加茂家の超エリート術師に転生しました 作:君よ気高くあれ
安全な陀艮の領域から抜け出し、件の加茂篝を探すべく外へと出た漏瑚は東京の町を見下ろせるビルの上へと立つ。
「ここにいる奴らを殺せば……いや」
たった1人を呼び寄せるには短絡すぎる策で、しかも騒ぎが大きくなれば余計な術師も引き寄せてしまう。
協力者からもっと情報を貰うべきだったかと顔を顰めた漏瑚は「待て……」と自らに言い聞かせるようにして昂った心を落ち着かせる。
「確か奴は呪力を感じ取れるのだったな」
どこにいるか分からないため、こちらから探してもいつ見つかるか分からない。だが相手には、呪力を感じ取る力があるという男からの情報を思い出して漏瑚は笑みを浮かべた。
「ふっ……」
見下ろすために立っていたビルから離れ、軽快に他のビルからビルへと飛び移って漏瑚は人気のいない場所を目指す。
今回の目的は人間たちを殺すことではなく、自分たちが日向を歩くには邪魔な存在を消すこと。それを再確認して漏瑚は人通りの少ない一般道へと出た。
コンクリートで塗り固められた道には下へと飛び出すのを防止するための白いガードレールが取り付けられ、その向こうには人の手があまり入っていない森がある。
月は少し欠けており、狼男がその真価を発揮できないであろう夜空の下で、漏瑚はここなら悪くないと周囲に人や他の呪霊の気配がないことを確かめると、その身に宿した呪力を解放する。
「………………こんなものか」
あまり強すぎるとそれこそ余計な横槍を呼びかねないため、2級から1級相当の呪力量を発するように心がける。
呪力を発した余波で空気は揺れ、地面が少し陥没しかけていた。
「さて……」
本当に来るのかと訝しみながら、漏瑚は周囲を警戒する。
男の言う通り、篝に感知能力があるというのなら、漏瑚の呪力を感知してやって来てもおかしくない。
「……待て。やつはどうやって来るのだ」
仮に呪力を感知できたとして、どうやってここまでやってくるのか。漏瑚の知識では、人間は長距離間の移動に飛行機や電車、車といった文明の利器を使って移動している。
まさか走ってくるということはあるまいと、漏瑚は首を振った。男からの話では、篝の術式は呪力放出という呪力を手や足から出すというもので、経験を積んだ術師や大きな呪力を持つ呪霊ならば容易い芸当である。
拳に呪力を纏って戦うことも、呪力操作が可能な術師や人間にとって難しいことではない。
「だが、足? 足……? いや、まさかな」
足に呪力を流したり、纏わせることは珍しくはないが、だからといって呪力を放出して空を飛んでくる人間など聞いたことがない。
術式で空気や重力を操るというのならまだしも、単純な呪力放出だけで空を飛べるものか。
「バカバカしい…………ん?」
そう吐き捨てて立ち去ろうとした時だった。
「なっ……!」
漏周囲の音を拾う器官が物音を拾った。
その音は、大気を切り裂き、凄まじい勢いでこちらへと飛んでくる音だった。
飛行機の音は聞いたことがある。ジェットを吹かし飛ぶ鉄の塊が、轟音と共に空を飛ぶのを見たことはある。
だがこれは飛行機などではない。
「バカな……」
単眼の漏瑚でも視認できたのは僅かな月明かりのおかげか、あるいは彼自身の生存本能が見なければいけないと警鐘を鳴らしたからなのか。
視界に入ってきたのは、呪力を込めた右足をこちらへと向けて飛んでくる1人の男の姿だった。
「あ、有り得ん……まさか、人間にあんなことが……」
実際に目の当たりにした現実に理解の追いつかない漏瑚を見下ろすように、漏瑚の姿を確認して減速した男が空中で静止する。
逆だった黒髪。鋭い目付き。発達した筋肉。青いノースリーブの服。白い手袋とブーツ。
写真で見たものと相違ないその姿に漏瑚は現れた男が加茂篝だと確信する。
「貴様、カモ カガリか! そうだな!?」
「だったらなんだ」
こんな夜中に呼び出しやがってと、不機嫌な様子を隠そうともせず漏瑚を見下ろす篝。
「そうか、ならば……死ねぇ!」
開口と共にマグマの塊を放ち、間髪入れずに炎の礫を放つ。
並の術師ならば、この攻撃を避けるどころか反応することさえできない。
「死んだな」
不意打ちに近い攻撃だったことも加えて、漏瑚は己の勝利を確信していた。
「おい」
「な……ッ」
しかし、空中でマグマの炎熱によって焼死体となっているはずの男はいつの間にか漏瑚の真横に立っていた。
「いいか、不意打ちってのはこうやるんだ」
ニヤリと明らかに漏瑚を見下した笑みのまま篝はピタリと漏瑚の胸に両手の手のひらを向ける。
「はぁッ!」
「ぬぁッ!?」
瞬間、呪力のこもった気合砲によって漏瑚の身体は後ろへと吹き飛ばされる。
「ぐっ……う、が……」
地面を転がりながらも、すぐに体勢を立て直した漏瑚は自らの胸に手を当てる。
ダメージはない。ただ、飛ばされただけ。
漏瑚の身体を押し出すのに呪力を使ってはいたが、身体にダメージはない。本当にただ吹き飛ばされただけ。
