだ、って言うんですか!?」
いつになく真っ先に噛み付いたアンザイへ、小美人たちは言って聞かせるように答えた。
「『怪獣黙示録』のこの時代、機龍と呼ばれるあの存在が無ければ生き残れなかった、皆さんの事情は理解しています」
「そして長く激しい戦いの末に、今ようやく平和を勝ち取ろうとしているのだということも」
ですが、と小美人は溜息をついた。
「ニガシオの“ミサキオク”から人手に渡ったゴジラの骨……」
「あれが新たな災いを引き起こさなければ良いのですが……」
ニガシオのミサキオク。その名前を聞いた途端、アキバが口を挟んだ。
「おれ、大昔にオヤジから聞いたことがあります! 『機龍に使われてるゴジラの骨は“ミサキオク”で回収されたものだ』って。ミサキオクがどこのなんなのかは知らないけど……」
言われてみてそういえば、アキバの父親が政府の高官であることにわたしは思い当たった。機龍に使われているゴジラの骨の出所について、巷でも知る者はいないトップシークレットだ。だけど政府の高官であれば、あるいはそういう“極秘事項”を小耳に挟むような機会もあったかもしれない。
それにミサキオクはともかく、“ニガシオ”であればわたしも聞き覚えのある名前だった。日本の千葉県南部、
まあ、それはともかく。わたしは言った。
「……まあ、あなたたちが“お願い”するまでもないと思うよ? わたしたちの機龍は引退が決まってるし」
「そう、なのですか?」
ええ、そうよ。
きょとんと小首を傾げている小美人たちにわたしは、機龍が来年で退役することを説明してあげた。
「……というわけで、わたしたちは来年からはお払い箱。機龍に組み込まれているゴジラの骨が海に還されるのかどうかはわからないけど、少なくとも機龍が原因でどうこう、ってことはもう無いんじゃない?」
「そう、でしたか……」
それに、とわたしはネット中継の画面へ目をやった。
「あんな立派な“後継ぎ”がいるしね」
「アトツギ?」
ええ、そうよ。
そしてわたしはネット中継の画面を指し示す。画面にはウォルター=シモンズ氏の熱弁で大いに盛り上がる大観衆と、その前で堂々と並び立つエイペックス=タイタンたちが映っている。
「ほら、ごらんなさい。わたしたち人類は自分で戦える力を手に入れた、むしろこれからはきっとあなたたちに頼ることも減るんじゃない? インファントのあなたたちもこれで平和にのんびり暮らせるでしょうね」
わたしは、小美人たちを安心させようと思って教えてあげたつもりだった。いつまでも、モスラのような優しい怪獣の好意に甘えてばかりいちゃいけない。それに人間としての沽券にもか関わることだしね。
けれど、ネット中継に映っているメカゴジラたちを目にした小美人たちは、思わぬ反応を示したのだ。
「あれは……!?」
「まさか……!!」
二人の表情に浮かんでいたのは、戦慄。
すぐさまわたしの方へ振り返った小美人たちが口にしたのは、予想外の言葉だった。
「「……あれは、“禍々しいもの”」」
禍々しいもの、だって? いったいどういうことだろう、『危険だ』ってことだろうか。まさかエイペックス社自身のこと……ではなさそうね。
小美人たちは、すぐさまお互いに顔を見合わせて話し合いを始めた。
「イコナ姉様、すぐに警告に行かないと!」
「ええ、マユナ、あれは危険だわ!」
ちょちょちょ、ちょっと待った! 気を急く小美人二人にわたしは割り込んだ。
「そんないきなり行っても門前払いを喰らうだけよ。“ハッピー興行社”の一件、忘れたの?」
ハッピー興行社。その名前を出した途端、二人の小美人は力無く項垂れた。
「……そう、ですね」
「あのときも人間の世界へ頼みに行って、酷い目に遭いました」
ハッピー興行社事件。かつて、ハッピー興行社という見世物屋が、事故で漂着したモスラの卵を使って金儲けをしようとした一大不祥事だ。そのときも小美人たちはモスラの卵を返すようお願いしに現れたのだが、聞き入れてもらうどころか捕まって見世物にされそうになったのだという。
ましてや今度の相手はハッピー興行社みたいなチンケな山師じゃない、世界経済を牛耳る世界的大企業、エイペックス社だ。そんな連中のところにこんなか弱い妖精姉妹が穏当に“お願い”しに行ったところで、到底相手にしてもらえないだろう。
だからさ。わたしは言った。
「連中のところに行く前に、まずわたしたちに話してみてよ。あるいはわたしたちも力になれるかもしれないでしょう?」
そんなわたしの言葉に小美人たちはしばらく考え込んでいたけれど、やがて意を決した様子で口を開いた。
「……あれには“邪悪なる者”の血が流れています、まさに禍々しいものです」
「あそこからは“星を喰う者”の意志を感じます、それも底無しの悪意を」
邪悪なる者、星を喰う者。それらのフレーズを反芻しているうちに、わたしの脳裏に先日ユハラ博士から受けた説明がよぎった。エイペックス=メカゴジラの制御系DNAコンピュータに使われているという画期的な新発明、M塩基。そのM塩基と似ているという“あの宇宙怪獣”のDNA。
“星を喰う者”って、いったい……?
