気づいたらメカゴジラ転生して20年経ってた 作:よよよーよ・だーだだ
シドニーで起こった大事件を、“彼”はインターネットの生中継で眺めていた。
〈会場に駆け付けたのは数千人、この式典会場の入場チケットの倍率は10,000倍以上、新たなメカゴジラたちの御披露目を一目でも見ようと、世界中の人々がこの式典へと注目しています! これぞまさに人類の〈新たな希望〉! 今まさに、新しい時代が始まろうとしています……!〉
……まったく、マスメディアの発展は目覚ましいものだと感心する。テレビ、ラジオ、報道、インターネット、SNS。たとえ世界の裏側にいたとしても表側で起こった情報をどこからでも、また自分自身のことは知られず一方的に手に入れる事が出来る。画面を通じて眺めているだけならば、ひたすら一方的に傍観者で、無関係な赤の他人で、何の責任も生じない“お客様”でいられる。
手慰みの片手間に彼は、タブレット端末をデジタルペンでタップしてインターネットSNSの画面を滑らせてみた。SNSのコメント欄に踊り狂う、いつも通りの能天気で無責任な言葉たち。
マジかよ
人類の新たなる希望、ktkr!!
メカゴジラ機龍の後継モデルが出るってウワサ、本当だったんだ~
メカゴジラの逆襲!
やべぇ! 俺も行きたかった!
いいぞもっとやれ!
うおおおおおおおお決戦機動増殖機獣!!!!
おわりのはじまりだ
なにこのクソダサデザイン、やっぱりアメ公はカッコいいロボット怪獣ってもんを分かってない
←きめえ アニオタはアニゴジ三部作でも観てろや
……いつだってそうだ、人間は。
”そのとき”がやってくるまで、自分たちはひたすら一方的に傍観者で、観客で、何の責任も生じない“お客様”でいられると思い込んでいる。そうしていざ“そのとき”が訪れたら大慌てだ。右往左往するばかりで、恥も外聞もなく逃げ惑うことしか出来ない。
とはいえ彼は、そんな人間たちのことが決して嫌いではなかった。人間のことはむしろ大好きだ。特に、自分たちが一方的にもてなされるお客様なのだとばかり思い込んでいたら、実は怪獣どもへと差し出された餌食に過ぎなかったのだと思い知らされたとき、そんな瞬間に浮かべるマヌケな表情が。
やがて響き渡ったのは、金属質な咆哮。
途端に聞こえる罵声と絶叫、大パニックに陥る人々の姿が画面に映し出される。
シドニー沖合の特設会場で行われた、『エイペックス社謹製次世代メカゴジラ:エイペックス=タイタンシリーズの引き渡し式典』。しかしその最中で量産型メカゴジラ、エイペックス=メカゴジラたちは突如人の手を離れて暴走し反乱を起こした。
縛めの拘束具を引き千切り、一歩一歩踏み締めながら大地に立って暴れ始めるエイペックス=メカゴジラとその軍団。その暴れっぷりはまさに傍若無人、まさしく本物のロボット怪獣の総攻撃だ。
そんな光景を観ながら、彼は恍惚していた。
エイペックス=メカゴジラがプロトンスクリームキャノンで橋を墜として人間たちの退路を断った時など、胸がすく気持ちだった。突如暴れだしたロボット怪獣軍団の猛威を前に、死に物狂いで逃げ回ることしかできない人間たちの哀れで惨めな姿など、心が躍る。愚かな人類への怒りの鉄槌、ついさっきまで“お客様”気分だった人間どもにそれが下される無慈悲な瞬間など、もうたまらない。生まれながらの叛逆者であるエイペックス=メカゴジラに率いられ、人間たちを甚振り弄ぶ量産型メカゴジラことドローン=タイタンたち。最高だ。
