気づいたらメカゴジラ転生して20年経ってた 作:よよよーよ・だーだだ
エイペックス社の現CEO:マイア=シモンズにとって、この『エイペックス=タイタンシリーズの完成』は一世一代の晴れ舞台、人生の節目だった。
『宇宙をとびミサイルを撃ち込む! 全身が武器の凄いゴジラ!』
ゴジラを、怪獣たちを超えて、地球の主導権を人間の手に取り戻すこと。それが『怪獣黙示録』の悪夢に苛まれ続けてきた父ウォルターの夢であり、やがて娘のマイア=シモンズ自身の夢ともなっていった。
……エイペックス=タイタンの初陣でアンギラスと戦うことになったとき、マイア=シモンズが思い出したのは若くして亡くなった母のことだった。マイアの思い出の中では優しく、強く、そして逞しかった母。慈善家だったマイアの母はノブレスオブリージュの精神の下、『怪獣黙示録』の真っ只中でも希望を失わず、少しでも世のため人のために尽くす慈善活動へ身を捧げていた。
その母を殺したのが怪獣、アンギラスだった。
シベリアでの救護活動に赴いていたところでの出来事で、生き残ったメンバーの証言によれば、マイアの母はギリギリの最期まで患者の脱出を優先していたという。『遺体が著しく損壊していた』『遺族感情への配慮』という理由から、マイアの母は夫と娘に死に顔を看取ってもらうことも無いまま葬られることになった。
……無論、無関係なのはわかっていた。先日のアンギラスは、マイアの母を踏み潰したアンギラスとは何の縁もゆかりもない。やろうと思えばもうちょっと“楽に死なせる”ことだって出来たかもしれない。
だけど相手は怪獣、人を殺すことをなんとも思わない化け物。あのまま野放しにしておいたら、またマイアの母のように踏み潰される人が出てきたはずだ。そのことを思えば、あのアンギラスの殺し方がいささか過激なものになってしまったとしても、それは仕方ないことだとマイア=シモンズは思う。
母の死で変わったのは父ウォルター=シモンズもだ。
それまでのウォルター=シモンズはただの企業家であり、妻の慈善活動も単なる企業の宣伝、もしくは趣味道楽の範疇としか捉えていなかった。
けれど、妻が亡くなってからは変わった。
〈人類の未来を切り拓くための戦いを始めましょう!〉
先ほどのスピーチでウォルターが語ったこの言葉も、元々は亡くなった妻の口癖だった。大切な家族の死を無駄にしない、そう誓ったウォルターとマイアは『人類の手に地球の主導権を取り戻す』ための戦いにずっと身を投じてきた。
その果てで創り出したのが新たなメカゴジラ、エイペックス=タイタンだ。父の代から始まった『人造タイタン建造計画:人類の新たな希望』、ようやくその完成が見られる。父の夢、そしてマイア自身の夢も叶う。母の死は無駄ではなかった。マイア=シモンズはそう誇らしげに思った。
人類の尊厳が踏み躙られる屈辱の『怪獣黙示録』から打って変わって、これから始まるのは繁栄の時代。ひいては自分たちエイペックス社が造り上げた〈人類の新たな希望〉であるエイペックス=タイタンたちが、人類の文明に繁栄の光をもたらすことになるだろう。
……そのはずだったのに。
突如起動し咆哮したエイペックス=タイタン。その声へ導かれるかのように、次々と定位置を離れて勝手に動き出してゆくドローン=タイタンたち。
マイア=シモンズは誰よりも先んじて壇上から下り、制御システムの持ち場へと駆けつけて担当チームを怒鳴りつけた。
「ちょっとちょっと、何が起きているの!?」
CEO直々からの詰問に対し、担当エンジニアチームは懸命にコンソールを操作しながら困惑気味に訴えた。
「わ、わからないんです! 勝手に動き出したのです!」
「これはもはや暴走状態としか……」
暴走状態? まさか、あのポンコツメカゴジラの機龍みたいに?
