気づいたらメカゴジラ転生して20年経ってた   作:よよよーよ・だーだだ

9 / 29
9、フルメタル・パニック!

 〈エイペックス=ビルサルディア先進工業株式会社〉――世界的軍産複合体エイペックス社のアジア現地法人であり、日本の首都沿岸に巨大な自社プラントを構える一大企業である。その起源は、エイペックス社技術開発部のリーダーだったクロヌマ=ゴロウが、かつての戦友とも呼べる技術者チームと共に設立したことに端を発する。めきめきと頭角を現したビルサルディア社は、今やエイペックスグループの技術分野を支える中核的存在となっていた。

 

「突飛なアイデアは大歓迎だ、私はそれで金を得た」

 

 ――エイペックス社総帥ウォルター=シモンズの言葉が象徴するように、同社には極端な実力主義が根付いている。クロヌマもまた、その社風の中で才能をいかんなく発揮し続けた。

 たとえばどんな構造物でも組み上げられる万能素材「自律思考金属体:ナノメタル」の開発。あるいはゴジラの放射熱線に匹敵する高出力荷電粒子熱線砲〈プロトンスクリームキャノン〉の実用化。そして原子力を凌駕する新エネルギー〈プラズマクリーンエネルギー〉による高出力融合炉エンジン〈プラズマメイサーパワーコア〉の開発……いずれも比肩なき業績だった。

 そうした偉業を積み重ねてきたエイペックス=ビルサルディア社が、ウォルター=シモンズの悲願にして史上最大のプロジェクト『新型メカゴジラ建造計画』を任されるのは、ある意味必然だったといえる。クロヌマ率いる研究チームは、かつてない最高水準のメカゴジラを生み出すため、昼夜を惜しんで開発に没頭した。

 

 しかし、新型メカゴジラ開発は早々に壁へ突き当たる。

 体重数万トンにも及ぶ怪獣と真っ向から渡り合うとなれば、機体にはとてつもない強度と機動性の両立が不可欠だ。だが現実問題として、それを同時に満たす技術は世に存在しなかった。ゴジラ級怪獣との近接格闘など夢のまた夢――いま作れるメカゴジラは従来型同様の重火力ホバリング砲台に落ち着くしかない、というのが当初の妥当な見通しだった。

 

 だが、それではダメだ、とウォルター=シモンズは首を左右に振った。

 

 遠距離からちまちまと砲撃するだけのメカゴジラなど、「臆病者の小賢しい戦法」に過ぎない。人類の新たな希望として造り上げる以上、それは怪獣たちを正面から踏み躙り、圧倒的な力で叩きのめせる“最強”でなくてはならない。だからこそ“ヤツ”の名を冠したのだ、と。

 

「本物のゴジラに肩を並べる、機械仕掛けの怪獣王。それこそが、我々エイペックス社の目指すべき頂点(Apex)だ……ッ!」

 

 ――その会長直々の勅命を果たすうえで、クロヌマが参考にしたのは『怪獣黙示録』時代に建造された“人類最後の希望”ことメカゴジラ機龍である。

 機龍が画期的だったのは、生体パーツである「ゴジラの骨」を組み込むことで技術的制約を乗り越えた点にあった。ゴジラ由来の頑強な骨格フレームとDNAコンピューティングによる高い演算能力が生み出す、従来型のメカゴジラを遥かに凌駕する格闘戦能力――それこそ奇跡の設計図であった。

 クロヌマたち開発チームは、機龍が示したヒントをもとに新型メカゴジラの実用化をめざす。運良く、ボディ部分の素材は『怪獣黙示録』を経て飛躍した冶金合金技術の結晶〈T-1ナノメタルスケルトンハウジング構造〉によって実現が見えてきた。あとは、その完璧なボディを制御できる優れた電子頭脳が不可欠となる。

 

 そこでクロヌマは、生体人工知能に関する専門家を外部から招聘すべく、大規模なハッカソンをインターネット上で開催した。優れたAI研究者のアイデアを余すところなく吸い上げる狙いである。数え切れないほどの試行錯誤の末、クロヌマはひとりの若き天才に辿り着いた。

 

 ――ハンドルネーム:KILAAK(キラアク)

 

 キラアクの発想は常軌を逸していた。

 キラアクがハッカソンで優勝を飾った並列演算ネットワークシステムのアイデア〈ゲマトリア演算ネットワーク〉は、メカゴジラの中枢アルゴリズム〈デ・インデ〉として実装され、そのハードウェアを担う汎用合成核酸分子構造体〈M塩基〉もまた、キラアク自身が考案したものだった。