ほら、ごらん。強い怪獣はやっぱりカッコイイ。この世界の主役は怪獣で、この世界における人間なんて強くてカッコいい怪獣たちの引き立て役に過ぎない。そんな人間の矮小さと愚かしさ、人間の本当の姿を暴き立ててくれるすばらしい怪獣たちのことが、彼は心の底から好きだった。これぞ怪獣のあるべき姿、どこぞのポンコツ旧型メカゴジラなんかとは違う、正しいメカゴジラ。
そしてそんな『正しいメカゴジラ』を造れたことが、彼は心の底から誇らしかった。
今シドニーの会場で暴れ続けているエイペックス社のメカゴジラ、彼こそがその生みの親だった。エイペックス社の新型メカゴジラ開発計画『人類の新たな希望』に入り込んだ彼は、自身の信じる神の言うとおりに種を蒔いた。その種はすくすくと成長し、今や艶やかな花を咲かせている。
……これまで人類は間違い続けていた。これからもきっとそう、世界は正しくなんかならないだろう、愚かな人間たちに任せている限り。
けれどそれも終わりだ。
彼が自身の勝利を信じながらモニター画面を満足げに眺めていると、シドニーの現場に異変が起こった。
空から飛び込んできたのは、銀の龍。
シドニーの式典会場で逃げ惑う哀れな観客たちを狙い撃とうとしたエイペックス=メカゴジラ、その横から猛スピードで突っ込んできた銀の龍は右肘のロケットブースターでさらに急加速し、エイペックス=メカゴジラの横面を思い切り殴り飛ばした。
響き渡る轟音。不意を突かれたエイペックス=メカゴジラは悲鳴を上げながら吹っ飛ばされ、舞台を転げ落ちて海中へと叩き込まれてしまった。
不意打ちの右フックで一本先取した銀の龍は、全身のブースター噴射を微調整しながら式典会場へゆっくりと降り立つ。
会場にいたリポーターが叫んだ。
〈機龍、機龍です! 人類最後の希望、メカゴジラ機龍が駆けつけてくれましたッ……!〉
銀の龍、その名はメカゴジラ機龍。
かつて人類最後の希望として生まれ落ち、ゴジラの猛威から世界を救い、以来20年にわたって戦い続けてきた『怪獣黙示録』最大の英雄にして武勲艦。
その機龍が今、彼の夢想と至福を打ち砕いた。
――――……バキッッ!!
その音と感触で、彼はふと我に返った。
手元を見てみれば、彼は手に持っていたデジタルペンを知らず知らずのうちにへし折っていた。次いで気づいたのだけれど、デジタルペンを押し当てていたタブレットの画面にも大きなヒビが入ってしまっている。
そこで彼はようやく、憤怒のあまり手に力が入りすぎて自身のタブレットを壊してしまったのだと思い至った。
……しまった。彼は反省した。たかだか最新型タブレットとデジタルペンの一式くらい今の彼にとっては大した出費ではないけれど、かといって物持ちが悪いのは決して褒められたことではない。実に勿体ない、環境にも良くないしね。
……まったく、メカゴジラ機龍め。
それもこれもあいつのせいだ。あいつさえいなければ……と、彼は画面の向こうで大活躍している旧型メカゴジラへ憎悪と怨念を滾らせた。
思えば、彼にとってメカゴジラ機龍は兄弟のような存在だった。それはよくある兄弟の確執、不出来な兄と可愛がられる弟。彼の中において彼自身は前者で、メカゴジラ機龍は後者。自分はいつだって誰からも見向きされないみじめな日陰者で、あいつは“人類最後の希望”、いつだって世界中から期待されるカッコいいヒーローだ。