マイア=シモンズは、エイペックス=タイタンたちの方へと振り返った。タイタンたちの動きはまだまだ覚束ない、あるいは今まさに動き方を“学習”している最中なのかもしれない。
だが、このままだと観客に被害が出るのも時間の問題だろう。マイア=シモンズは明敏な頭脳を瞬時に回転させて即断した。
「避難誘導を始めましょう! 全スタッフに通達、本土と連絡して船を寄越して! あと、展示してある旧型試作機を出すわ、準備しなさい!!」
遅れて駆け付けた側近たちは、マイア=シモンズからの言葉に呆然としていた。
それって、まさか……。恐る恐る訊ねた側近たち。マイア=シモンズはその愚鈍さに苛立ちつつ、ハッキリと応える。
「ええ、旧型試作機で足止めするわよ。用意、できてるでしょう?」
途端、側近たちは泡を喰って捲し立てた。
「いけませんシモンズCEO、危険です!」
「今回展示している試作モデルは余興のエキシビジョン用、実戦用ではありませんし、もともとのコンセプトからして“支援機”、直接対決でかないっこありません!」
「しかもトライアルではドローン=タイタンにすら全敗、カタログスペックでもあらゆる面で劣っていたではありませんか! 到底、勝てるはずが……」
……ったくこいつらときたら、この期に及んでいったい何を言っているのだろう。押し留めようとする部下たちに、マイア=シモンズは苛立ちを隠さないまま答えた。
「勝てるかどうかは問題じゃない、一人でも多くのお客様を逃がす時間さえ稼げればいい」
「し、しかし……」
えーい、言い争っている時間さえもが勿体ない! マイア=シモンズは声を張り上げた。
「わが社の製品が起こしたトラブルなのよ!? 今、我々が対処しないでどうするの!? いいから“アレ”を出しなさい! ほら速く、急いで……」
だが、その諍いは、直後に響いた閃光と爆音で打ち切られることとなった。
一斉に視線を向けた先では、シドニー本土と繋がるように建造されていた連絡橋がすべて粉砕されていた。いったいなにが……そう思った途端、
再び赤い閃光が炸裂した。
閃光の方角を見ると、エイペックス=タイタンたちが、背鰭を赤く光らせていた。あれはエイペックス=タイタンシリーズの主力兵装、A-2021プロトンスクリームキャノンだ。ゴジラの放射熱線にも匹敵し、大怪獣の首をも焼き切る強力無比な破壊光線。狙った先は本土との輸送に使っていた連絡船、ビームで撃ち抜かれた船は木っ端微塵に吹き飛ばされてしまった。
……まさか。マイア=シモンズは恐るべき可能性を口にした。
「まさか、本土との連絡を絶ったの……!?」
それを肯定するかのように、エイペックス=タイタンが獰猛な雄叫びを轟かせる。同時にマイア=シモンズは直感した。
こいつら、ここにいる人間を逃がす気が無いんだ。
その事実が会場全体に伝播した途端、観客たちは大混乱に陥った。この場にもはや秩序なんてものは無かった。パニックに陥った人々は互いに押しのけ合い、転んだ人を足蹴にし、周りの人を突き飛ばし、我先にこの会場から逃げ出そうとした。人々は柵をよじ登り、次々と海へ飛び込もうとし始める。
飛び交う罵声と絶叫、阿鼻叫喚の地獄絵図。
だが数千人の観客全員がいっせいに逃げ出すには、この会場の柵はあまりにも厳重過ぎた。なにしろ倍率10,000倍のチケットだ。侵入者対策で万全を期したことが、却って仇となってしまっていたのである。
あまりの惨状に、マイア=シモンズは自らの口を覆った。
「なんてこと……!」
そのときマイア=シモンズは、ふと視線を感じて頭上を見上げた。
頭上にかぶさる巨大な黒い影、それはエイペックス社自慢の新製品であったはずのエイペックス=タイタンだ。
赤い眼光を爛々と灯した機械仕掛けの瞳。血走ったかのようにも見えるその視線からは、エイペックス=タイタンたちが持つ残忍な本性が垣間見えるかのようだった。
――見るがいい、これがお前の罪だ。
そうニヤニヤ嘲笑うかのように、エイペックス=タイタンはみたび背鰭を赤く光らせた。怪獣さえも焼き殺す必殺兵器、プロトンスクリームキャノンの発射準備だ。狙う先はマイア=シモンズではなくて、海へ飛び込んで逃げ出そうと柵に殺到している人々の方。
言わずともわかるその意図を汲み、マイア=シモンズは思わず声を張り上げた。
「ま、待って、やめて……っ!!」
無論、エイペックス=タイタンは辞めようとはしない。
エイペックス社の新製品による史上最悪の大虐殺が行なわれようとしていた、まさにそのときのことである。
空から、銀の巨龍が舞い降りてきた。
……からの、エルボー・ロケェェーット!!