「お、おのれ……ッ!」
明らかに手を抜かれた。漏瑚はそう確信する。そして、それは同時に屈辱でもあった。
「ぐ、うおおおッ!」
雄叫びを上げて、篝へと突撃する。炎の威力を利用して、一気に間合いを詰めた漏瑚が繰り出した拳は篝の右頬に直撃する。
「ふっ……!」
手応えあり。しかも、相当の炎熱を加えた。先程のは避けられたからダメージにならなかったが、今回は確実に当たった。
しかし、その手応えが消えない。身体が燃えれば少しずつ朽ち果て、灰になっていくはず。
「なっ……!」
「次は?」
何の痛痒も感じていない様子で篝は笑みを浮かべたまま漏瑚に問いかける。
「ぬんっ!」
今度はさらに呪力を込めた拳を放つ。
「な……っ、ん……ッ!?」
ガシリと、マグマの如き熱を放っているはずの拳が篝の手のひらに止められる。
「どうした」
さらに呪力を込めるが、それでも拳は動かない。それどころか、漏瑚の拳には凄まじい負荷がかかる。このままでは腕がへし折られてしまうと危機を感じた漏瑚は一旦距離を取るために呪力を使って後ろへと跳躍する。
「呪力量と術式から考えて特級か」
その上、呪霊なのに意思疎通がしっかり出来る。おそらくは今の宿儺よりも強いだろう。
「宿儺といい、この前の少年院に出やがった特級といい……まるで特級呪霊のバーゲンセールだな」
宿儺は特級呪物であって、特級呪霊では無いのだが、バーゲンセールという言葉を使いたかっただけなのかもしれない。
「何故だ、なぜ儂の攻撃が効かん!?」
ジョークが言えるほどに余裕な篝に対して、漏瑚は混乱と焦燥感に駆られる。
「よぉーし……少し遊んでやるか」
口角を上げて、篝は呪力を高める。全身に呪力を張り巡らせると、篝の足場は沈み、砕けたコンクリートが宙へと浮かび上がる。
「な、なにを……っ」
する気だと漏瑚が発する前に、篝が目の前から消える。目を見開き、どこへ行ったか追おうと上を見上げた時。
「こっちだ」
自身の真下から忌々しい声が届く。探していた男は空ではなく、まだ大地に足をつけており、一瞬目を離した隙に漏瑚の目の前に来ていた。
身をかがめて漏瑚より低い姿勢になった篝は拳に力を込めて、それをガラ空きになっていた漏瑚の腹部へと叩き込む。
「ん"ッ!!!?」
瞬間、激しい痛みが漏瑚へと襲いかかる。今までに感じたことの無い痛みだ。
「な、ぐぁ……」
痛む腹部に反射的に手を伸ばして抑えようとするが、それを阻止するように篝は漏瑚の顎へとアッパーを繰り出す。
「ぶぐっ!」
顎を殴り上げられて宙を舞う漏瑚に、篝は地面から飛び上がると空中で浮遊している漏瑚の横腹に踵落としを入れる。
「があっ! ァァッ! ぁッ……」
身体がコンクリートへとたたきつけられ、漏瑚の口から鮮血が吐き出される。
痛みに耐えながら、身体を起こすとゆっくりと篝が地面に降り立ち、漏瑚の姿を見て嘲笑う。
「血が出ているぞ。拭けよ。間抜け面」
「嘗めるなよ小童!!! そのニヤケ面ごと呑み込んでくれるわァアアアッッッ!!!!!」
篝の安い挑発に、今まで自身が培ってきたプライドを粉々にされた漏瑚は頭の火口だけではなく、耳からも火炎を巻き上げ怒りを顕にした。
今世紀最大の怒りに、目の前の男だけは確実に殺すと漏瑚は印相を結ぶ。
「領域展開……」
それは術式の最終段階であり、呪術戦の極致。
これを習得し自在に使いこなせる者はごく限られている。
それぞれの術師の中にある生得領域を結界という形で体外に創り出して敵を閉じ込める。そして、その結界に術師本人の生得術式を付与する事で術式に基づく攻撃を必中とする結界術の一種。
『蓋棺鉄囲山』
道路と森から、周囲の風景が一瞬にして焼けた岩や溶岩で四方八方を囲まれた火山の内部のような灼熱の領域へと変化する。
漏瑚の怒りを誘ってしまったがために、灰すら残さないという絶対の意志を具現化したかのような領域に加茂篝は閉じ込められてしまうのだった。
漏瑚「儂はあと2回。あと2回、領域展開する場面が残っている。その意味が分かるか?」
ヒント 五条悟 両面宿儺
Q、なんで主人公、燃えたり焦げたりしないの?
A、いちいち説明するのも面倒だ。てめぇで勝手に想像しやがれ。
NGシーン
余裕すぎて戦いの最中に敵にテクニックを教える主人公
「重要なのは呪力の強さや動きを掴むことだ。貴様は目で追うから俺の動きについて来れないんだ」
ネタバレの範囲(DBはドラゴンボールの略)
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呪術DB本誌含め全てOK
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呪術DB単行本化してるとこまで
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呪術DBアニメ放映分まで