【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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残りカス

勉強も運動も趣味も才能すらも生まれた時から敵わない、そんなチート兄姉達へ。

 

 

私はお前らに復讐を誓う。

 

 

 

 

 

 

○月✕日

 

さて、そんな訳でなけなしのお小遣いと数日分の着替えをバッグに詰めこんで、釣り堀おじさんの家に転がり込んだ私は、今はなき実母が私にプレゼントしてくれたという日記帳に手を付けることにした。

 

今までは何を書いていいか分からなくて、勿体なくて使えなかったけど、これからはあの完璧超人どもに勝つ為の軌跡を描いていこうと思う。

 

 

現時点での私はこうだ。

 

星野ヒスイ

 

今はなき大人気アイドル『アイ』の娘であり三つ子の末っ子。

兄姉達はまるで双子のようにそっくりだが、私はあまり似ていない。その事について疑問に思ったことがあるが、妙に医学に心得のある兄曰く一卵性とか二卵性とか言う医学的根拠に基づいた理由があるらしい。あとアイ似だとか。

 

確かに当時の映像や写真と見比べてみるとかなり似ている。髪色は染めてしまったが、ウィッグをして本気でめかしこんだら見分けがつかないんじゃないだろうか?

実際はわからない。先ずアイはもう故人であるし兄姉達はアイのことを覚えているらしいが、私は何も覚えていないのだ。当時幼かったこともあるが、その頃の私は兎に角アイに懐かなかったらしく、抱っこすれば泣き、オムツ換えは全力で抵抗し、目を合わせるとぐずり出す。果ては授乳すら嫌がっていたらしい。

ただでさえ売れっ子アイドルとして私達と会えない時間が多かったのに、そこまで嫌っていては二人に比べて親子の時間が減っていくのは必然だった。

 

反対に今の育ての親であるミヤコさんにはかなり懐いていたそうなので、もしかしたら当時の私はミヤコさんのことを本当の母親だと思っていたのかもしれない。

 

 

まぁそんなことは置いといて、今の私は春から中学一年生となる現在小学六年生である。

背丈は末っ子らしく兄妹で一番小さく、どうにも物忘れがひどく、生まれつき体が弱いようで他の人より努力しないとあっという間に突き放されてしまう損な体を持って生まれてしまった。

 

兄姉達が気付けばもう流暢に喋っていた頃に一語文がようやく始まり、二歳になるかという時になってやっと掴まり立ちが出来るようになった。

 

恵まれない体をもった自分が健常者である兄妹達にコンプレックスを抱く………成る程、そういう訳かとこれを読んだ人間は考えるかもしれないが、事態はそう単純な話ではない。

 

私が家出し、復讐を誓ったのはシンプルに兄姉達が天才過ぎるのだ。

 

 

それと言うのも、先ほど兄姉が気付けばもう流暢に喋っていたという時期が生後半年足らずであったり、それから間もなく立って歩けるようになったらしい。

 

幼稚園に入る前から当たり前のように物の計算が出来て、小説を嗜む。片やダンス一つでクラスを沸かせ、SNSでレスバをかましているなど本当に同じ人から生まれてきたのか疑わしくなるぐらい二人は天才であった。

 

末っ子であるから……と二人にはよく可愛がられたが、今にして思えば二人が私を見る時は10歳ぐらい下の子を見るような目をしていた気がする。

 

現在私は小六だが、勉強も運動もどれだけ頑張っても二人に追いつくことが出来ない。

別にその事で嫌みの一つでも言われたことはないが、仮にも同い年だ。

 

私がいくら努力しても敵わない。

それを「これでもお兄ちゃんだからな」とか「お姉ちゃんは最強なのです!」とか鼻高々に言われると非常に屈辱的で惨めな気持ちになった。

 

一度でいい。何か一つだけでも兄姉達に勝ってやりたい。

 

そんな時に出会ったのが、釣り堀おじさんだ。

 

「……アイ?」

 

と最初はいきなり肩を掴んできて、ヤバいロリコンかと泣きそうになったが、なんと正体はミヤコさんの夫である斉藤壱護であった。

 

アイが亡くなったショックで、茫然自失となり、失踪していたとは言うが、たまたま近くを通りかかった時アイそっくりの私を見て、アイが生き返ったのかと思ったらしい。

 

だがどう見ても年齢が合わない。それに私の瞳にはアイのような万人を引き付ける星がないらしい。

だから直ぐにアイではないと分かり、そしてどうやら赤ん坊の頃の私のことを覚えていたようで「あぁ……一番手のかかったヒスイか」と勝手に納得していた。

 

怖がらせてしまったお詫びとしてパフェを奢られることで、この人との交流は始まり、今では釣り堀でよく世間話をするまでの仲となった。

 

そしてある日、兄のアクアや姉のルビーに何か勝てる物はないかと相談すると「なら……ネットアイドルになってみるか?」と斉藤さんは言った。

 

「ネットアイドル……?」

 

「そうだ、ネットアイドル。YouTuberって言った方が今時か?お前なら結構……いや、かなり有名になれると思うぞ」

 

「それは、私が………アイに似てるから?」

 