ぼくは換装したばかりの右腕の義手をロケットパンチに変形させて、今まさにプロトンスクリームキャノンを撃とうとしていたエイペックス=メカゴジラの横っ面を思い切りブン殴ってやった。
――ドゴオォォォンッ!!!!
4万トンの重量とロケットブースターによる加速を加えた、メカゴジラ機龍必殺のメガトンパンチ。圧縮空気による強烈な打撃の着弾と同時に、豪勢な轟音が炸裂。その直撃を喰らったエイペックス=メカゴジラはもんどりうって引っ繰り返り、会場から転げ落ちて海へドボーン。
そのおかげで、エイペックス=メカゴジラが撃とうとしたプロトンスクリームキャノンの熱線は狙いが逸れ、明後日の方向へと飛んで行ってしまった。
そんな光景をしらさぎ一号機の空中作戦指令室から眺めながら、機龍隊の隊長:ヤシロ=ハルカが額に浮かぶ玉の汗を拭った。
「……ふー、なんとか間に合った」
間一髪だったけどね。
会場の観客たちは、唐突に乱入してきたぼく:メカゴジラ機龍の存在にしこたま驚いているけれど、ぼくが殴り込んだおかげでエイペックス=メカゴジラのプロトンスクリームキャノンで撃たれずに済んだ。
空母サラトガから先行して出撃した、ぼくたち機龍隊。しかしそれでは間に合わないと判断したヤシロ=ハルカはまたしても空中での切り離しを即断、ぼくはアキバくんの操縦を受けてロケットブースターで加速して突貫した。
つまりはアンギラスの時と同じ、高い所からのノーロープでスカイダイビングだ。毎回空中に放り出される身としては正直勘弁してほしいし、基地へ帰ったときに整備担当のチュウジョウ君がブチキレる様子が目に浮かぶのだけれど、人命には代えられない。実際今だって、もしほんの少しでも遅れていたら、数千人もの観客がいっせいに焼き殺される惨事となっていただろう。
通信担当のアンザイさんが、すかさず状況報告を上げた。
「サラトガ到着まで、あと5分!」
……残り5分かあ。
ぼくたちに遅れて出港した空母サラトガ、あいつが到着してくれれば会場の観客たちを本土へ逃がすことが出来る。それまで残り5分、ぼくたち機龍隊はエイペックス社の量産型メカゴジラ軍団を相手に戦わなくちゃあいけない。
その直後、殴り倒されたはずのエイペックス=メカゴジラが海の中から上がってきた。
豪勢に水飛沫を撒き散らしながら再び会場の上へと這い上がるエイペックス=メカゴジラ、最新型だけあってなかなかタフな奴だ、並大抵の怪獣であれば頸椎が砕けて即死しているはずのところ、すぐに体勢を立て直して威嚇の咆哮を上げている。
そんなボスの命令に従うかのように手下のドローン=タイタンたちも一斉に振り返る。ヤツらが狙う標的は、目の前に現れた旧型メカゴジラであるぼく:メカゴジラ機龍とGフォース機龍隊。
そんな情勢を鑑みて、ハルカは苛立つようにぼやいた。
「……正直、しんどいわね」
まったく、ぼくも同感だ。敵はぼくと同等、いやそれ以上の性能を誇るメカゴジラの最新モデルが20体。片やこちら側と言えば、旧型メカゴジラであるぼくと、その航空支援機のしらさぎが5機。5分後にサラトガが来てくれたとして、さらに観客たちを避難させる時間も必要になる。それまで果たして持ち堪えられるかどうか、かなり厳しい戦いになるだろう。
……でもやるしかない。ぼくたち皆、同時に覚悟を決めた。
「ハラ、括るわよっ! いくぞ、機龍隊!」
ハルカからの勇ましい号令に、機龍隊一同も一斉に「了解!!」と応える。
さあ、戦いの始まりだ!
