【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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家族だもん

「ヒスイは焼きそばパン好きだったよね~。ほらこのパンふかふかだよ~」

 

ルビーは血迷っていた。

 

何故妹にこんな餌付けみたいなことをしているのか自分でも良く分からない。

 

「ルビーちゃん。ちょっと変態みたいやよ」

 

その通りだと思う。

何で自分はこんな事をしているのだろうか。

 

久しぶりにあった妹が、ちょっと苦手な先輩にベッタリで少し嫉妬していた時までは冷静な判断が出来ていたと思う。だが、購買に走ったヒスイを見て、追いかけ……お目当ての物が売り切れていたのだろう。悲しそうに俯いた彼女をみて、助けになりたいと思った時、ふと間食用に用意していた焼きそばパンがあったことを思い出した。

 

(……行ける)

 

何が行けると言うのか。ルビーは焼きそばパンを餌にヒスイを誘導していた。

 

場所は言うまでもない。校門前である。

 

 

 

 

 

 

「はぐはぐはぐ」

「はいっチーズ!」

 

カシャリ。

みなみに渡したルビーのスマホからシャッター音が鳴る。

 

「うわー!ありがとう!一生宝物にするね!」

「ううん…………いいのかなぁ。これで?」

 

何処か犯罪の匂いがしないまでもない行動の一役を任されたみなみは困惑しつつ、ルビーは校門前でヒスイと写真を撮る(ヒスイはパン食ってる)を叶える事が出来て満足げであった。

 

「はぐはぐはぐ…………むぐっ!?」

「あ!ちょっと待ってね!」

 

だがヒスイが喉を詰めらせたのを見て、慌てて水を取り出した。

 

「ほら、飲める?」

「ごきゅごきゅ…………は!?ルビー!!!?」

 

そのショックで野生化が解けたらしい。何となくかなにパンを買ってくるように言われたのは覚えているが、何故ルビーといるのかは分からないようで、ひどく驚いていた。

 

「っ……その、あの…………久しぶり」

 

途端にルビーも正気に戻り、今までのことを謝らなければと思うのだが、いきなりのことで言葉が出てこない。

 

「え!……あー、久しぶり」

「ヒスイはさ……元気してた?」

「うん元気だったよ…………おね、ルビーは?」

「私も元気。アクアも元気だよ?もう会った?」

「うん…………逃げちゃったけど」

「ははは……そっか。もしかして私からも逃げたい?」

「…………ううん。アクアはね、何て言うか、怖い。ルビーもそうだと思ってたけど、ルビーは普通だった」

 

この差は何だろうか。ヒスイにも分からなかった。苦手意識はあるのだが、アクアの時とは比べるまでもなく、何て言うか精神的に距離が近くなったような気がした。

……姉の背中はこんなに小さかっただろうか。

今のルビーなら多少色眼鏡で見られても平気かもしれない。

 

「──あのね!ヒスイ!私貴方にずっと謝りたかったの!ヒスイが危なくないようにって私、小さい頃からヒスイに何もさせてあげなかった。重いものを持ったり、パンを焼いたりするのをヒスイの為だと勝手に思って取り上げてた。それがヒスイには嫌なことだって分からなくて…………本当にごめんなさい!!!」

 

そこでルビーが頭を下げる。

 

「ちょ、ええ?あの!え!?私の方こそ!急に居なくなってごめんなさい!!!」

 

まさか突然謝れるとは思っていなかったのだろう。あたふたとしてヒスイも頭を下げた。

 

「ヒスイは悪くないの。私……分かってた筈なのに、ヒスイをア……ママが残した……ママの忘れ形見みたいに勝手に思って過保護にしてたんだから」

「っっ…………」

 

ヒスイが顔を上げ、二人の目線が合う。

 

「また四人で暮らしたいだなんて、自分勝手なことは言わないよ。でももし私のしたことを償えるならなんでも言って欲しい。私……ヒスイの為だったら何でもしたい」

「それは…………私がお母さんに似てるから?」

「違う。だって私とヒスイは家族だもん。顔が変わったって、性格が変わったって、家族は家族だよ。私は家族の助けになるならなんだってしたい。それっておかしいことかな?」

 

そうだ。ヒスイはアイの本当の子供であると同時に初めから私たちの家族だった。

ルビーはヒスイとアイに対して罪悪感があった。転生という親子の愛を掠めとるような真似をして、最後に最低な嘘を付いた。そのせいでヒスイはママの愛を受け取れなかったのだからその分を自分が与えるべきだという義務感があったけど……そんなものはヒスイは望んでいなかった。

ヒスイにはアイへの罪滅ぼしだとか、アイの本当の気持ちを伝える為だとか、回りくどい感情で接するのではなく、家族として接していればよかったのだ。

 

(……ぁぁ。何でそんな簡単なことに気づけなかったんだろう?)

 

ルビーは自分のバカさ加減が嫌になって、目頭が熱くなった。

 

「ごめんね……ヒスイ」

 

 

「ううん……良いよ。私の方こそこんなにいっぱい悲しい思いをさせてごめんなさい」

 

ルビーはヒスイをアイの代替品として見ていた過去があった。だけど、今はもう違う。

ウソはつかれていないということは、ルビーの涙を見れば分かった。

ならばもうわざと敵意をむき出しにする理由もない。

ヒスイの心にじんわりと温かい物が広がる。それは奇しくもアクアとあの家で再会した時とは真逆なもので、左目に光が灯るような錯覚を覚えた。

 

「だからね、ほら。泣かないでお姉ちゃん」

「ッゥ!?うん!……うん!」

 

お姉ちゃんと懐かしい名で呼ばれて今度こそ泣いてしまうルビー。それをぎこちなく抱き締めて、ヒスイは──。

 

 

「ヒスイ!!!!」

 

 

「……すいません!お姉ちゃんをお願いします!」

「え?は、はい」

 

アクアの叫ぶ声にぶるりと震えて、ルビーを寿みなみに預ける。

 

「っっっ!!!!」

 

そしてアクアの声がした正反対の方向へと走り出した。

 

 

 

 

「何て言うか…………忙しない子やね」

 

泣いているルビーを宥めながら、あのお兄さんDVでもしてはるんかな?とみなみは思った。

 

 

 

 

 

 

「あーあー、折角上手く纏まりそうだったのにまた悪手だね。君はそういう星のもとに生まれたのかな?」

 

そして第三者目線でそれを眺めていた『カラスに好かれた少女』はからからと笑った。

 

「頼む、ヒスイ。違うんだ!お前をアイの代わりだなんて思っていない!ルビーはお前の事を家族だと!」

 

「痛いよ!離して!!」

 

肩を掴まれて無理やり向き直されたヒスイはアクアの頬を叩く。

 

 

「泣いている(ルビー)を見て、自分のように関係が決裂したのかと思ったのかな?だとするとそれは君の甘さが招いた過ちだ。依然、呪いに魅入られた少女は一人、孤高の道を歩み続けることになってしまった。……過保護すぎるってのは相手の内面を見ていない事と同じなのかもね」

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