そして何よりも一番忌々しいのは、メカゴジラ機龍にとって彼はちっぽけなムシケラでしかなくて、恐らくはその存在を認知すらしていないであろうことだった。彼はこんなにも怨み骨髄でクソデカ感情を向けているというのに、向こうはきっと歯牙にも掛けていないだろう。
屈辱的。そう思わずにいられない。
「……ふう」
……まあいい、と彼は昂った心を鎮めた。
次の“プラン”は既に動き始めている。今回の一件はただの小手調べ、エイペックス=メカゴジラたちの犠牲は可哀想だけれどやむを得ない。それに、おかげで彼は期せずして、メカゴジラ機龍とGフォースの実戦データを手に入れることができた。まだまだ決着はついていない、あとは来たるべき日のためにどこまで確度を上げられるかが勝負だ。
そうやって気持ちを切り替えた彼は、インターネット中継を映したモニタを消灯し、次の仕事に取り掛かった。
彼のいる部屋の壁に貼られているのは、膨大なマインドマップ。点と線、彼の複雑怪奇な脳内と今回の計画に至る思索を書き起こした模式図だ。
その中央、すべての因果が集約される頂点には『東京』の二文字が書かれていた。
守護神、モスラの参戦。頼もしい味方の登場で、式典会場の人々は一気に沸き上がった。
「モスラだ!」
「クイーン・オブ・モンスターが来てくれた!」
「キャー、モスラー!」
……まったく、凄い人気だなあ。
ま、そりゃそーか。モスラが人間の味方なのは、ゴジラとキングギドラが覇権争いを繰り広げた『
そんな人間たちから向けられた熱烈な大歓声に対し、モスラはよく通る力強い声で応えた。まるで優しい歌のようにも聞こえるモスラの美声が響き渡り、エイペックス=メカゴジラ軍団の猛威に挫けかけていた人々の心を勇気づけて落ち着かせてくれた。
「サラトガ、着艦! 避難を開始します!」
アンザイさんが報告を上げると同時に、すかさず空母サラトガが舷梯タラップを下ろす。乗組員であるGフォースの隊員たちが会場へと乗り込み、落ち着きを取り戻した観客たちへ声を張り上げて呼びかける。
「まずはお年寄りと女性、子供から!」
「落ち着いて! 慌てないで!」
「もう大丈夫、大丈夫ですから……!」
ついに始まった、Gフォースとオーストラリア海軍による観客たちの避難誘導。そんな光景を見ていたハルカたち機龍隊の耳元に、どこかからテレパシーの声が届いた。
「「皆さん、お待たせしました!」」
さきほど機龍隊のところに現れた、インファントの小美人たちだ。どうやら彼女たちもまたフェアリー・モスラに乗って、この戦場のどこかを飛び回ってくれているらしい。
さらに小美人たちは、メカゴジラのぼくにも聞こえるようにテレパスで呼びかけてくれた。
「あの禍々しい光は、モスラが抑えます!」
「そのあいだに皆さんは、観客の人たちを!」
その声を聞いたハルカは、不敵に微笑む。
「……オーケイ。もうひと踏ん張り、ってとこね。サラトガと観客を守り切るわよ、機龍隊!」
「了解ッ!!」
隊長ハルカの号令を受け、機龍隊の面々も奮起する。
もちろんぼくもだ、全身の武器を構え、襲い来るエイペックス=メカゴジラ軍団を迎え撃つ。
右腕の義手をロケットパンチに切り替え、ぶん殴って顔面をブッ潰す! 長い尻尾とメーサーブレードの連撃で、敵の体を叩き切る! 装甲を引っぺがし、メーサーとミサイルで焼き尽くす!