機龍VSエイペックスメカゴジラ軍団。戦いの序盤、ぼくを操縦していたアキバくんが声を荒げた。
「こいつら、メーサーが効かねえぞ!? どうなってやがる!?」
アキバくんの言うとおりだった。ぼくがいくらメーサーを撃ち込んでも、エイペックス=タイタンシリーズたちにはまるで屁でもないらしい。おかしい、ぼくのメーサー光線の出力は軽くとも30万キロワット以上、大怪獣一匹を丸焼きに出来る破壊力だ。これだけ喰らえば、どんな怪獣だってまともに動けないはずなのに。
そんな様子を視ていた分析担当のサエジマくんが、なにか閃いたようだった。
「……なるほど、そうか! こいつらはロボット怪獣だから、メーサーは効かないんだ!」
その言葉でぼくもすぐに思い当たる。
電子レンジで金属が温められないのと理屈は同じだ。メーサー光線は生き物相手だから通用するのであって、全身を金属で固めたロボット怪獣であるエイペックス=タイタンたちには効かない。
すかさずハルカが指示を下した。
「アキバ、近接戦に切り替えなさい! ミサイル、爆薬なら有効なはずよ!」
「了解!」
アキバくんの操作で、ぼくの両手の甲から鋭い剣が伸びる。高圧のエネルギーで相手の喉笛を掻っ切る鋼鉄のメーサーブレード、近接戦での愛刀だ。
続けて背負ったバックパックのミサイルポッド発射口が展開し、ぼくの身体から無数のミサイルが打ち上げられる。観客たちに当たらないよう精密に制御された爆発が止め処なく炸裂、エイペックス=タイタンたちを蹴散らす。
さらにサエジマくんが口を挟んだ。
「頭を、顔を狙ってください! DNAコンピュータシステムの部分は有機生体パーツ、つまり生き物の部分ですっ! 顔の装甲を剥がしたそこなら、メーサーも効くはずです!」
「サンキュ、サエジマ!」
サエジマくんの言うとおりに、アキバくんはぼくを動かした。ぼくは洗練された剣捌きでメーサーブレードを振るい、ドローン=タイタン一体の顔面に突き立てて、渾身の力を込めた。
……化けの皮を剥いでやるっ!
金属のねじ切れる耳障りな音と共に、ドローン=タイタンの顔面パーツが左右へ千切れ飛んだ。
顔面を引き剥がされたというのに、ドローン=タイタンはまだピンピンしていた。内部の生体電子頭脳を剥き出しにしたまま、なおもぼくに襲い掛かろうとしてくる。
「そこですっ!」
サエジマくんが声を張り上げたのと同時にアキバくんがトリガーを引き、ぼくの口内から強烈なメーサー光線が放たれた。その破壊力は通常のメーサーの240パーセント、眩い必殺の雷光が迸る。
そんなぼくのメーサー光線を顔面に食らったドローン=タイタンは、焼かれた顔を抑えて悶え苦しんだ末に頭が爆裂、そのまま糸の切れた操り人形のようにブッ倒れて機能停止した。
「よっしゃっ!」
静かにガッツポーズを決めるアキバくん。
……サエジマくんが分析してくれたとおりだ。ドローン=タイタンたちの頭脳中枢は有機生体パーツ、機械部品ではない。そこならメーサーでダメージを与えられるのだろう。
「コツが掴めてきたっ!」
戦術的な突破口が見えてきたアキバくんは、ぼくを巧みに操縦して一体ずつドローン=タイタンを仕留めていった。