その正体について問い質そうとしたとき、ネット中継の画面から一際盛大な歓声が上がった。思わず目線をやると、ネット中継ではちょうどウォルター=シモンズ氏の演説がクライマックスを迎えようとしていた。
〈この新たな希望、エイペックス=タイタンシリーズは、外見だけでなく、従来の兵器群と比べても遥かに強力です。このエイペックス=タイタンシリーズこそ、わたしたち人類にとって巨大生物に打ち勝つチャンスをもたらす福音。わたしは信じております。王の座に座ることができる者は一人だけ、それこそが神の意志であると!〉
そこで一旦言葉を切った後、シモンズ氏は改めて声高らかに宣言した。
〈今ここに、人類の未来を切り拓くための戦いを始めましょう! 我々の手で、我々自身の明日を勝ち取るのです! さあ、皆さん、共に立ち上がりましょう! 今この時より、我々はこの星の霊長の座を取り戻すのです! そして、戦いの時です! 我々こそが万物の霊長であるのだと! 掴みましょう、我々の手で、新しい時代の夜明けを……!〉
次の瞬間、会場で歓声が爆発した。ネット中継越しにもわかるほどの、大観衆の熱狂。世界さえも割れてしまいそうなほどの万雷の大歓声、その中でついにエイペックス=タイタンたちは人間の世界へと受け容れられたのだ。
会場の拍手を満足げに見下ろしたウォルター=シモンズ氏は、スピーチを締めくくろうとした。
〈……20年前、初めてメカゴジラと呼び得る存在が世界に姿を現した時、私は夢を抱きました。それはまさに夢でした、それは素晴らしい夢。フフッ、わかりますか? それがどんなものだったか。このわたしが……〉
だが結局、その言葉は途中で遮られることとなってしまった。
突如響き渡ったのは、金属質な咆哮。
観客やカメラ、つい今しがた熱弁を振るっていたウォルター=シモンズ氏自身さえも含んだ全員が、いっせいに振り返る。
視線が集まった先、そこにいたのはエイペックス=タイタンシリーズ最筆頭であるエイペックス=メカゴジラだった。
瞳には赤い光が爛々と灯っており、既に
……まさか。嫌な予感がした。
そうやってわたしたちが状況を見守っているうちに、エイペックス=メカゴジラは次の行動へと移った。
一瞬の静寂が漂ったあと、エイペックス=メカゴジラは、自身を拘束しているハンガーの拘束具にカギ爪をかけて力一杯に捻り上げた。
バチンッ、バキンッ、グシャッ。金属がねじ切られる耳障りな轟音と共に拘束具が千切れ飛び、弾けたその破片が観客席へと飛んでゆく。
〈キャーッ!?〉
〈ワアーッ!?〉
降り注ぐ残骸を避けようと、悲鳴を上げながら逃げ惑う観衆たち。人間たちの怯える姿を満足げに見届けたエイペックス=メカゴジラは、自身を取り押さえようとするハンガーのアームを振り払い、一歩前へ力強く進み出た。
エイペックス=メカゴジラに続いて、量産型であるドローン=タイタン軍団までもが勝手に動き出した。一斉に踏み出されるメカゴジラ軍団の巨大な一歩、鋼鉄で構成された巨体の歩みは地を裂くような轟音を響かせ、一帯はおろかネットの向こう側にいるわたしたちまでもを震撼させるかのようだ。
総重量3万トン以上にも及ぶ超重量の巨体が地面を踏み締め、会場の床や展示パネルは砕け散り、爆煙とともに舞い上がる。メカゴジラたちが動くたびに会場全体が揺れ、カメラが引っ繰り返って辺りは騒然、人々の中でパニック状態が加速してゆく。その容赦ない暴れっぷりは正義のメカゴジラなんかじゃあない、まさに怪獣、機械仕掛けのゴジラだ。
わたしは直感した。
――こいつら、人間を襲う気だ……!
そう思い至ったときには、わたしは考えるよりも先に行動を始めていた。あまりの事態に呆然とするしかない機龍隊のメンバーへわたしは振り返り、命令を下した。
「出番よ、機龍隊!」
唖然とすることしかできなかった隊員たちだったけれど、わたしからカツ入れされたことですぐに我に返ったようだった。
すぐに「了解!!」と声を合わせて力強く答える機龍隊一同。
さあ、出動だ!
好きなゴジラ映画のヒロイン
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