 いずれか一つでも世紀の大発明と呼ぶに値するのに、それをすべてやってのけるキラアクとは何者なのか。

 面接代わりのWeb会議で問いただすクロヌマたちに、キラアクはデジタル合成された声だけでこう告げた。

 

「神様ですよ。ボクの才能は神様からの授かりものなんです」

 

 HN(ハンドルネーム)が古の侵略者を連想させる一方で、彼は今どき珍しいほどの敬虔な信仰心を持っていたらしい。『怪獣黙示録』以降、従来の宗教はいずれも力を失っているはずだが、バカにしているのか本気なのか分からないこの発言は、後から振り返れば不気味な伏線だったかもしれない。

 だが当時、クロヌマたち開発チームは「個人の信仰は自由」と軽く流してしまった。かつて“インドの魔術師”と呼ばれた天才数学者ラマヌジャンも深い信心の持ち主だったというし、そういう“神がかり”タイプの天才なのだろう――その程度の捉え方だった。

 

「……まさか、その姿勢が今の惨状を招くとはな」

 

 いま、クロヌマ=ゴロウは頭を抱えている。

 エイペックス=ビルサルディア社が生み出した自信作〈エイペックス=タイタンシリーズ〉は、シドニーでの引き渡し式典の最中、突如暴走。そのプロトタイプ機が他の量産型までもハッキングし、街に甚大な被害をもたらしたのだ。まるで「本物の怪獣災害」さながらの惨事だったが、幸い近海で待機していたGフォースの迅速な対応によって、奇跡的に死傷者は出ずに済んだ。

 しかし、防衛戦の切り札として活躍したのはよりにもよって、旧型メカゴジラである“機龍”――すなわち新世代機の先行機だったはずの存在だった。あまりにも皮肉が効きすぎていた。

 

「これで終わりだな、我々も……」

 

 クロヌマの口から自嘲交じりの声が漏れる。天才科学者キラアクは事件後に消息不明となり、プロトタイプや量産機の制御アルゴリズムにおける核心部分を彼が担っていたことから、責任の所在は当然エイペックス社、ひいてはビルサルディア社に向けられる。社長たるクロヌマは言うまでもなく……。

 だが、そのとき腹心の部下、ツダ=シズマが静かに手を置いた。

 

「そんなことはありません、クロヌマ中佐」

 

 “中佐”というのは、クロヌマがかつて『怪獣黙示録』時代のGフォースにて技術士官を務めていた頃の階級だ。ツダは昔の呼び方をわざと使って、彼の心に火を点そうとしているようだった。

 

「まだ終わりではありません。鋼の意志がある限り、何度でもやり直せます」

 

 かつての矜持――“鋼の意志”という力強い言葉に、クロヌマの胸中で失いかけた熱が再び呼び起こされる。そうだ、まだ何も終息してなどいない。この失敗から学び、真実を解明し、対策を講じればいい。それが終わったときにこそ、はじめて“終わり”が訪れるのだと。

 顔を上げれば、研究チームの面々もまた同じ決意を宿した表情で彼を見つめている。苦渋の中にも覚悟をにじませながら、クロヌマは答えた。

 

「……そうだったな、ツダ少佐。そして諸君」

 

 今度はクロヌマがツダを昔の階級名で呼び返す。自嘲じみた笑みの奥には、再び宿った強い意志が見え隠れしていた。鋼の意志を胸に抱えてきた男が、あまりにあっさり弱音を吐いてしまった自分を恥じているかのように――。

 

「確かに、まだ我々は終わってはいない。それに“最悪の事態”は免れたんだ……」

 

 クロヌマが恐れていた“最悪の事態”とは、電子的な汚染の蔓延である。

 プロトタイプ機〈0《ゼロ》号機〉がドローン=タイタン群を操ったのは、明らかにネットワークを通じたクラッキングによるものだった。結果として、Gフォースがエイペックス=タイタンを根こそぎ殲滅したおかげで、汚染は世界規模の災厄へ広がる前に辛うじて食い止められたのだ。

 

「もしあれが拡散していれば、“コレ”だって奪われていたかもしれん」

 