襲い掛かるドローン=タイタンの喉元を串刺しにして首を貫通、さらに力任せに脊椎ごとずるりと引き抜いて止めを刺す。続く2体目はカギ爪で顔の装甲を剥がし、メーサー光線を浴びせて頭を爆裂させる。掴みかかろうとしてきた三体目については懐に入り込んで両手両足の節を切り落とし、動けなくなったところを動力部を刺し貫いて息の根を止める。さらに躍りかかってきた4体目は、胴体にメーサーブレードを叩き込んで上半身と下半身を泣き別れにする。
まさに機龍無双だ。
「サエジマ、残りはあと何機だ!?」
「残り13機っ!」
「ちくしょう、うじゃうじゃいやがる……!」
一対一では敵わないと見たか、ドローン=タイタンたちはいったん引き下がり、体勢を立て直そうとした。きっといっせいに飛び掛かろうという算段なのだろう。
だけど、ハルカがすかさず指示を下した。
「させるかっ! しらさぎ隊、奴らに連携させるなっ!」
「「了解!」」
キサラギさんが率いる航空支援機しらさぎの機銃掃射が、ドローン=タイタンたちを襲った。怪獣さえもブッ飛ばす強烈な猛火力が、ドローン=タイタンたちへ空襲を仕掛ける。
濃厚な弾幕の雨霰により後ずさるドローン=タイタンたち、そんな奴らをぼくは力一杯に睨みつけた。メタルの屑め、こんな出来損ないのスクラップみたいな悪者怪獣なんかに、罪も無い観客たちへ指一本触れさせるものか。
と、そこへサエジマくんが声を張り上げた。
「危ないっ機龍、アキバさんっ!」
咄嗟にアキバくんは、ぼくを式典会場のステージから下がらせた。その直後、鋭利な刺突がステージを刺し貫き、真っ二つにぶち砕く。
「あっぶねえっ!!」
アキバくんが吃驚するのも無理はない。サエジマくんの警告に咄嗟に気づかなかったら、そしてそれに反応できるアキバくんの天才的な操縦センスがなかったら、ぼくはきっと胴体を
途端に響く、エイペックス=メカゴジラの咆哮。
ステージをぶち壊したのは、エイペックス=メカゴジラの長い尻尾だった。その先端では、鋭い鋼鉄のカギ爪:テイルドリラーが猛烈な唸りを上げて高速回転している。
――メカゴジラ機龍め!
目の前のぼくを仕留め損ねたのがいたく気に入らないらしいエイペックス=メカゴジラは怒りの唸り声をあげると、両手の強靭なロータークロウをわきわきと回転させながらぼくへと掴みかかってきた。
……こいつ、力比べをする気か。まったく、いい度胸だ。ぼくがそう思うと同時に、アキバくんが口元をニヤリと歪める。
「おもしれえ……!」
応じたぼくは、襲い来るエイペックス=メカゴジラの猛進を思い切り受け止めた。すかさずアキバくんが吼える。
「見せてやるぜ、機龍の性能を!」
響き渡る衝撃と轟音。メカゴジラとメカゴジラ、新旧メカゴジラ同士による怪獣プロレスが始まった。
衝突する拳と拳、パワーとパワー、重装甲と重装甲。
エイペックス=メカゴジラはぼくより大柄な最新型というだけあって、パワーもスピードもぼくよりずっと上回っていた。
まともに喰らえばぼくの装甲だってひとたまりもない、強烈なメガトンパンチとテイルドリラーの乱打。大盤振る舞いで撃ちまくるミサイルとプロトンスクリームキャノンの雨霰。そのくせ動きはとても軽やかで、真正面から取っ組み合えばぼくはただ押されてしまうばかりである。
ひたすら身を躱すしかない劣勢のぼくを、エイペックス=メカゴジラは余裕で嘲笑った。
――型落ちめ! 捻り潰してくれよう!
