気づいたらメカゴジラ転生して20年経ってた   作:よよよーよ・だーだだ

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今日は短め


第二章:共鳴
8、ディープ・ブルー・シー


 波の音が遠くに響き、光が深海の闇を切り裂いてゆく。

 

 燦々としたオーストラリア南洋の陽射し、それらもわずかにしか届かない深く青い海を、一隻の潜水艇が慎重に潜航していた。

 潜水艇の名前は〈あかつき号〉。国連直下の対怪獣特務機関モナーク、その配下である海洋研究所が試作開発した海底調査艇だ。

 針の落ちる音さえ拾える細微な音響ソナーと、怪獣の襲撃にも耐え得る頑強で武骨な船体。怪獣が潜んでいるかもしれない危険な海での冒険に向けて建造された、まさに最新モデルである。

 

 無論、あかつき号の目的は遊覧などではない、Gフォースとモナーク共同によるれっきとした任務である。静かな緊張に満たされた船内で、艦長が厳かに口を開く。

 

「少佐、まもなく捜査予定海域に到着します」

 

 その報告を受けたGフォースの指揮官:クサカリ少佐は、艦長を通じてクルーへ指示を下す。

 

「予定海域に到着次第、すぐに捜索を開始してください」

 

 てきぱきと几帳面な機械のように役割を果たし続けるあかつき号クルーたちを満足げに見届けながら、クサカリ少佐は言った。

 

「“エイペックス=タイタン”たちの残骸は、この海域に散在しているはずです」

 

 オーストラリアのシドニー港の沖合を探索するあかつき号、その目的は先日の激闘で倒されたエイペックス=タイタンこと〈エイペックス=メカゴジラ〉の残骸回収である。

 シドニー沖合の特設会場で行われた、『次世代メカゴジラ:エイペックス=タイタンシリーズの引き渡し式典』。しかしその最中で量産型メカゴジラ、エイペックス=メカゴジラたちは突如人の手を離れて暴走し反乱を起こした。

 シドニー沖合の海に沈んだエイペックス=メカゴジラたち、その残骸の回収があかつき号およびそのクルーに課せられた今回の任務である。

 そんな重大任務の指揮を執るクサカリ少佐が特に念を押したのは、ある『パーツ』のことだ。クサカリ少佐は言った。

 

「特に、“頭の部分”の回収には細心の注意をお願いします」

「わかりました」

 

 エイペックス=メカゴジラには、新しいタイプの電子頭脳が用いられていた。使われているのは新素材、M塩基。ある程度の仕様はエイペックス社から開示されてはいたけれど、すべての秘密が明かされているわけではない。ともすると、エイペックス社自身ですら把握していないような、仕様上の危険な欠陥があったのかもしれない。

 『人類の新たな希望』となるはずが一転、恐るべきロボット怪獣として人類の新たな脅威と成り果てたエイペックス=メカゴジラたち。最終的にはGフォース機龍隊の奮戦により殲滅されることにはなったけれど、Gフォースの任務はまだ終わっていない。奴らが反乱を起こした原因を究明し、再発防止策を立てねばならない。

 そのためにも、エイペックス=メカゴジラの頭部、その回収は何としても必要だった……もっとも、先日エイペックス=メカゴジラたちを殲滅したGフォース空軍の爆撃は壮絶なものだったから、無傷で残っているとも考えにくいのだが。

 

「深度250……」

「深海灯へ切り替え」

「サーチライト起動」

「作業開始……」

 

 クサカリ少佐の指揮のもと、艦長が操舵室へ指示を下し、クルーたちは慎重にあかつき号を操縦する。

 船の下部から左右に伸びた巨大なアームがそれぞれに稼動し、海底の探索を開始した。探査装置であるサーチライト、まっすぐ伸びた光の帯が水中を照らす。エイペックス=メカゴジラの残骸を捜すあかつき号、その動きをトレースするようにサーチライトもまた動いていく……

 

「深度400……」

 

 そして辿り着く海の底。サーチライトに照らされて、海の底が露わになってゆく。

 あかつき号による強烈なビームライトで薄暗がりが照らし出され、深い海の謎めいた景色が次第に明らかになる。透き通った海中で広大に広がるカラフルな珊瑚礁、その中を銀色な魚たちが優雅に踊っているのが見える。

 その海底の砂の上で、巨大な構造物が無秩序に散らばっていた。先日の式典のために建造された海上特設ステージ、その残骸だ。壮絶な空爆で倒壊した特設ステージ、その破片やら鉄骨やらが美しいサンゴを踏み潰し、透き通っていたはずの海中をひどく攪拌して著しく濁らせてしまっている。

 そんな光景を目の当りにしながら、クサカリ少佐は顔を顰めた。

 

