俺は、強くて硬くなくていーわな男   作:なんちゃってアルゴン

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家出してキタカミの里
親が親なら子も子


 

 

 

「タケシ兄さん。俺、この家出て行くから」

 

 今晩の食事の支度をしている兄さんに向かってそう告げた。

 十人いる子供の世話を長男一人に任せて修行だの家出だのと、二人だけ自由気ままな事をするクソみたいな親がいた家ではあったけど、まともでいてくれたタケシ兄さんに対しては、ちゃんと筋を通して行かねばなるまい。

 食事の支度をしていたタケシ兄さんの手から、菜箸が床に落ちる音がした。

 動揺しているだろうに、少しでもそれを俺に悟らせない様にゆっくりとしゃがんで目線を合わせてくれる。

 ああ、俺はこの人のこう言うところが本当に好きだ。

 特に、前世の記憶を思い出して現実とのギャップに苦しんでいる時なんかに、何度も何度も助けられたんだ。

 

 だからこそ、もうこれ以上この人に迷惑はかけられない。

 

「な、何を言っているんだテンゴ。そんな冗談は面白くないぞ」

 

 衝撃からか、いつもジムや俺達兄弟に見せている堅物キャラが崩れてしまっている。

 流石の強くて硬い意志も、こう言う衝撃には弱かったみたいだ。

 残念ながらタケシ兄さん、俺には面白い冗談を言えるセンスなんてないよ。

 

「冗談なんかじゃないよ、タケシ兄さん。俺はもう旅に出て良い年齢なんだ、俺一人いなくなるだけでも家計的にも助かるでしょ? それにニビジムだって大変だろうし、下の子達にかかる生活費だって馬鹿にならないと思うしね。これからは自分の食い扶持は、自分でどうにかしようと思ってさ」

「……ふざけた事を言うんじゃない! なにが家計だ! なにがジムだ! 年齢や生活費だなんて、そんな事は関係ない! お前は、俺の大切な家族の一員で、大切な弟だ!」

「……ありがとう。そう言ってもらえてすごく嬉しいよ。……そう言えば、今日の晩ごはんは揚げ物なんだね。火元、見てなくて大丈夫?」

 

 タケシ兄さんの視線が後ろに逸れたタイミングで、素早く後ろに下がってモンスターボールからポケモンを繰り出す。

 

「ユンゲラー『テレポート』」

 

 ……ごめんね、タケシ兄さん。

 やっぱり俺も、クソ親父とクソお袋の血を引いたクソ息子みたいだ。

 

 バイバイ。

 

 

 ○

 

 

 三十手前で石につまづいて頭を打って死ぬ。

 俺の人生の終わりはそんなありふれた様で、呆気ないものだった。

 なぜか次の人生の舞台がポケモンがいる世界と言う以外は、次の人生も可もなく不可もなく始まった。

 前世の記憶を思い出して戸惑ったりしても、タケシ兄さんの様な兄弟達に恵まれたから、それなりに幸せな生活をしていた。

 

 ただ、ある時クソ親父がポケモントレーナーの修行に行くとか言って家を出た。

 クソお袋も似たような理由で家を出た。

 残ったのはタケシ兄さんと俺を入れた十人の下の子供達だけだった。

 

 いや、ふざけてるのかと思ったね。

 俺の前世は結婚とも子育てとも無縁で経験なんてしてないけど、それらが並大抵の事じゃない事くらいは分かる。

 前世と今世の記憶から二人の自由奔放だったところを思い出して、俺から両親への評価は「クソ」になり下がった。

 こんなもん、許されていいのか? 

 アニメだから笑い話で済んだんだろうけど、現実の今なら児童相談所に通報案件でしょ? 

 

 そんな訳で今世の家に見切りをつけた俺は、その日から家を出る為にひたすら準備を重ねてきた。

 

 まず、自分のポケモン。

 実家がポケモンジムと言う事と俺の普段の素行が良かった事も重なって、比較的早い段階で自分のポケモンをもらう事ができた。

 最初の相棒はイシツブテだ。

 岩タイプのジムの人間だからか、不思議と岩タイプのポケモンとは波長が合う感じがする。

 通信交換しないと最終進化しないボッチ泣かせなところが難点だけど、まあ何とかなるだろう。

 必要最低限くらいのコミュ力は持ち合わせている。

 

 よろしく頼むぞ、イシツブテ。

「ラッシャイ!」

 

 次に、旅の準備。

 テントやら自炊グッズなんかの旅の準備に、このポケモン世界と俺の知識にあったポケモン世界との違いの確認などなど。

 トレーナーとのポケモンバトルで小銭を稼ぎながら、必要になる物を少しずつ揃えていった。

 値の張る物は、クソ親父が若い時に使っていたと思われる物を拝借した。

 あのクソ親父、自分が旅に出る時には新品の物を用意していきやがって……。

 

 ……賞金バトルの制度があって、本当によかった。

 

 最後に、ポケモンの育成。

 いくら賞金制度があったとしても、バトルに勝てなきゃ意味がない。

 むしろ、こっちの所持金を毟り取られてしまう。

 修行場所として割と近くにトキワの森があったから、岩タイプで倒しやすい虫タイプのポケモンを倒しまくった。

 もちろんここは現実だから、出現するタイプもポケモンも一定じゃない。

 まあ、そこは前世の知識を利用したヒスイ式ボール投擲術で有利を取りまくり、イシツブテの岩タイプ技による無双でひたすらレベルを上げ続けた。

 時々出てくるピカチュウなんかの珍しいポケモンをたまたまゲットしてみたら、それを見ていた相手からケーシィと交換してほしいと言われたのはラッキーだった。

 

 そんな訳で、諸々の準備やら確認が終わってポケモン達もそれなりに育った頃、ケーシィがユンゲラーへと進化した。

 今世で初めて見る進化に感動しながらも、これで全ての準備が整った事を確信した。

 

 そして俺はタケシ兄さんに最低限の筋は通し、ユンゲラーの「テレポート」による家出を敢行した。

 本音を言うなら近くのクソ親父に一発入れてから出て行きたかったが、顔も思い出したくなかったからやっぱりやめておいた。

 ちなみにお世話になった諸々の迷惑料として、バトルで稼いだお金の三分の一をこっそり手紙と一緒に置いてきた。

 

 

 タケシ兄さん、これで少しでも美味いもん食って健康でいてくれよ。

 

 




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