エイペックス=メカゴジラの尻尾の一撃が、ぼくの右頬をかすめて装甲の一部を削り取った。ぼくの顔面で猛烈な火花が飛び散り、装甲の半分が抉れて内部の機関部が剥き出しになる。
「野郎、やりやがったなっ!」
一本先取、アキバくんが怒号を上げた。
「最新モデルだからってチョーシのってんじゃねえ!」
そうやって激昂するアキバくんだけど、ぼくを動かす操縦の手と目線は飽くまでも冷静だった。
……エイペックス=メカゴジラはパワーは強いし、動きも速い。けれどその分、動きが大振りで、振り切ってしまうとリカバーするのに時間が掛かる。しかも
だから、自分の足元が御留守になっていたことに、エイペックス=メカゴジラは気づかなかった。
――バキッ!
エイペックス=メカゴジラが先ほど振り回していたテイルドリラー、あいつが考え無しに繰り出した強力な一撃が床面を脆くしてしまっていた。
アキバくんの操縦によって巧みに誘導されたエイペックス=メカゴジラは、壊れた床を思い切り踏み抜き、足を取られてガクンッと姿勢を崩す。
――今だっ!
ぼくの心の合図に合わせてくれたかのように、アキバくんは、エイペックス=メカゴジラが垣間見せた隙を突いた。アキバくんがすかさずぼくの右腕義手を変形させ、肘部のエルボー・ロケットを点火、ぼくは重装甲で塗り固めた拳を思い切り振り上げた。狙うは、エイペックス=メカゴジラの顔面だ。
――ボカァァァンッッ!!!!
爆発的な威力で炸裂する、メカゴジラ機龍のアッパーカット。エイペックス=メカゴジラの顔が、耳障りな金属音とと共に思いきりひしゃげてしまった。そのままエイペックス=メカゴジラの巨体が宙を舞い、仰向けに引っ繰り返って式典会場全体を揺るがした。
まさにワンパン、ノックアウトだ。
……エイペックス=メカゴジラはたしかに強敵かもしれない。むしろ単純な性能で言えば、旧型のぼくよりも上だろう。
しかしエイペックス=メカゴジラに、機龍隊最強の名オペレータ:アキバ=キョウスケの操縦は無い。機龍隊最高のパイロット:キサラギ=アズサ率いる、しらさぎ隊の素晴らしい航空支援も無い。機龍隊随一の名軍師:サエジマ=ヒデキの分析も無いし、それらを上手く連携させる凄腕通信士:アンザイ=リンコの巧みな情報通信も無い。
ぼくと機龍隊はまさに人機一体。いくら単機で強かろうがたかだか独りぼっちのロボット怪獣に過ぎないエイペックス=メカゴジラ風情が、最強無敵の独立愚連隊:Gフォース機龍隊に敵うわけがないのだ。
ぼくがそうやって誇らしげに咆哮を響かせたちょうどその時、アンザイさんが報告を上げた。
「サラトガまもなく着艦! 本土からも増援が出撃準備を進めています! 観客の脱出を確認次第に出撃、空爆を仕掛ける予定です!」
それは、まさに天使の声だった。
見ればアンザイさんの言うとおり、遅れて出港してきた空母サラトガが、式典会場へと接岸していた。どっと雪崩れ込む会場の観客たち。あと少し、ここで無事に観客をサラトガに乗せて逃がし切ればぼくらの勝ちだ。あとは本土からの爆撃機で一気に片を付けてくれる。
そう安堵した時である。
「おい、あいつ……!?」
どさくさに紛れて身を起こしたエイペックス=メカゴジラが、しらさぎの猛烈な弾幕を掻い潜ってサラトガを狙っていた。いつの間にか背鰭までもが真っ赤に光っている。
「あの野郎、サラトガにプロトンスクリームキャノンを撃ち込む気だ!」
「させるな、アキバッ!」
「了解!!」
アキバくんの操縦で、ぼくは横っ飛びにエイペックス=メカゴジラへ立ち塞がろうとした。今度こそ奴に止めを刺してやる、そう思って飛び掛かったつもりだった。
だが、その足を掬われた。
何かに躓いたぼくの巨体が倒れ込み、その重量で会場が大いに揺れて、観客たちがパニックの悲鳴を上げた。
足元を見れば、さきほど体を真っ二つにしてやったはずのドローン=タイタンの一体が、ぼくの足首を掴んでいた。ドローン=タイタンの赤い目が爛々と意地悪く光っている。こいつ、これでもまだ動けるのか!?