「ひどいな……」

 

 シドニー沖合といえば、世界で有数の美しい海とされている。その美しい海をこんな形で汚してしまうとは。

 一連の不祥事においてGフォースは、過激な環境保護団体としても知られる巨神擁護機構を含む数多の環境保護団体から痛烈な批判を受けていた。かつて休暇の際に家族でオーストラリアへ旅行し、その海の美しさに魅せられたこともあるクサカリ少佐としても痛恨の極みだ。まったく、取り返しのつかないことを仕出かしてしまった。

 ……まあ、そのことは今はいい。クサカリ少佐はすぐさま軍人としての自身へと立ち戻り、目の前の仕事に立ち返る。

 あかつき号が照らす深海の闇と残骸の山、それらの中に“それ”は埋もれていた。

 

「これが、エイペックス=タイタン……」

 

 クサカリ少佐の視線の先、海の底に横たわっていたのは、巨大な鉄の(むくろ)であった。凶悪なカギ爪を備えたロータークロウ、肋骨が浮き出たような禍々しい構造を備えた胴体、規則正しく並び立っている三列の背鰭、まさに怪物リヴァイアサンとでも形容できそうな長大な尻尾とテイルドリラー。

 史上最強無敵の新型メカゴジラ、エイペックス=メカゴジラ。直立すれば身長60メートルにも及ぶ屈強な巨体も、今や先日の壮絶な爆撃で八つ裂きのバラバラにされ、無惨な残骸を静かに晒していた。

 とりあえず体のパーツは確認できた、しかし……

 

「頭が、ない……?」

 

 クサカリ少佐が懸念していたのはやはり『頭』だった。

 胴はある、手足も、尻尾も。だが、肝心の首から上が見当たらない。あのゴジラの髑髏そっくりの顔、一目見れば忘れられない恐ろしげな頭部、いくら海底の暗がりでも見落とすはずはないのだが。

 

「おかしいですね……分析装置の反応、ゼロですか?」

 

 念を押すクサカリ少佐に、探査担当のクルーは困惑気味に答えた。

 

「はあ、半径200メートル以内に落ちていれば、たとえ10センチ平方の破片でも反応するはずですが……」

「位置の判定に狂いはないですね?」

「絶対に、狂いはありません」

 

 クサカリ少佐が探していたもの、それは正確に言えば頭ではない、その中枢に組み込まれているはずのM塩基だ。だが、どういうわけか、エイペックス=メカゴジラの頭部は髑髏まるごと、影も形もなく消え失せていた。

 今、メカゴジラの頭はどこに? あるいは、メカゴジラの残骸は、もう……?

 そんな考えに至ったときである。

 

 ガタン。突然、船体が激しい揺れに襲われた。

 

 クルーたちは手すりにしがみつき、パニックに駆られながら、船長はコントロールルームに駆け込んだ。操縦士たちはパネルの前に座り、警告灯とエラーメッセージが画面を覆っていた。

 

「何が起こっている?!」

 

 艦長が叫び、操縦士は言葉を詰まらせて答えた。

 

「異常な海流を検知っ、船体が何か巨大なものに引っ張られていますっ!」

「異常な海流!? 海底火山じゃないのか!?」

「いえ、わかりませんっ!」

 

 その言葉を受けて、クルーたちもショックを受けた。引っ張られている、何に??

 続いて、あかつき号が力強く引かれ、船体の骨格がギシギシと音を立てた。たとえ怪獣に抱き締められても耐えられるように設計された、あかつき号の船体構造が。

 艦長は即断した。

 

「浮上するっ、メインタンクブロー!」

 

 即座に排水し、船体の浮力を軽くする。緊急浮上、何が起こっているのかはわからないがとにかく逃げなくては。そういう判断だった。

 しかし。

 

「だ、ダメです! 引きずり込まれますっ!」

 

 浮き上がる事すらできないほどの引力。まるであかつき号の重量だけが、唐突に重くなってしまったかのようだ。

 

 途端、船内の重力が異常なほど増大し、クルーたちは歩くのもままならぬほどに体が押し付けられた。船窓からは、外の景色が恐ろしい速さで収縮していくのが見て取れた。

 突如急速に増大した圧力と重力、圧し潰されそうになりながらクサカリ少佐が呟く。

 

「い、いったい、何が……!?」

 

 深海の闇と海底が彼らの周りで回転し、次第に消え始める。クルーたちは絶望的に叫んだが、その声は船外に遠ざかっていくだけで、何もできないまま深淵に引きずり込まれてゆくばかりだ