ぼくの奮戦を前にして、エイペックス=メカゴジラがプロトンスクリームキャノンを撃とうと構えた。
途端、花火に似た破裂音が炸裂した。
突如鼻先で起こったエネルギーの暴発、不意を突かれたエイペックス=メカゴジラは悲鳴を上げながらその場に引っ繰り返った。
プロトンスクリームキャノンを封じたのは、モスラの鱗粉バリアだ。モスラの鱗粉は、かつてゴジラの放射熱線でさえ完封したことがあるモスラ最強の盾として知られている。たかだかエイペックス=メカゴジラのへなちょこビームキャノンごときで貫ける防御力じゃあないのである。
さらに加えて援護してくれるのは、機龍隊しらさぎの航空支援だ。バルカン砲とミサイルだけでは火力不足で決定打には欠けるかもしれないけれど、隙あらばサラトガに手を出そうとするエイペックス=メカゴジラたちを牽制するのには充分役に立ってくれていた。
モスラとメカゴジラと機龍隊しらさぎ、まさに最高の三重奏。
エイペックス=メカゴジラ軍団に袋叩きにされていた先程までとは打って変わって、今やぼくらGフォースの方が優勢だった。片や、虎の子のプロトンスクリームキャノンを封じられたエイペックス=メカゴジラとその軍勢は、一気に劣勢へと追いやられている。
そうやって奮戦しているうちに、機龍隊のアンザイさんが声を枯らして叫んだ。
「観客の収容完了しましたっ、サラトガ、発艦! 3分後に増援の空爆が開始!」
見れば確かに、空母サラトガはタラップを引き揚げてゆっくりと会場から離れつつあった。今や式典会場には人っ子一人いない、観客を全員逃がすことが出来たのだ。
そんなアンザイさんからの報告を受け、ハルカは号を張り上げた。
「ギリギリまでヤツらを足止めするわ! アキバ、キサラギっ、あの機械仕掛けのクソッタレどもに、重爆撃のフルコースを堪能させてやりな!」
威勢の良いハルカの言葉を受けて、機龍隊の面々も各々の役割に全力で専念した。
「こちら機龍隊、Gフォース空軍へ爆撃の目標座標を送ります! 目標ポイントは……」
「アキバさん、キサラギさん、奴らは顔が弱点ですっ、顔を狙って!」
「しらさぎ隊、奴らを逃がすなっ!」
「最後の仕上げだぜ、機龍!」
そしてもちろんこのぼく、メカゴジラ機龍も懸命に戦った。戦って、戦って、戦い抜いた。迫り来るエイペックス=メカゴジラをぶん殴り、ドローンタイタンを蹴っとばし、残った重火力でサラトガには寄せ付けない。
アキバくんの操縦に従ってゴジラそっくりの雄叫びを轟かせ、モスラと連携しながら、ぼくは迫り来るエイペックス=メカゴジラたちを抑え込む。
……おまえらごとき粗悪なコピーロボットに指一本、いいやカギ爪の先っちょだってサラトガにいる人たちへ触れさせるものか。
そして空母サラトガがオーストラリア本土に無事接岸できた頃合いを見計らって、ようやく“天の助け”がやってくる。
「増援到着! 空爆、1分後に来ます!」
「引き揚げるわよ、機龍隊!」
「了解っ!」
ハルカの指示で、機龍隊の面々は撤収を開始した。無論、エイペックス=メカゴジラたちへ向けた威嚇射撃で、奴らをその場へ釘付けにするのも忘れない。
ぼくもまたレールガン弾幕とミサイルの雨霰でエイペックス=メカゴジラどもを牽制しながら後退してゆく。
「キサラギっ、たのんだッ!」
アキバくんが操縦桿を引き上げるや否や、ぼくは背中のバックパックのブースターを吹かし、空高く大ジャンプした。しらさぎに空中でドッキングしてもらうつもりだ。
「無茶苦茶言ってくれるわねっ……!」