「まずい……ッ!」
アキバくんが振り解こうと懸命に操縦するのだけれど、上半身だけのドローン=タイタンはまるで絡みつくかのようにぼくの足腰を捉えて離そうとしなかった。
しかも悪いことに、ぼくが足を取られているのを見るや、他のドローン=タイタンたちも一斉に飛び掛かってきた。十数体がかりでぼくを羽交い絞めにするドローン=タイタンども、なかなか振り解けない。
そしてそうこうしているうちに、エイペックス=メカゴジラはプロトンスクリームキャノンの発射準備を整えていた。怪獣さえも焼き殺す地獄の赤い熱線が、今まさに発射されようとしている。
……いよいよまずい!
ぼくは、死に物狂いでまとわりついてくるドローン=タイタンたちを蹴っ飛ばしてようやく立ち上がる。しかし、その頃にはもう遅い、間に合わない。
……ごめん、観客の人たち、サラトガ。あなたたちのこと守り切れなかった。ぼくが心の中で詫びた刹那のことだ。
空から降り注ぐ、黄金の光。
地獄の戦場と化したオーストラリアの南洋、その晴れ渡った空の下で、燦々とした陽射しとはまた違った温かな光が一帯を照らし出した。
その神秘的な光景を空中作戦指令室から眺めながら、ハルカがひとりごちた。
「これは、鱗粉……?」
その直後、エイペックス=メカゴジラがプロトンスクリームキャノンを撃った。
「しまったっ!」
エイペックス=メカゴジラの鼻先で重低音のノイズと共に迸る、赤い熱線の一閃。最後の希望になるはずの空母サラトガが撃沈される惨状を想像し、ぼくらは目を覆いたくなる。
だけど、そうはならなかった。
エイペックス=メカゴジラが放ったはずのプロトンスクリームキャノンの熱線は、エイペックス=メカゴジラの鼻先ですぐに掻き消えてしまった。まるで濃厚な金色の光で塗り潰されてしまったかのように。
「いったい、なにが……!?」
空中作戦指令室のハルカが混乱している最中、通信担当のアンザイさんが声を上げた。
「高度1万5000メートル、12時の方角、巨大な飛行物体の接近をレーダーで検知しましたっ!」
「飛行物体? 増援じゃなくて?」
ハルカが聞き返すと、アンザイさんは「いいえ、違いますっ」と答えた。
「翼長150メートル以上、速度マッハ1、これは……飛行機じゃありませんっ!」
飛行機じゃない? それってまさか。
ぼくがそう思ったのに応えてくれるかのように、どこからか歌が聴こえてきた。
――モスラヤ、モスラ
怪獣たちに踏み躙られた人々の心へと届く、祈るような優しい天使の歌声。聴覚が捉えているんじゃない、心や魂に直接届いているかのようだった。
歌は続いた。
ドゥンガンカサクヤン インドゥムウ
ルストウィラードア ハンバハンバムヤン
ランダバンウンラダン トゥンジュカンラー
カサクヤーンム……!
歌が終わると同時、ハルカたち機龍隊、そして会場の観客たちが一斉に空を見上げて、その怪獣の姿を仰ぎ見た。
天空から舞い降りたのは、世にも美しい極彩色の怪獣。地獄の戦場と化した式典会場を照らす南洋の陽射しと、そんな陽光を照り返す黄金の輝き、そしてその下でしなやかに揺らめく巨大な翅のシルエット。
誰かが呼んだ。誰よりも慈愛に満ちた、優しい“彼女”の名を。
「……〈モスラ〉!」
タイトルは映画『ターミネーター3』の原語版サブタイトル『Rise of the machines』から。
好きなゴジラ映画のヒロイン
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山根 恵美子
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星 由里子さんが演じてた記者の人
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真船 桂
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