そっくりさんとして、アイの物真似をすれば確かに注目はされるだろう。だが私がアイから受け継いだのはルックスだけだ。ルビーのようにダンスのセンスはない。仮にルビーがアイドルとして活動をし始めれば直ぐに下位互換として埋もれてしまうだろう。

 

先に始めたから有名になるだけではダメなのだ。それでは勝ったとは言えない。

二人には絶対に勝てないと思わせるそんな何かを見つけたいのだ。

 

「……はぁ。そうじゃないんだがな。まぁ俺の口からアイドルなんて聞けばそう考えるのも無理はねぇか」

 

「アイドルの才能はお姉ちゃんの方があると思うよ。お兄ちゃんも人を楽しませるのが上手だし、私よりはあると思う」

 

「そうか……確かにあの二人なら人気者になれるだろうな」

 

ならばネットアイドルというのはダメだろう。負けると分かってて始めるのはバカだと思うし、何より勝てると思って先に始めたのに後からやってきた兄姉達に容易く追い越されるというのは結構来る物がある(n回目)

 

「しかし、だからこそお前の輝ける場所がネットの世界だ。まだ芽吹いたばかりの小さな世界だが俺は確信している、いずれ業界連中も無視出来ない巨大なものになるぜ、あそこは」

 

「ん?でも結局二人がその世界に来たら追い越されるよね?」

 

「いや、アイツらがお前の言うようにアイの才能を受け継いだのならお前はかなりのアドバンテージを得ることが出来る。ネット世界ってのは有名人ほど毛嫌いされるような世界だ。最初っからこっちに入り込むならまだしも、二人は芸能界に入るつもりなんだろ?」

 

「つまり、芸能人になって有名になるとネットアイドルじゃあ人気が出にくくなる?」

 

「そう言うことだ」

 

成る程。それなら確かに勝てる可能性もあるのかもしれない。

──だが、

 

「才能のない私なんかがネットアイドルで有名になれるのかな?」

 

いくら二人がデバフを背負うことになると言っても私がある程度有名にならなければ話にならない。

無個性の私がどうやったら人気者になれるのか、それが分からなかった。

 

「その点は大丈夫だろ。ルックスが良くて努力家で色々なことに挑戦するチャレンジャーなんて金の卵みたいなものだ。それだけ喋れればトーク力も十分。根気よくやって、道さえ踏み外さなければそれだけでもファンはつく。お前が本気なら企画やコラボ、話題なんてやつは俺が用意してやってもいい」

 

 

今まで二人に勝ちたいが為にスポーツやゲームなんかに手を出して、プロの動きを模倣して、体力をつけようと毎日ジョギングを頑張って、攻略本を読み込んで……負けてきた訳だけど、そんな経験が役に立つのだろうか。

 

………斉藤さんの言うことが本当なら二人に勝てるのか?

 

私は必死に本の山を積み上げて、空でお星さまのようにキラキラと輝く二人に手を伸ばす自分を幻視した。

 

 

「でも、やっぱり無理だよ。だって私は天才アイドルのアイから何の才能も受け継がなかった【駄目な子】だもん」

 

「いや、才能あるだろお前」

 

その時、電流が走った。

 

「毎週、毎週、お前が愚痴ってたじゃないか。頑張ったのに勝てなかった。何度もやりこんで対策したのにそれでも勝てなかった。お前はこれまで色々なことで二人に負けてきたらしいが、それでも挑戦する前に自分が納得のいくレベルまで努力してきたんだろう?

それでも二人の才能がお前の努力を上回ってきたのかもしれないが、お前と同じぐらい練習してきたか?

……努力するってのも立派な才能なんだよ」

 

初めてそんな事を言われた。

みんな私が駄目な子だから気を使って優しくされているんだと思っていた。

二人は才能があって、私は才能もなければ努力しないと普通にもなれないからずっと頑張ってきて。

 

足場の悪い本の山でずっと空を見上げていた。

 

一度も私には才能があるだなんて言われたことはない。

 

……こんな私でもあのお星さまみたいに輝ける。

 

すっごく嬉しくなって、ちょっとだけ欲が出た。

 

「ねぇ、もし私がネットアイドルになったらアイも越えられるかな?」

 

 

「そりゃお前──欲張り過ぎるだろ」

 

どこか遠い目をして苦笑いする斉藤壱護。

そんな訳で私は二人に勝ちたいが為に、小学校卒業を機に家を飛び出した。

 

 

ミヤコさんには私が二人に勝つために斉藤さんの家で厄介になると置き手紙を残してある。そして私が二人に勝てると確信出来るまで私のしていることは黙ってほしいとお願いした。

 

スマホなんてないから連絡なんて取りようがない。

一方的過ぎて、育ての親にするような態度ではなかったと反省はしている。

 

でも、星野アイはとっても欲張りだったから、駄目な子の私がそんないらない物を受け継ぐのは仕方ないことだよね?

 

帰ったらめちゃくちゃ怒られるだろうなと今から怯えつつ、私は復讐の為の一歩を踏み出す。

 

 

 

二人を越える為に斉藤さんから最初に出された課題は一年以内に登録者1000人を越えることだった。

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