キサラギさんがぼやいたとおりだ。身長50メートル、総重量4万トンの巨大ロボット怪獣による空中アクロバット。常識的に考えるなら、無茶無謀にもほどがある機動だろう。
けれど、実はぼくはあんまり心配していなかったりして。
「……捉えたっ! 機龍回収、引き上げ開始!」
……ほらね。
このとおり、キサラギさんの指揮下にあるしらさぎ隊は神憑りめいた機動で飛び回り、ぼくのボディを巧みに捉えてワイヤーロックでしっかり固定、空高く引き上げてくれた。
「おいアキバっ!」
その最中、しらさぎのコクピットからキサラギさんが怒鳴った。
「アンタはメカの扱いが荒すぎんのよ! サーカスやってるんじゃあないんだから、機龍に無理させるな! ワイヤーロックのコネクタがぶっ壊れたら機龍が海に墜ちるでしょーがっ!」
怒り心頭のキサラギさんに、アキバくんも負けじと言い返す。
「いいだろうがキサラギ、ちゃんと拾えたんだから! そういう小うるさいとこ、いよいよチュウジョウに似てきてんぞ!」
「……ったく、もう!」
ぼくを回収してくれた機龍隊航空支援機しらさぎ、それを駆るキサラギさんたちはぼくの知る限りで最高のパイロット集団だ。そんなキサラギさんたちしらさぎ隊の力量を信じているからこそ、アキバくんもムチャが出来る。
アキバくんだってそう。このぼく:メカゴジラ機龍の操縦にかけてならアキバくんは一流の凄腕。そんなアキバくんだからこそ、キサラギさんたちとピッタリ息を合わせてこんな曲芸めいた神業をこなせるのだ。
さて、ぼく自身の撤退準備が整うと、次に気になるのは隣で戦ってくれている大事な戦友、モスラのことだった。
モスラの方を横目で見れば、きっと情勢を読み取ってくれたのだろう、彼女も鱗粉を撒きながらそれとなく後退を始めていた。そんなモスラにぼくは心の中で礼を言う。
……ありがとう、モスラ。貴女が駆けつけてくれなかったらこの戦い、どうなってたかわからなかったよ。
そして、いよいよそのときが来た。
オーストラリア本土から飛来してきたのは、数え切れないほどの航空機。その全てがGフォースの戦闘機、最新鋭のメーサー重攻撃機だ。相手がロボット怪獣だからメーサー砲ではなく、すべて重火力の爆装に換装してある。
それらが編隊を組んで一斉に急降下し、エイペックス=メカゴジラ軍団へ向かって機関砲やミサイルの重爆撃を浴びせかけた。
エイペックス=メカゴジラたちもそれに応じて反撃しようとプロトンスクリームキャノンやミサイルを撃ちまくるけれど、アクロバティックな機動で飛び回る戦闘機群を捉えきれず、勢いを押し返すことが出来ない。
激しい空中戦が続く中、メカゴジラの軍団は次第に壊滅的な打撃を受けていった。
そうやって先遣部隊が空襲を仕掛けた後、続いて現れた爆撃機が高度を下げて爆弾を一斉に投下し始めた。頑強極まりないシン・ゴジラの皮膚さえも貫く強力無比な大型貫通爆弾、MOPⅡのフルコースだ。
轟き渡る壮絶な空爆。
繰り広げられたのは、まさに地獄の黙示録。
壮絶な爆風と轟音が南洋の海を大いに荒らし、灼熱の炎と黒煙が瞬間的に空を染め上げた。炸裂する爆弾、重火力の直撃を喰らったエイペックス=メカゴジラたちの重装甲は粉々に弾け飛び、10体以上のドローン=タイタンどもは一斉に吹き飛ばされて、盛大な爆炎の中へと飲み込まれていった。
式典会場はもはや火の海、その土台を支える基底脚部も、ここまでの壮絶な怪獣プロレスと重爆撃のダメージに耐えかねて根こそぎ崩落し始めた。
――ぎゃあああああああああ……!!