 クロヌマが視線をやった先には、ホログラムで投影された一体の巨大ロボット怪獣〈対ゴジラ超重質量ナノメタル製決戦兵器〉の設計図が浮かび上がっていた。実機があれば全高50メートル、全長100メートル、総重量3万トンを誇るはずの巨大メカ。そのシルエットは機械仕掛けのゴジラの骸骨のようでありながら、無限の執拗反復(ostinato)を思わせるクリスタル的構造が体の各部を不規則に侵食している。背びれや尾は怪獣ゴジラを意識したものでありつつ、棘皮動物のような無数の突起が並び、鋭利かつ攻撃的な印象を放つ。

 これはいわば、完全にナノメタルのみで構成された“純粋な”メカゴジラ――すなわち〈ナノメタル=メカゴジラ〉である。

 キラアクが開発したM塩基を用いず、量子コンピュータ電子頭脳〈ザル・ジⅠ型改〉に人工知能〈デ・インデ〉を載せることで、生体部品ゼロの完全機械生命として構築されるはずだった。だが結局は、“決定版”たるエイペックス=タイタンシリーズと違い、CAD段階で廃案となり、実機は一度も製作されなかった。

 

「……まあ、夢で終わるしかなかった案件だがな」

 

 ナノメタル=メカゴジラを実現するには、膨大かつ高純度のナノメタル資源を確保する手段が存在しない。また、そもそもエイペックス社の最終目標は量産型のメカゴジラだったため、コスト度外視のワンオフ決戦兵器を無制限に作るわけにはいかない。

 たとえ大量増殖プログラムでナノメタルを自己生成させる方法があったとしても、特異点を超えて制御不能の“グレイ・グー”現象を招く危険性があまりに高い。そこまで踏み込むほど、クロヌマたちは狂ってはいなかった。

 

「さて……ではまず、今回の暴走事件の全容解明から始めようか、ツダ少佐」

「はい、クロヌマ中佐!」

 

 そう声を掛け合い、改めて立ち上がろうとした矢先。工場内に突如鳴り響く警報が、全員を凍りつかせた。

 

〈緊急事態発生! 緊急事態発生!〉

 

 何事だ? クロヌマは愛用の管理アシスタントシステムを呼び出し、社内ネットワークを総括する監視ログを急ぎ確認する。

 

〈ナノメタル保管庫で異常発生。至急、退避してください!〉

 

 ナノメタル保管庫……あそこは厳重なセキュリティで守られているはず。まさか侵入者がいるのか? だが、次に表示された監視カメラの映像に一同は声を失った。

 

「馬鹿な……いつの間に、こんな量が……っ!?」

 

 画面には、床一面を銀色の流体が埋め尽くす光景が映し出されていた。破られた保管庫の扉から溢れ出た“生きた銀”が、小さな波となって揺らめきながら、やがて洪水さながらに勢いを増していく。蜘蛛の巣を張り巡らすように複雑に結びつき、絡まり合う無数のパターン……それは粘菌か群体生物のように、確かな意志をもって“何か”を形作ろうとしているかのようだった。

 膨大な量のナノメタルが暴走を起こし、異常増殖していたのである。

 

〈危険です、至急、退避してください! 危険です、至急、退避してください!〉

 

 警報が鳴りやまぬなか、クロヌマたちは目を見張る。銀色の海から延びた無数の触手じみた突起が一本に束ねられ、結晶のような硬質の形状を取りながら隆起していく。クリスタルの鋭い光をまとい、見上げるほどの巨体へ姿を変えていくそれは……。

 

「ナノメタル=メカゴジラ……!」

 

 クロヌマが愕然と呟いたのと同時、ナノメタル=メカゴジラはエイペックス=ビルサルディア社屋へカギ爪を伸ばし、メカゴジラ開発チーム一同を呆気なく捻り潰してしまった。

 

 

 その日、東京都港区・品川駅前の空は、晴れ渡る青をたたえていた。

 

 『怪獣黙示録』後の再建を経て、近未来的なビル群と古来の文化が融合した魅力的な街並みが広がる。海岸線に沿って高層ビルがそびえ立ち、その足元には多くの人々が行き交っていた。穏やかな潮風が吹き抜けるこの街に、突如として邪悪な衝撃が訪れることを、誰も予想などしていなかった。

 

「なに、あれ……!?」

 

 街ゆく人々の視線の先にあったのは、銀色の津波とも呼ぶべき巨大なうねりだった。太陽光を反射する白銀の波頭が、街の中心部から突然湧き起こったかと思うと、その勢いを増したまま瞬く間に市街地のすみずみへと押し寄せる。衝撃波が轟音を伴ってビル街を揺るがし、ガラス張りの高層ビルすら一撃で倒され、そこに暮らす人々の日常を蹂躙していった。