 あかつき号は最後の抵抗を試み、鉄の船体が恐ろしい圧力に耐えていたが、その抵抗も虚しく、最終的には船体が次第に歪み、崩れ始めた。怪獣の攻撃にも耐えるはずの重装甲がひしゃげ、突然の浸水にクルーの悲鳴が響いた。あかつき号の船体すべてが歪み、軋みを上げている。もはや沈没は免れないだろう。

 わけがわからない、と言わんばかりにクサカリ少佐は声を張り上げた。

 

「なにが、なにが起こっているんだ……っ!?」

 

 絶望の叫び声を上げながら、深淵の闇へと包まれてゆくあかつき号。

 ……このとき海に現われたのは特異点、つまり局所的なブラックホールであった。現れた規模はごく小規模、針で突いた程度のものだったけれど、あかつき号を捻り潰してしまうのには充分な破壊力を有していた。

 だが、そんなことなどクサカリ少佐たちは知らない。知ったところで何も出来やしなかったろうが。

 

「う、うわあああああ――――……っ!?」

 

 モナークが造り上げた最新鋭の海底調査艇、あかつき号。彼らは海底の深淵の中でブラックホールへと吸い込まれて、船とそのクルーは永遠の闇の中へと消えてゆく。

 その刹那、クサカリ少佐は何者かの笑い声のようなものを耳にした。

 

 ――ピロピロケタケタ……!

 ――イーヒヒヒヒヒヒ……!

 

 そしてあかつき号を飲み干したブラックホールは気が済んだかのようにプツンと消え、海は再び普段通りの様相を取り戻したのだった。

 

◆     ◆     ◆     ◆

 

 そんなあかつき号の哀れな末期を、“私”は見届けていた。

 

 私が立つのはシドニーの海辺、オペラハウスとハーバーブリッジを遠くに眺められるアソル・ビーチの砂浜。見渡す海上はどこまでも穏やか、南洋の強い陽射しも燦々と朗らかに照り付けていた。

 そんな美しい景勝地、けれどその水面下奥深くでは恐ろしいことが起こっていた。潜水艇一隻が沈没、そのクルー十数名の命が一瞬にして奪われる。そんな惨劇が起こっていたことなど、私の他に誰が気づこうか。

 

 ……さて。あかつき号の最期を見届けた私はすぐに通信をオンライン、“御主人様”へ状況を報告することにした。

 Gフォースに先んじてエイペックス=メカゴジラたちの残骸からM塩基を回収できたこと。その場に鉢合わせたモナークの潜水艇あかつき号については、跡形もなく“始末”されたこと。そして私はこれから御主人様のもとへ帰ること。

 そんな私の報告を受けた御主人様は、とても満足げだった。そして気遣わしげに言う。

 

〈……ご苦労様。ごめんね、つまらない御遣(おつか)いを押し付けてしまって。本当はボク自身が行ければよかったんだけれど……〉

 

 いいんです、御主人様。つまらない御遣い、喜んで。私ははっきりそう答える。

 ……御主人様は、もはや人前には出られない身の上だ。だからこのオーストラリアには私が代わりに遣わされ、そして私は私なりに御主人様のお役に立てることへこの上ない喜びを感じている。

 御主人様の幸福、それが私の幸せですので。私は、心の底からそう告げた。

 

〈ありがとう。帰ったら、また遊ぼうね……〉

 

 はい、御主人様。そう答えて通信をオフラインにした私は、手早く帰る支度を始めた。

 広げていた荷物や機材は即座に撤収、ブリーフケースに収めたM塩基を確認ししっかり封を閉じたあと、私はひとり浜辺に立ち尽くした。時間は午後過ぎ、燦々と照らす太陽はまだ眩いけれど徐々に傾きつつある。静かな波音が私を包み込み、爽やかな風が私を撫でてゆく。

 ……他の観光客のように遊んで帰る時間はないし、その必要もない。けれど、せめて帰るまでの道のりだけは私一人で楽しんでも良い。そんな風にも思った。

 

 

 東京で起こる恐るべき“大事件”、その前日の出来事である。




タイトルは映画『ディープ・ブルー』の原語版『Deep Blue Sea』から。サメ映画には疎いけど、一番好きな作品の一つ。
今回は『メカゴジラの逆襲』オマージュで突発的に思いついたので書きました。

好きなゴジラ映画のヒロイン

  • 山根 恵美子
  • 小美人(昭和)
  • 星 由里子さんが演じてた記者の人
  • 真船 桂
  • 三枝 未希
  • 小美人(コスモス)
  • 小美人(エリアス)
  • ベルベラ
  • 辻森 桐子
  • 立花 由利
  • 家城 茜
  • カヨコ=アン・パタースン
  • 尾頭ヒロミ
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  • ジア
  • タニ=ユウコ
  • ミアナ
  • マイナ
  • 神野 銘
  • 小美人(ちびゴジラ)
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