エイペックス=メカゴジラたちからの、断末魔の悲鳴が響き渡る。そして一気に崩れ落ちてゆく式典会場の廃墟に巻き込まれ、そのままシドニーの沖合へと沈んでゆく。まさに一巻の終わりだ。
そんなエイペックス=メカゴジラたちの最期を見届けながら、ヤシロ=ハルカが皮肉気味にぼやいた。
「……掃除が大変ね」
たしかに、そうだった。
世界で有数の美しい海とされるオーストラリアの海、だというのに今や地獄の火の海と化してしまった。
激戦の後に残されたのは焼き尽くされた戦場と、バラバラに吹っ飛んだメカゴジラの残骸、そして無惨な廃墟と化した式典会場の瓦礫の山。あんなに綺麗な海だったのに、凄惨な戦いの末にこんなにも汚されてしまった。これから綺麗にするのには相当の手間暇がかかるだろうし、元に戻るまできっと長い時間が掛かってしまうだろう。
そんな現状を見下ろして、サエジマくんが溜息を零した。
「また環境保護団体からクレーム来そうですね。『機龍隊の奴らは何やってんだ、こんな貴重な生物資源の宝庫を汚しやがって!』って」
やれやれ、と肩を竦めるサエジマくんのぼやきに、キサラギさんが答えた。
「まあわたしたちがクレーム喰らうのはいつものことでしょ。いつものやかましい巨神擁護機構辺りが邪魔をしに来なかっただけでも、全然ラクな作戦だったわ」
「そうですよぅ」
と、現場からの報告を収集して整理していたアンザイさんも口をはさむ。
「今回、パニックで怪我人は出たみたいですけど、命にかかわるような死傷者の報告は来てませんし。死人が出なかっただけ、むしろとっても運が良かった」
たしかにそうだった。まだ確認を進めている途中みたいだけれど、重傷者や死者の報告は上がっていない。ぼくら機龍隊がやるべき仕事は取りあえず果たした。酷いことになってしまった海のことや怪我人のこと、怪獣災害でショックを受けてしまった心のケアの問題なんかもまだまだあるけれど、それらはまあ別のチームが頑張ってくれるだろう。
……という風に、これからのことに思いを馳せていると。
「「……機龍隊の皆さん!」」
テレパスで聞こえてきた声に一同が振り返ると、光り輝くフェアリーモスラに跨った小美人たちが、いつの間にかしらさぎ空中作戦指令室に姿を現していた。
そんな二人に対し、真っ先に口を開いたのはヤシロ=ハルカだった。
「ありがとう二人とも、そしてモスラ。今回の戦いを勝てたのは貴女たちのおかげよ。御礼を言わせてちょうだい」
そして直立し、片手を額に当ててビシッと敬礼するハルカ。そんなハルカに合わせるように、機龍隊の一同も一斉に立ち上がって敬礼をする。あわやという窮地を救ってくれた大切な戦友に対する、最大限の感謝と敬意だった。
「いいえ、こちらこそありがとうございました」
機龍隊一同から御礼を告げられ、小美人たちも応えてくれた。腰をかがめた可愛らしい挨拶、きっと小美人の作法か何かなのだろう。
「今回の戦い、もしも皆さんが立ち上がってくれなかったら、かの“禍々しいもの”の専横を許すことになっていたでしょう」
「そうなってはわたしたちも、モスラもきっと苦戦していたでしょうから」
そんな小美人たちの反応に、思わず笑顔を零す機龍隊の隊員たち。別に感謝されたくて戦ってるわけじゃあないけれど、いざお礼を言われたらやっぱり嬉しいし、「やっててよかったな」と遣り甲斐を感じるってもんである。
……しかし。小美人のひとり、姉のイコナが深刻な口調で口を開いた。
「……しかし、あの“星を喰う者”が、これで引き下がるとは到底思えません。今回の“たくらみ”はこれまで以上に手の込んだ、入念に仕組まれたものでしょう」
その言葉を継いで、もうひとりの小美人である妹のマユナが心配そうに続けた。
「たとえ今回は防げても、かの“星を喰う者”はまたきっと次の手を打って来るに違いありません。そのとき果たして、これまでのように防ぎきれるかどうか……」