 

「キャーッ!!」

「うわあああああッッ!!」

「逃げろ、早く逃げるんだ……!」

 

 銀の津波のあまりに迅速な侵攻に、街は瞬時にパニックと化す。人々が悲鳴を上げて逃げ惑うが、その“ソレ”は時速数十キロで迫り、逃げ場を奪い尽くしていく。鋭い光を放ちながらうねりを増していく白銀の奔流は、絶望の悲鳴ごと人々を次々と飲み込んでいった。

 

 この正体は、エイペックス=ビルサルディア社の保管庫から漏洩した膨大なナノメタル。

 東京の摩天楼のなかでも一際高くそびえるビルこそがナノメタル流出の震源だった。そこから溢れ出した銀色の奔流は途方もない規模で街を席巻し、止まる気配をまったく見せない。

 

 ――ミチミチ……キチキチ……

 

 急速な増殖を続けるナノメタルは、やがて東京そのものを呑み込みはじめる。生々しい異音が轟くなかで、街並みは未知のメカニズムによって歪められ、再構築されてゆく。かつての雄大なビル群の代わりに、鉄の意志を具現化したかのごとき機械的ストラクチャーが乱立し、東京の風景は白銀の悪夢へと変わり果てる。

 しかも増殖は止むことを知らない。意志ある生命体のように蠢く無数のナノメタルはますます肥大化し、ついには品川エリア全域を喰らい尽くした。

 

 そして、街が白銀の濁流に飲み込まれたあと、どこからともなく“銀色の闇”が立ち込めはじめた。

 目が眩むほどに輝きながら、しかしひとたび視線を向けると一メートル先すら見通せないほどの濃密な闇。この正体は、ナノメタライズ化した街の隅々へと広がっていく謎の微粒子の奔流だった。誰かが、か細い声で呟く。

 

「霧……?」

 

 それはナノメタル表面から噴き出す〈ナノメタル・ミスト〉。粉塵ですら言い尽くせないほど微細なナノ粒子が、ナノメタルの制御する気流に乗り、淡くも重苦しく漂っている。大地も空も銀に覆われ、街は色彩を失った。わずかに生き延びた人々は呆然と立ち尽くし、事態を正しく理解する暇さえない。そんな中、ひとりの幼い少女が顔を上げ、指を差してはしゃぐように声を上げた。

 

「……雪!」

 

 その声音に釣られて、周囲の人々も思わず空を見上げる。

 少女の言うとおり、白銀の粒がちらちらと無数に降り注いでいた。

 

「綺麗……」

 

 誰かがそう呟いた。まるで冬の雪景色のような幻想的な光景に、一瞬、見る者は魅せられる。だが、その儚い美しさに触れた瞬間、人々はすぐに気付くことになる。――これは雪などではない。

 

〈……聞こえますか、聞こえますか、皆さん〉

 

 まるで空気の中から直接語りかけられるような不思議な“声”が響く。

 リミッターを失ったナノマシンが雨のように降り積もる“ナノメタルの降下物(Fall Out)”――その静寂を切り裂くように、声は続けて人々の耳へ入り込んだ。

 

〈……聞こえますか、東京都城南地区の皆さん。“我々”は、皆さんの聴覚へ直接話しかけています〉

〈皆さんはただいまより“我々”の庇護下に入ります。これより勝手に庇護下を出ようとする行動は許されません〉

〈もし皆さんが無秩序な行動に走るなら……〉

 

 その言葉の刹那、人々は体を貫くような電撃の痛みに襲われた。

 

「痛いッ、痛いぃッ!?」

「くるしい、くるしい……!」

「やめて、やめてくれ……!!」

 

 降り積もったナノメタルが皮膚を食らうように喰いつき、高圧の電流で容赦なく人々を苛む。

 身動きできぬほどの苦痛に打ちひしがれる人々の意識に、先ほどの“声”がまるで甘言のようにするりと浸透してくる。

 

〈……おわかりいただけましたか、皆さん〉

〈ご安心ください。“我々”の計算から逸脱しない限り、これ以上の危害は加えません〉

〈皆さんはどうか、これまで通りの生活を続けていただければよいのです……〉

 

 空からの陽光すらナノメタル・ミストとフォールアウトに遮られて、都市の色彩は完全に失われていく。品川駅前から始まった銀色の浸食は街を統べ、一種の神経質なまでの静寂をもたらした。

