【駄目な子】 作:星野ヒスイ
「……………………」
「…………………………」
星野アクアと星野ヒスイが思わぬ再会をして気まずい空気が流れている一般科の一年クラス。
「(はわわわ!!!ヤバいよー!鬼ヤバだよー!)」
一方のその頃。芸能科の一年クラスでは、星野ルビーが漂う芸能人オーラにビビり散らかし、肩身の狭い思いをしていた。
「(右を見ても左を見ても顔面偏差値高すぎ!……いやいや顔だけなら私も負けてない筈だけど、何で日常会話で次の雑誌の表紙が私になったとか、あのドラマの撮影何時からだっけ?とか出てくるの!やっぱりみんな一端の業界人って訳?私だけ場違い感が凄いんだけど)」
自身も苺プロ所属のアイドルの卵とはいえ、未だ仕事らしい仕事は全くしていない。だがゆくゆくはアイのように忙しくなっていくだろうから、こういったことに理解のある芸能科を選んだのだが、気分はまるで借りてきた猫だ。
「(あ、今の人達。ヒスイの動画見てた。会話に混ざりたいけど仕事の話とかもしてるし、流石に迷惑だよね……)」
こんな空間だが妹のことを知っている人がいることを知って、何だか安心してしまう。
ルビーの妹、星野ヒスイが開設したHISUIチャンネルのメインターゲット層は中高生なのでドンピシャであるのだが、まだまだ有名と言うには知名度が低く、知る人ぞ知るといった感じだ。
だから知っている人を見つけるとテンションが上がって、突撃し、ついつい話し込んでしまうのがいつものパターンであったが、地元の中学のようにはいきそうになかった。
「(…………分かってはいたけど、ヒスイがこっちに進学してくることはなかったかぁ)」
多分今日はもう駄目だろうと、諦めてスマホの画面に目を落としたルビー。
待ち受けには彼女とヒスイがピーマン体操を踊っていた時に撮られた一枚が載せられていた。この頃のヒスイはまだ物心ついてまもなかったこともあり、純粋にアクアとルビーを家族として受け入れ一番楽しかった時期だと思う。
中でもこのピーマン体操をいたく気に入って、一緒に踊ろうとねだられて撮ったこの写真はルビーにとってかけがえのない宝物であった。
ルビーの写真フォルダにはこの写真の他にも幼い頃にヒスイと撮った写真が何枚もある。
だが、彼女がスマホを持つようになってからヒスイと撮った写真は一枚もない。それはヒスイが家出をしてずっと帰ってこないからだが、出来れば一緒に入学式の看板の前で写真を撮りたかったという願望があった。
「へぇ……可愛らしいねぇ~妹さん?」
「うひゃ!!?」
ぼうっとスマホを眺めていたら、気づかぬ内に横から覗き込まれていたようだ。
一体誰だろうと、ルビーが慌てて目線を上げようとすると………………「山が二つある」あまりの大きさに胸元で視線が止まった。
「え?あーせやねん。うち、グラドルやってる寿みなみいいます。よろしゅー」
改めて顔を上げると、そこには美女がいた。
胸の大きな美女だ。グラドルをやってるらしい…………これで私と同い歳ってま?
勢いのままにググってしまったルビーだが、何を食べたらこんなにたわわになれるのかと不思議でならなかった。
「本人の目の前でググるとか容赦ないな~。でもこんなに可愛い子だったら嫌な気持ちにはならんわぁ~」
「あ、ごめん!私は星野ルビー!貴方は何て言うか……すごいね!大阪の人?関西弁なんて初めて聞いたよ!喋り方からして普通じゃないって感じがする!」
「そう?生まれも育ちも神奈川なんだけど。そう言って貰えたら嬉しい」
「エセなんかい!」
ビシッとツッコミを入れる。
「で、さっきの子やけど、ルビーちゃんと同じぐらい可愛かったなぁ」
「そりゃあ私の自慢の妹だもん!何処に出しても恥ずかしくないよ!」
「やっぱ妹なんか。ふ~ん、この他にも写真とかないん?それこそ最近の写真とか」
「ツーショットはないけど、スクショなら……」
ルビーはそこでHISUIチャンネルから切り取った写真を一枚彼女に見せる。
「ほぉ~すっごい別嬪さん…………ん?でも何か見覚えがあるような…………あ、そう言えば入学式の時居たなこの子」
「え!?」
「めっちゃ美人がいるやんおもて、記憶に残ってたんよ」
「ど、何処で見たの!?」
芸能科の一年クラスは全て見て回ったのだ。その中にヒスイは居なかった筈だが、まさか見落としていたのだろうかと寿みなみに詰め寄るルビー。
「ちょ、近い近い。確か……一般科だったかな?」
自信なさげに彼女は言うが、もしヒスイがこの学校に入学したのなら…………絶対に会わなければと思った。
もしヒスイに会ったら、罵倒されるだとか、突き飛ばされるだとか自分の身を案じてばかりいたら一生仲直り出来ない。
だから勇気を出して一歩踏み出し、私はヒスイに謝らなければならない。
ヒスイが私たちのお節介に苦悩していたというのはミヤコさんから聞いた。
家出した理由もそれが切っ掛けで、ヒスイは負けず嫌いだから二人に勝てるような強味が欲しくて壱護の所に転がり込んだんだろうって。
謝っても許してもらえるかどうか分からないし、まだヒスイが私たちに勝てる何かを見付けられていないのなら、例え許して貰えたとしても一緒には暮らせないのだろうけど、誰かの顔色を伺って都合の良い役を演じさせられる辛さをルビーは人一倍理解していた。
ヒスイは限界になるまで私たちにとって都合の良い妹を演じていた。
私はヒスイよりもずっとお姉ちゃんで、同じ苦しみを知っているのに、気づいてあげられなかった。
その事について謝らなけば家族になんて戻れる筈がない。
「お願い!案内して!」
こうしちゃいられない。彼女の手を掴んで立ち上がるルビーは「いいけど、もう授業始まるよ~」という声でハッと我に返り、座り直す。
「昼休みになったら行こうな?」
「……うん!」
会えるとしたら実に三年ぶりだ。
その後の授業があまり身に入らなかったのは言うまでもなく、昼休みになったら二人は一般科の校舎へと走った。
「―グルルルル…!!」
「どうどう……ほら落ち着きなさい」
「な、なぁヒスイ。俺が悪かった。だからせめて話を」
そこで見付けたのはロリ先輩の背中に隠れて子犬のように唸るヒスイと、見たことがないぐらい狼狽えた様子でそんなヒスイのご機嫌を取ろうとするアクアの姿であった。
「なんやあれ……修羅場?」
「は?私ですらあんなにヒスイに甘えられたことないんですけど。ロリ先輩……どんな卑怯な手を使ったの?」
私とロリ先輩との間にただならぬ因縁が出来た瞬間だった。