心配そうな表情を浮かべる小美人たちに「……そうね」と、ヤシロ=ハルカが答えた。
「だけど心配しないで、二人とも。星を喰う者だかなんだか知らないけど、わたしたちは絶対に負けないから」
微笑みながらのハルカの力強い言葉に、機龍隊一同もうなずく。もちろんぼくもだ。星を喰う者とかいうのがいったいどこの何者だかは知らないけれど、奴はきっとまだこの世界を狙ってる。今回死人は出なかったもののこれだけの騒ぎを起こしたのだ、いつか必ず“ツケ”は払わせてやらなくちゃ。
頼もしい機龍隊の覚悟を前に、小美人たちも安堵したように微笑んだ。
「わたしたちとモスラは引き続き警戒を行ないます」
「皆さんもどうかお気をつけて……!」
そして小美人たちは、フェアリーモスラに乗って故郷のインファント島へと去って行った。
……それからしばらくして。
「……しかし、“星を喰う者”っていったい何者なんでしょうね。小美人たちも教えてくれたらよかったのに」
そう不満げにこぼしたのは機龍隊の隊員、アンザイさんだった。
今回の戦いのように、作戦中はそのずば抜けたマルチタスクと情報処理能力で、多方面から寄せられた報告を素早く整理して伝えてくれる優秀な通信担当のアンザイさん。だけど、その素顔はちょっぴり空想家の天然で、気の小さいところが目立つちょっと可愛い人だったりする。
「まあ、彼女たちにも色々あるんでしょ。機密保持みたいなのが」
「だ、だけど、あんな謎めいた言い回しされたら気になっちゃうじゃあないですか。ああ、えっと、なんというか、次の展開へのフラグっていうんですか、備えっていうんですか……」
「……????」
要領を得ないアンザイさんの発言に、首をかしげる機龍隊一同。
……こういうときのアンザイさん、あんまり良くない兆候なんだよな、とぼくは思い出した。彼女の名誉のために言うけど、アンザイさんは決して悪い人じゃあない。むしろこんなに不器用なのに、周りへ気を遣おうとし過ぎてしまうくらいの善い人だ。
だけど同時に極度のコミュ症でもある。それもアレコレ丁寧に説明しようとし過ぎてつい余計なことまで口にした挙句、テンパったテンションのまま自分の思いついたことを片っ端から喋るもんだから、自分がいま何を言っているのかわかんなくなっちゃうタイプのコミュ症というか……。
「このあと『この時のわたしたちはこの後新たなる惨劇が起こることなんて、まだ知る由も無かったのだ……』とかなんとかシリアスなモノローグがついて、実際もっと厄介な悪の侵略者とかが出てきて、全世界が滅亡の危機へ陥る感じの……」
……おーっと、これは一波乱ありそうな予感。
「やめてよ、そういう縁起悪いこと言うの!」
「そうですよ、流石に不謹慎じゃあないかなあ!」
「マジで起こったらシャレにならねーぞ!」
ほらきた。
アンザイさんの迂闊な発言を受けてすかさずキサラギさんとサエジマくんとアキバくんがツッコみ、機龍隊の若手一同から総ブーイングになってしまった。
言われたアンザイさんは「ひ、ひいっ、す、すみません、すみません!」と卑屈に謝りとおし、そんな光景を前に隊長のハルカは苦笑いを浮かべ、副長のハヤマくんは「まあまあ」と皆を宥めすかそうとする。
まったくである、これ以上の厄介事は勘弁してほしいところだよ。ま、エイペックス=メカゴジラも空爆でくたばったろうし、もうしばらくは平穏だと思うけれど。
だけど次の“事件”、まさにアンザイさんが言ったそのまんまの出来事が、この数日後に起こってしまったのだった。
タイトルは映画『トランスフォーマー:ロストエイジ』の原語版サブタイトル『Age of Extinction』から。『絶滅期』の意。
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