 東京の街は、圧倒的な支配を帯びた白銀の世界へと塗り変えられ――その中心には、未知なる意思を宿した“声”が、なお鳴り響いていたのだった。

 

 

 いち早く動いたのは、対怪獣特殊戦闘軍〈Gフォース〉。ローターが風を噛む激しい音を響かせる攻撃ヘリ群、そして戦闘機の編隊が東京湾上空に姿を現し、後れを挽回しようと厳戒態勢を敷く。そこには、旗艦たる最新鋭戦艦〈火龍(カリュウ)〉を中心に編成された大艦隊が待ち受けていた。

 先のシドニー戦では先手を取ったGフォースだったが、今回はすでに東京の沿岸部を侵食されてしまい、後手に回るかたちとなっていた。それでも、なお敵を駆逐すべく十数隻に及ぶ艦隊を東京湾へ集結させ、ナノメタル=メカゴジラから都市を奪還しようと試みる。艦列の規模だけ見れば、並の怪獣であれば恐れをなして逃げ出すほどの圧倒的戦力だった。

 

「撃てェッ!!」

 

 艦隊の指揮官が雄たけびと共に砲撃を指示すると、各艦の電磁加速砲が一斉に旋回し、目標を見据えて砲口から火を噴いた。

 

 ――ドォンッ! ドオォンッ!!

 

 凄絶な砲声が空と水面を震わせる。炸裂の閃光で、東京沿岸を覆っていた白銀の霧が吹き飛ばされ、ナノメタルに蝕まれた今の東京の姿が徐々に露わになる。艦上の乗員たちは、そのあまりにも異様な光景に思わず声を呑んだ。

 

「こ、これは……っ!?」

 

 そこには、かつての東京の街並みが見る影もなく塗り替えられた鉄の要塞があった。

 空へと突き刺すように乱立する鋼鉄の塔と、鏡面のように光を反射する舗装――それらは最早、人の手で造られた都市の面影を微塵も残していない。

 ネオンを瞬かせていた高層ビルは無機質な超高層の塔へと変貌し、アスファルトの道が白銀のナノメタルで埋め尽くされている。

 公園や広場でさえ、芝生は冷ややかな金属光を帯び、花の姿は鋼の彫刻そのものだ。噴水は水の代わりに金属液を勢いよく放ち、ただならぬグロテスクな“都市のパロディ”がそこに完成していた。

 

「なんて、おぞましい……!」

 

 誰かがその実感を吐き出したとき、艦隊の視線は自然とある一点へ集まる。東京タワーが屹立しているはずの場所に、まるで怪獣ゴジラの姿を象ったかのような巨大建造物がそびえ立っていたからだ。

 

 その“ゴジラの似姿”は、全高350メートル、尻尾を含めれば全長1,000メートル近い巨塔と化している。巨大な背鰭が三列に並ぶ背には大量のチューブやダクトが絡みつき、まるで世界樹の幹さながらに太く逞しい胴体を支えている。頭部は禍々しいゴジラの顔を模倣したような形状で、東京タワーを骨格として組み上げられたこの怪物は、見る者すべてに絶対的威圧感を与えていた。

 

「ゴジラ・タワー……!」

 

 火龍の艦長である李翔(リー=シャン)大佐が息を呑んでそう呟いた瞬間、その怪塔が悠々と身じろぎを始める。金属が軋む高周波のような轟音が周囲を震わせ、300メートルを優に超えるゴジラ・タワーの動きだけで海上の艦隊は一瞬ひるんだ。続いて辺りを裂くような咆哮が響き渡る。

 

「――――――――――――――ッッ!!!!」

 

 まるで本物のゴジラを上回るかのような低音域からの叫びに、Gフォースの面々は背筋を凍えさせられる。だが、彼らは脅威に屈するわけにはいかない。艦長をはじめ、再び我に返った艦隊は一斉射撃を再開し、ゴジラ・タワーへ砲火を浴びせかけた。

 

「う、撃て! 撃てぇっ!」

 

 続けざまのミサイル攻撃が数十発、軌跡を描きつつゴジラ・タワーを目がけて殺到する。

 しかし、地下のナノメタル鉱床から無尽蔵にエネルギーを汲み上げるゴジラ・タワーにとって、通常兵器の攻撃は蚊に刺されたほどの痛痒すら与えられなかった。

 

「馬鹿な、無傷だと……!?」

 

 リー=シャン大佐が言葉を失う。烈火に包まれるように見えたゴジラ・タワーだが、その鋼の甲殻には目立った損傷ひとつ確認できなかった。むしろ、さらなる脅威を振りまく準備を整えようと、その巨体が変形を始める。トランスフォームする外装、展開された放熱フィン、背鰭を走る紫電――見るからにゴジラさながらのエネルギーチャージだ。

 

 大艦隊は即座に退避行動を試みるものの、ゴジラ・タワーのチャージは一瞬で完了する。背鰭の光が頂点に達した瞬間、口腔部から閃光が奔った。

 

「ぐアァァ――――ッ……!!」

 

 数百ギガワットクラスと解析される大出力の荷電粒子ビームが発射され、旗艦である火龍は真っ先に爆散。続けて僚艦も次々と轟沈していく。青白い光が海面をなぞるたびに、艦艇が濁流の炎へと呑まれていき、Gフォースの誇る艦隊は一瞬にして壊滅状態へ追い込まれた。どうにか一隻だけが反転して逃げようとするが――。

 

 ――ブゥンッッ!!

 

 追撃の第二射が背後から突き刺さり、退避を試みた艦艇は爆炎に包まれて消滅した。

 こうして東京湾の海面は炎の海と化し、Gフォースの大艦隊はわずか数十秒で壊滅へと至る。

 

 だが、これほど圧倒的な火力の差を見せつけられても、まだ人類は戦意を失わなかった。

 ならば海上からがダメなら頭上から――と、同時進行で空からの攻撃を敢行していたのである。ゴジラ・タワーが大艦隊を蹂躙している隙に、高高度からGフォース空軍の爆撃機が近づいていた。

 

〈目標は、正面から大口径荷電粒子ビームキャノンを放出。1番機は正面から、2、3番機は背後から回り込め。火龍の仇を頼む〉

〈了解、今から仇を討つ〉

 

 それらの爆撃機には最新鋭の大型貫通爆弾〈MOPⅡ〉が積まれている。先日、エイペックス=メカゴジラの軍団をも一掃してみせた実績を持つ強力な爆弾であり、直撃すればいかにゴジラ・タワーといえども無傷では済むまい――誰もがそう期待した。

 

 だが、ゴジラ・タワーは爆撃機が空域に入った瞬間、その背面装甲を展開し、無数のナノメタル・ミサイルを撃ち上げてきた。

 シャワーのように広がる誘導弾は、極めて高い追尾性能とスピードを誇る。爆撃機たちは回避行動を試みるが、その軌跡を簡単に先読みされてしまう。

 

〈くっ、誘導弾だと!? 至急退避を……〉

 

 指令が終わるより先に、猛烈な爆風が機影を呑み込んだ。ナノメタル貫甲爆裂弾の直撃を受けた爆撃機は機体を蜂の巣にされ、火の玉となって空中分解する。

 さらに、正面攻撃を試みようとした1番機までもが――

 

 ――ブゥンッッ!!

 

 縦一閃に貫く荷電粒子ビームの切り払いを浴び、上下に切り裂かれるように破壊されて燃え尽きた。

 砕け散った爆撃機の残骸が火炎の雨となって降り注ぐなか、海上はすでに火の海と化している。あまりに凄惨な地獄絵図を前にしても、ゴジラ・タワーは微塵の動揺すら見せない。むしろ、その絶大な破壊力を誇示するように、勝利の雄叫びを放った。

 

「――――――――――――……ッ!!!!」

 

 ゴジラ・タワーによる、大勝利の勝鬨(かちどき)

 本物のゴジラ顔負けの圧倒的大火力を誇ったゴジラ・タワーに、Gフォースの大艦隊と空爆部隊が持ち堪えられたのはわずか数分。

 

 人類は、敗北した。




タイトルは賀東招二のライトノベル『フルメタル・パニック!』から。

好きなゴジラ映画のヒロイン

  • 山根 恵美子
  • 小美人(昭和)
  • 星 由里子さんが演じてた記者の人
  • 真船 桂
  • 三枝 未希
  • 小美人(コスモス)
  • 小美人(エリアス)
  • ベルベラ
  • 辻森 桐子
  • 立花 由利
  • 家城 茜
  • カヨコ=アン・パタースン
  • 尾頭ヒロミ
  • マディソン=ラッセル
  • ジア
  • タニ=ユウコ
  • ミアナ
  • マイナ
  • 神野 銘
  • 小美人(ちびゴジラ)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。